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GRACE小説部コミュの鉄橋

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 黄色からすぐ赤になった。
ライトは曇り空の背景から飛んでいる。
アクセルからブレーキへ。

(あ・・・。ブレーキの効きが悪い。アリオンっつたって6年経つしな)

私は力強くブレーキぺダルを踏み続けたが、停止した時はフロントフェンダが停止線をはみ出した。

(やばいな。明日社長に報告して修理しよう)

私は深呼吸とため息交じりの息を吐いた。
ハンドルから手を離して左手のゴムで髪をまとめいたら、右の窓に写る計画道路完成図<イメージ図>の看板に目がいった。
イメージ図では幅員24メートルの四車線。国道17号線から17号バイパスまで直通できて、歩道と自転車道の区分けがされている。
看板の角は錆びて全体の色が褪せていた。



看板は丘のように急な下り斜面と17号バイパスを背負う。
長い斜面には、かつてはあったであろう建物の外壁の残骸が、敷地の中に積まれたままになっている。残骸が撤去され更地になっている敷地は萌色の猫じゃらしや切草が、今年も所々に顔を出している。

アリオンの位置から合流予定のバイパスまでは、だいたい700メートル離れてる。
道路と敷地を区分けしている鉄パイプは、道路の幅員を示し、左右一列に整列され、いつ通れるか分からないバイパスまでの通路予定を指し続けていた。



何年も前から整備途中の道路計画は、計画途中というより、計画放棄されているように見えた。

(何度この景色を見ただろう。)



噛んでたガムが味がなくなって、飲み込もうか、吐き出そうか悩んだ。

「ガムはプラスチックを食べてるようなものよ」

母の言葉が脳内を通った。

私はガムを、飲み込んだ。

その時後ろからクラクションを鳴らされて、ハッとした。


もう、信号は青だった。










コメント(5)

速度計の目盛は30をキープしている。

(戻ってから掃除道具しまって、請求書つくってもらって、その間に謄本コピーして先方にファックスして…あ!重説やってない!)

有線が耳障りになり、ボリュームを1にした。

事務所までは、この対向車線のない道路をT字路まで約3分走り、T字路を右折したら到着する。


考えれば考えるだけやることが増えるなと思う矢先、目の前に安全第一の鉄柵が現れた。

(えー。通行止め?めんどくさいなー…)


私は舌打ちする顔で右のウィンカーを出した。

右手の狭すぎる路地は今まで一度も通ったことがない。

(この細い路地から広い道路で曲がろう。)

速度計の目盛は30をキープしたまま曲がれる路地を探した。

しかし、アリオンでは到底曲がりきれない道幅ばかり。

ノロノロと走り、結局17号バイパスに出てしまった。

しかも事務所と反対側に向かう車道だ。

(あぁ〜…ガソリン代が…仕事が…)

17号バイパスから事務所へ戻るには、大きく迂回して市内に入らなければいけない。

ビュンビュン走る車にビビりながら、バイパスの波に乗る。

(あぁ…もう16時50分!?事務所着くんかな…)
すぐ市内に入れるように、端の車道を流れていた。

脇に入れそうな道路を見つけたので急いでウィンカーを点けて、方向転換した。

 転換した道は幅約2mの砂利道で、左側は3mはあろう工事フェンス、左側は竹藪だった。
ぱっと見、この細い道にも曲がれる道が見当たらなかったので、こりゃ17時には帰れないな、と内心諦めながらまっすぐ走っていた。
外の流れる景色を見てると、徐行しているような気がして速度計を見たが、針は30キロを指していた。
曲がれる道を探し続けながら、工事用フェンスは途中、小さな民家と入れ変わった。
(あ、道!?・・・いや、だめだ、車じゃ狭すぎて通れない。)
 助手席の鞄から、ペットボトルを取り出した。ひざの間にはさんで右手でキャップをあける。右の窓を見ながら水を飲み、右手で軽くキャップを閉めて、車内真ん中の収納スペースに置いた。
 (あ、この道、曲がれそうかな。)
ウィンカーを下にしてフロントガラスに近づいた。
曲がってみると、知らない細道に出くわした。
(ああ、もう!)
 その後も二回か三回、曲がれそうな道を発見するが、その中で知ってる通りもなく、広い道路に出られる。
 それどころか、どんどん事務所から離れている気さえした。

