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Eggs of story -短編小説広場-コミュのM-RPG 真・女神転生 【星野 成之 編】

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世界一斉発売で注目を集める
COMPν(コミュニケーションプレイヤー・ニュー)
その販売される六本木に列を作る、人人人。
そんな中、地方からCOMPを求めてココにきた貴方達。

発売前の午前0時カウントダウンイベントが終わり、
店内では次々と契約が交わされ始める。
COMPを受け取った喜び、ようやく手に入れられる興奮が
一帯を包んでいた。

PC達が契約を済ませ、COMPを受け取り、
ショップから出ようとすると、玄関のガラス越しに
赤い…黒い…塊?…髪?…血?
店員らしき女性が血を流して倒れているのが目に飛び込んでくる。
その向こうに見えるのは、長身の紳士。
身にまとう青いエプロンは、返り血で赤く染まり、
身の丈ほどあるナイフとフォークも血で赤く染められていた。
逃げ惑う人。それを刈り取る紳士。ざわめく人々。悲鳴を上げる人々。
店の入り口を開けようとする者、閉めようとする者。
そんな中、貴方達は自分の目を疑う。

店内、店外に居るほとんどの人の頭上に『0』の文字が浮かんでいる。
何故か紳士の頭の上に数字は見えなかった。
契約を…COMPを受け取るまで
決して見えなかった風景がここには広がっていた。

そんな最中でも、COMPのメール受信音は貴方達の耳に届く。
込み合った店内、自由に動きの取れない中、何とかCOMPの
画面を確認し、その不可思議なメールを一読する。

送信者:ラプラス
件 名:ラプラスメール
本 文:そうゾうのトきがはじマりまシた。
    0時 ロッポンギでしシゃたくさン。

コメント(11)

店内には様々な人の流れが出来ていた。
少しでも高く安全そうな場所に登ろうとする者。
店外のほうが安全だと周りの人を掻き分けながら正面から店外を目指す者。
酸欠状態から倒れた者の介抱にあたる者。
潰す者、潰される者。
……
スタッフ通用口から外へ出れないかと狙いをつける者。
僕はその一人だった。通常入ることが出来ない場所はこんな時、脱出経路としては人の印象に薄い。ましてや先導するものも居なければなおさらのこと。
小柄な体型(自分で言うのも寂しい)を生かして、人を縫うように窓口になっていたテーブルの上に何とか乗ることが出来る。

どよめき。

外で何かあったのかと顔を向けるけど、外じゃなかった。
部屋の一角をまばゆい光が満たしていた。
信じていた。いや疑ったこともある。けど、ソレは本当に居た。

身の丈ほどもありそうな1対の翼。視界内を無数の羽が舞い落ちる姿はまるで粉雪。
光の中心に、……天使様は居た!
突然の出現に周りの人は恐れから波を起こす。その波に巻き込まれて、店の奥、スタッフ通用口へと近づいてしまう。
視線を天使様へ向ける。目の前に居るのに届かない。少しでも、あと僅かでも傍に。
再び、テーブルの上に上った際に見えた光景に、僕は……。

黒い刀身が天使様をきりつけていた。
刀身を握っていたのは、男性のようだった。後姿だけだし、何より視界が霞んで、分からなかった。

しばらくして、事態を把握した人たちから怒号が飛び交い、人の波は前より荒さを増していた。呆然としていた僕は、手を握られていることにさえ、出口に向かっていることにさえ気がつかなかったんだ。


路地裏。
店外へ出た人たちが何人も居て、みんな顔を青くしていた。中には自力で立てず座り込んでいる人も。そんな中、僕たちはお互いを確認していた。
「あたしは小木…あんたは?」とゴールドのCOMPを僕に認知させようとちらつかせる。
「僕は星野」手に持っていたブルーのCOMPを小木という女性(たぶん年上)に見せる。
「やっぱり…」とひとり納得したように考え込む小木さん。

「ねぇ?星野くんだっけ…」
ひとしきり考えて、小木さんの中で考えがまとまったのだろうか。話しかけてくる。
「何?」
「これからどうする気?」
「どうするって…」
その様子を予想できていたのか、小木さんは自信満々で提案をしてくる。
「あたしの目に狂いが無ければ、あの黒剣の彼。黒いCOMPを持ってたのよ…仲間にしましょ!」
小木さんからの提案に首を横に振る。
お気に入りのヘッドホンが落ちてしまわないように、静かに。
けど、確実に相手に伝わるように。
…この人の機嫌を伺っていられるほど、僕の気持ちは落ち着いてなかった。

