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連帯オール沖縄・東北北海道コミュのインターネットで再発見した芝田進午氏の論文

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オウムで露呈した政府・国立予防衛生研究所の怠慢
芝田進午
『エコノミスト』1995年6月13日号

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オウム真理教が生物戦争を準備していたのは確実である。これは毒ガスより恐ろしい。なぜ、簡単に準備でき、それがわからなかったのか。政府、国立予防衛生研究所の怠慢が浮かび上がる。(山下注:原文中の傍点強調はSTRONGタグで表現した)



「オウム真理教」の麻原容疑者の逮捕で、〃王国〃の崩壊がはじまった。これからもオウム報道はつづくであろうが、まだ重大な問題が論評されていない。オウムの生物戦争準備がなにを意味するかという問題である。

毒ガスよりも恐ろしい
オウム教団の「厚生省」トップ、遠藤誠一容疑者は京大大学院博士課程で学ぴ、京大ウイルス研究所で遺伝子工学を研究した〃科学者〃だった。その専用実験棟では病原体実験に不可欠な安全キャビネット等の設備や細菌培養に必要な栄養素ペプトンが発見された。彼はボツリヌス菌毒素、Q熱リケッチアを入手していたらしく、ペスト菌、炭疽菌や遺伝子組換え微生物などが生物兵器として利用されうると書いていた。

昨年六月、彼の実験棟周辺に出入りしていた多くの信者が鼻血、高熱、全身発疹などの感染症状を示していたし、今年四月には、同棟を捜索した捜査員にも発疹などの症状がでて、捜査が中断された。そこで、捜索本部はオウムが病原体の実験をおこなっていたと断定した。もちろん、オウムが学術目的で研究していたはずがなく、生物戦争を準備していたことは確実である。

オウムによれば、近い将来、世界最終戦争が起こり、終末になって、オウムの信者だけが救われる。この予言が、〃真理〃であることを示すには、自作自演で終末を起こすほかはない。その場合、災禍とパニックは大きければ大きいほどよい。

そのような立場からみれば、サリンや青酸ガスにくらべると、生物戦争はいっそう「効果的」である。なぜなら、毒ガスは短時間で拡散・消失するが、個々の病原体は拡散せず、たった一個でも感染を起こす場合がある。毒ガスは検知されるが、病原体は容易に検知できない。毒ガスは中和できるが、宿主(人間、動物、昆虫等)の中では病原体は無限に増殖する。毒ガスの被害は地域的だが、病原体は全国民、全人類に伝染する危険がある。毒ガス攻撃は「即効的」であるだけに、すぐに対策がとられるが、生物兵器攻撃では潜伏期があり、ただちに発病せず、原因もわからず、対策をとることができない。毒ガスの製造にはプラントが必要で、秘匿性に欠けるが、生物兵器の生産は小部屋でも可能であり、費用が安く、秘匿しやすい。

多くの病原体は空気伝染し、気管や肺臓の粘膜や極小の傷をつうじて感染する。そこで、病原体を生物兵器として使用するには、それらを大量培養し、エロゾル(噴霧状気体)として放出する方法がとられる。人びとは呼吸しないわけにはゆかず、無色無臭のエロゾルを知らないで吸入し、感染させられる。この点で、生物兵器は毒ガスよりも恐ろしく、終末状況をつくるうえで、はるかに「効果的」だといえよう。

もしオウム教団が、ボツリヌス菌毒素(一グラムで一七〇〇万人を殺せるという)や炭疽菌、ペスト、エボラウイルス等を大量培養し、そのエロゾルを地下鉄や映画館等で密集した人びとに向けて、また都会のマンションから放出していたら、さらに、それらの病原体や毒素やがんの遺伝子の組換え微生物を生物兵器として使用していたら、どうなったであろうか。

オウム幹部はサリンを使用したので検知され、逮捕された。もし彼らが生物戦争だけをおこなっていたら、検知されず、相当期間、爆発的感染を全国、全世界に蔓延させたことであろう。その被害の大きさは想像を絶するものであろうが、他方、「予言的中」に驚愕して不安に駆られ、オウム信者は急増し、お布施も増えて、オウムの資産は天文学的なものにふくれあがったことであろう。

なぜわからなかったか
オウムが生物戦争をもくろんでいたことが、なぜ三月の強制捜査までわからなかったのか。それは、国際基準に反して、わが国には病原体施設(以下、遺伝子組換え「バイオ」施設、実験動物施設をも含む)を登録・認可・査察する制度がなく、無法状態だったからである。

