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Eggs of story -短編小説広場-コミュのM-RPG 真・女神転生 【大槍 麻耶 編】

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世界一斉発売で注目を集める
COMPν(コミュニケーションプレイヤー・ニュー)
その販売される六本木に列を作る、人人人。
そんな中、地方からCOMPを求めてココにきた貴方達。

発売前の午前0時カウントダウンイベントが終わり、
店内では次々と契約が交わされ始める。
COMPを受け取った喜び、ようやく手に入れられる興奮が
一帯を包んでいた。

PC達が契約を済ませ、COMPを受け取り、
ショップから出ようとすると、玄関のガラス越しに
赤い…黒い…塊?…髪?…血?
店員らしき女性が血を流して倒れているのが目に飛び込んでくる。
その向こうに見えるのは、長身の紳士。
身にまとう青いエプロンは、返り血で赤く染まり、
身の丈ほどあるナイフとフォークも血で赤く染められていた。
逃げ惑う人。それを刈り取る紳士。ざわめく人々。悲鳴を上げる人々。
店の入り口を開けようとする者、閉めようとする者。
そんな中、貴方達は自分の目を疑う。

店内、店外に居るほとんどの人の頭上に『0』の文字が浮かんでいる。
何故か紳士の頭の上に数字は見えなかった。
契約を…COMPを受け取るまで
決して見えなかった風景がここには広がっていた。

そんな最中でも、COMPのメール受信音は貴方達の耳に届く。
込み合った店内、自由に動きの取れない中、何とかCOMPの
画面を確認し、その不可思議なメールを一読する。

送信者:ラプラス
件 名:ラプラスメール
本 文:そうゾうのトきがはじマりまシた。
    0時 ロッポンギでしシゃたくさン。

コメント(11)

観音開きのドアを閉める前に、何人か私と同じように屋外へ飛び出した。
そんな中で人の行動は様々だ。一目散に逃げ惑ったり、あまりの異臭に気を失ったり…
聞きなれない音も耳に入る。それは車同士がぶつかる派手な打音だったり、愛するものを失った者の叫びだったり…それらは理解の中だ。

目の前で、切断した人の首を掲げてる、紳士の存在だけは私の理解の外。

「……あとひとつ」
そう呟いた紳士の言葉を聞き逃さなかった。
手に持つフォークを振りかぶり、獲物に狙いを定めていた。
「やめなさい!!」

紳士は、ゆっくりとその手を下ろし、私に視線を送ってくる。
新しい玩具を手に入れたような、無邪気な笑みが私に向けられているのが分かる。
「これは珍しい。ヒトの子よ…」
身体を向けられただけなのに、身体にかかる重圧感。自然とCOMPにも力がこもる。
「何をしているの?」
私でも驚くほど、明瞭に紳士へ問いかけていた。
紳士は、一度驚いた顔をしてみせるが、それも失せ、満面の笑みに変わる。
「食事の準備だ」

当然。こうしなければいけない。成らないとばかりに言い放ってくる。
「主のためにも、果実をもうひとつ。準備しなくてはならない」
手に持つフォークとナイフを躍らせ、私に向けてくる。
確信する。これは排除しなければならない類のゴミだ、と。
手に持つCOMPの存在を再認し、目を閉じる。
耳に届く紳士の笑い声に不思議と哀れみを覚える。

……COMP起動。コール。

目を開けると、白肌の蛇が紳士に絡みつき動きを封じていた。
力の差は歴然としていた。腕も足も紳士は自由に動かすこと叶わず口をわずかに動かすのみ。
「ヒトの子よ。我と手を組まぬか?…あのお方もきっと……」
紳士は動かなくなる。フォークとナイフが地面に転がり、霧状に四散してしまう。紳士の身体もやがて霧状になり、地面には何かのピンバッチが転がる。
「ありがと。ミドガルズオルム」
私の何倍もありそうな大蛇は、COMPへ送還される。
身体を襲う脱力感にも、後の惨事を考えて、身体が倒れることを拒絶する。