さっき出てきた非常口に向けてダッシュ!
来た道を足早に引き返す。
幸い非常口に人はまばらで、難なく侵入できる。
呼び止める声が聞こえた気がするけど……ほっておく。
手を前に出して、時々目の前に現れる人を避けて、
天使様の居たホールへ抜ける。

こんなに走った事は生まれて初めてかもしれない。苦しい。
通路の先、ホール内の天使様を確認すると、走り寄る。
突き出される天使様の右手。何か言葉を天使様が呟く。

「……ザンマ」

放たれた衝撃は、僕の頬を撫でるように後ろへ飛んでいく。
事態を理解するよりも早く、部屋に鈍い音が響き渡った。
凪いだ衝撃の先を確認すると、壁に背を預け沈黙する、黒い人が居た。
さっき天使様を切りつけていたヤツだ。

不思議な感情から、僕はヤツから目を離せないでいた。
程なくして、ヤツは黒のCOMP片手に立ち上がり、タッチパネルに指を這わせ、
COMP内から、先程と同じ黒い刀身の日本刀を抜き出して見せた。

一歩、一歩

黒のライダースーツに身を包んだ黒いフルフェイスの男(きっと女じゃない!)は
ゆっくりと近づいてくる。
手が震える。
フルフェイスのカバー越しに男の目は見えない。きっと酷い顔をしてるのだろう。
足が…立ってられない。

……けど!!

天使様を庇うように手をいっぱいに広げ、にらみつけてやる。
「来るな!!」

男は日本刀を振り上げ、COMPの中に日本刀をしまいこんでしまった。
何事も無いかのように、僕の隣を歩き抜け、店外へ抜けてしまう。
天使様に、天使様の手で腕を掴まれてなかったら、
後ろからでも男を襲っていたかもしれない。
男の姿が見えない今でも、男の声が耳に残る。
「……人は殺さないんだ」


ホールは静寂に支配されていた。
残されたのは、傷を負った天使様と僕だけ。

天使様は僕にお礼を言うと、これからの話をしてくれた。
ひとつは、契約と言うものを交わし、僕の仲魔にしてほしい。
もうひとつは、天使様の仲間がいるという、品川へ行こうという提案だった。

僕は……。
「き、キズの手当て…しないと」
天使様の纏う白のワンピースは肩口から胸部にかけて破れ、
その奥には傷も見えていた。
罪悪感に駆られ、天使様から目をそむける。
「そのままそこに居てね。包帯か何かあると思うから探してくるね」
天使様に顔を向けることも出来ず、そそくさと店内の探索に。

天使様の存在を確認すると、天使様は微笑んでくれていた。

……結果はすぐに出た。
空の救急箱が床に転がっていた。
その周囲を見渡すと、使いかけの包帯だけは見つけることが出来た。
他に見つける物も思いつかないので、足早に天使様のところへ戻る。

「おかえりなさい」
傷を負っているはずなのに、微笑で僕を迎えてくれた天使様。
「…ただいま」
こんな普通のやりとりに、目頭が熱くなるのを感じた。
そのことを隠すように天使様に手に入れた包帯を見せ、
「傷、手当てしないと…」
その言葉に一瞬驚いたような顔を見せた天使様。
けど、先程までの微笑みに戻り、自らの手を傷に添えて唱える。
「ディア」
放たれる暖かい光。光と共に天使様についた傷も嘘のように消えていた。
謝罪する天使様。
「痛々しく見えていたのでしょうね。心遣い感謝します」
天使様の微笑みが霞む。不意に意識が遠のくのを感じ
「様々な感情に、疲れたのでしょう。ゆっくりおやすみなさい、ナリユキ」
天使様の声も十分に聞き取れず、倒れた。



 目を覚ましても、天使様は居てくれた。
何故、天使様に膝枕されているのか。何故、こんなことに、何故。
混乱をよそに天使様の口調は変わらなかった。
「おはようございます」
天使様からの挨拶も、視界の隅にうつった影に邪魔される。
「……リス?」
こんな都会じゃあ見たこと無いけど、
身体の割りにあの大きな尻尾ってことはおそらくリスだろう。
けど、こんなところに何故リスが。
「…ナリユキ、起きれますか」
いつになく天使様の声が緊張の色を帯びていた。
気だるい感じはあるものの、ゆっくりと立ち上がってみせる。

