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切なさと哀愁の詩(歌詞)や小説コミュの本庄七瀬さんの【小説】星が降ったらより「小さなお星様の話」

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街のあかりがひとつ、ふたつと消えはじめたころ。

ちいさなキラは、遥か下の街を楽しそうに眺めていた。

まるで、おもちゃ箱の中をのぞきこむかのように。

「ねぇおかあさん。何で、にんげんは、ずっと動き回っているの」



キラは、不思議に思う。

にんげんが、走ったり、歩いたり、止まったりする動作。

止まっているときでさえも、にんげんは、何かをしている。


どうして?


「にんげんはね、限られた時間しか生きられないの。だから、いろんなところへ行って、いろんなことをたくさんするのよ」



おかあさんは優しい声でそう教えてくれた。


(へぇー。あたしは、ほとんどこの場所から離れたことがないなあ。にんげんって楽しそう。)


キラは、空のブランコに乗りながら、ゆらゆら体を動かした。


 
キラは空に住むお星様。
夜は、いつも、流れる光をつれて走るくるまとかにんげんが座ったり、寝たりするのを長い時間見つめている。 


星の友達とおしゃべりするのも楽しいけれど、キラは、手をのばせば届きそうな、けれど遠い世界に夢中になっていた。



夜が明けるまで、消えることのないチカチカしたオレンジ色。


ずっとまばたきしてるみたい。


キラは、そのオレンジを眺めていると、つかまえてどこかに閉じ込めておきたい気持ちになる。



光のビル街から視線を落としたとき、キラは、小さな男の子と目が合った。

キラと同い年ぐらいだろうか。

紺色のパジャマ姿に長いまつげ、大きな目のその子は、一人、窓から体を半分ぐらい出して、しずかにこっちを見ている。


「音がない」とキラは思った。

大きなビル街も、走るくるまもでんしゃも、遠くて実際は聞こえないけど、音のにおいがしてくる。

でも、何も聞こえない。




キラリ。




その瞬間、男の子の目から何かが落ちていった。

キラは、男の子が何を落としたのか、とても気になった。

そして、音のない空間にいる男の子の小さな手や目や髪の毛も、キラの心にしっかりとしみ込んできて今までに感じたことのない気持ちになった。




「あたし、下の世界におりてみたい」



次の日の夜、キラは思い切ってお母さんにわがままを言った。

周りの星の友達は、みんなおどろいて形を変えながら、一斉にひそひそ話をはじめた。


キラは、まだ8歳。


にんげんのいる世界に降りるにはまだ早いといわれる年で、それはキラにもよく分かっていた。でも、引き下がることはできない。



「あたし、どうしても会いたい男の子がいるの」


うつむき加減で、キラはつけくわえた。


「どうしてその男の子に会いたいの?」


おかあさんはすぅーっとキラを包み込んで、顔をのぞきこんだ。


「きのうね。あたしぐらいの小さな男の子が何か落とし物をしたの。あたし見てたから、男の子にそれを届けてあげたいの。きっとあのこにとってすごく大切なものだと思う」


おかあさんは、すこし黙って考えたあと、キラの頭をゆっくりとなでた。


「下の世界におりられるのは3日間だけ。決まり事が2つあるわ。」


キラは、ぱっと顔をあげてしっかりおかあさんの目をみつめた。

「1つは、絶対に自分の正体を話してはいけません。
あなたの姿は、相手にはにんげんの女の子に見えます。2つめはそれを破ったら、あなたはもう2度と下の世界を見ることができなくなるわ」