不意に身体を支える力を感じる。目をやると決して屈強そうな身体ではないが肩に腕を回し、私を支えようとしてくれているようだった。
「さ、先程はありがとうございます」
遠目では分からなかったが、察するにあのフォークから命を救われた男だったらしい。
「気にしなくていい、助かった」
と、私は彼の助けを解いた。
再び回りを確認する。
私に様々な感情がぶつけられているのがわかる。
『未世…どこに…』
第三者からの視線など気にならなくなるほど、不安を抱えているのも確か。
「どこかで休みませんか?」
彼の提案も分かる。
周囲に人が多くないことから、とりあえず、私は彼に「ステイ」とだけ言い、
自分の行動に入ることにした。
先程から電子音を放つCOMPを起動させて、更新内容を確認する。
まず確認。理解は後からでも歩きながらでも出来る。
カメラ機能を起動し、ニスロク(COMPに悪魔情報として記載されていた)が落とした
ピンバッチを見つけ、写真に収める。
横に長めのひし形台座に、中央から7つ花びらのようなものが伸びている。
宗教的な意味か、もしくは団体のシンボルか…。
バックから、手帳とペンを取り出し、思いついたことを走り書きする。

改めて走り書きの内容を確認して、夏休み前の講義内容とはかけ離れた出来事に、
頭の中は混乱気味だ。

………………
…………
……

「あのぉ…?」
恐る恐るかけられる声に、顔を向けてあげると彼の顔が
絵に描いたように明るくなる。
「そろそろ、どこかいきませんか?ここじゃあ、また何が起こるか…」
確かに野外に居ることが安全に繋がるわけじゃない。
けど、あの店内にいるよりは……
と、顔を向けた店の入り口から出てくる黒いフルフェイスの人。

悪寒。アレとは対峙しないほうが良いと身体が訴えている。
近くの横転した車の陰に隠れ、黒いアレの様子を見守る。

特別周りを気にするわけでもなく、近くに放置されていた二輪車を起こすと
エンジンをかけ、そのまま走り去ってしまった。
その先にそびえる東京スカイツリー…確証は無い、…けど。

「あ、」
間抜けな声を上げる彼に振り向きもせず、次の言葉を待つ。
「自分、さっきのピンバッチの模様を確か上野で見ました」
……驚くべき情報。けど、信用できるだろうか。
先程から彼の頭の上に見える「1」の数字も気にはなる。
私のCOMP内にも妙なページがあったのは覚えている。
そこに表記されていた数字も「1」

考えてるだけじゃ進めない。
周囲を確認するも、皆散り散りにこの場は離れようとしているようだった。
ここまでの移動で分かったことが何点かある。
まず、電気・通信の類が一切使えない状態だと言うこと。
この状況でも使用できるCOMP。バッテリーに気を配るべきかもしれない。
3つに区切られている電池表示は現状、満タン。

次に人の上に表れる数字について。
移動の最中、道端で休憩してる人やすれ違う人の頭上を確認したが、
全て「6」と表示されていた。彼の頭上の数字は「1」のまま。
店内での騒動の時には、全ての表示は「0」だったはず。
彼だけ何かが解消されていないのだろうか…。

そして、彼。竹吹クン
素行は非常に献身的なのだが、私自身、彼を受け入れられないでいる。
私と何かあると期待しているのが見え見えだからか……。
フルフェイスへの嫌悪感とも違う。
……。


「アネサン、あれ山手線じゃないですかね」
思考をさえぎる彼の声。彼の指差す方向に目を向けると夜が明けそうな空に
山手線が映える。目の奥が痛む。寝ていないのだから当然か。
…あとで、アネサンという呼称は止めさせよう。
「このまま、山手線に沿うように左手に進みましょう」
彼からの提案に笑顔で応える。彼の地理は頼りになる。
COMPなど使わなくても、目的地への方角はきちんと案内してくれている。
……ふと、違和感がよぎる。
「竹吹クン、あなたCOMPは持ってないの?」
ばつが悪そうに彼は応える。
「買ったんですけどね、店外へ逃げるのに必死で
どこかに落としたみたいなんです」
決して安くは無いが、現状を考えればCOMPより命の方が大事だろう。