黒い。闇が部屋の一角から溢れだした。
鳥人間…そう呼ぶのがふさわしいであろう3羽が現れ、闇も四散する。
ピンク・ブルー・グリーンそれぞれ特徴的な体毛、羽をもつ鳥人間
「逃げましょう、入り口はダメでも裏口を使って、…早く!」
天使様の声は耳に届かなかった。
変わりに僕を支配するのは、左目の痛みとまるでそこにあるかのような幻影。
……パキッ
石が割れるような乾いた音が耳元を過ぎ、視界は別世界をとらえていた。

目の前に広がる大きな泉にたたずむ美しい3人の女性。
その女性達の意見も聞かず、「契約」を行った。
やがて訪れる戦いのために。
自らの傍に仕えるようにと。

再び、視界は3匹の鳥人間をとらえてる。
確信。アノ者は「契約」を結んだ者のひとり。
「オキュペテー」
痛む左目を右手で抑えながらも、目ではしっかりと桃色の羽を纏った
鳥人間をとらえる。
「…今こそ契約を果たせ」
自分の声とは思えないほど、落ち着いた声。
声に呼応するようにこちらを見据えてくるも、微笑み、ひざをつく。
「オキュペテーと申します。以後、お見知りおきを」
左手で抱えていたCOMPが震え、データが更新されたことを伝えていた。

脇に居る天使を一瞥し、協力を求める。
僕は右手で天を仰ぎ、天井付近に力を収束させる。
天使も同様に手を突き出し、オキュペテーと呼ばれた者も自分の脇で羽を広げ、
力の収束に手をかしてくれているようだった。

何が起こるか察知したのだろう。
2匹の鳥人間は羽ばたき逃げようと、僕に背中を見せる。
だが、もう遅い。
店内狭しと、藍色の球体が空中に鎮座し、黄金の輪が鳥人間達を捉えた。
「……マハグラダイン」
声に呼応するかのように店内全体が軋み声をあげ、壁には亀裂が走る。散乱していた机や椅子も豆腐のようにつぶれていくが、床に叩きつけられた鳥人間も、抵抗する間もなく四散した。



「我が名はエンジェル。以後、お見知りおきを」
さっきオキュペテーの時も同じこと言ってたなと頭の片隅で考えつつ、
エンジェルが四散する姿に魅せられていた。手元のCOMPには、
オキュペテーとエンジェルの文字。
どちらかを召還することが可能なエネルギーは蓄えられているらしいことと、
『ワクチン』というソフトがインストールされているらしかった。
先程、エンジェルから身につけておくようにと指輪を渡されたが、装飾の一部が欠けていた。あぁ、この装飾が壊れた音だったのかと、乾いた音を頭の中に巡らせつつ、右手薬指に通し、眺めるもいわれや、形状の意図はつかめないままだった。


夕刻、薄暗くなった空間で目が覚める。
そのまま店内にて壁に背を預け、COMPを握りながら寝てしまっていたようだ。
肌に触れるやわらかい毛布の感触に戸惑いながらも、周囲を見渡すと同じように毛布をかぶって何人か店内に非難してきているようだった。
隣には、小木さんの姿があった。
小木さんの顔の前で手を振るも気が付かない。熟睡しているらしい。
……ツンツン
小木さんの頬をつついてみる。やっぱり起きない。
よく見れば1つの毛布に2人で包まっていて、手を伸ばせばすぐそこに……。
突然、空間にひびく子供のぐずり声に身体を強張らせる。
辺りを見回すとある程度の感覚をあけて、10組前後のグループが肩を寄せ合い、横になっているようだった。そのうちのひとつで、子供が目を覚ましたようだ。
「起きてたんだ?」
突然背中から声をかけられ、またも身体が強張る。聞き覚えがあってもなかなか慣れるものじゃない。声の主に顔を向ける。
「おはよ〜」と小木さん。
「…お、おはよ」
自分でも情けないくらいにぎこちない挨拶
「これ、ありがと」
毛布を摘まんでみせ、お礼を言う。
「ん、よろしい。けど、無理しちゃいけないよ? 倒れてたんだよ、覚えてる?」
矢継ぎ早に過去の自分の状態を教えてくれてた。
「大丈夫。続きもやらなきゃ…いけないしね」
と、COMPを開いて、確認作業を進める。
しばらく沈黙していた小木さんは何も言わず、自分の隣から離れた。

