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Yua's factoryコミュの次代へと

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「なぁオヤジ…俺ぁよ、駄目な男なんかなぁ」
「さあ…どうなんでしょうかねぇ」

おでんの屋台で一人、疲れきった俺は屋台の店主に愚痴をこぼす。店主のオヤジは俺の愚痴に適当に相槌を打ちながら、おでんのタネを飄々と仕込んでいる。

「なあ、聞いてんのかよぉ」
「聞いてますとも。奥さんにも子供にも馬鹿にされてるってぇんでしょう?」
「そぉなんだよぉ」

猫の額ほどの狭いカウンターに俺は頭を突っ伏した。
そう、俺は家に帰るだけで邪険にされる。
妻は帰るなり「おかえり」の一言も言わず、当たり前のように夕飯の支度はされていない。
娘は年頃で若い頃の妻にそっくりで綺麗に成長してくれたものの、所謂反抗期なのか、俺とは目さえ合わせてくれなくなった。
俺は家では――――邪魔者なのだ。

「だからよぉ」
「ええ」
「帰りたくねぇんだよ」
「そうですか」

オヤジの対応も何だか冷たく感じる。ここも、俺の居場所じゃないのだろう。

「…はんぺんとちくわ」
「はいよ」

オヤジはぐつぐつと煮たった鍋からはんぺんとちくわを器用に取り出して皿に乗せる。湯気で眼鏡が曇る。
曇ったままに、俺ははんぺんをかじった。熱い。

「熱い」
「冷めたおでんは喰えたものじゃないでしょう」
「確かだな」

ふふと笑ってオヤジは空になった安っぽいコップに酒を注いだ。

「頼んでない」
「草臥(くたび)れたおっさんに私からのささやかな奢りですよ」
「おっさんに言われたくねぇよ」
「御互い様でしょう」
「へ、口の減らねえ。うちのかかあみてぇだ」
「羨ましいですよ」
「あん?」
「私の連れ合いはもう居ないのです」
「…離婚したんかい?」
「他界しました」

ぐびりと呑んだ酒が喉に詰まる。

「そ、そいつは申し訳…」
「いえ、いいんですよ」

そう言ってオヤジはタッパから今減った分のはんぺんとちくわを取り出して鍋に仕込んだ。
そこから何を話せばいいか分からなくなった俺は、出されたちくわにかぶりついていた。

「こう見えて私は証券会社に勤めてたんです」
「え?そうだったんですか?」

気まずさからか、俺は敬語になっていた。

「ええ。嫁は幼少時代からの幼馴染みでね…活発な娘でした。私はいつも彼女に振り回されててね」
「…」

オヤジは菜箸を止めて、ふと上を見上げる。釣られて俺も見上げるが、そこには古びた屋台の屋根しか見えない。

「あいつとの掛け合いが楽しかった。学生の頃なんか毎日のように私の家に来ては馬鹿なことを言ってね」
「仲、、良かったんですね」
「はは、それはどうでしょうね」

オヤジは少し困ったように笑う。

「馬鹿で粗忽でおっちょこちょいで、そのくせ口は達者で頭の回転は早くて好奇心も旺盛で…滅茶苦茶な奴でしたよ」
「褒めてるように聞こえます」
「ええ、褒めてますよ。あいつ本人には照れくさくて褒めてやること一つもしてませんでしたから」

俺は…どうだろう。妻を褒めてやったことがあっただろうか。

「突然の事故でした」

オヤジは俯いて再びおでんの具材を菜箸でいじる。

「あんな元気の塊みたいな奴が、いとも簡単にあっけなく逝っちまいましたよ。そこから仕事も辞めましてね……無気力になった」
「…」
「…私はね、妻が死んでも、涙が流れなかった」
「悲しく…なかったんですか?」
「ええ」

そう言うとオヤジは「いいですかね?」と、新しく安っぽいコップを取り出して酒も持ち出す。俺は頷く。
オヤジは「どうもこの話をするとね…」と言い訳がましく言って、コップに安酒を手酌して一気に煽った。

「くあー、効くなぁ」
「良い飲みっぷりだ」
「五年振りです」
「そんなに飲んでなかったんですか?」
「はは、酒弱いんですよ」
「よく屋台やってますね」
「言えてます」

笑った。俺もオヤジも笑った。

「悲しくはなかった。アイツはふらりと現れては消えるような奴だったから…またね、ふらりと現れるんじゃないかってね」
「現実を」
「受け入れられなかったんでしょうねぇ。若かったからかな」