……。
足はパンパン。化粧もきっとボロボロ。ストッキングも伝線してしまっている。
だいぶ歩いてはきたが、彼からの提案で最寄のコンビニで
休憩をすることにした。
気温が上昇し、いつものように蒸し返す屋外よりは、停電ではあったが、
店内で日差しが避けれることが何よりだった。
店内の一角、休憩スペースを開放しており、訪れた人達に食料を供給していた。
彼が店員からペロリーメイト(固形物)とミーミル(水分)を受け取り、
渡してくれる。
化粧室も使いたかったが、こんな親切なコンビニのせいか
長蛇の列が出来あがっていた。

屋外の異常な状況に引っ張られるように、この店内にも異常は入り込んできた。
いかにもガラの悪い男がぞろぞろ入ってくる人数にして6人。
人数分の固形物と水分をレジ越しに店員は笑顔で差し出すも、
倉庫の中の物を全部よこせ!と声を張り上げていた。

彼らの襟元。輝くピンバッチ。
遠目に見たところ同じピンバッチを私はポケットに忍ばせてある。
男達の頭上には「6」、レジ越しの店員の頭上には「0」
男達の一人が私の視線に気づき近づいてくる。

ここは……。
……パキッ
乾いた石が折れたような音。
そんな音もすぐに耳から離れ、私は難なく胸にピンバッチをつける。
COMPをバック越しに見る。それがどんな意味だったのかよくは分からない。
近づいてきた男が私を覗き込む。手でソレを退ける。

私は立ち上がり、店員へ歩みを進める。
私を覗き込んできたヒトは赤く染まった箇所を庇いながらも、声を荒げる。
店内に響いた声に店員を囲んでいた男達の視線が私に注がれる。
……喉ガ
うち何人かが私に殴りかかってくる。
飛ぶ害虫を追い払うように、手でソレらを退ける。
……ヒドク、乾ク
赤いモノを撒き散らせて、床に転がるヒト。
……ソウダ、
店員の傍にいた男達は、我先にと店外へ飛び出す。
店内に居たヒトも状況を理解するより先に店外へ走り出していた。
……オ父様ヲ、探ソウ

喉の渇きが急速に満たされるような感覚。
周囲を見渡すと、レジ越しに店員を見下ろすような状態になっていた。
店員の顔は青ざめていた。しかし、きちんと確認できる頭上の「6」の数字。
きっと、私の予想はあっている。
男達はナイフなどで私に切りかかってきていたし、それが店員へ危害を加えるような事態になっていたら、おそらく「死んで」しまうのだろう。
そして、例え「0」以外であっても、殺せないわけではないのだと……。
喉の潤いと共に消えた傷を掌越しに眺め、そんな事に至っていた。
さて……

「アネサン!アネサン?……ちょっ、アネサン!!」
嬉々とした声をかけてきた彼の声を無視し、一人店外へ走り出す。
小難しく考えることは無しだ。
この現状を監視している者が居ないとは限らないし、
店外へ逃げ出した者が誰かを呼んでくるとも限らない。
ひどくクールな感情に口が僅かにつりあがる。
私はまるで獣のように裏路地へ走り込んだ。


走った。ひたすら走った。
竹吹クンを含め、私を追ってくる者は居なかった。
何度目の休息になるだろうか。身体を壁に預けたまま、今後の動きを思案する。
喉が焼けるような、乾ききったような感覚。あの時の感情、思考。考えまとめる事はいくらでもあるが、日は早くも夕刻へ近づいていた。
……はぁ

