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青春事変コミュの超レア!青春事変『まぼろしの原作』大公開!

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出版の際
編集により未公開となってしまった部分を

生西氏のご好意により
公開していただけますわーい(嬉しい顔)

(当然ながら当コミュニティ限定の公開です。)


ファンの方必見!!
(^O^)v

コメント(5)

改めまして生西聖治です。
つねささんのご説明の通り、編集の段階でバッサリ切ってしまった章や登場人物がいまして、どこかで出してやらないと浮かばれないと思い、このようなスペースを用意して頂きました。ありがとうございます。

元原稿に忠実に書くと、出版されたものとのリンクがかなり困難になるので、多少加筆修正しながら更新していきます。
まずは「橋本と漆原の変」。
ではでは。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


もはや恒例となったクリスマスの漫才コンクール。
初出場でノーシード、他のどのお笑いコンクールにも出場すらしていなかった、専門学校を卒業したばかりのコンビが優勝するなんて事は後にも先にもその一組だけだった。

『お笑いマテリアル!』

コンビを結成して1年4ヶ月の二十歳二人は、優勝が決まってそうコールされた瞬間、両手を高々と揚げ、抱き合い、泣き崩れた。それはお笑いだけでなく、過去に放送された、どんな映画や歌の賞でも見た事の無いぐらい、見事で無邪気な泣きっぷりだった。

「あいだ、あいだのインタビューは上がり倒してましたからねぇ。こいつら大丈夫かなぁって心配してましたけど、漫才は完璧でしたねぇ。ホントに。こう言ったら次はこのセリフ。ここではこういう顔の表情、このタイミングで突っ込み、ここではこのリアクションの形が一番オモロイって事を身体に叩き込んできたって感じですね。何回も同じ練習繰り返してきたと思います。それだけ自分達の時間を、命を削ってくれたって事ですよ。その漫才に対する真摯な姿勢に感動しました。だからこれだけ泣いてしまうんだと思います。おめでとう」

インタビュアーがマイクを向けても泣いて喋れなかった二人の間を繋ぐように、審査員長が評を述べると、二人は益々しゃくり上げ、嗚咽するように「ありがとうございます」と頭を下げた。

まだ話せそうにない二人に配慮し、別の審査員が「おまえら泣き過ぎや」と笑いながらフェードインしてきた。そして「これあげるから、床の鼻水は綺麗に拭いてから帰ってな」と、真顔で指摘し会場の笑いを誘い、1000万円と書かれたボードを二人に向かって突き出した。

二人は遠慮がちにそれを受け取り、後は審査員や他の出場者、また会場の観客に対して、何度も頭を下げた。
テレビ上ではその間エンドロールが流れ、放送時間は終了となった。


番組中、全く喋れなかった二人に、次の日改めて記者会見の場が用意されたが、そこで二人はコンビの解散と、バラエティ界からの引退を表明し、二日連続で国民の話題の中心に立った。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

今回はここまでです。

続きです。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・

「僕達にはお笑いのセンスが無いんです。ただお互い出会った時はお笑いしかなかったんです。心の拠り所と言うか、僕達を救ってくれるものが」

ボケ担当の橋本が先日と同じ黒のスーツに身を包み、後ろで手を組んで話した。色白でスタイルが良く、黒髪を軽く横に流した感じは、見ようによっては韓流スターに見えた。
突っ込み担当で橋本より10センチは背の低い漆原も、先日と同じグレーのスーツをまとい、黒ぶちで楕円形のメガネを所定の位置より1センチ下にずらして掛けていた。そして上目遣いで橋本の話を覗き込み、橋本が喋り終わると、すぐに間を繋いだ。

