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Salad Days Episode?コミュの第17章 レモンの味

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2005.11.26
PM8:40 新穂邸

「ただいま〜!」

卓球部の練習を終え、自宅に戻ってきた新穂徳仁は玄関で靴を脱ぐと一目散に洗面所へ向かった。

(母「お帰り。あら、なまきさねー(汚いなあ)。ちゃっちゃ風呂いっこんか!」)

新穂「そげん言ってもまたコンタクトをうっくだっしもたげな(壊しちゃったんだよ)」

(母「あ〜それはてげにゃきちぃ〜ね〜(とても大変だね)」)

・・・

母とのそんな会話を独り想像しながら、新穂は目の中で欠けたコンタクトレンズを外し、顔を洗い始めた。

水道水はこの頃かなり冷たく、部活帰りで汗と埃で汚れた肌にとても心地よく浸透してきたが、このカルキのにおいにはいまだ慣れることができなかった。

新穂は卓球の特待生として神奈川の中学に進学するために、故郷・宮崎に両親を残して上京してきた。

小さい頃から親孝行だった新穂は、自分が親元から離れる悲しさよりも、まだ中学生の独り息子にしばらく会えなくなる淋しさを感じている母親を気遣って、地元の中学校に通うことにしようと考えていた。

しかし、そのことを母に伝えたとき

「いわんこっちゃねーがー。私がおらんと何もできんくせに。
まっこ(本当に)、やくせんやっちゃねー。(どうしようもない奴だね)」

と言われた新穂は、ついカッとなり、その勢いで上京してきた。 
そのような経緯があり、いまだに両親とは絶縁状態だが、今の新穂はあの時の母の言葉の真意がわかりかけてきていた。


顔を洗い終わり、洗面所の横にかかっていたタオルで顔を拭いているとき、目の前の鏡に映っている自分の胸ポケットに何かキラリと光るものを見つけた。

「??」

タオルを脇に置き、胸ポケットを探ってみると、その光っているものの正体は女性物のヘアピンだった。

「これは楠がいつも・・・」

おそらく夕方教室で楠を抱きしめたときに入ってしまったのだろう。
新穂は今日の出来事を思い出すとつい顔が赤くなってしまうのを感じた。

楠とは、今まで特別仲がよいということはなかった。
35人のクラスメイトのなかの1人。
に過ぎなかったはずだ。
オカルト研究会部長で少しオタク気味の友人・藤川は、よく

「おいおい、新穂!見てみろよ〜!
楠のやつ、また背中が割れてるぜ。。ぐへへ。
・・・。 楠って可愛いよな・・・」

と言っていたが、特別な感情が沸くことは無かった。

が。

今日、楠と触れ合って心の中に生まれた新たな感情。

このモヤモヤは何なのだろう。

今まで感じたことの無い、胸を締め付けるようでいて、しかし心地悪くないこの感情。

まだ13歳の新穂には、「初恋」がまだよくわかっていなかった。

しかし、楠の体に触れてみてわかったことが一つある。

あいつも孤独なんだ。
あいつも俺と同じで、きっと孤独なんだ…。



PM9:30 日吉 大谷邸

“ピンポーン!”

新穂は住所録を調べ、千愛の家までたどり着いていた。

別にヘアピンぐらい明日渡せば… とも考えたが、一刻も早く千愛に渡さなければいけないという衝動に駆られ、気がつけば東横線のホームに立っていた。

もう一度、楠の顔を見れば、このモヤモヤの正体が分かるかもしれない。
もう一度、楠と話せば、このモヤモヤが消えるかもしれない。
もう少し勇気を出せば、楠と俺は…。

そんな事を考えつつ、楠の家までたどり着いた新穂だったが、チャイムを押しても反応が無かった。
(おかしいな・・・。灯りはついてるのに・・・)

“ピンポーン。・・・ピンポーン。・・ピンポンピンポンピンポンピン・・・”

何度鳴らしても反応が無い。
(どうしたんだろ・・・?)

何か不穏な空気を感じた新穂は、思い切ってドアノブに手をかけてみた。

カチャリ・・・

ドアノブは簡単に右へ回った。

ドアを開け、一歩足を踏み入れた新穂の目前に現れたのは
大きな目と牙だった。

「ワァ!!」

新穂は突如現れた生き物に驚き、餅をついたが、その生き物は
尻尾を振りながらペロペロと顔を舐めてきた。

「なんだ。犬か・・・。
しかし、なつっこい犬だな!
でっきーさん、俺はちゃいさんじゃありませんってば!!」

新穂が目つきを変え、一喝するとデッキーは尻尾を巻いて家の奥へと逃げていった。

新穂が玄関で靴を脱ぎ、奥の様子を窺ってみた。
テレビはつけっぱなし。食卓にはまだ食べかけのビフテキやら炒め物が残っている。

まるでつい今の今まで誰かが居たようだ。

もしや・・・!!

新穂の頭に一つの考えが浮かんだ。

千愛は俺が今日の夜、千愛の家に行くように仕向けるためにヘアピンを・・・。
そして、俺の気持ちを確かめるために、家のどこかに隠れている。俺が不安になったところで、急に飛び出してくるつもりでは・・・。

千愛の思惑と、自分への気持ちを考えながら、新穂は部屋のどこかに隠れている千愛を探し始めた。

「さぁ〜、出ておいで!いたずらな子猫ちゃん!!」

1LKのこの家では隠れられそうなところもほとんどない。
リビングの横の和室の押入れ。
一番奥の洋室のクローゼット。
トイレ。

一通りの場所を探し終え、新穂は浴室の前に立った。
もう隠れられる場所といったら、ここしかない。
今一度深く息をついて、浴室の扉に手をかけた。

「さぁ〜!観念しなさい、子猫ちゃん!!見つけちゃったぞ!!!」

勢いよく扉を開け、目の前を確かめようと顔を上げた新穂の前に立っていたのは、捜し求めたものの姿ではなく、一秒前まで抱いていた自分の浅はかな考えを一気に打ち崩すものであった。

「こんばんは。新穂くん。君にも我々の力になってもらうよ」

目の前に立っている裸の男のその言葉の意味も、
なぜ千愛の家の浴室で裸の男がいるのかもわからかった新穂だが、そんなことを考えている一瞬の間に、
新穂の背後にすばやく回りこんだ裸の男の手刀が、新穂の首筋を直撃していた。

倒れて音を出す前に両手で受け止め、浴室の床に新穂を寝かせた男は、すかさず携帯を取り出し、彼の上司、K.E.Iの携帯番号を打ち込んだ。

「こちら塚本。サブジェクト(=監視対象者)との接触に成功。即刻確保しました。
直ちに帰還します」

塚本はそう伝え終わると、慣れた手つきで足元に倒れている人を抱え、大谷の家を後にした・・・。

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