オウムの病原体施設は、扱っていたとみられる病原体の危険度からみて、P2,P3実験室であるべきだったが、その実態はどうだったのか。本来、そのような実験室は、実験者の安全のためにも、また強制排出されるエロゾルによる周辺住民、さらに彼らをつうじて全国民・全人類への感染を防ぐためにも、人口密緊地に設置されてはならず、細心の注意で査察され、厳重に管理されなければならないものである。

そこで、WHO(世界保健機関)も病原体施設の安全基準(*1)を制定し、国際的にも規制の強化を要求してきた。当然、各国政府も、自国の病原体施設にWHO指針を守らせる国際的義務を負う。だが、わが国では、WHO指針の意義は広く普及されず、むしろ隠されてきた。

その理由は厚生省の国立予防衛生研究所(略称・予研)が怠けてきたからである。予研は病原体施設の安全対策についての「指導機関」を自負し、その「専門家」と称する人をWHO指針作成に参加させていた。その指針には、P1、P2実験室、実験動物施設についての最低の安全基準が指定され、これを前提にP3実験室の安全基準が定められ、そのうえでP3実験室が「国ならびに他の適切な保健当局に登録され、あるいはリストに入れられていなければならない」と指示されている。当然、予研は、同指針を順守させる立法の必要を政府に提言し、国民にも訴えるべきだった。だが、その義務を果たさず、病原体施設を無法状態に放置してきたのである。

こうした事情で、オウムは病原体施設を届け出なしに自由につくり、秘密裏に生物戦争を準備することができた。はからずも、オウムによって、そのような無法状態の危険性、予研と政府の無責任体制が露呈したのである。

オウムと予研の共通性
五月七日夜、テレビ朝日は、オウム幹部のアジトが早稲田のマンションにあり、予研に近いこと、オウムに毒ガス情報を提供していた自衛官が予研に出入りしていたことを報道し、予研の建物の映像を放映して、視聴者にショックを与えた。その自衛官が予研から病原体を持ち出し、オウムに提供していたのではないかと疑わせる番組だったが、予研の杜撰な「管理体制」を知る人は「やっぱり」と感じたことであろう。

『毎日新聞』(五月一日夕刊)によれば、捜査当局は、オウムの病原体施設の捜索について予研に取り扱い方法を照会したとのことである。だが、予研はおそらく十分に助言できなかったであろう。なぜなら、そもそも予研こそ、病原体取り扱いの安全対策について独自の研究をおこなわず、盗作ですませてきた機関(*2)だからであり、WHO指針に照らせば、予研の実験施設とその管理も欠陥だらけだからである(*3)。

病原体施設の立地条件についても、アメリカでは、砂漠に設置される病原体施設も環境影響評価の事前の発表が求められる。EC(現EU)理事会も「遺伝子細貧え微生物の閉鎖系利用についての指令」を加盟国政府に指示し、バイオ施設の環境影響評価・危険度評価の事前の発表、公衆の合意を義務づけた。

ところが、予研は、バイオ施設の環境保全についての国際基準を踏みにじり、新宿区の住居専用地域、早稲田大学、障害者施設、災害時避難地に隣接する土地への移転を強行してきた。そこで、私たちは、多くの住民、早大教授ら(現在の原告数は一九〇人)とともに、国際基準の順守を求め、予研の立地と実験の差し止め裁判を闘ってきた(*4)。早大も抗議し、新宿区長・区議会全会派も一致して住民・関係者の合意のない実験の中止を申し入れているが、予研は問答無用の態度で実験を強行している。

私たち、「予研裁判」の原告は「オウムでさえ病原体を人口密乗地で扱っていない、しかるに予研は……」と話して笑っている。聞く人もみな笑っているが、住民にとっても、全国民にとっても「笑いごと」ではない。

厚生省の予研でさえ、国際基準に違反し、病原体施設の法的規制に反対し、さらに一九四七年の創立から最近まで米軍生物兵器研究施設と人的交流をつづけてきた状況(*5)で、政府はオウムが病原体を研究したからといって処罰できるものであろうか。できないといわざるをえない。

わが国には、国民の生命の安全と健康のために「放射性同位元素等による放射性傷害の防止に関する法律」「毒物及ぴ劇物取締法」「危険物の規制に関する政令」等のような法令が存在する。後手になったが、去る四月の国会で「サリン等による人身被害の防止に関する法律」(原料物質の購入も処罰)が成立し、「化学兵器禁止条約」締結が批准され、関連国内法も成立した。これらの法律は必要である。たとえば「放射性同位元素等に関する法律」の場合、その施設と管理について届け出・認可・査察が制度化され、罰則もある。その査察は不十分だが、無法状態にまさることは自明である。