日の入りを迎え、周囲が薄暗くなったことに気がつくのと、小木さんが缶を飾台にした蝋燭を持ってくるのは同時だった。
「やりたいことは終わった?」
「ん、もうちょっと…かな。……何かあった?」
「うん、店内にね怪我した人とか結構居るのね。消毒も出来ないし…」
明らかに下がり気味のトーンに、「怪我なら治せるよ」とつい、口に出してしまった。

小木さんの案内で、けが人の近くへ。けど、症状を聞いても、僕には、何も出来ないから。

コール…エンジェル。

覚えたての操作でCOMPから天使様を呼び出す。
周りは驚いた顔している。当然だ。機械を操作して、中から天使様が現れるなんて誰も想像しない。出来るわけ無い。
「ナリユキ、どうしましたか」
「怪我を治して欲しいんだ」と、床で痛みと必死に戦う男を一瞥する。
「……わかりました」
エンジェルは難しそうな顔をしつつも、男に対し、あの暖かな光を与えてくれたのだ。
その行為は、他のけが人(女)にも及び、相手からは感謝されたが、天使様からの反応は違っていた。
「ナリユキ…救える命は限られ……」
言葉をさえぎった天使様は僕を見ていなかった。険しい顔をして入り口の方を見つめる。
店舗の入り口を目で追うと、そこには金髪の神父様が笑顔で拍手していた。
ゆっくりとした歩調で、歩み寄ってくる。
「一瞬で怪我を治療した!これこそ神の御技!!……少年、」
神父は僕を見下ろしてくる。これだけの身長の人は見たことがない。
「日が開けたら、ここから南へ行ったところに私の教会がある。是非、足を運ばれよ」
一呼吸おいて、周りにも主張する。
「ここから南へ行ったところに私の教会がある。迷いし者達よ、皆で手を取り合おうではありませんか。来て頂ける事を心待ちにしております」
それだけいうと、入ってきたとき同様、静かに出て行ってしまった。
曰く、まだ他に救える者が近くに居るかもしれない。ということだった。

ぐずっていた子供をスキルクラックで手に入れた眠りの魔法で寝息を立て始めた頃には、蝋燭の残りはあとわずかになっていた。貴重な明日以降の光源だ。息を吹きかけ、火を消す。
暗くなっても隣には小木さん。二人を包む毛布は1つだけ。
「すごいね、COMPは。何でも出来るんだね」
「そんなことないよ。ただ心強くはあるけどね」
二人して天井を見上げ、囁きあう。
「……麻耶どうしてるかな」
また不意にトーンが落ちる。
「友達?」
「そう」
「そっか」

「ありがとね」
静かに耳元をくすぐったその声は…暖かかった。

1日目終了
「うん、私のCOMPには送られてきていないよ?」
朝が訪れると、屋内で身体を休めていた人たちも目覚め始め、所有物の確認や様態などを確認しあっていて、皆の存在を改めて実感する。
そんな中、就寝中に送られてきていたメールを小木さんに見せていた。
彼女に届かず、僕に届く理由はなんだろう…
「秋葉原に行くの?」
「……うん、バッテリーの事もあるし」
そっか、とつぶやく小木さんはフッと立ち上げってみせ、僕を見下ろす。
「選ばれちゃったんだから、ここは行くしかないよね!」
選ばれた、か…口を開こうとしたとき、彼女の方から答えを言われた。
「私は、行かないよ…ここで、他のCOMP持っている人待ってみる」


アドレス交換を僕から申し出た。
ちょっとからかわれてしまったけど、小木さんは快諾してくれた。
「これで私も選ばれちゃうかな?」
と笑顔で話すあたり、なんだろ…すごく和まされる。

「…メールするね」と僕。
「期待しないで待ってるよ」と小木さん。


屋外に出ようとしたら、何人もの人に何度もお礼を言われた。
お礼なんて言われ慣れない僕にはちょっと恥ずかしかった。治療したのは正確には自分じゃないけど、自分の事のように誇らしかった。
また、と手を振って別れた。こんな別れ方どれくらいぶりだろう。
小さい頃はよくしていたんだろうなぁと笑みがこぼれてしまった。