「偶々二人ともお金を払えば受け入れてくれるって事で、去年までお笑いの学校に通ってたんですけど、全然面白いこと言えないんですよ。ある人の言葉を借りて言うと会話に瞬発力が無いんです。打っても響かない。基本的に人見知りでしたし、人前で話すなんて緊張して出来ませんでしたから。ですから先生からも同期の生徒さんからも早々に見放されてました」
「ねっ、今も一個も笑い取ってない」
橋本がチャチャを入れた所に、漆原が即座に「おい!」と突っ込むと、会場はいくらかの笑いに包まれた。

橋本は口元に手を運び少し照れ臭そうにし、笑い待ちをすると、「ホントに真面目なだけが僕達の取り柄だったんです」と言った。
「昨日の『命を削ってくれた』って言葉は、まさにそのつもりでやっていたので、『ああ、解ってくれてる〜』と思うと、益々涙が止まらなくなってしまいました。多分こいつも同じです」

橋本が親指で隣の漆原を指すと、ちょこんと頷いて「1000回の練習より1回のステージ。でもその1回のステージの為に1000回の練習です」と、ずり落ちそうなメガネにそぐわない言葉を口にした。



『1000回は大袈裟でしょ』
サクラは二人掛けの白いソファーの前に両膝を抱えて座り、テレビに向かってそう呟いた。
8畳一間のフローリングスペースは綺麗に片付けられていた。ソファーも棚も机も白に近い淡い色を基調にしている中、大きなテレビだけは黒く、その格差がテレビに色味以上の重厚感を持たせている。

サクラは画面に映るたどたどしい二人を見ていると、恥ずかしいと言うか、むず痒い気持ちになり、身体を前後に揺らさずにはいられなかった。ただ嬉しいのは確かで、膝の前で組んだ両手を小さく叩いて、喜びと祝福を慎ましやかに表現した。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・

今回はここまでです。
1つ、自分でも驚きましたが『1000回の練習より・・・』のくだり、つい昨日の日記に書いたところです。ハイパーレスキュー隊隊長の言葉です。

もう1つ。出版した段階では消えてしまった『サクラ』という女性が登場しています。元々全ての『変』で登場していたのですが、話が複雑になると言う理由で、全編においてカットとなりました。

後々、どういう人物だったか、うまく伝わるように編集して載せてみます^^;。
続きです。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

「例えば物凄く貧しい家に育った少年が居たとしよう」
渋谷のとある専門学校の一室。長方形の部屋の長い一辺は全面ガラス張りで、床は綺麗に磨き上げられていた。そこに30人ほどの生徒が膝を抱えて座る前で、三島は一人芝居でも始めるかのように静かな無調で口を開いた。


お笑いの講義において、多くの講師はネタをやらせ、それについて批判したり、実際テレビやラジオでやっている設定に生徒を当てはめていき、現場の雰囲気がどういうものなのかを肌で感じさせたりする。
勿論『笑い』には正解が無いから講師が何をどう指摘するかは自由だ。ただお笑いを目指して間もない生徒と、構成作家を経験しているような講師とでは、その引き出しの数が違う。故に面白い面白くないと言う判断より、精神的な優位差によって、講師の言う事が正解になってしまうし、生徒の多くもそれで納得してしまう。一般的に生徒はやらされる側、講師はやらせる側だ。その構図はお笑いだけでなく、演技やダンスなど、どの授業に出ても、どの講師にも見られた。


「その少年は絵を描く事が大好きだった。石を拾っては壁に落書きをし、手頃な棒を手にしては大地に絵を描き、海岸に行っては想い浮かぶイメージを砂浜に描いた。少年はそうして過ごせる日々に満足していたが、出来る事なら消される事無くずっと残る紙に自分の絵を描きたいと思っていた。その時少年が欲しかったものとは、紙と鉛筆であり、その紙と鉛筆に『価値』を見出していた訳だ」


三島は生徒達に満遍なく目配せをして、時折歩いて立ち位置を変えた。静かな口調と、真っ直ぐな視線、それに加えて時折おとずれる沈黙の間が、一層その空間に緊張感を持たせた。


