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FINAL OKINAWA FANTASYコミュの8

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8



罪と罰



国際通りに響く、聞きなれた声。ファットバギーの背後から、声の主が姿を現す。
まぎれもなく、間違いなく、セイゴンだ。だが、その姿は人ではない。異形の者だ。まさに、悪のキジムナーといったところだ。
「やぁ!今日の朝は、みんなよく眠っていたね。おかげで、楽に仕事ができたよ。」セイゴンがにこやかに笑う。
「セイゴン。冗談だったら、今すぐやめろ。」ヤラキが悲痛な思いを叫ぶ。
「何をやめるの?仲良しごっこは、もう終わっただろ?」セイゴンが吐き捨てる。
「変わったなセイゴン。だけど、俺たちも覚悟を決めてこの場にいるんだ。お前が敵でも容赦はしない。」サクーンが力強く言い放つ。
「結局、お前は負け犬のままだったな。」ヘイオスがセイゴンに言う。
「そうやって、お前はいつも上から目線だな、ヘイオス。だが、今日は敗者の気持ちを味わってもらおうじゃないか。」今までのセイゴンにはない、自信がみなぎる。
「やるしかないな。」トゥーマコは決意を再度固める。
「戦う前に聞かせてほしい。セイゴンは何でこんな風になってしまったの?」フィロヤがセイゴンに尋ねた。
「ふん。冥土の土産に聞かせてやるか。俺はな、生まれてからずっと馬鹿にされて生きてきた。何をしてもだ。だから、俺は勝って見返すことにしたんだ。ここにいるファットバギーと一緒にな。」セイゴンがファットバギーを見る。
「俺がこの島にやってきた時、偶然俺たちは出会った。俺には誰にも負けない力があったが、頭がない。だが、こいつには力はないが、頭がある。俺たちは互いの弱点をカバーしあう、親友なんだよ。」ファットバギーが話す。だが、どこか表情が冷たい。
「ファットバギーは、俺の痛みを理解してくれた。俺にこの姿を与えてくれた。人間なんて辞めちまえって言って、俺の人生を変えてくれたんだ。俺の最初の親友だ。俺はこいつと二人で世界を支配する。そして、二人で作るのさ。俺たちの治める、素晴らしい世界をな!」セイゴンが高らかに笑う。
「本当にそれで満足なのか?人を傷つけて世界を手にしたところで、残るのは虚しさだけじゃないのか?」マサーが語りかける。
「初めは俺なんかに、誰かを傷つけることが出来るのかと、不安だったよ。だけど、俺はあのユタのばばあを殺せた。殺れたんだ。自分の進む道を邪魔する奴を殺す快感が、こんなに良いものだとは思わなかったよ。おまけに、スドウとの会話を盗み聞き出来たおかげで、お前らのことも知れたしな。予言通りだったよ。あの海岸を通ることも、伝説の武具の在り処もな。」セイゴンは思い出す。
「こいつは天才だよ。ユタに俺たちのことが知れたら、めんどくさいことになるって言って、有力なユタを残らず始末したんだからな。おかげで、お前らのこと以外は上手く進んだぜ。俺の大切な弟や部下たちの仇はとらせてもらうぞ。」ファットバギーは笑う。
「こいつら…。ほんまに腐ってるぜ。」ヘイオスの怒りが頂点に達しようとしている。
「お前ら、本気で俺に勝つ気なのかよ?お前らの持っているものは、もう役に立たなくなるんだぜ。見せてやれセイゴン。」ファットバギーがセイゴンに指示を出す。セイゴンは、ナデューサの三線を取り出す。
「あのユタのばばあはすごい奴だったよ。これの場所と、能力も予言しちゃうんだから。俺は運が良い。ユタがスドウにナデューサの三線のことを教える前に殺すことが出来たおかげで、これを手にすることが出来たんだからな。」セイゴンがスドウを襲った理由を語る。
「堕ちたな、セイゴン。だが、お前がナデューサの三線を持っていたとしても、俺たちの心まで折ることは出来ないぞ。俺たちも、いろいろな人たちの思いを背負ってここにいるんだ!」トゥーマコが熱く語る。