だが、奇妙なことに、わが国では、病原体と病風体施設(バイオ施設、実験動物施設を含む)についてだけは、登録・規制・査察・罰則の法令さえなく、無法状態がつづいている。

その背景として、七三一部隊以来の医学界における「目的のために手段をえらぱない」という、〃研究者エゴ〃の「体質」があげられる。とりわけ、予研は、そのような「体質」を典型的に継承してきたので(*6)、前述のような法律の提言を怠け、むしろ妨害してきた。

だが、オウム事件で明らかになった病原体施設の危険性に照らして、国民の安全のために,「病原体と病原体施設の規制に関する法律」(仮称)を緊急に制定すべきではないであろうか。その内容は次のようなものになろう。


病原体施設設置の届け出義務と、WHO指針の安全基準への合否についての審査・認可・査察の制度化。
アメリカの「国家環境政策法」、EC理事会指令に準ずる環境条件規制の制度化。病原体施設の環境影響評価・危険度評価の事前の発表、周辺関係者の合意を前提とする環境保全協定締結の義務化。
病原体実験に不可欠な「安全キャビネット」、ヘパフィルター、高圧滅菌器、実験動物等の生産・流通・所在の届け出・記帳・査察の制度化。
病原体(組換え微生物。毒素等を含む)の所在、それらの種類と量.についての届け出・記帳・査察・管理の制度化(病原体は培養して増殖させうるが、培養材料の届け出・記帳・査察によって掌握できよう)。
それらの違反への罰則。
それらの実施に権限をもつ公的機関の設置。
オウムのような〃科学者〃の生物兵器研究を事前に阻止し、また予研をはじめとする病原体施設に起因する公害(生物災害)を事前に予防するには、最低限、以上のような法律が必要なのである。

「悪魔の飽食」の亡霊
読者は、サリンの研究と製造、生物兵器開発に情熱をもやしたオウムの〃科学者〃のうちに七三一細菌戦部隊の〃医学者たち〃の亡霊を見ないであろうか。同じ亡霊は、数々の人権信書を犯してきた予研の、〃科学者たち〃(一部の幹部科学者たち)のうちでも生きつづけていないであろうか。オウムと予研という無関係にみえる二つをつなぐ暗渠のうちに、「悪魔の飽食」の亡霊のどす黒い地下水脈がつながっていないであろうか。オウムは一過性の社会不安・新興宗教現象にすぎないのではない。戦後五〇年になってもまだ果たされていない戦争責任の未決済、典型的には「悪魔の飽食」の、〃科学者たち〃の戦争責任の未決済、そのことによって生きのびた亡霊の復活なのである。亡霊の根絶が今日ほど求められる時はない。


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(1)
WHO『実験室における病原体実験の安全指針』(初版八三年、第二版九三年、英文)。病原体施設の最低の安全基準を定めたものである。初版以降の一〇年間の教訓に照らして、第二版では規制がいっそう厳しくなった。わが国のバイオ関係者は病原体・遺伝子組換え実験の安全基準は世界的に、緩和されていると宣伝するが、裏実は逆である。
(2)
詳細は拙編著『バイオ裁判』(九三年、晩聲社)参照。
(3)
拙稿「WHO指針(一九九三年改訂版)の新基準の要点」(予所載判原告証書、九五年二月二八日付)。私は、この文書で、WHO指針の新基準に照らして、予研施設の評価点は不合格であることを論証した。
(4)
「予研裁判」の法理と経過については、拙編著『バイオ裁判』(前掲)参照。
(5)
>拙稿「米国『生物戦争計画』と予研の『体質』」(『エコノミスト』八九年二月一四日号)参照。予研は一九四七年、米軍命令で設立され、その際「悪魔の飽食」の〃医学者〃多数が集められた。それから最近まで、予研は、米軍の生物戦争研究機関と共同研究や人的交流をつづけてきた。
(6)
前注で指摘した「体質」と関連し、予研は製薬企業と癒着して多くの「予防接種」禍の薬害を起こし、国民、とくに学童、乳幼児の人権をいちじるしく侵害してきた。くわしくは、高杉晋吾『黒いカプセル』(合同出版、八三年)、高橋晄正『危険なインフルエンザ予防接種』(農文協、八七年)、広汎隆一『エイズからの告発』(徳問書店、九二年)、拙編著『バイオ裁判』(前掲、四二五〜四三九ページ)参照。

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