「ある日、少年は衝動に駆られ、見知らぬ家の真っ白な塀に絵を描いてしまった。しかしその現場を家主に見つかり酷く叱られた。『こんなにして。どうしてくれるんだ!』『すみません』『すみませんで済むか! 全部消してから帰れ』『はい、すみませんでした』。少年は家主から言われた通り、壁に描いた絵を渡されたブラシで擦った。家主は少年が途中で逃げないか、ずっと後ろで見張っていた」


三島は声質を変えたり、抑揚をつけたり、間を空けたり、喋る方向を変えたりする事でナレーションも登場人物も一人で演じきった。


「少年が壁に描いた絵を消し始めてから間も無く、家主は少年が泣いている事に気付いた。『ちょっと怒り過ぎたかな・・・』家主はそう思って少年の顔を覗き込んだ。少年は目を真っ赤に腫らしていた。『どうした? 反省してるか?』家主の言葉に少年は鼻水をすすり上げて頷いた。家主は『よしっ』と言って少年の頭を撫で、自分も一緒に壁の絵を消し始めた。少年は『すみません』と呟いて、また壁にブラシをかけ始めた」


ほとんどの講師が業界人っぽい服装や髪型でくる中、三島だけはTシャツとジャージだった。それだけで生徒達には異質に感じられていたのに、更にその身体つきは、時々街中で擦れ違う格闘家にも引けを取らないぐらいガッチリとしていて厚みがあって、『お笑い』というカテゴリーには全く無縁の人に感じられた。


「ただ、そうしても少年の涙は止まらなかった。むしろ涙の勢いは増すばかり。家主はそれを見て、『もう大丈夫だ。許すから泣くな』と言った。少年は『はい』と頷きながら手を動かし続けたが、それでも少年の涙は止まらない。疑問に思った家主葉『何故泣く?』と聞いた。さあ、何でやと思う?」


三島が演じていた世界から、急遽現実世界にいる生徒達へ質問が投げ掛けられた。それまで三島の饒舌な喋りに見入っていた生徒達は一斉に目を伏せた。

「別に正解がある訳じゃないし、当てんから考えて」

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

今回はここまでです。
続きです。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

三島は軽く笑って、生徒達の間を通り、教室をグルッと一周し、正面に戻ると再び話し始めた。

「少年は悲しかった。自分で描いたモノを自分で消す事が。
家主はそれに気付くと壁から一歩退き、少年が壁に描いた絵を眺めた。そして数秒間の沈黙の後、少年に尋ねた。
『絵が好きなのか?』
『はい』
『でも人の家の壁に絵を描いてはいけない』
『はい、それは本当に反省しています』
『それが解っているなら良い。私の方こそ悪かった』
『え?』
『君に辛い思いをさせた。君の絵に対する思いを知らず、君に君の描いた絵を殺させた』

家主はそう言うと少年が手にしていたブラシを取り上げ、『よく見れば良い絵だ。このまま残しておいても何ら恥ずかしくないじゃないか』と笑った。そして『少しだけど、うちにある画材道具を持って行きなさい』と言った。


そうして少年は幾許かの画材道具を手に入れた。
少年は嬉しくて仕方なかった。欲しい物が手に入り、紙に絵を描き記せると喜んだ。


それから少年は手に入れた絵の具で貰った紙に絵を描いた。
初めて描いたその絵は非常に満足のいく素晴らしい作品だった。
少年はその初めて描いた大切な絵を、画材道具をくれた家主の元へ届けた。

『頂いた道具で初めて描いた絵です。受けとって貰えませんか』。
突然現れた少年に家主は驚いた。その純粋な行動と、何よりその少年が描いた絵の巧みさに。家主は『ありがとう』と絵を受けとって『これでもっと君の好きな絵を描いて、もっといろんな人に君の絵を見せてあげなさい』と、少年の絵と引き換えに僅かばかりのお小遣いを手渡した。

