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連帯オール沖縄・東北北海道コミュの(5) ――「安心」こそ課題という立場が排除するもの

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◆ブログ:島薗進・宗教学とその周辺より
http://shimazono.spinavi.net/

=====以下、その(5)全文転載(改行をしています)=====

■放射線のリスク・コミュニケーションと合意形成はなぜうまくいかないのか?
(5) ――「安心」こそ課題という立場が排除するもの
2012年8月28日

福島原発事故以前に放射線の健康影響をめぐるリスクコミュニケーション(「リ
スコミ」と略す)の考え方は危ういものになっていた。多くの市民(日 本 人)
がリスク評価の能力が劣っていると考える専門家が多いことはすでに述べた
(2)。この市民の理解力が劣っているという考えと、何よりも市民の 「不安
を なくし」「安心」を獲得すべきだという考え方(3)(4)が密接に結びつ
いている。そしてリスクコミュニケーションの課題はリスクについて客観的 な
知識を もち、「安全」の客観的な評価は確保している科学者が、それをうまく
理解できない市民の「安心」を得ることにある――これが「安全・安心」論の前
提だ。

 リスク論やリスクコミュニケーション論は3.11以後に初めて出てきたもの
ではないが、それほど長い歴史があるものでもない。原子力や放射能に 関わる
問 題に限られて述べられてきた事柄ではなく、遺伝子組み換え作物の問題と
か、タミフルの副作用の問題とか、BSE(牛海綿状脳症)に関わる牛肉の検
査の問題 とか、環境・食品・薬物のリスク等、さまざまな問題に関わってい
る。科学技術の恩恵をこうむる度合いが高まれば高まるほど、科学技術を介して
生ず るリスク をどう受け止めるかが重要な問題になってくる。だからこそ「リ
スク社会」(ウルリッヒ・ベック)という現代社会の捉え方も可能なのだし
http://www.rinri.or.jp/research_support_Shohyo1202.html 、「リスク・コ
ミュニケーション」が学問的な考察を要する分野として育ってきもしたのだ。

だが、科学が守る「安全」の上に市民の「安心」を得るという日本独自のリス
ク・コミュニケーションの議論は、1990年代半ば以降のものだ。そし て、こう
したリスク評価やリスコミ論の展開において、原子力と放射能の問題は特別重い
意味をもっている。それはチェルノブイリ事故の衝撃が和らぐ一方、原 子力ル
ネッサンスの動きにのって原発推進勢力が攻勢に転じる中で展開してきたもの
だ。リスク論における「安全・安心」論の流行は、1995年の「もん じゅ」事故
が大きなきっかけの1つであることを指摘した高木仁三郎の炯眼はさすがという
べきだ。

 ここでこの問題について、3.11以後に公表されたもう1つの重要な論考に
もふれておきたい。それは、2011年11月に刊行された、哲学者の 加藤尚武 (京
大名誉教授)による『災害論―安全性工学への疑問』の第4章「「安全」と「安
心」の底にあるもの」だ。これは近代社会の前提としての「自由」 の哲学的 考
察に力を注いできた著者による「安全安心論」批判として重要だ。

 加藤氏は、まず「「安全・安心」というように二つの言葉が連なって、それが
災害対策や技術の社会的な利用の条件であるかのように語られるのは、 日本だ
け の現象で、諸外国には例を見ない」と述べるp69。「日本だけ」の用語法――そ
もそもこれだけでも胡散臭いと感じるのは自然だ。「安心」は英語に なりにく
い、「anshin」とそのまま表記することさえあるそうだ。

 加藤氏は「これは正式の法律文書には登場せず、科学技術に関連する官庁や官
庁主導の報告書などに使われている」とし、法的規定からずれた用語法 である
こ とに注意を促している。そして、平川氏も指摘していたことだが、2004年の
「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」が官 庁の文
書 としては「最初のもの」ではないかと述べ、「「安全・安心」は、日本の技
術行政の専門家が国民向けに作った概念で、法哲学的には「安全」と「安 心」
は区別 しなければならない」と論じる。p69

 加藤氏の考察では、「安全」と「危険」は対概念で自由の不可欠の条件をな
し、国家の介入が認められる領域だ。「自由主義によれば、公共機関が個 人の
生活 に干渉してよい唯一の根拠は、”harm-to-others”(他者への危害)の防止
であると定義づけられるから、その場合には、「危険」の概 念を勝手 に危険で
ないものにまで拡張すると、政府の権限をそれだけ拡張することになる。この考
え方を裏返しにすれば、「安全」を「安心」にまで拡張する と、「安 全」を確
保することは政府の義務であることから、「安心」を確保することも政府の義務
であることになり、それは政府の義務の拡張を意味することに なる。そ れは自
由主義の政府論の根幹に関わる問題である」p70。