「下の世界を見ることが出来ない」


それはつまりーおかあさんも友達も誰もいない宇宙のどこかで、ひとりぼっちになるということー



不安がよぎる直前、おかあさんの言葉を聞き終わると、キラは大きくうなずいてふわっと空から飛びおりた。



あのこに会いたい。会いたい。


キラの気持ちは、風船のようにフワフワとふくらみながら、茶色の屋根と赤いポストの家にたどりついた。



今日も、男の子はどこかを探すように遠くを見つめていて、白の薄いカーテンがゆらゆら動いたり、止まったりしていた。

キラは、ドキドキしながらそっと窓に近づいた。


「こんばんわ」


目の前に淡い黄色のワンピースを着た女の子が少しほほを赤らめて立っている。


男の子が(妖精がいるとしたらこの子のことかもしれない)と思うくらい、小さい蛍みたいな女の子。

 
男の子は目をぱちくりさせた。


「きみ、だあれ?」


「あたしキラってゆうの。あなたは?」


「僕は・・・アキラ」


「アキラ。驚かせてごめんなさい。あたしあなたに落とし物を届けにきたの」

「僕の落とし物・・?」


男の子は突然現れた妖精を不思議そうにながめた。


昨日見たことを一生懸命伝えようたくさん言葉を並べてキラは話した。けれど、男の子は、
「ごめん、僕なんのことかわからないよ」と少し困った顔をした。

キラは少し残念な気がしたけれど、「お話しない?」と笑った。



「毎日どんなことしてるの?」

キラの声と心は弾んでいる。

「朝起きてから学校にいくよ。」

「がっこう?がっこうってなあに?」

「きみ、学校にいってないの?みんなが勉強するところだよ。」

「アキラは、毎日がっこうにいくの?」

「うん。学校は毎日いくって決まってるからね。みんな行ってるよ」


キラは、目をパチパチさせながら、素敵っと、胸を躍らせた。


キラの世界に決まり事はない。


ただ、いつも同じところでおしゃべりしたり寝転んだりをくりかえす。

「自分の正体を言ってはいけない」

これが、初めての決まりごとだった。


「あたし、いつもおんなじところにいて、もう飽き飽きしてたんだ。ほかにはどんなことするの?教えてっ」


キラは、窓のてすりに手を置いて、アキラの顔を見上げた。子犬が甘えるようなしぐさ。



「きみって不思議なこだね」



男の子は笑った。それから勉強のこと。友達のこと。家で飼っている犬の話をしてくれた。

アキラには、ヒロという名前のおさなじみがいて、ヒロは、「運動なんてだいっきらいだ!」なんて言うくらい運動おんちなんだけど、アキラがジャングルジムから落ちたときに、誰よりも早く走って先生を呼びに行った、とても「いいやつ」らしい。



キラは、男の子の一言一言に笑顔をこぼし、目を輝かせてよろこんだ。
そして、また明日くるね。お話しようと満足そうに帰っていった。



(下の世界って、なんて楽しいんだろう。でも、あと2日間・・・。早くアキラの落とし物をさがさなゃ・・・)



次の日も、キラは男の子の話をたくさん聞いた。


たとえば、アキラのおとうさんは小さなスープのお店を経営していること。アキラは、早く大きくなってその店を手伝いたいということ。
あと、犬の「ピース」は幸せって意味でアキラの生まれた年から一緒に住んでいる「家族」ってこと。



初めてピースを真近で見たとき、キラは絶句してしまった。たれた大きな耳に大きな口。羽のようなしっぽがタバタしていると思ったら、その瞬間キラに抱きついてきたのだ。



でも、羽のようなしっぽのバタバタは、「喜んでいる証拠」とアキラに教えてもらったとき、キラはピースが大好きになった。


見た目がこんなにも違うのに、にんげんは、いろん「家族」を持つんだなとキラは思った。


キラはいつも男の子の話に夢中になってしまう。


キラが帰る前に、男の子は宝物を見せると言って小さなお守りをランドセルからはずした。



「おかあさんが作ってくれたんだ」


キラは、それがどうゆう物なのかはわからなかったけれど、アキラのすごく大切なものだということはわかって、うれしい気持ちになった。



「アキラのおかあさんってどんな人?」


その瞬間。男の子は急に悲しい目をした。


「すごく優しかった。僕昆虫が大好きで、僕が木の上で遊んでると、いつもお母さんが迎えにきてくれて、虫かごの中を見せてくれるんだ。アキラの宝箱だねって」


声がだんだん弱くなる。


「でも、もう会えないんだ」


キラは、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がしたけれど、もう遅かった。


「会えないって・・・どうして??」

「すごく遠くに行っちゃったんだ」

「遠くに?あたしも、今お母さんととっても離れてるけど、また会えるよ?」

「僕は、もう会えないんだ。死んじゃったから。」

「そうなの・・・」



キラにはよくわからなくて、聞きたいことがいっぱいあったけど、言葉には出来なかった。


死ぬってどうゆうことなのかな。

にんげんは、いつか死ぬっておかあさんは言ってたけど、そのことがアキラをこんな表情にさせてるの?