すごく時間をかけてきてしまった。

それもこれも潜入を試みたホテルの入り口で扉を開けた瞬間、犬が飛び出してきたからだった。
襲われることこそ無かったが、こちらを一瞥したような素振りを見せてから、どこかへ走り去ってしまった。
残ったのは、因縁めいた何かと緊張感のみ。
手元にある、ありとあらゆるものを総動員して、私は最上階の5階を目指す。

部屋の探索を開始するも、施錠されている部屋がほとんどで唯一この「506」とプレートの掲げられた部屋に入ることが出来た。
部屋に入り、まず施錠。玄関と部屋をさえぎる扉を越え、部屋の中央に鎮座するベットを横目に窓を探す。難なく開ける事が出来る窓の向こうには、真っ黒い風景が広がっていた。
光は、月と星。遠くに何箇所か見える火は深く考えないことにする。
きっと暖をとっているだけだ。

ふと、大きく広がる風景を前に、自分の掌と見比べる。
先程の力があれば、ここを始まりとして大きく変えられるんじゃないか。
私にはその力が与えられていて、理想郷を作り上げられる。
ギュッと握り締め、決意を胸に私は部屋の探索を開始する。

探索で見つかったのはストッキング2足と、水500ml2本、バスローブ2着、マッチ1箱とゴツイ灰皿、玩具がたくさんと乾電池が少々。戦利品を眺めつつ、服を置いてあったバスローブに着替え、今夜はこれで寝てしまおうと窓を閉めに立ったとき、何か耳に届いた。
念のため、窓から見下ろしたが見当がつかずに、窓を閉める。
ベットの上ではCOMPが震え、情報追加を私に知らせていた。

1日目終了
目が自然に覚めても、部屋の中は相変わらずの暗闇。
光が零れてくる場所に歩み寄り、窓を開けてやる。
すっかり陽は昇り、新たな朝の訪れを知らせていた。

……さてと。

昨日の晩に聞こえた音の正体が気になっていた。
窓から壁を覗き見る。特に変わったところは確認できなかった。
やはり建物の中をくまなく回って探し出すしかないようだ。
嘆息し、身支度を整える。目的地が決まってることもあって、
わざわざこの部屋に戻る必要性も感じなかったからだ。

まずはこの5階から。
ところどころから陽の零れる廊下は、昨晩のことを考えれば随分と探索しやすい状態だった。各部屋のドアも相変わらず閉まっており、誰かが宿舎代わりに使っていることが容易に想像できた。


あの階の、あの部屋を見るまでは。私はまだどこか、危機感が持てずにいたんだ。


すっかりドアの探索が進み、2階まで降りてきていた。
最初に襲ってきたのは、生臭さを感じる悪臭。通常通り、ドアの開錠を確認して回るが、視線の先には開け放たれたドアを見つけ、そっと歩み寄りプレートを確認する。202。そっと手鏡で中の様子を確認する。人の姿は確認できず、玄関と部屋を隔てるドアも半開き。
この現状で部屋を掃除してまわる人が居るとも思えない。
廊下を見渡してから、部屋の奥へと歩みを進めるも、更にきつくなる生臭さに鼻をおさえる。
玄関と部屋を隔てるドアの前に到着。音を立てないようにそっと、手鏡で中の様子を再度確認してみる。自分の部屋と同じ位置に窓があり、そこから陽の光が部屋の中の『髪の長い何か』に注がれていた。
半透明の光沢ある液体のようなものの中にうずくまり、白く見える何かで装飾されたような、縄で縛り上げられている四肢だったり、土色の靴跡や、露出した肌だったり。

怒りを超越して、冷たくなった思考は、窓にはしるヒビが目に止まる。
どこの部屋にでもあるごつい灰皿は、彼女の力では窓を打ち破るだけの力にならなかったらしい。


気になっていた音の原因は判明した。
自分に何か出来るわけでもなく、怒りと共に部屋を後にするしかなかった。
ホテルの外に出てきた私は、『あの部屋』を一瞥する。
私が向かうべきは……。