少年は一瞬躊躇したが、『ありがとうございます。これでまた好きな絵が描けます。遠慮なく頂きます』と一礼して、お金を受け取った。それから少年は、購入した画材道具で絵を描き、路上で売り、また道具を仕入れては道行く人に絵を買ってもらうという生活を繰り返した」


三島は話し終わるとたっぷりと時間を取って、ゴリラがバナナを値踏みするように生徒の間をゆったりと歩いた。

「さて話の本題はここからや」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

今回はここまでです。
続きです^^
〜・〜・〜・〜・〜・〜・

三島は『笑い』そのものを教えると同時に、人間について語った。笑いを通じて人間を語り、人間を通じて笑いを語った。


「この時少年が求める『価値』は、道具から描いた絵に、絵からお金に、お金はまた道具となり絵となり、またお金に換わり、まるで螺旋階段を登るかのように駆け巡り、一つ一つの価値は向上していった。
購入して使用できる道具の水準が高くなるほど、絵の値段もまた高くなり、生活水準も飛躍的に上がっていった。

絵が大好きだった一介の貧しい少年が、このような『価値』の移行を繰り返し、1枚の絵が数億円で取り引きされるような成功を収めるようになったとしよう。

その時少年は、何に『価値』を見い出すのか? お金か? 道具か? 描き上げた絵か? 
確かにどの要素にも『価値』がある。しかし少年が大切にするべき『価値』は、その絵を生み出した脳であり、指先であり、才能であり、つまりは自分自身でなかったらいかん。貧しくて紙も鉛筆も自由に使えなかった時代。それでも絵を描くのが好きで、地面や壁や砂浜に絵を描いていた自分。家主に描き上げた絵を消せと言われて悲しかった想い。画材道具をもらったお礼に、最初の一枚をプレゼントしに行った純粋な想い。その何も無かった貧しい時代の自分にこそ忘れたらいかん価値がある。知名度や描いた絵が評価される事に一番の価値を見い出そうとしては本質がブレる。最低限のお金は必要だが、無ければ無いでどうにでもなる。試行錯誤するという意味では、お金が無い方が発想が豊かになると言っても良えぐらいや。

それは『笑い』も一緒や。自分の身の回りのモノを順に廃除していった時。時計とか宝石とか服とかパソコンとか。貯金とか家とか恋人とか家族とか。役職とか経歴とか仕事とか肩書きとか。徐々に身包みをはがされていった時、最終的に残るものが自分や。その自分に価値が有るかどうか? 

そりゃ怖いし辛いし厳しい問い掛けやと思う。ただ客観的になる必要はない。自分の価値は自分で決めれば良い。人の意見を聞いたり、社会に流されてブレたらいかん。自分の絶対的価値こそが、死ぬ時になって本当に笑えるかどうかの指標になる。いつなんどき、全てを剥ぎ取られて自分という『価値』しかなくなったとしても、そこから『笑い』を生み出す事が人生の楽しみだと思えるよう、日々自分を見つめ、確固たる信念を持って生きろ。

将来、『食っていけるかどうかが不安だけど大好きな仕事』と、『別に好きでも嫌いでも無いけど安定している仕事』で迷ったら、無責任だけど大好きな仕事の方を選べよって言いたい。多くの大人は反対するやろうけど、俺はそう言う人間が好きやし、10年後20年後を考えると、そっちの方が心踊る。笑いには、お前達には、凄い可能性があると、俺は信じとる」

何一つ疑っていないキラキラとした瞳で三島は満足げに笑った。

あつい、いたい、でも優しい。橋本も漆原も、そんな真正面からぶつかって吹っ飛ばして抱き締められるなんて経験は初めてだった。こんな自分でも良いんだろうか? その強い魂に少しでも寄り添っていたいと心底思った。

〜・〜・〜・〜・
今回はここまでです^^
だいぶほったらかしてすみませんでした^^;

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