東京スカイツリーの向こう側。
空を見つめると太陽を受けてか、光輝く怪鳥が悠々と空を旋回していた。
近づいていくたびに、徐々に大きくみえる怪鳥の姿。
歩くたびに目的地へ近づいているのは分かるが、昼間の移動で体力の消耗も激しい。
時間を見ながらも、時折休息して、歩き続け怪鳥の落下現場についたのは、
日が傾いた夕暮れ時。15時はまわっていた。

地に伏す怪鳥の向こうに見えるのは、どこかで見た黒いライダースーツのバイク乗り。
黒いCOMPを懐に仕舞い、こちらを一瞥しただけで、その場を走り去ってしまう。
先程までの光を失った巨大な怪鳥は、空に四散する。
目の前に広がるのはここが秋葉原なのかと、目を疑うほどの光景。建造物は崩れ、柱状のものは様々な方向に折れ曲がっていた。地に伏し、血を流す人も、怪我した場所を押さえ痛みに苦しむ人の姿も少数みえる。これをやったのが怪鳥なのかと、更に危険はないかと周囲を見回すと、お互いを視界に入れる。

白いCOMPと手帳を手に持つ女性と、水色のCOMPをもつ青年。
何かに惹かれるように、それでも周囲を警戒しつつ、お互いは歩み寄る。
「こんにちわ」女性は声をかける。
「こんにちは」青年は応える。

「貴方もメールを見て、ここへ?」女性は、COMPを青年の視界にいれ、問いかける。
「はい。…メール、受信されたんですね」青年が含むようにいうと、女性は首をかしげる。
「どういうこと?」
「COMPもっている皆がメールを受け取ったわけでは無い様なんです」
「そう」簡潔に返答するも、女性は手帳にペンを走らせていた。


「僕、星野っていいます。アドレス交換しておきませんか」
思考の沈黙を破り、女性に提案する。
「ん、情報は多いに越したことないし…ダイソー、よろしくね」
星野という青年の提案をアッサリと受け入れる。
双方、アドレスの送受信を行うと、
「あ、アンヘル…星野って本名か」画面をみて、納得顔のダイソー。
「私のダイソーはハンドルネームね。本名は大槍だから」
「あ、はい。ありがとうございます」
「あれ、地面揺れてない?」星野のお礼をさえぎって、大槍が身構える。
星野は気がついていないようだったが、目の前のガレキの山を押しのけて、
地中から顔を出したソレは、異常だった。


地面を突き破って出てきた青白い肉塊。血管を思わせる青と赤の線がところどころに浮き出ている。ムカデを思わせるいくつもの足が生え、伸びた首の先に目はなく、大きく粘液をまとった口が大きく開かれる。

「ラタトスクの言ったとおりぃがっがっがっ……これで、思う存分魂を喰えるぅってもぬがっがっがっ」

口全体を鼻のようにひつかせ、目がないはずなのに、睨まれて動けない。
そんな感覚を二人は同時に感じ取っていた。

「なんで、ここにニンゲンがっがっがっおるぅ?」

「居たら何か不都合?」
青白い肉塊の台詞に、思わず返答する大槍。

「おぉ、オマエ。オマエの中に感じるぅソレぇ。オマエに手を出すなといわれてるぅ。他のバカ共はしらぁぬがっがっがっ」

驚きを隠せない大槍。
手を出すな……一体どういうこと?
呆然とする大槍を横目に今度は星野が口を開く。
「…おまえは何なんだ」

「我か?……我が名はニーズホッグがっがっがっ!」

急に可笑しそうな口調を止め、ニーズホッグは叫ぶ

「うをぉおほぉをぉ!オマエの中にも感じるぅ!!思い出すと、喰った魂を吐き出してしまいそうがっがっがっ!!!」

大きく開いた口は、何人もの人を飲み込めるほどの大きさに膨張する。

「他の魂より!!先に、オマエを頂いてやるぅ!!!……『丸呑み』ぃ!!!!」

こんな汚物の塊からの攻撃を避けずに立ち尽くすなんて!!
伸ばした右手は立ち尽くしたままの星野に触れることなく、汚物に阻まれる。
星野を飲み込む、水音を含んだ咀嚼音が周囲を満たす。