「良いだろう。まず最初に、お前らには絶望を味わってもらうぞ。」セイゴンは三線を構えて、弾いた!
「うわぁっ、お、重い。」フィロヤは伝説の武具を持ち切れない。みんなも伝説の武具を落とす。伝説の武具は石になっていく。

「くそ!」ヤラキは悔しがる。
「さすが、安全装置だけはあるな。」ヘイオスは苦笑いをする。
「俺は絶対逃げないぞ。」サクーンが勇ましい。
「俺も。ここで逃げたら、セイゴンと同じになるからな。」フィロヤは負け犬にはならない。
「戦士としての役目を全うするのみ!」マサーは剣を構えた。
「俺たちは旅を通じ、いろいろなことを学んできた。諦めない勇気もその一つだ。自らを信じ、仲間を信じ、必ずお前たちを倒す!」トゥーマコが、ファットバギーとセイゴンに剣を向ける。

「良いだろう。だが、ここからは俺の親友のファットバギーの出番だ。伝説の武具無しで、こいつに勝てるかな?あとで負け惜しみを聞きたいけど、死人には聞けないのが残念だぜ。さぁ、やっちまえファットバギー!!」セイゴンがファットバギーに指示を出す。



「それがどうした。」


セイゴンの口から、血が流れる。
セイゴンは胸の下を、恐る恐る覗く。
ファットバギーの拳が、セイゴンの体を貫いていた。



悲しき結末



六人は唖然として声が出ない。目の前で起こったことに、思考が追いつかないのだ。
「ど、どうしてだ?なんで…?」セイゴンはファットバギーに目を向ける。
「わかるだろう?もう用無しなんだよ。」ファットバギーは冷たく笑う。
「二人で、世界を手に入れるって…」セイゴンは薄れゆく意識の中、ファットバギーに聞く。
「俺は最初から自分以外は信用してない。お前の負け犬な生き様は、利用するのが簡単だったぜ。お前はいろいろと役立ってくれたよ。もし三線の効果がなかったら、人質として戦いに使おうと思っていたが、伝説の武具は石になってくれたんでな。俺様の頭でも、これ以上お前の使い方が思い浮かばなかったんだよ。ごめんなぁ〜!」ファットバギーは笑う。ファットバギーはセイゴンの体から、拳を引き抜いた。
「ちきしょう…。俺は…、最後まで…、負け犬のまま……」セイゴンは前のめりに倒れた。
「セイゴン!!」ヤラキとサクーンはセイゴンに駆け寄った。だが、息はない。
「悪に魂を売ったやつは、くそだ!だけど、だけど、こんなのあるかよ!」ヘイオスはファットバギーをにらむ。
「仕方がないだろう。こいつはもう使えないんだから。こいつはなぁ、彼女を守ることも出来ず、彼女に見放されるような、どうしようもない負け犬なんだよ。戦闘にも使えなければ、空気も読めない。はっはっはっは。」国際通りにファットバギーの笑い声がこだまする。

「おらぁぁぁぁ!」
「やぁっ!」
すきをついて、トゥーマコとマサーがファットバギーに斬りかかった!だが、ファットバギーは腹を捲りあげ、タレパンダでガードする。
「なかなか良い攻撃だな。が、絶対防御は破れないぜ。おりやぁぁぁぁ!」ファットバギーは二人を吹っ飛ばす。
トゥーマコとマサーは瓦礫の山に吹き飛ぶ。
「サクーン、行くぞ!」ヤラキがサクーンに声をかける。
「おぉ!」
二人はファットバギーに体当たりを仕掛ける。
ファットバギーがよろける。
続けざまに、ヘイオスとフィロヤが飛び蹴りを食らわす。
「うげっ!」ファットバギーはよろめき、倒れた。
「斬れなくても、ぶっ飛ばすことはできるようやな。デブ!」ヘイオスがニヤける。
ヤラキとサクーンは、瓦礫の山からトゥーマコとマサーを助ける。
「大丈夫?」フィロヤがトゥーマコとマサーに声をかける。
「なんとかな。」トゥーマコは大丈夫なようだ。
「けど、パワーは半端じゃない。気をつけないと。」マサーも無事だ。