そうじゃないと思う。若さはきっと関係無い。唐突に訪れた不幸やアクシデントというものに、普通の人はすぐに対応できないものだ。
今はオヤジは笑っているけれど、俺には哭(な)いているようにも見える。

「アイツにしてやれたことはいくらでもあった…という後悔は今でもあります。いや、後悔しかない。さっきも言ったように、照れくさいと言いながらそれを言い訳にして…褒めてやらなかったりね」
「……」

さっきからオヤジは俺の後ろの方を見たり、斜め上を見たりと忙しない。きっとその向こうに亡くなった奥さんを見ているのかもしれない。

「結婚してからもアイツは変わらなかった。学生の頃のように悪ふざけするし、やかましいし。でも居なくなるとね……」
「淋しい」
「それです。足りないんですよ。あの喧騒に慣れてしまったおかげでね、、物足りない。アイツは最期まで…否、死んでなお【僕】を……」

オヤジは気付くと僕、と言った。オヤジだけ、僕を置いてけぼりにして【その頃】に戻っている。

「喧嘩できる内が華です。いずれ喧嘩もできなくなる。それまでぶつかり合ったっていいんじゃないですかね。失ってから気付くとよく言いますけど、失ってからじゃ遅いんですよ」

俺は――――

「だから」

でも――――

「羨ましいですよ」

――――遅くないのか…。

「オヤジっ、おあいそ」
「毎度。二千四百円です」

俺は三千円をオヤジに渡して、「釣りは取っといて」と言うと「さっきの私の奢り分が返ってきちまいますんで」と、釣銭を返された。

「六百円もあれば、コンビニでプリンでも、ハーゲンダッツでも買えるでしょうよ」

――――見越されてたか。
妻に、花の一輪でも買おうと思ったけども、確かにこの時間に花屋は開いてないか。

「たまには《慣れないこと》をするのもいいですよ」

オヤジはにやりと笑ってそう言うと店仕舞いを始めた。
俺は、少し縺(もつ)れながらも若干軽い足取りで家族の待つ家へと向かった。







「おとーさん」

愛娘がいつの間にかそこに居た。
屋台の陰に隠れて見えなかったのだ。

「おお、花織か」
「花織か、じゃないよ。今日は早く仕事終らせて一緒にラーメン食べに行くって言ってたじゃん」
「そうだったな、すまんすまん」
「むー」

むくれた顔がアイツにそっくりだ。
僕は花織の頭をくしゃくしゃと撫でると、花織は「やーめーろー!」と手を払いのける。
あの頃の、、アイツを思い出す。

「よし、今日は気分がいいから焼肉にするか!」
「マジか、親父!」
「マジだ!」
「ひゃっはー!」

大はしゃぎする姿はまるで……


――――早く行こっ!太郎!――――


「はは、待てっての。肉は逃げねぇよ」


――――太〜郎っ、大好き!――――


アイツの血は、花織へと受け継がれて、僕は彼女にまた振り回されて……

「おとーさん、大好き!」

寂しくなんかないさ。なあ、花子……。

花子二世は僕の腕をぐいぐいと引っ張って、やがて人混みへと二人、紛れていく。
あの頃のお前の――――花子の笑顔は、花織が引き継いでるよ。




コメント(14)

これはまさに衝撃のラスト
……で、映画化はいつですか?
ちょ…
ゆあさん、これは反則です笑笑
でも楽しませてもらいました☆
注意点
これは【幼なじみ】とは全く別のストーリーです。
登場人物は重複しますが、本編の【幼なじみ】とは関係ありません。
幼なじみのキャラクターの沢山ある未来の一つだと思って読んで頂ければ幸いです。
>>[1]

残念ながら書籍化もされてないので映画化も無いですww
>>[3]

反則でしたか(^_^;)
でも幼なじみシリーズは終わってませんからね♪
ほっ
幼なじみ最終回かと思って、コメントもできなかったよ〜
最終回じゃなくてよかったぁ
>>[8]

もしそうならタイトルは【幼なじみ最終回】とか書きます(^_^;)
少なくとも【幼なじみ】の名前は書きますよ(^_^)
>>[9]

www
前にも書いてるんだけどなぁ、幼なじみのインスパイアというか、別の世界を。
>>[7]  もちろんです笑笑 
楽しみにしてます♪♪
やっぱり太郎だった(^-^)

読みながら そんな感じがしてたんだよね(’-’*)♪

これも太郎と花子の1つの姿なんだね(*^^*)
>>[13]

こんなものまで見つけましたか(^_^;)
ビンゴです♪
そう、この物語は太郎花子の数ある未来の一つです。
幼なじみファンの方には悲しい顛末ですけどね(^_^;)

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