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陰陽師@二次創作小説コミュの鍾馗について 3

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 ふむ、と溜息ともつかぬ声を零して、鍾馗は視線を僅かばかり逸らした。



「優美な見てくれではないからな。醜いと、怖ろしいと恐れられて、落とされた」


 瞠目する待春に、鍾馗は苦笑する。実際、最終的な席次など、実に下らない理由で振られたりするものだ。妙に目出度い名前の奴を状元に据えてみたりとか。


「容姿で如何こうと云われては、俺自身にはどうする術も無いではないか」


 勉強が足りないと云うのなら、幾らでも努力してみせる。だが、容姿は本人の努力でどうなるものでもない。永遠に及第の道は無いと明言されたも同じだ。
だから、鍾馗は諦めた。


「確かに男むさいというか、もそっと愛想よくしろと思わなくもないけどさー」
「お前なぁ……。おっさんが愛想良くして、誰が得するんだ」
「私が。でも、身のこなし故かな、そんな粗野には見えないけどなぁ」


 何で、と首を傾げる待春に、鍾馗は肩をすくめた。


「貴族が権勢を奮っていたと云ったろう。お貴族様の考えなぞ、解るものか」


 そういえば、初めて待春が自分を目にした時、やたらと固くなっていたが、あれは見た目云々よりも状況故だったのか、と鍾馗は思い至った。突然に、剣を手にした者が何かを屠っている場に出くわせば、確かに吃驚はするかも知れない。容貌へのコンプレックスが強すぎて、当時は外見で怖がられたのだとしか思っていなかった。

 空惚けているのか、本当にそれしか思わなかったのかは分からないのだが、鍾馗は想像の斜め上をいった待春の返しに、何となく救われたような気がした。


「お前、それでよく恩義だなんだと云ったな」
「何であろうと、恩には違いない」
「そんな、しょうもない理由で落とされてさ。私なら恨んでやるけど」


 判断するのが高位の貴族派官吏だとしても、最終的にそれを認可するのは皇帝なのだ。


「しょうもない、と云ってくれるな。それでは俺が、馬鹿みたいではないか」



 時代が違うとはいえ、待春は科挙試に合格して任官を許され官場に就いた者、翻って自分は、任官を許されなかった身。官位を戴いてこそひとかどの人物である、という認識は変わらないのだから、鍾馗を見下す事だってあり得るのだ。だが、待春はそう云った素振りはついぞ見せたことが無い。詳しい経緯を話したのは初めてであるが、さりとて大凡は待春が未だ一人の官人として官場に居た頃から知っていた筈なのに、今に至るまでずっとだ。

 今こうやって、自分の過去を語れるのも、その人柄故であるのだろうと鍾馗は思った。褒めるとつけあがるから、褒めたことは無いけれども。



「みたい、ではなく、馬鹿だろう」
「なっ……!」


 嘆息した鍾馗に対して、待春はからからと笑うと、すっぱりと言い切った。
 思わず、絶句する。待春が鍾馗に対して存外酷い扱いをするのは今に始まった事ではないのだが、この流れでそう言うか。


「馬鹿真面目に過ぎる」


 次いで、繋げられた言葉に脱力した。

 云ったろう、私なら恨んでやる、と笑う待春に、鍾馗もまた、笑ってやった。
 湿っぽくなるのは、趣味ではない。いっそこうやって笑い飛ばしてくれる方が、余程気持ちがいいと思った。



 ふいに、待春は傍に在った碁盤を引き寄せた。


「天下の状元殿に、一局お付き合い願おうか」
「……よかろう」


 気づけば、こうして待春のペースに乗せられている。だが、それもまあ悪くはないと鍾馗は思った。書物を紐解くのは、独りでも出来ることだ。だがそれならば、そもそも待春に附いて倭まで下らなくとも、独り宮中に在ればよかった事だ。折角こうして、人の理から外れた自分を認識する者を前にしているのだから、今しか出来ない事を。

 ほいと待春が差し出した、黒石の詰まった碁笥を鍾馗は受け取り、自分の周りに散らばっている幾つかの石を拾ってその中に流し込む。
その間に待春も、白石の詰まった方を手元に引き寄せて蓋をあけた。右手を突っ込んで石を一つ拾い上げ、鍾馗が初手を打つのを待つ。

 鍾馗が待春と盤を挟んで対峙するのは珍しい事ではない。待春が「西土の君」に仕え、鍾馗がまだ只の鬼神として待春の周りに出没していた頃から、幾度となくあった事ではある。どちらがどの石を握るか等、一々言葉を交わさなくても何となくの流れが出来ていた。

 当初こそ、待春が黒を持ち、鍾馗が白を持っていたものだが、何時の頃からか逆転して今に至る。だから今も、当たり前の様に差し出された黒を当たり前の様に受け取り、待春が残った方を何も言わずに持ったのにも、何も言わなかった。


 はて、今のところ戦績はどうなっていたか、と初手を打ちながら鍾馗は思った。


「でもさ」


 朱塗りの碁盤に、白と黒が交錯する。


「何だ?」


 男と女、死者と生者、落第者と及第者、或いは鬼神と唯人。陰と陽が複雑に絡む様は、或いは自分達に似ているのかもしれないと鍾馗は思う。

 お互いに、淡々と手を閃かせていただけだったが、不意に待春が零した声に釣られて、鍾馗は顔を上げた。


「私はそういうの、結構、好きだよ」


 ぱちり、という軽い音に紛れて零された声に、鍾馗は眼を瞬かせた。次いで、薄らとした笑みを浮かべる。

 もしも、鍾馗が何事も無く科挙に受かっていたのなら、唯人として生き、そして何事も無く鬼籍に加わった筈だ。鬼神として位を戴く事も無く、人の理から外れる事も無く。そして、待春とも、同じくこの邸に詰める者達とも出会わず、今こうして碁盤を前にすることも無かった。

 もしも、受かっていたとして、その後に官人として全う出来たかもわからない。待春ではないが、政敵に潰されていた可能性だってある。そうなれば、その末路は惨めなものだっただろう。

 翻って、現状は全く嘆く程に酷いものではない。



「……そうか」


 嘗ては、この身の不運を嘆いたりもした。
 けれども、これはこれで良かったのかもしれない。



 存外穏やかな気持ちで、鍾馗は次手を打った。


【了】


 あとがき、というか考察に続く(?)
 ⇒http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=70831106&comment_count=0&comm_id=5786901

コメント(4)

『秀才』って科挙から来たんですか!
確かに、日本の平安時代の貴族もなんだかんだと美男美女がもてはやされていましたし、
どんなに難しい勉強をしたとしても昔の人なら、平気で顔で落とされたりしたんでしょうね。

逞しくて包容力ありそうな男前なのにもったいない。。
といいつつ、売却しちゃってごめんなさい(>_<)

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