空を舞う輝く怪鳥が視界から離せないでいた。
近づいていくたびに、徐々に大きくみえる怪鳥の姿。
歩くたびに目的地へ近づいているのは分かるが、昼間の移動で体力の消耗も激しい。
時間を見ながらも、時折休息して、歩き続け怪鳥の落下現場についたのは、
日が傾いた夕暮れ時。15時はまわっていた。

地に伏す怪鳥の向こうに見えるのは、どこかで見た黒いライダースーツのバイク乗り。
黒いCOMPを懐に仕舞い、こちらを一瞥しただけで、その場を走り去ってしまう。
先程までの光を失った巨大な怪鳥は、空に四散する。
目の前に広がるのはここが秋葉原なのかと、目を疑うほどの光景。建造物は崩れ、柱状のものは様々な方向に折れ曲がっていた。地に伏し、血を流す人も、怪我した場所を押さえ痛みに苦しむ人の姿も少数みえる。これをやったのが怪鳥なのかと、更に危険はないかと周囲を見回すと、お互いを視界に入れる。

白いCOMPと手帳を手に持つ女性と、水色のCOMPをもつ青年。
何かに惹かれるように、それでも周囲を警戒しつつ、お互いは歩み寄る。
「こんにちわ」女性は声をかける。
「こんにちは」青年は応える。

「貴方もメールを見て、ここへ?」女性は、COMPを青年の視界にいれ、問いかける。
「はい。…メール、受信されたんですね」青年が含むようにいうと、女性は首をかしげる。
「どういうこと?」
「COMPもっている皆がメールを受け取ったわけでは無い様なんです」
「そう」簡潔に返答するも、女性は手帳にペンを走らせていた。


「僕、星野っていいます。アドレス交換しておきませんか」
思考の沈黙を破り、女性に提案する。
「ん、情報は多いに越したことないし…ダイソー、よろしくね」
星野という青年の提案をアッサリと受け入れる。
双方、アドレスの送受信を行うと、
「あ、アンヘル…星野って本名か」画面をみて、納得顔のダイソー。
「私のダイソーはハンドルネームね。本名は大槍だから」
「あ、はい。ありがとうございます」
「あれ、地面揺れてない?」星野のお礼をさえぎって、大槍が身構える。
星野は気がついていないようだったが、目の前のガレキの山を押しのけて、
地中から顔を出したソレは、異常だった。


地面を突き破って出てきた青白い肉塊。血管を思わせる青と赤の線がところどころに浮き出ている。ムカデを思わせるいくつもの足が生え、伸びた首の先に目はなく、大きく粘液をまとった口が大きく開かれる。

「ラタトスクの言ったとおりぃがっがっがっ……これで、思う存分魂を喰えるぅってもぬがっがっがっ」

口全体を鼻のようにひつかせ、目がないはずなのに、睨まれて動けない。
そんな感覚を二人は同時に感じ取っていた。

「なんで、ここにニンゲンがっがっがっおるぅ?」

「居たら何か不都合?」
青白い肉塊の台詞に、思わず返答する大槍。

「おぉ、オマエ。オマエの中に感じるぅソレぇ。オマエに手を出すなといわれてるぅ。他のバカ共はしらぁぬがっがっがっ」

驚きを隠せない大槍。
手を出すな……一体どういうこと?
呆然とする大槍を横目に今度は星野が口を開く。
「…おまえは何なんだ」

「我か?……我が名はニーズホッグがっがっがっ!」

急に可笑しそうな口調を止め、ニーズホッグは叫ぶ

「うをぉおほぉをぉ!オマエの中にも感じるぅ!!思い出すと、喰った魂を吐き出してしまいそうがっがっがっ!!!」

大きく開いた口は、何人もの人を飲み込めるほどの大きさに膨張する。

「他の魂より!!先に、オマエを頂いてやるぅ!!!……『丸呑み』ぃ!!!!」

こんな汚物の塊からの攻撃を避けずに立ち尽くすなんて!!
伸ばした右手は立ち尽くしたままの星野に触れることなく、汚物に阻まれる。
星野を飲み込む、水音を含んだ咀嚼音が周囲を満たす。

