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名作を読みませんかコミュの源氏物語  与謝野晶子・訳  128

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 若君の師から字あざなをつけてもらう式は東の院ですることになって、東の院に式場としての設けがされた。

 高官たちは皆この式を珍しがって参会する者が多かった。

 博士はかせたちが晴れがましがって気おくれもしそうである。

 「遠慮をせずに定きまりどおりに厳格にやってください」

 と源氏から言われたので、しいて冷静な態度を見せて、借り物の衣裳いしょうの身に合わぬのも恥じずに、顔つき、声づかいに学者の衒気げんきを見せて、座にずっと並んでついたのははなはだ異様であった。

 若い役人などは笑いがおさえられないふうである。

 しかもこれは笑いやすいふうではない、落ち着いた人が酒瓶しゅへいの役に選ばれてあったのである。

 すべてが風変わりである。

 右大将、民部卿などが丁寧に杯を勧めるのを見ても作法に合わないと叱しかり散らす、

 「御接待役が多すぎてよろしくない。
  あなたがたは今日の学界における私を知らずに朝廷へお仕えになりますか。
  まちがったことじゃ」

 などと言うのを聞いてたまらず笑い出す人があると、

 「鳴りが高い、おやめなさい。
  はなはだ礼に欠けた方だ、座をお退ひきなさい」

 などと威(おど)す。

 大学出身の高官たちは得意そうに微笑をして、源氏の教育方針のよいことに敬服したふうを見せているのであった。

 ちょっと彼らの目の前で話をしても博士らは叱しかる、無礼だと言って何でもないこともとがめる。

 やかましく勝手気ままなことを言い放っている学者たちの顔は、夜になって灯ひがともったころからいっそう滑稽こっけいなものに見えた。

 まったく異様な会である。

 源氏は、

 「自分のような規律に馴なれないだらしのない者は、
  粗相をして叱りまわされるであろうから」

 と言って、御簾の中に隠れて見ていた。

 式場の席が足りないために、あとから来て帰って行こうとする大学生のあるのを聞いて、源氏はその人々を別に釣殿つりどののほうでもてなした。

 贈り物もした。

 式が終わって退出しようとする博士と詩人をまた源氏はとどめて詩を作ることにした。

 高官や殿上役人もそのほうの才のある人は皆残したのである。

 博士たちは律の詩、源氏その他の人は絶句を作るのであった。

 おもしろい題を文章博士もんじょうはかせが選んだ。

 短夜のころであったから、夜がすっかり明けてから詩は講ぜられた。

 左中弁が講師の役をしたのである。

 きれいな男の左中弁が重々しい神さびた調子で詩を読み上げるのが感じよく思われた。

 この人はことに深い学殖のある博士なのである。

 こうした大貴族の家に生まれて、栄華に戯れてもいるはずの人が蛍雪けいせつの苦を積んで学問を志すということをいろいろの譬たとえを借りて讃美さんびした作は句ごとにおもしろかった。

 支那の人に見せて批評をさせてみたいほどの詩ばかりであると言われた。

 源氏のはむろん傑作であった。

 子を思う親の情がよく現われているといって、列席者は皆涙をこぼしながら誦ずした。

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