 加藤氏は安全・安心論の論理では、国家が「安心」にまで介入することを帰結
することを危惧している。事実、福島原発災害では、放射線の被害を恐 れて避
難 しようと考えている人たちに対して、政府や福島県、また政府寄りの専門家
たちが、「安心」してとどまるよう、あるいは帰るように強いる、あるいは 促
す姿勢 が目立った。科学的な情報をめぐって住民も参加して公共的な討議を行
い、それぞれの立場でリスクを評価し「安全」性を判断できるように下ごしらえ
をするこ とこそ、政府や福島県、また政府寄りの専門家たちの役割だったはず
だが、そうするよりも人々の心理と判断を誘導することを目指して来ているのだ。

 私の理解では、加藤氏は「安全」確保義務を超える要素をもつリスクの受容に
ついては、市民社会の合意を作ることによってしか解決できないが、 「安心」
を も国家側が保障するかのごとき姿勢をとることによって、合意形成を困難に
していることに問題がある。ところが、学術会議の議論などを見ると「安全 は
技術に よって保障される客観的状態であるが、安心はコミュニケーションに
よって獲得される主観的状態である」と理解されている、と加藤氏は言う。P74
 ここで はどれほどのリスクならば「安全」と見なすかは、リスクに関する
「合意形成」の問題だという民主主義の根幹に関わる理解が欠けている。

 「したがって「安全は客観的に定義可能であり、それについてのリスク・コ
ミュニケーションのあり方が安心である」という型の定義は採用できな い」。
技術 者の言葉では「安全はハードウェア、安心はソフトウェア」という言い方
はできないということ。刑法の言葉では「安全の構成要件に、リスク・コミュ
ニケー ション、合意形成が含まれる」ということだ。p78

 以上の加藤氏の論は原子炉工学の安全問題に力点があるが、私なりに放射線健
康影響問題に適用するとこうなる。長瀧重信氏、神谷研二氏らは「確 率」に
よっ て示せる「安全」は科学の領域で専門家に委ねよ、その後に「安心」に関
わるリスク・コミュニケーションを行って市民・住民の同意を得よ、という。
政府や専 門家が「安全」が何であるかを決めてしまえば、後はそれを伝えて安
心させればよいことになる。これも政府や専門家側の任務だ。それが「リスクコ
ミュニケー ション」であり、その方法がうまいか下手かということになる。放
射線健康影響の専門家は情報の伝え方が適切でなかった(参・政府事故調)とい
う言 い方はこ の立場に立っている。

 以上、加藤氏の「安全・安心論」批判を私なりに整理する。1)本来、多様な
リスク評価のあり方を反映した合意形成によってなされるべき「安全」 につい
て の公共的な合意形成を排除して、専門家だけで「安全」規定を行おうとする
誤り。2)その上で「客観的」と見せかけた「安全」概念を市民に強いて、 さ
らにそ れに基づく「安心」を導き出そうという、誘導的・操作的な「リスクコ
ミュニケーション」概念の誤り。要するに確率によって計算された「安全」は不
確かなも のであり(とくに原子力はそうだ)、それを踏まえてリスク・コミュ
ニケーションと合意形成が行われるべきだが、それを省いて政府と専門家の意志
を 押しつけ るのに「安心」概念や「安全・安心」枠組みが利用されているとい
うことだ。

 ここから、話はこの連載の(3)までで取り上げて来た、放射線健康影響につ
いてのリスクコミュニケーションの話にもどる。「安心」論、「安全・ 安心」
論への多大な注目が、この分野でどのように形成されてきたか、
 日本以外では見られないような概念枠組みまで用いて、「安全」の論議は特定
専門家たちの内にとどめ、「安心」誘導に多大なエネルギーが費やされ てき
た。 誰がこのようなあやしい企てを強力に後押ししてきたのか。これはさまざ
まな分野がからんでいるので、単純な答は引き出しにくい。だが、放射線健康
影響のリ スク分野では、「安心」論、「安全・安心」論への執着の理由が見え
やすい。というのは、放射線健康影響のリスク評価においてきわめて大きな意義
を もつチェ ルノブイリ原発事故(1986年)の被害について、日本では住民の
「不安」こそが問題だという「学説」が、政府寄り専門家により強固に打ち出さ
れ、その 後、現在に至るまでその立場が固守され続けているからだ。