「ニーズホッグ!」

周囲の音を掻き消すように、大槍は叫ぶ。
ニーズホッグと呼ばれるモノはゆっくりと首を戻しながらも青白い肌は、口元から徐々に奥へと隆起と陥没を繰り返し、獲物を奥へ奥へと運んでいる。
この内容なら耳を傾けるという、確信を胸に、大槍は言い放つ。


「私と契約すれば好きなだけエサ場を作ってやる!」


自らの左手を胸部に沿え、大槍の説得は続く。
「また、私に使役されれば同胞の魂すら食らう事が出来るんだ」

力なく垂れる手と頭。髪が風になびく。
「お前はある点で私と酷似しているから解かるよ」

ただの汚物でない事は明らか。その確信は大槍に自信を持たせていた。
「自らの欲望と衝動のためなら何処の誰が決めたとも知れない倫理観などクソ食らえと思っているだろう?…暴食の王よ。」

が、ニーズホッグの一部が異様に盛り上がり、破裂しそうな様を見せ付けられ…
「おま……え……」

口が止まってしまう。


沈黙。


不意に汚物の塊から三叉の槍が大槍の鼻先まで突出する。
後ろへ一歩下がるも、何が起きたか理解できずにいる大槍はとっさにCOMPを発動させる。

クラックスキル……『アギダイン』

大槍の手元から放たれた業火は一瞬にして汚物の塊を包みこんだ。
気を緩める間もなく、大槍は汚物が灰に成り逝く光景をただ眺めるしかなかった。
ただ、何事も無かったかのように、槍がゆっくりと時を刻むかのように動く様を……。


「そうして、死人の魂を何に使うつもりだ?」
不意に響く凛とした声。出所は、汚物の体内。と思うや否や、渦を形成しながら、まるで吸い込まれるようにニーズホッグは圧縮され、消える。残ったのは、現れた星野の口元へ消えていく。

まさに異形。星野の右腕は肩から人間のものではない全く別の何かにすり変わってしまっていた。右肩を彩るは黄金の肩当。そこから伸びる青と白の細身の腕を装飾するは、先程大槍を襲った黄金の槍。三叉の箇所が指のように動いてる様を誰かに見せ付けるようにゆっくりと動かしていた。


唐突に周囲を包む闇。
何が起こったのかと見上げる二人を見下ろしてくるは、無数の魂。
猛烈な風を起こしながら、周囲に再び夕刻が訪れる。
「……フレスベルク…か…」

星野の囁きに応えるように、フレスベルクと呼ばれる怪鳥は周囲に嵐を巻き起こす。
看板程度なら紙のように飛んでしまうほどの暴風の中。
幾多のガレキが星野を襲っていた。
近づくガレキをまるで蝿でも落とすかのように次々と砕いていく。


身体は勝手に動いていた。大槍を邪魔するものはなかった。
この暴風を追い風に星野の視界から逃れようと、倒壊した建物の間をすり抜け少しでも、今のうちに少しでも離れようと疾駆する。

幸い姿を隠しておけそうな場所は多い。
何区画も蛇行しながら進んでくると安堵からか、ふとCOMP用のバッテリーが散らばっている店頭に目を奪われる。


たとえ仮眠でも取れる場所も必要と感じ、店内に歩みを進める。
あの槍のような鋭い殺気はもう感じなかった。
背中を壁に預ける。

何区画か向こう側を往来するバイクの音が私の耳を襲う。
自分の間の悪さに脱力気味であった。
……まさか、同じことを考えている集団が居たなんて。

深夜、自分と同じ考えで秋葉原に集まっているものが居ないか単身、探索を開始した。
夜になると同時に腹の底に響いてくるようなバイク音が幾重にもなっているのが気がかりではあった。
そんな中でも不意に女性の悲鳴が聞こえ、声のした方向へ駆けていくと、女性は地に伏したまま動かず、それを見下ろすようにバイクにまたがったままのライダーを発見したのだった。