ファットバギーは起き上がる。斬られなくても、それなりのダメージは受けているようだ。
「き、貴様ら。もーう、怒ったぞ。本気だ。本気を出してやる!」ファットバギーが本気を出すようだ。ファットバギーは、肩の袖を捲くった!
「みんな離れろ!やつが、本気を出す時のしぐさだ!!」トゥーマコは、ズッケランに言われたことを思い出す。六人は、ファットバギーと距離をとる。

ファットバギーはまばゆく輝く!六人はあまりの輝きに、まぶしくて視界が利かない。

光が治まって、六人は視力を取り戻した。
目の前には、肩の袖を捲り、タレパンダをむき出しにした、本気のファットバギーが立っていた。



クリストファー



「ぐはははははは。」タレパンダをむき出しにしたファットバギーは、六人の前に仁王立ちする。
「ふん。デブがただ腹出して立ってるだけやんか。」ヘイオスがつぶやく。
「たしかに。ある意味、見た目は最強だよね。」マサーがファットバギーの見た目に、うんざりする。
「油断するな!アントニーの兄貴っていうのを忘れるなよ!」ヤラキがみんなに注意する。
「そうそう。油断してると、すぐに殺しちゃうぜ。もっと俺を楽しませてくれよ。だが、この姿になった俺は手加減できないぞ。これが俺の真の姿。クリストファー…、そう、俺の真の姿は、ファットバギー・クリストファーなのだ!」ファットバギーは、自身を自慢げに語る。
六人は唖然とする。クリストファーなんて、どうでもいいよと。
「もっと驚け!」ファットバギーは頬を膨らます。唾液を溜めているようだ。
「来るぞっ!」トゥーマコはズッケランの言葉を思い出す。ファットバギーは口から何でも溶かすヨダレを垂らすのだ。
「オボボボーっっっ!!!!!」ファットバギーが口から勢いよくヨダレを吐きだした。
六人はヨダレをかわす。が、サクーンの服の袖に少し付いてしまう。
「うげ!服が溶けてる!」サクーンは袖を切って、難を逃れた。五人はサクーンを心配していたが、辺りを見渡すと、ヨダレがかかった場所が溶けていることに気づく。
「汚っっ!ってゆーか、この溶け方ヤバいな。」フィロヤはビビる。
「ぐはははは。どーだ俺のヨダレは。」ファットバギーが威張る。
「けど、避けれないことはない。気をつけながら、やつに攻撃しよう。」マサーが提案する。
「やつにはタレパンダがある。長期戦は、こちらに不利だ。」トゥーマコが話す。
「そうだね。こっちの体力が削られていくもんね。」フィロヤが答える。
「伝説の武具が使えないんだ。俺たちに残された武器は、自分たち自身しかない。」サクーンの目が光る。
「しゃっ!一撃必殺。全力でぶっ叩くで。」ヘイオスが気合を込める。
「よし、行くぞ!」ヤラキが突っ込む。五人もそれに続く。
六人はばらばらに散らばり、六方向から攻撃を仕掛ける。この一撃に全力を込めた。
だが、ファットバギーは顔色一つ変えない。斬れなくても、ダメージを与えることが出来ればと考えたが、ダメージも受けてないようだ。
「それがどうした?だから言っただろ、俺のタレパンダは最強なんだよ。それに、クリストファーになったことにより、体重も倍だ!」ファットバギーは笑う。
「今度は俺から行かせてもらうぜ。」ファットバギーは、肉厚な腕を振り回した。凄まじいパワーに、六人は吹き飛ばされる。
六人は吹き飛ばされたダメージにより立ち上がることが出来ない。体は動かないが、意識ははっきりとしていた。
「く、くそ。ここまで強いとは。」ヤラキが悔しがる。
ここまで力の差があるとは。六人の頭の中は同じことを考えていた。
旅の中で、諦めない勇気を学んできたはずだった。だが、少しずつ、そして確実に、六人の心は絶望に蝕まれていくのだった。