「ニーズホッグ!」

周囲の音を掻き消すように、大槍は叫ぶ。
ニーズホッグと呼ばれるモノはゆっくりと首を戻しながらも青白い肌は、口元から徐々に奥へと隆起と陥没を繰り返し、獲物を奥へ奥へと運んでいる。
この内容なら耳を傾けるという、確信を胸に、大槍は言い放つ。


「私と契約すれば好きなだけエサ場を作ってやる!」


自らの左手を胸部に沿え、大槍の説得は続く。
「また、私に使役されれば同胞の魂すら食らう事が出来るんだ」

力なく垂れる手と頭。髪が風になびく。
「お前はある点で私と酷似しているから解かるよ」

ただの汚物でない事は明らか。その確信は大槍に自信を持たせていた。
「自らの欲望と衝動のためなら何処の誰が決めたとも知れない倫理観などクソ食らえと思っているだろう?…暴食の王よ。」

が、ニーズホッグの一部が異様に盛り上がり、破裂しそうな様を見せ付けられ…
「おま……え……」

口が止まってしまう。


沈黙。


パキッ……二人の耳には確かに石が割れるような乾いた音が届いた。

空気が変わる。目の痛みから周りを把握することは難しいが、
ひどく左目が痛む。
どうなってしまっているか確認するすべはない。
私は私の前に立つ3人の女神に頼る他なかった。死なない為の「知識」なのだ!
「私は、生き延びなければならない!!」


不意に汚物の塊から三叉の槍が大槍の鼻先まで突出する。
後ろへ一歩下がるも、何が起きたか理解できずにいる大槍はとっさにCOMPを発動させる。

クラックスキル……『アギダイン』

大槍の手元から放たれた業火は一瞬にして汚物の塊を包みこんだ。
気を緩める間もなく、大槍は汚物が灰に成り逝く光景をただ眺めるしかなかった。
ただ、何事も無かったかのように、槍がゆっくりと時を刻むかのように動く様を……。


「そうして、死人の魂を何に使うつもりだ?」
不意に響く凛とした声。出所は、汚物の体内。と思うや否や、渦を形成しながら、まるで吸い込まれるようにニーズホッグは圧縮され、消える。残ったのは、現れた星野の口元へ消えていく。

まさに異形。星野の右腕は肩から人間のものではない全く別の何かにすり変わってしまっていた。右肩を彩るは黄金の肩当。そこから伸びる青と白の細身の腕を装飾するは、先程大槍を襲った黄金の槍。三叉の箇所が指のように動いてる様を誰かに見せ付けるようにゆっくりと動かしていた。


唐突に周囲を包む闇。
何が起こったのかと見上げる二人を見下ろしてくるは、無数の魂。
猛烈な風を起こしながら、周囲に再び夕刻が訪れる。
「……フレスベルク…か…」

星野の囁きに応えるように、フレスベルクと呼ばれる怪鳥は周囲に嵐を巻き起こす。
看板程度なら紙のように飛んでしまうほどの暴風の中。
幾多のガレキが星野を襲っていた。
近づくガレキをまるで蝿でも落とすかのように次々と砕いていく。


横目に大槍が走り去るのを確認する。
再び大空に羽ばたくフレスベルクに視線をおくる。

こうして、また私の邪魔をする前に……。

同時に身体の力が抜けていくのを感じる。
星野の腕に戻るのと暴風が止むのは同時だった。
見上げると、夕焼け空にフレスベルクは大きく羽ばたき、東京スカイツリーの方へ向かって飛び去っていた。


僕は、服についた埃を払い落とすと、周囲を見回し、電気屋だったであろう建物に狙いをつけて足を向ける。COMP用のバッテリーを難なく見つけることが出来る。
陽は既に姿を隠し、街は宵闇に沈む。

………………
…………
……


東の空に日が昇り、明るく照らしてくる。
屋外で睡眠をとるわけにもいかず、目に付いた建物の中で寝させてもらっていた。
都心といっても人が少ないせいか、普段より熱気を感じない気がする。
部屋の隙間を通り抜ける風が心地よかった。

改めてCOMPから天使様を召還する。もちろん、お願いするのは
「品川までの道案内お願いできるかな」
ということ。天使様は少しの間、景色を眺め現状を確認すると、わかりました。と微笑んでくれた。


途中、狼(?)に襲われている鳥を助けて上げた。

クラックスキル、『丸呑み』

悪魔を飲み込み、即、死に至らせる大技。
これは便利だ。相手さえ間違えなければ、僕の糧に出来る。
助けた鳥はコカクチョウというらしかった。何でも主が死んで彷徨っていたのだとか。
僕はこの悪魔と契約を交わした。