 その時の一瞬の躊躇が今の結果を招いた。

何かに気づいたように走り去るライダーを見送るも、先程までより近い位置で周回するバイク音を耳にするようになっていた。バイクの周回ルートから脱出を試みるも周回するライダーと見張り役のライダーが居るようで、決められた区画から抜け出せずに現在に至る。


うるさいくらい私の中の心音が響いてきた。
あの女性のように…ならないために。
背後に感じた気配に、現実に引き戻され、同時にCOMPを起動させたのは本当運が良かったんだろう。

クラックスキル……『アギダイン』

次の瞬間、目の前で人が燃えていた。
けど、その声はまるで……人のものではないように、甲高く、醜悪で、耳にまとわりついてきた。
……カチャ
不意に響く、背後からの無機質な金属音には目を閉じるしかなかった。
「ゆっくり両手をあげろ。…こっちを向け」
節目がちに敵と対峙することになる。

だが、相手の反応は意外なものだった。
敵意がなく、銃身も下げてしまう。顔を上げ、正面のライダーに目をやるとフルフェイスを脱ぐところだった。現れたその顔は、見覚えのあるものだった。
「アネサン……無事、だったんですね」
「竹吹クン?」
「覚えていて…いや、それより、どこか」
と、彼から身振りで他に移動するように促される。


「時間がないんで端的に。アネサン、この服を着て逃げてください」
言うが早いか、彼はライダースーツを脱ぎだす。思わぬ行動に目をそむけるも、彼はそのまま言葉を続ける。
「上野から秋葉原あたりは今、ライダー達の巣窟です。この時間にここを周回するように言われたのも上の指示です」
「あんなことまでして、目的は何!?」
男物のライダースーツは難なく、私を包み込む。フルフェイスをかぶりながら言葉にも耳は傾ける。
「……COMP回収って聞いています。あ、この銃とこのCOMPも持っていっ…」
彼は自分の身体を抱きしめたまま、その場に倒れ込む。
グローブ装着越しの手にも感じる、違和感。殺意?

 コロセ!!、コロゼ!、ゴロゼ!!、ゴドゼェヒィヒィヒィ

地面を転がりながら、彼は呪詛のような言葉を口にする。
不意に立ち上がった彼が私に襲い掛かるのと、私の手にした銃が火を噴くのは同時だった。

 グウゥガアァ!!!

外した!!
狙いを定めない私の一撃は相手の腕を吹き飛ばしただけ。
痛みで地面に伏してはいるが、再び襲い掛かってこない保障はない。
銃を捨てて、地面に転がるCOMPだけ掴み、外に駆け出す。
バイクの音のしない方向へこの区画さえ抜け出せれば……。



不思議なくらい、簡単に包囲されていると考えていた区画を突破することが出来た。
とにかく身体を休めようと、出来るだけ人気のなさそうなところを選んで、寝床とする。
渡されたCOMPは血のように赤黒かった。内容を確認し、仲間とされていたガルムと表記された悪魔を2体引き取る。貯蓄されたマッカと呼ばれるものも引き取らせてもらった。
先程の事を思い出す度に身体が震えてしまっているのが分かる。
今はこのまま、眠りの底へ。





これは、想像できなかった。
目覚めてから渋谷へと足を向けた私は惨状から視線を外せないでいた。
ここはメールにあった渋谷……のはず。ガーデンプレイスと呼ばれるちょっとした広場。ここには深夜対峙したライダー達が、走り回り、人の悲鳴がたくさん聞こえて、ソコに倒れているのも人で、たくさん、歓喜の声もたくさん、たくさん……
目の前から、2台のバイクが私に向かって走ってくるのが見える。振りかざす刃物の軌跡までもスローモーションで見ることが出来た。

パキッ……耳に石が割れるような乾いた音が届く。
そして始まる…力の充足感と喉の渇き。
召還!!

