Yua's factoryコミュのFinal Destiny 4-13

「馬鹿野郎！下がれ！下がれぇ！」

ソニアと対峙したままに、ニコルは兵士達に向け声を荒げる。
ニコルの怒声で我に返ったティグリスは兵等に号令を発した。

「皆の者退けー！」

計り知れない力の応酬。
人として生きてきてこれまでの力を目の当たりにしたことがあっただろうか。
否、あるわけがない。
そして今正に至る所で溶岩が噴出している様を見せつけられ、一般兵達は畏れ戦い(おそれおののい)た。

「くっそぉ、サラマンドスの親父め…。手ぇ抜いてやがったなぁ？」

口角を上げて笑みを漏らすも、一筋の冷たい汗を足らすニコル。
一方でラムウとウンディーネは呪言を唱え終え、ラムウは杖を天空へ掲げ、ウンディーネも天空へ両手を伸ばし語りかける。

『雨雲よ、雷雲よ、集まりて彼の敵を葬れよ』

すると、瞬く間に辺りは小さな電流を纏う暗雲で包まれた。

『水と雷(ｲｶｽﾞﾁ)の精霊の御霊に於いて命ずる』

ウンディーネは眼(ﾏﾅｺ)を薄く開き、雲に向かう。

『水迅』

ラムウ、ウンディーネの言葉に呼応するように立ち込めた暗雲は滝のような雨を降らせた。
その雨は辛うじて立つことが出来るほどの雨量で、宙空に浮くシリウスを意図も容易く落下させる。
暗雲は一際光を放ち、辺りを照らす。意思を持たぬ電流は殺意を感じさせるような轟きを響かせる。
雷雲の中、力が集約されていく。

「ルーアーー！！！」

一早く危機を察し、その危機から脱する術(すべ)を持つ者へ声を掛けたのはミストである。
ミラの攻撃をかわしつつも戦況を把握している。

「分かってるけど、これはキッツイ！！数が多すぎ！保ってくれよぉおお！？」

ルーアがロッドへ魔力を込める。眩い光は周辺にいる人間や仙人達を包む。

「アトミックシェルター！！」

ルーアが魔法を唱えると光は分散し、シリウスと幻獣を除く者へ降り注いだ。
体の周囲は暖かなオーラで包まれ、魔法への絶対防御を予感させる。

「やるじゃんかよ！ルーア！」

ニコルは笑って言うが…。

「これで最悪、死なないとは思う…」
「マジか…」
「だって、幻獣の魔力は普通じゃない」

ルーアの言葉で皆が息を飲む。

『ほほ、ようやった、人間。これで気にせず力を解放出来るわい。のう、主等』
『やかましい！早く打て！』
『サラマンドス、主も心踊るか』
『早くしろ！』
『せっかちじゃのう。どれ、邪王よ。これでも喰らうか』

ラムウは杖をシリウスへと向けた。

『雷迅』

雷は太く大きなレーザーとなり一直線にシリウスへと落ちた。
しかし、一瞬で散る雷のそれとは違い、延々と止まらずに降り続けている。
半身を水で漬かっているので威力は通常のそれよりも高い。水は電気をよく通すのだ。
ギィィイイイーと聞いたこともない音を立てる雷のレーザーはシリウスを一歩たりとも動かさずにいた。常人であれば瞬時に塵(ちり)と化すだろう。

「邪王様ぁあっ！」
「キキッ、隙あり！」

乱れた妲己の背後を取ったは悟空。すかさず特殊な鎖で妲己をがんじがらめにすると、悟空は太公望へと放り投げた。
太公望は妲己を受け止めると妲己の額に指を当てる。

「うぬれぇえええ！離せ！離せ太公望！」
「騒ぐな女狐、貴様の役目は終えたのだ」
「役目…だと？」
「すまんな、本物の邪王を炙り出すという役目を担って貰った。感謝しているよ」
「ぐぐぐぅ、己…太公望！憎い！憎いぞぉ！」
「くく、吼えるな吼えるな。さあ、安心して仙界の牢獄へと還るがいい」
「嫌じゃ！嫌じゃ！戻りとうない！あんな暗闇の中に再びわれらわを閉じ込める気かぁ！」
「ああ、二度と出てこれまいよ。さらばだ、妲己」

太公望の指先が光り、妲己は眩い光に包まれて消滅した。
すると、妲己の術にかかったソニア、ミラ、トゥレラの意識が戻る。
それを見て、太公望は一つ安堵の息を洩らすと次の手を企て始める――――が…。
周囲の空気を感じて閉口し、今もなお雷を浴び続けるシリウスを悲しい瞳で眺めた。

「邪王よ……此度は敵が悪過ぎたな…。些か(いささか)憐れよ」

太公望は言い放つとその場で胡座をかいた。






続