初めて男の子を見た夜と同じ痛みがこみあげてきた。
ズキズキズキ。この気持ちはなんだろう?



最後の日も、男の子はあの夜と同じように小さな体全身で何かを見つめていた。

キラはなんて声をかけようか迷って、少し離れた場所から動けずにいた。


すると、男の子の目から何かが ポツリ とこぼれ落ちた。

キラは、はっとして、急いで手をのばしてそれをつかまえた。

それは、少しあったかくて、キラの手の中にすーっとひろがった。


「これだよっ!アキラの落とし物。あたし、これを渡したかったの!!」


キラは必死だった。やっと落とし物を見つけた。


男の子の目から、何度もそれはこぼれ落ちて、キラは何度も、何度も、拾った。


「おかあさんは、死んじゃったから・・・もう会えないから・・・悲しいんだ」


男の子は真っ赤になった瞳を隠すように、下をむいてしまった。ちいさな男の子の形がもっとちいさくなった。



キラの世界には、「なくなる」とか「うしなう」という感覚がない。


(「かなしい・・?」この前から胸がズキズキする・・・。これも「かなしい」なのかな・・・)


キラは、どうすることも出来なくて、男の子の見ていた方向を見上げた。

アキラがながめていたのは、いつも自分のいる空だった。


(そういえば、聞いたことがある。作り話ってみんなは笑ってたけど。にんげんは、いつか星になるって。もしかしたら、アキラのおかあさんがいるかもしれない。)



キラは大声で言った。


「これ、アキラのおかあさんに届けてあげる!あたしきっとアキラのおかあさんに会えるわ!!」


キラは、両手いっぱいにあふれた男の子の落とし物を少しもこぼさないようにつつみこんで、空に舞い上がり、風の中に消えた。



空の星は、数え切れないほど。キラは、その一つ一つに話しかけながら、男の子のおかあさんを探した。

 
どれぐらいの時間が過ぎて、自分がどこにいるのかわからなくなるくらい、キラは空を動き回った。けれど、どんなに探しても、男の子のおかあさんは見つからなくて、気がついたら手の中には何も残っていなかった。



キラは、おかあさんのところへ帰って、アキラが話してくれたこと。アキラがかなしいと言ったこと。落とし物を届けられなかったことを一気にはきだした。


おかあさんは、何も言わずにキラの前に手をのして、ゆっくりと手の中を見せた。



「これはね涙ってゆうの。あなたは今、おとこのこのことを思ってすごく悲しいから、涙が出たのよ」


キラは驚いて、目をまるくした。でも、その涙にふれたとき、男の子の落とし物と同じあたたかさがして「かなしい」の意味がやっと分かった気がした。



「アキラは、おかあさんと離ればなれなの。もう会えないの。それが、すごく悲しい。」


おかあさんは、キラの言葉を受け止めながら、とても優しい声で続けた。



「涙にはね、不思議な力があるの。今は悲しくても、その涙を乗りこえたら、男の子はきっと強くなるわ。だから大丈夫。あなたの涙は、雨になって男の子のところに届くわ」



おかあさんのあったかい腕の中で、ちいさなキラはたくさん涙を流した。キラの涙は、ポロポロと夜空に浮かび上がり、シャラン、シャランと音を鳴らしがら消えていった。





その日の夜も男の子は空を眺めていた。

「不思議なあのこ」を思っていた。


さびしくなって涙が出そうになると、涙を拾ってくれたあのこの手を思い出してじっとこらえた。



男の子は遠くの星を8つ数えて、強くなろうと思った。



明日は、学校でヒロとサッカーをして、ピースを散歩に連れていく帰りにおとうさんの店に寄ろう。



「早く明日にならないかな」


男の子は、ゆっくりカーテンを閉めた。




その日。街には、たくさんの雨が降った。


まるで、男の子を包み込むかのように、優しく降りつづく不思議な夜だった。

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