私に向かってきた刃は、当然のごとく私に傷ひとつつけること叶わず散る。
2匹のガルムが刃を砕き、続いて走り去ろうとするライダーに向かって火を射る。
寸分の狂いなく、タンクを爆破させ、狼煙をあげる。

この異常に気づかないライダーは居なかった。
エンジン音を高ぶらせて走ってくる数、8。
リーダー格は見当たらない。ひとまず、ガルム達にはこの場を離れるよう手で示す。
煙で姿を隠していたが、もう隠すこともないだろう。
ミドガルズオルムに乗り、その事を知らず走ってくる馬鹿どもに鉄槌を下すのみ。


ここだ!
「フォトンブレス!」
宣言を待っていたかのように、ミドガルズオルムは口を大きく開き、光を吐き出す。
悲鳴とエンジン音の終息に……ふと、物足りなさを感じる。
ガルムが吼えている。ライダーを一人拘束したようだ。
そのまま、周囲を警戒しながらもガルムの元へ行くと、四肢に牙を立てられ意気消沈した者が横たわっていた。フルフェイスを脱がしてやると少し安堵したような顔をのぞかせた青年だった。

「リーダーはどこに居る?」
質問の意味を感じ取ってか、青年の顔が険しくなる。
だが、あっさりと口を割った。
「いない。自分達は10人1グループで行動するように言われている」
「言われている?」
「ガイヤ教の指示でやっている、信じてくれ…」
「何をしていた?」

少し間をおいて「略奪だ」とつぶやき、顔を地面に向けてしまう。
青年に背を向け、周囲を一瞥する。刹那、



冷たい殺気を首筋に感じた。
振り返れば、青年の面影はなく、灰色に緑を混ぜたような皮膚の化け物に変わっていた。
ミドガルズオルムに巻きつかれ、一切の身動きは出来ないようだが。
「略奪だ!、血の、地の略奪だ!! 日本の大地をあるべき姿に、魔力で、血で満たし、降臨していただくのだ!! 我らが王、マサカド様にぃ!!!」



狂った青年の声が何度も頭の中によみがえる。
秋葉原・渋谷・銀座・原宿・晴海・新宿・品川
……この7箇所を血で満たすことによる封印解除、マサカド様を呼び出す。
ふと見上げた空にはもう夕闇が迫っている。
再度、回収した銃や弾を横目に、COMPからマッカを徴収していた。
……これからのことを考えないと。

マサカド…切り裂き魔…まさかど…大食い芋虫…化け物鳥…将門。
これは出来事の起源をひとつとして考えるのが自然ではないだろうか。

動いていたペンと思考が止まったのは同時だった。
これが私の結論。……なら、急いで。
大体の位置なら既に分かっている。あとは出来るだけ目立たずに進む事を念頭に入れて…。


焦燥感からか、高揚感からか、ここまでの道はほんと、どうってことなかった。
障害もなく、月は既に私を見下ろしていたが、疲労感もなく、私は目の前に目的であったものを見据えている。


将門塚。

深く息をする。
パキッ…と乾いた石の音が響くも、喰らうは目の前に鎮座する石ころではない。
将門と言われる者が本来持っていた力や神格自体を丸ごと…。
私の意志を持って、喰らう。
不浄に満ちたこの世界を、私の力で「浄化」するために!!


一瞬だった。
衝撃に備えて閉じた瞳を再び開けても風景は変わらず。
何も身体変化は見られないし、痛みなどあるわけでもない。
ただ妙に身体が軽く感じ、不意に笑みがこぼれてしまった。

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