車内の時計を横目で見る。
 PM17:02。:が点滅していた。
(あ〜ぁ。やっぱりだめか。)
しぼんだ風船のように気力が抜けていく気がした。こめかみから火照る感じがした。(暑いな。)
運転席の窓を目線まで開けた。
ウィィィー
ゴォォォォ・・・
運転席まで風がこなかった。
窓に顔を近づけないと風が当たらなかったので、助手席の窓も運転席の窓に高さを合わせた。
今度は左右の窓から風が通過して少ない前髪がまばらになった糸のようにはためいた。

(うわぁ・・・。涼し・・・。良かった風温くなくて。)

口角が自然と上に緩んだ。

(あれ・・・この匂い。)
藤の匂いが車内に流れる。
(今。五月だよね?)
(どっかで、まだ藤が咲いてるのかなぁ・・・。)
脳が素直に匂いを受け入れていく。

代わりに鼻からゆっくり出た二酸化炭素と肩の力が体外がら出て行くのを
はっきりと感じる。

(今年はちゃんと藤見れなかったな―。)
(来年はゆっくり見たいな―。)

 ひっつめた髪がきつく感じたので、縛ったゴムを取った。
まばらな糸は来る風に流されて、首の周りを泳いだ。


後部座席の窓を両方開けた。
藤の匂いは暫く車内を漂っている。


ゴゴォォォォォォォォゴゴォォォォォォォォォ・・・
 音が続く。
耳に当たり空気のこすれる音は、そっと撫でるような、ゆっくり体を包むような、やさしい気配ではなく、外耳からの振動が中耳に響き、鼓膜から脳にべっとりと張り付くような感じを覚えた。



ゴゴォォォォォォォォゴゴォォォォォォォォォ・・・
 それでも、窓を閉める気にはならなかった。



ゴゴォォォォォォォォゴゴォォォォォォォォォ・・・
 風の音に耳を傾けていたら、藤の匂いは、いつのまにか消えていた。

そして、左側に曲がり角が出た。
(あ・・・。)
即座にウィンカーを上にする。本能に近かった。



二車線のアスファルトだった。やっと見つけた広い道路。
しかしなぜか私は安堵も期待も感じず、半分まどろんでいた。

舗装されて真新しいのか、道路の端から端まで濃鼠色は均等に配色され、灰白色の車線は真ん中にくっきり浮かんでいる。
歩道と車道を分けるつつじは、まだつぼみもつけていなかった。
前車も後車も対向車もないまま、ひたすら車をゆっくり走らせていた。
少し先が小丘のように坂になっている。
その先は、信号。

黄色から、すぐ赤になった。

ライトは曇り空の背景から飛んでいる。坂なので、アクセルをギリギリまで踏み続ける。
徐々に・・・徐々に・・・向こうの景色が顔をだす。

ブレーキを強く踏んだ。停止線の前で止まった。


そして私は固まった。
動けなかった。動くことを忘れた。






鉄橋。

ガードレールも歩道も車線もない白い鉄橋。

四車線はあろう鉄鋼に車はおろかひとっこひとりいない。

約1キロは続くその先は空と地平線が白で統一されていた。

鉄橋の先は靄や霧ではなく、ただ、ただひたすらに白い空と鉄橋と地平線。

橋の向こうには、電車、建物、樹、人、鳥、電柱、何一つない。

景色の半分以上がはっきりとした乳白色に染まっている。

ただ鉄橋の下を流れる浅い川だけ。それだけが唯一、苔色をしている。
 
(水垢に塗れた白いアリオンは、空と橋の色に溶けるの?)

想像したら、腰から背筋、耳先、頭の先まで

こころともなく信号の柱が揺れる気がした。








信号が、青になった。

―プツン―

頭の中で音がした。
その瞬間、アクセルを強く踏んだ。

(あれ?そんなに強く踏んでないのに)
口角は歯を覗かせ上がっていく。

速度計の針が一気に100キロを指した。
(あれ? ウソ?
100キロイッちゃうの?)