 では、その放射線健康影響問題についての「政府寄りの専門家」とはどういう
人たちを指すのか。首相官邸ホームページの「原子力災害専門家グルー プ」の
箇所 、

http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka.html また、日本学術会議の「放射
線の健康への影 響と防護 委員会」の箇所を見ていただければよいだろう。
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai /shinsai/pdf /housya-kousei.pdf 

だが、3.11以後の政府や福島県の放射線対策の策定に深く関与した人物をさ
らに限定してくと、長瀧重信氏と山下俊一氏という師弟関係に あった長崎大学
医学部の教授・名誉教授の名前が浮かんでくる。どうしてか。

 原発や核実験の放射線の健康影響を研究してきた専門家の大多数は「保健物
理」とよばれる分野の専門家であって、医学者ではなく物理学・化 学・生物学
など で訓練を受けた研究者が属する。この分野では原発の開発とともに原発に
よる健康被害を抑えつつあまりコストをかけすぎないようにすることが主 な研
究課題と なる。これが「原子力ムラ」に属することは明らかだ。

他方、医学者で原爆・原発の健康影響に関心をはらって研究してきた人はたいへ
ん少ない。原爆や核実験の健康影響を研究してきた人々がいないわ けではない
が、そこでは放射線の健康リスク評価は政府や原発推進勢力に有利なものとはな
らない。放影研や放医研に関与するなどして、次第に政府寄りに立 場を移して
いった医学者はわずかながらいる。だが、彼らの中で、放射線による新たな健康
被害について研究している専門家はほとんどいない。

 ところが政府サイトからチェルノブイリ調査に加わったグループがあった。笹
川記念保健協力財団の支援で1991年から2001年にかけて行 われた「チェ ルノブ
イリ医療協力事業」であり、その中心となったのはIAEAに協力した放影研理事長
の重松逸造氏、及び同氏に依頼された長崎大学の長瀧重 信氏である。 長瀧氏は
長崎大に赴任してきから放射能による甲状腺の被害について研究していた経緯が
あって、米ソから政治的外向的な要請のあったこの医療協 力と調査の活 動に関
わるいことになった。そして、長瀧氏の部下としてこの調査・医療協力活動に加
わった数人の研究者の中に山下俊一氏がおり、長瀧氏を補佐 するような地 位に
あった。(『笹川チェルノブイリ医療協力事業を振り返って』笹川記念保健協力
財団、2006年)

 福島原発災害が起こって、どのような対策をとればよいのかというときに、ま
ずチェルノブイリの被災者への医療支援を行って来た人々が医学界 から求めら
れ たのは自然なことだったかもしれない。だが、その際、菅谷昭医師(後の松
本市長)のように日本での地位をなげうって、5年間被災地に滞在し統 治の人々
に寄 り添い彼らとともに暮らしながら臨床にあたる道を選んだ医師・医学者を
選ぶこともできただろう。実際には、そうではなくアメリカ流の原爆被害 調査
の伝統 (ABCC=放影研)を受け継ぐ人たち、つまり長期間かけて大量の
データを収集することにより「科学的に価値が高い」成果を上げ、核開発の推
進に役立てよ うという姿勢をもつ専門家がことに当たることとなった。多くの
公害問題でもそうなったように、政府が協力を求めるのは被災者側に立つ専門家
で はなく、統治 側・加害者側に立つ専門家になる。長崎の専門家ということで
それが少し見えにくい事情があったが、そこまで考慮に入れて事態は展開して
いっ た。
 
 福島原発災害の放射線健康影響対策では表記長崎大師弟が多大な権限を得て、
政府や福島県の放射線対策に関わってきている。なぜそうなったの か?この両
者 が1)チェルノブイリ事故の日本政府筋の医療援助の代表的存在と見なされ
たこと、2)長崎大学が放射 線リスク対策の最大拠点と見なされたこと、3)
政府に協力する原発=放射線領域の専門家群の中で医学系でまとまった人員をも
つのが長崎大脈であったこと。 こうした事情によるのかと推測できる。

 なお長崎大では2002年より21世紀COE「放射線医療科学国際コンソーシア
ム」http://t.co/wYmHGDuY 、2007 年よりグロー バルCOE「放射線健康リス
ク制御国際戦略拠点」http://t.co/Xeithw79 を行った。グローバルCOEの拠
点リーダーであ る山下氏はこ う述べている。「広島・長崎で培ってきた原爆医
療の経験を、もっと直接的に社会に活かそうとするもので、本学の教育・研究拠
点の中核に位置付 けられてい る。」http://t.co/KWDEuvBg  ちなみに21世紀
COEのスタート直後、同分野に東京電力の寄附講座が設置されるはずだった。
これについては、次回に少し詳しく述べよう。


(以上、その(5)転載終わり、(6)へ続く)

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