そんな順調に見えるこの歩みも目的地を目の前にして、僕たちは取り囲まれた。

敵意丸出しの天使達がそこにはいた。
自分の仲間にしている天使様とは格好が違う。
黒い拘束具をまとった天使だったり、鎧に身を包んだ赤い天使。
多くの天使達は鎖が伸びていて、その先には大きな壷にスッポリ収まっている天使様が翼を広げ、羽ばたいていた。
「……用があるのは、そこのニンゲンだけだ」
その声に僕は天使様の前に一歩踏み出し、周囲を確認する。
鎧を身にまとった天使達が僕に槍先を向けてくる。

「『鬼王』の力を野放しにするわけにはいかぬ」
『鬼王』?…何の話をしてる?

「どうやったかは知らぬが、それは大いなる可能性を秘める」
やはり意味不明だ。人違いの話をしているのだろうか?

「反抗は死を意味するぞ」
周りの天使達はゆっくりゆっくり歩みを進めてくる。

「大いなる意思に従うと誓え」


「……どちらが上か、分かっていないようだね」


この言葉の真意を掴める者はこの場には居ない。
静寂の中、石の割れる音が響き、場の空気は一変する。

「ひれ伏せ!!!」

多くの者が、彼の背後に大きな影と、三叉の槍を見ただろう。
だがそれも長くは続かない。
次第に大きく音を立てる鎖。この力に逆らおうとしているのか。
抵抗なくひれ伏す天使が大半。中には逆らおうと努力するヤツも居たみたいだが、所詮この力の前では無力であると骨身に沁みるだろう。
一番高いところで偉そうにしていた天使も、まもなく逆らうことの出来ない力によって地に頭をつけることになる。

「ボクの天使様は、ここに居るエンジェル…ただ一人だ!…」

ゆっくり歩みを進め、鎖の元、壷天使の前までたどり着く。
誰一人としてボクの行動を阻害できる者は居ない。

「名はなんと言う」

「は、ドミニオン…と申します」

ドミニオンと名乗る天使の地面に垂れる金色の髪を踏みつけてやる。
抗うことも出来ず、地に伏したまま震えているのが分かる。
でも、容赦しない。

「さぁ、許しを乞え…ドミニオン。自分の罪を理解し、消え失せろ…」



何者にも邪魔されず、足を進めた先に待っていたのは、3体の天使。
「貴方様のお力を見込んで、頼みたいことがございます」
唐突の申し出に眉をひそめる。先程のドミニオンといった天使と
ケルプとソロネと名乗る天使が鎮座していた。

「現在、ガイヤ教団が推し進めている魔方陣の作成を止めていただきたい」

「彼らは都心に7箇所、血の海にすることでエネルギーを呼び起こし、凶悪な悪魔を呼び出そうとしているのです。貴方様のお力があれば、妨害できるはず。全てはニンゲンの為なのです!」
つがれた紅茶を一瞥し、向かいに座る3体の天使達を順番に見る。
「で、ガイヤ教が成そうとしている事はどれほどのものなの?」
ケルプが口を開く。
「人々の除災厄除の神である、平将門命を現世に呼び出そうとしているようなのです」
ふと疑問がよぎる。
「こんな状況だし、何かにすがろうというのは分からなくないけど?」
ケルプは静かにうなづいた。
「その事は問題視していません。ただ、それに至る方法として多くの人の血を流し続けている」
一呼吸おき、更に続ける。
「人々を保護したい我々としては心が痛む。何とか行為を止めさせたい」

しばしの沈黙。
紅茶から上る香りに鼻も反応する。
「じゃあ、その役をどうしてボクに?」
「貴方ほど攻撃に特化した者は多くない。少なくとも、現世では知らない。……今こうして話せることも、知り合えたことも神に感謝しなくては…」
ドミニオンとソロネはケルプの代わりとばかりに頭を下げてみせる。
「なぜ、貴方達は動かないのですか?」
「先程の繰り返しになりますが…現世では、貴方ほど攻撃に特化した者を知らない。勝手ながら適任と判断させて頂きました」

「仮に従うとして、サポートは?」
「武具一式くらいは何とかなります。他に要望があればなんなりと…」
目を閉じて、再考する。…どうしたものか。

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