ブォオォォォォォォォォ…
怖い。
ブォオォォォォォォォォ…


胸がチク…と痛む。
ブォオォォォォォォォォ下唇を噛む。
ブォオォォォォォォォォ





でもブォオォォォォォォォォ…



ープチンーと頭の中で音がした。

ブォオォォォォォォォォ…
にっ
と崩れた歯並びが口から覗く。



ブォオォォォォォォォォオォンオォンオォン!……ックククク!ょしよしよしよ!おらおらおらぃけいけいけいけいけ!!イっっっちまえぇぇえええ!!!!ブォオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

100…
ブォオォォォォォォォォォォ
120…
針が右へ右へブォオォォォォォォォォ…
怒り狂った雀蜂の大群のように車は唸る唸る唸るブォオォォォオオォォォオオォォォォォォォゴオォォォォォォォォォォォオォォ飛び散るんじゃないかって言うくらい目を見開いてゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ目尻が切れそうキャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハブォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォハンドルと掌は乾いた汗が貼り付いてくっついたままそのままゴォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ♪ゴォオォォォォォ♪ォォォォハハハ歌ってても声なんて聞こえやしないゴォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…ああ何?何?何て言うのかなこの感じ…高揚感?ブラックアウト?知らん知らんもういいもういい!!!!道随分続くしどこまで行っちゃうの?イッちゃうの?キャアァーハハハハハハハハハハハハハーハハハハハハハハハハハハハブォオォォォォォォォォオォブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアフッ












 あれ?なんか浮いてない?しかもラウンラウン☆キャハハハハウケるウケる軽ーーー夢っぽドッガッシャアアアアアアアアアアアキィィィィィィィィィィィィー…バアアアアンッ
ズズズズーー…

ボチャッ…




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


バアァァン!!!



























あっという間だった。

120キロの速度のせい?

それとも風圧のせい?


橋の真ん中あたりで
アリオンはふわりと浮いた。
羽が生えたように。
綿毛のように。

ハイテンションのせいじゃなかった。

2、3秒くらい浮いた?

もっと長く感じた。

直後に、笑い声、浮遊感、テンションは、一気に消えた。





















そして私がここにいた。

信号機の柱に寄りかかって、傾くアリオンを見つめていた。


アクション映画のスタントみたいに浮いた車体が着地すればかっこよかったのに。
アリオンはバランスを崩して横に倒れた。



あ
ドアから私の体が投げ出された。


アリオン
灰色の煙を吐き出して
蛇の舌のように炎が白い体を舐めている。




なぜ
私はここに居るんだろう?

もしかしたら
ハイになった時に既に?

頭の中
茫漠として
この景色のよう。


あ
私の躰
川に落ちそう。

ああ

ああぁーー…
ボチャン。


私は落ちた躰へ向かった。

橋の下の砂利に足をとられながら私の躰を追った。

躰は浅瀬の岩に引っ掛かっていた。

苔色の川に浮いた蒼白い手足。
頬、首に髪がへばりついている。

見開いた目、固まった表情に哀号と言う声が喉まで来ていた。
なんて表情をしているんだ

その目を閉じようと腕を伸ばしたけど、ギリギリで届かなかった。


私はじわじわ湧いてくる悲壮感を感じなから、水浸る躰を見つめ続けていた。

見つめていた筈なのに
目を閉じるように目の前がぼやけて闇色になっていく。



今度は、はっきりくっきりと灰色が目に飛び込んできた。

車内の天井。
右側の窓枠からはセブンイレブンの看板の足が灯台の様に立っていた。


私はアリオンの中で目を覚ました。
そしてキィンと針みたいな頭痛がして、強く目を瞑ると眠る事が沸いて浮かんできた。


管理しているアパートの住民から外灯の電球を取り替えて欲しいと連絡があった。用事を済ませた私は帰りのアリオンの中で急に目が重くなってきた。

(あれ、なんか眠い……ヤバいな。事故りそうだ)

もう少し先の左車線に、セブンイレブンがあることを知っていた。
駐車場の空きを確認して、アリオンの頭から駐車スペースに突っ込んだ。

エンジンを切って、仮眠のつもりでアリオンと休憩した。


(あぁ…。夢か良かった。)

シートを起こして時計を見た。

PM16:48。

(やっばい!早く帰らなきゃ!)
1時間近く寝てしまった。
エンジンをかけて、アリオンを起こした。

(17時までに間に合うかな?)


セブンの駐車場から雑にバックして車道に出た。
左右確認を忘れてしまったが幸い車が一台も来ていなかった。

高低差の大きい、長く真っ直ぐな二車線をT字路にぶつかるまでひたすら走る。

傾いた民家、解体済みの空き地、整備途中の計画道路と錆びた看板などの前を白いブラストの様に通り過ぎた。


あ

信号が変わっちゃう





















ー終わりー

参考資料

1、柳 美里 小説
2、2012年の夢




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