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小説、短編をつくってみたコミュの信じる者は4

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 2月14日
 何かを期待する様にお店に入ってきた僕を待っていたのは、「あ〜今日バレンタインだっけ、チョコ買ってきて」などとのたまう美香さんだった。この人に季節感だとか雰囲気だとか微塵も期待はしていなかったが、まさか自分が貰うチョコレートを自分で買いに行く羽目になるとは思いもよらなかった。
 そしてなにより残念だったのが、今日も大久保さんは休みだった事だ。彼女ならせめて義理の一つ位は、と淡い期待をしていたのだが、あの男性が初めてお店に来た翌日から休んだままだ。理由は美香さんが聞いている様だが、「女の子には色々有るのよ〜」とはぐらかされてしまった。ずっと落ち込んだままなのだろうか?
 その日僕は、悄然と一日を過ごしたのだった。


 その日の帰り道、もうすっかり暗くなった下り坂を下っていると、
「あ、君ちょっと」
 ふと顔を上げると、誰だろう・・?明るい感じの男性に声を掛けられた。
「あの・・」
 僕が恐る恐る声を掛けようとしていると、男性の方から話掛けてきた。
「探したよ。あのお店この辺だと思っていたのに、全然見つからないんだよ」
 ああ、思い出した。この前、病に苦しむ婚約者を呪い殺す為にウチのお店に来た男性だ。以前の様子とは全然違っていたので分からなかった。
「え?そうですか?すぐそこですよ」
「え?そうなの?おかしいな〜。まあいいや、この前のお礼を言いに来たんだ」
「お礼?」
「うん、例の彼女。無事に亡くなったよ」
「そうですか・・」
 なんでこの人はこんなに明るく振舞えるのだろう?
「あの石も店長さんに言われた通りに、ちゃんと処分したから大丈夫だからね」
「・・・・」
 確かに、あんな石をそのまま放置していて、何も知らない人が勝手に持ち出したりしたら、と思うと背筋が凍る。だが、この人の言い方も少し引っかかる。
「ともあれ、色々とお世話になったよ。ありがとう、美人の店長さんにもよろしく言っておいて」
 そう言うと男性は僕の返事も待たずに、あの時とは違った様子で坂を下っていった。僕は釈然としないまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。


 どれくらい経っただろうか?僕は、男性の背中が見えなくなってから、坂を下り始めた。
 最初に会った時、あの男性は愛する婚約者の為に苦渋の決断をしたはずだった。誰だってそうだろう、愛する人がもし明日死ぬとしても、一秒でも長く生きていて欲しい。そう思うのが当然だと思っていた。あの男性だってそうだったはずだ。それでも婚約者の「死にたい」と言う希望、そして婚約者の苦しみが一秒でも短くなって欲しいという男性の想いもあって、婚約者を呪い殺すと言う選択をしたのでは無かったのか?
 だが今の男性の様子は、愛する人を亡くした悲しみも、自分が殺してしまったのかも知れないと言う後悔も感じさせなかった。気丈に振舞っているだけなのかも知れないけれど、もし僕が同じ立場なら、とてもじゃないが今の様には振舞えないだろう。これは僕の勝手な独り善がりなのだが、もう少し悲しんでも良いんじゃないだろうか?もう少し後悔しても良いんじゃないだろうか?それにお礼って・・これじゃあまるで・・・


 僕はやり場の無い怒りを、目の前の電柱に思いっきりぶつけた。

パチン

 乾いた音が響く、握った拳が痛かった。ヒリヒリする。
「くそ・・」
 そう呟くと、僕は再び坂を下り始めた。とても気分が悪かった。僕はコンビニで日頃飲みもしないビールを買って帰ることにした。

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