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もっと日本語を知りたいコミュの三島由紀夫の日本語

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三島由紀夫の小説、評論などから、気になる日本語を抜書きしていきます。

コメント(2)

自分の存在理由を一種の精妙な毒だと感じることは、十八歳の倨傲としっかり結びついていた。彼は自分の美しい白い手を、生涯汚すまい、肉刺(まめ)一つ作るまいと決心していた。旗のように風のためだけに生きる。自分にとってただ一つ真実だと思われるもの、とめどない、無意味な、死ぬと思えば活き返り、衰えると見れば熾(おこ)り、方向もなければ帰結もない「感情」のためだけに生きること。……


(『春の雪』新潮文庫、19頁)
「御先代様」と飯沼はいつものように、合掌しながら、心の中で語りかけた。「何故時代は下って今のようになったのでしょう。何故力と若さと野心と素朴が衰え、このような情ない世になったのでしょう。あなたは人を斬り、人に斬られかけ、あらゆる危険をのりこえて、新しい日本を創り上げ、創世の英雄にふさわしい位にのぼり、あらゆる権力を握った末に、大往生を遂げられました。あなたの生きられたような時代は、どうしたら蘇えるのでしょう。この軟弱な、情ない時代はいつまで続くのでしょう。いや、今はじまったばかりなのでしょうか? 人々は金銭と女のことしか考えません。男は男の道を忘れてしまいました。清らかな偉大な英雄と神の時代は、明治天皇の崩御と共に滅びました。あれほど青年の精力が残る隈なく役立てられた時代は、もう二度と来ないのでありましょうか?
そこかしこにカフェーというものが店開きをして客を呼んでいるこの時代、電車の中で男女学生間の風儀が乱れるので、婦人専用車が出来たというこの時代、人々はもう、全力をつくし全身でぶつかる熱情を失ってしまいました。葉末のような神経をそよがすだけ、婦人のような細い指先を動かすだけです。
何故でしょう。何故こんな世の中が来たのでしょう。清いものが悉く汚れる世が来たのでしょう。私が仕えている御令孫は、正にこういう弱々しい時代の申し子になられ、私の力も今は及びません。この上は死して私の責を果すべきでしょうか? それとも御先代様は深い御神慮により、ことさらこうなりゆくように、お計らいになっておられるのでしょうか?」

(『春の雪』82頁)

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