決死



ファットバギー・クリストファーの前に成す術もなく倒れる六人。
「やっぱり、伝説の武具無しであいつを倒すのは無理なんだよ。」サクーンはつぶやく。
「そんなこというな。まだ、まだ何か策があるはずだ!」マサーが励ます。だが、表情は浮かない。
「俺たちがあいつをなんとかしないと…。だけど、どうすれば。」フィロヤは困惑の表情を見せる。
「俺がやる。」ヘイオスが立ち上がる。
「何か作戦があるのか?」ヤラキが尋ねる。
「ああ。」ヘイオスがうなずく。
「どんな作戦なんだ?俺たちにも教えてくれ。」トゥーマコがヘイオスに声をかける。
「それは…、それは言えん。それに、俺一人で充分だ。お前らは少し離れていてくれ。」妙に真面目にヘイオスが答える。
「待て、ヘイオス。」トゥーマコはヘイオスの様子にただならないものを感じ、腕を掴んで止める。
だが、ヘイオスはトゥーマコの腕を振り払うと、トゥーマコのみぞおちに一発拳を入れた。
「ヘ、ヘイオス。お前まさか…。」トゥーマコが意識を失う。
四人は突然の出来事に、言葉を失う。
「お前ら、トゥーマコのこと頼むで。あと、ちゃんと離れておくように。それと、今までほんまおおきに。」ヘイオスが礼をいう瞬間だけ、優しく微笑んだ。そして、ヘイオスはファットバギーに向かって走り出した。
「待て、ヘイオス!」フィロヤがヘイオスを止めようとする。
「行くなフィロヤ!あいつのことを思うなら、ここから少し離れよう。」マサーがフィロヤに悲しく語りかける。
「トゥーマコは俺が担ぐ。行くぞ。」ヤラキが意識を失っているトゥーマコを担ぐ。
「でも、ヘイオス一人で何が出来るんだよ!俺たちも行こう!」フィロヤはヘイオスを追おうとする。
「きっと、ヘイオスには考えがあるんだ。あいつは考えもなしに敵に突っ込むほどバカじゃない。あいつは頼りになるやつだって、お前も知っているだろ。」サクーンがフィロヤの腕を強く掴む。
「わかった。ヘイオスを信じるよ。」フィロヤは、ヤラキ、サクーン、マサーの悲しみを隠すような表情に気づいた。ヘイオスを追いかけたいのは、自分だけではないと、理解することが出来たのだ。
四人はトゥーマコとともに、安全な位置まで移動し、ヘイオスの背中を見つめる。

「ふん。六人がかりでもダメだったのに、お前に何が出来る?」ファットバギーはヘイオスを見つめ、嘲笑う。
「デブが。そんな汚い腹じゃ、一生彼女は出来んな。まぁ、見てな。面白いことが起きるぜ。」ヘイオスが不敵に笑う。
「ほう。じゃ、見てやるよ。」ファットバギーの自身は揺るぎない。
「焦ったデブほど、見苦しいものはないぜ。覚悟しな。」ヘイオスが決意を固めた。

ヘイオスの一世一代をかけた大仕事が、今始まる。



人体の奇跡



「へへ。まさか、これを使うことになるとはな。」ヘイオスは不敵に笑う。
「最後まで面白くしてくれよ。」ファットバギーの表情には余裕がみなぎる。ファットバギーのタレパンダは絶対防御を誇るからだ。
だが、ヘイオスは実力差がある敵に対して、考えもなしに敵に突っ込むほど馬鹿な男ではない。ヘイオスには秘策があった。しかし、その秘策は敵もろとも自分おも巻き込む、諸刃の剣だった。
少し前までのヘイオスなら、このような行動は絶対にとらなかっただろう。ヘイオスは変わった。自分を犠牲にすることをいとわないほど、大切な仲間が出来たからだ。この秘策を出すことに迷いはなかった。
「スー、ハー。スー、ハー。」ヘイオスは大きく深呼吸をする。
「おいおい、ここまでやっといて、今さら緊張かよ。所詮は口だけの男ってことか。」ファットバギーが溜息を吐きだす。
「バーカ。俺が緊張なんかすると思うか?これは最後の準備だよ。いつでも良いぜ。かかってこいよ、デブ!」ヘイオスは必要以上にファットバギーを挑発する。
「雑魚が。決着をつけてやろう。あの世に行きなっ!」ファットバギーは怒りを込めた鉄拳をヘイオスに振り下ろす。

「危ないっっっ!」
「ヘイオスっ!!!」
見守る四人が叫ぶ。

「この時を待ってたぜ!」ヘイオスはファットバギーの拳を、ギリギリでかわして、ファットバギーの後ろに回り込む。そして、ファットバギーを羽交い絞めにした!
「な!?何をする気だ?」ファットバギーは、思いがけないヘイオスの行動に動揺する。
「お前が単細胞で助かったぜ。」羽交い絞めにしながら、ヘイオスは一息つく。
「死ぬ時は、綺麗な女の子の膝の上って決めてたんやけど、まさかその相手がデブ野郎とはな〜。」ヘイオスが笑う。
「貴様、死ぬ気か?だが、どうやって俺を道連れにするつもりだ。俺にはどんな攻撃も効かないんだぞ?ふん。お前が力尽きた時を狙って、ミンチにしてやるよ。」ファットバギーはまだ余裕を見せる。
「はぁ〜。ほんまにおバカ。おいデブ。お前風邪ひいたこととかないんか?」ヘイオスが呆れながら聞く。
「風邪?そりゃあ、あるに決まってるだろ。」ファットバギーは無駄に自信満々に答える。
「やっぱりね。お前の外側に攻撃は効かないかもしれないけど、内側はどうかな?」ヘイオスがささやく。それを聞いたファットバギーの顔が急激に青ざめる。
「何だ?何をする気だ?やめろ、やめろーっ!」ファットバギーが叫ぶ。
「今さらわめいたところで遅いんだよ。おーい、お前らー、もっと離れといてやー。」ヘイオスが、見守る四人に指示を出す。
ヘイオスの指示を聞き、四人はさらに距離を取ろうとする。その時だ。
「うぅ…。お、俺は。そうだ。ヘイオスは、ヘイオスはどうなった?」トゥーマコが意識を取り戻す。
「ヘイオスはあそこだ。」ヤラキが指をさす。
「おぉ。トゥーマコ!すまんかったな、いきなり殴ったりして。それ以外にも、俺のはちゃめちゃな行動で、お前には本当にいろいろ迷惑かけた。サクーン、お前との喧嘩楽しかったで。ヤラキ、お前の天然には笑わしてもらったわ。マサー、良い奴なんやけど、最後まで何考えてるかわからんかったな〜。フィロヤは…、とくになし!な〜んてな。お前のおかげで、旅がめっちゃ楽しくなったわ。みんな、ほんまおおきに!」ヘイオスの涙腺が緩む。
「やめろ!やめるんだヘイオス!」トゥーマコは必死に止める。
「アホか!ここまで来てやめれるか!俺の生き様見とけーっ!」ヘイオスの気合に、五人は言葉が出ない。
ファットバギーは必死に、ヘイオスを振り払おうとする。だが、ヘイオスは離れない。
「往生際が悪いで、おデブちゃん。俺と一緒に地獄巡りしようや。」そういうと、ヘイオスは目を閉じた。目を閉じると、これまでの記憶が、まるで走馬灯のように思い出される。ヘイオスは決意を固めて、目をスッと開ける。そして、五人に向かい、一言だけ言い放つ。
「あばよ。」
ヘイオスは全力で腹に力を込める。力んだ顔は、尋常ではないほど赤くなる。
そして、秘策は放たれた。
ぶーっっっ、という音とともに。
ヘイオスの命をかけた秘策。それは、自らの不摂生と食物の力を融合させた、奇跡の屁だった。
国際通りの四越前の広場は、殺人的な異臭に覆われたのだった。



勇者、散る



国際通りは、強烈な異臭に襲われる。歩道沿いを彩る花は散り、南国情緒溢れる木々は枯れ果てる。まさに、地獄絵図が広がる。トゥーマコたち五人は、目、鼻、口と、閉じられる場所は全力で閉じている。全く外界の情報がわからない状況だ。
だが、そろそろ大丈夫だろうと思い、サクーンは目を開けてしまう。
「うわぁぁぁぁ!目が!目がぁぁぁぁぁぁ!!」サクーンは目に激痛を訴え、その場でもがき苦しむ。
サクーンが苦しむ様子は耳で確認できるが、四人は助けられない。いや、助ける余裕などないのだ。少しでも気を抜いたら自分も屁に侵されてしまうからだ。
強烈なのは臭いだけではない。その重さだ。周りの空間には、地球ではないかのような重力を感じる。明らかに、空気が重いのだ。四人は、この空気の重みが無くなるまで、絶対に動かないことを心に誓うのだった。
そんなとき、トゥーマコは冷静になり、ヘイオスとファットバギーは爆心地でどうなっているのか考える。恐らく常人では生きてはいられないことは、想像に難くない。果たして、ヘイオスは無事なのだろうか。ファットバギーは生きているのか。
「あぁ、ああぁぁぁ。」四人の耳にうめき声が聞こえる。サクーンはまだもがき苦しんでいるようだ。
四人はもう少し様子見てみることにする。
しばらくすると、空気の重さが軽くなってきた。ヘイオスの屁が薄まってきたようだ。
四人は目を開けてみる。目を開けると、目の前には涙を流しながら苦しむサクーンがいる。
「大丈夫か、サクーン?」ヤラキがサクーンに駆け寄る。だが、まだ残る屁にヤラキの目も細くなる。
「げほっ、げほっ!なんとかな。」サクーンは何とか大丈夫なようだ。
「ヘイオスは大丈夫かな。」フィロヤが周りをも見回す。
「あそこだ!ヘイオスが倒れている!ファットバギーも倒れているぞ。」マサーが倒れた、ヘイオスとファットバギーを見つけた。
「大丈夫かヘイオス!おい、しっかりしろ!」トゥーマコは一番に、ヘイオスに駆け寄る。
四人も駆け寄った。
「ヘイオス、ヘイオス!」サクーンがヘイオスの耳元で叫ぶ。
「ん、ううぅぅぅ。」ヘイオスが目を覚ます。
「ヘイオス!大丈夫か。」フィロヤが体をさする。
「みんな…。僕…、どうやらここまでのようや。」ヘイオスの口から出た言葉に、五人は動揺する。
「へへ…。どうやった、俺の秘密兵器?」ヘイオスが笑う。
「臭かったよ。最高に。」マサーがヘイオスを讃える。
「そうやろ?俺の自信作や。な〜んか、嫌な予感がしてな。ファットバギー倒すには、これしかないって思っていたんや。」ヘイオスは満足そうに笑う。
「昨日、あんなに酒飲んで、ご飯食べていたのも、このためだったのか。」トゥーマコが聞く。
「そうや。隠し味は、紅イモと島らっきょやで。」ヘイオスが解説する。
「馬鹿野郎。まだ目に浸みるじゃないかよ。」サクーンの小さい目に、涙が溜まる。
「本当だ。まだ臭いのが残ってる。俺の目もおかしいみたいだ。」ヤラキの目にも、涙が見える。
「俺、昔はこんなことするような奴じゃなかったんやけどな。この旅で変わったな。お前らみたいな、ほんまに良い奴らと出会えて、俺は幸せもんや。短い旅やったけど、最高やったで。」ヘイオスの目にも涙が浮かぶ。
「泣くな!こっちも泣きそうになるだろ!」フィロヤがヘイオスを叱る。
「そうだ。そんな姿はお前らしくないぞ。」トゥーマコも涙をこらえる。
「そろそろ、お迎えが来る。みんな、ありがとう」ヘイオスが何かを悟る。
「そんなこと言うな!」マサーが惜しむ。
「はは、みんな…、ほんまおおきに…。」そう言い残すと、ヘイオスは目を瞑った。


勇者が一人、ウォキナワで散った。



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