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小説置き場(レイラの巣)コミュの【神話夜行シリーズスピンアウト】神話夜行(千葉編)第2話〔後編〕

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【神話夜行シリーズスピンアウト】神話夜行(千葉編)第2話の続きです。
 [前編]↓
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=47258954&comm_id=3656165

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(ふ、少し本気を出しすぎたか?)
砂埃で相手の姿が見えなくなったオピオンは、残念そうに手を広げる。欲をいえばもっと楽しみたかったが、あれだけ派手に全身をぶつけられればもはや生きてはいないだろう。
静寂の中、時計の針がカチッと動き、オピオンははっと我に返る。

「おっと危ない、危ない。私としたことが余興に夢中で本来の目的を忘れるところだった」
 予定の時間まであと八分。
 せっかくの演劇だ。美しい舞台は生で見なければ意味がない。別件にかまけて、血で染め上げられる愛の殺戮劇を見逃してしまうのはあまりにもったいなさすぎる。
 オピオンがきびすを返し、校舎を後にしようとしたその時、・・
蝙蝠の黒翼を羽ばたかせて雪人を抱えたファイが、砂煙の中から飛び出してきた。

(――――何!)
 まだ二人が生きていたことに、オピオンは目を見張る。

「チッ、大人しくしていろ! 小童共!」
しとめ切れなかった悔しさから軽く舌打ちをすると、オピオンは振り向き様に伸縮自在の両腕を伸ばし、二人を叩き落としにかかった。
 豪速でうねる兇器の鞭が縦横無尽に駆け抜け、ファイと雪人を四方八方から囲い込む。
だが、それに怯まずファイは速度を更に上げて真正面から突っ切り、うねる二本の腕のわずかな隙間をかいくぐった。
 彼女に抱えられた雪人が指を差して叫ぶ!

「次、前方五メートル先で右三十度旋回!」
 雪人の声に、ファイは体を傾け、またもや波打つオピオンの腕をすり抜けた。
 まだ視力が完全に回復しきっていないファイの代わりに、雪人が指示を出し、人間では捉え切れない攻撃を次々とかわしきる。

「馬鹿な!」
オピオン自身ですら予測できない攻撃の軌道を目視で正確に測り、わずかな突破口を見つけ出していく雪人にオピオンは驚嘆の声をもらした。
 敵との距離はどんどん近づき、ついに三メートル手前まで詰め寄る。

「今だ!」
 雪人の掛け声で、ファイは抱えていた彼の体を離した。加速がついていた勢いで雪人はオピオンの背中に飛び降り、しがみついて彼の両腕を押さえる。
 その間にファイは方向転換し、再び拳を振り上げて突っ込んできた。

(私を拘束して、止めを刺すつもりか)
「調子に乗るなああ!」
 オピオンは腕を振り上げて向かってきたファイを地面に叩き落すと、背中に張り付いた雪人を引き剥がすために、身をくねらせて暴れ回る。振り下ろされまいと雪人は必死に掴まるが、怪我のせいで力が入らない。ずるずると手が滑り、そしてついに腕を振りほどかれてしまった。続けてオピオンの尾が真下から一閃して、雪人の胸元を容赦なく切り刻む。

「ぐあっ」
 刻まれた傷から血が勢いよく吹き出し、雪人の体がわずかに宙に浮く。
だがその瞬間、雪人の目が見開かれて鮮血の軌跡をなぞるように素手で中空をつかみ、そのままオピオンに向けて振り下ろした。

 ――――これは!
 とっさに彼の意図に気付いたオピオンは後ろに飛ぶが遅かった。雪人の動作と連動して、オピオンの額から左目を通じて口元まで、熱い衝撃が走る!

「ぐあああああ、貴様ぁ! 自分の血で剣をっ!」
 顔を押さえてよろめくオピオンに、純血の紅い剣を携えた雪人がこちらに切っ先を向けて構えていた。

「『力』が体内に留まっているのなら、《出口》を作ってやればいい。僕の血液に『力』を含ませて大気中の水分に干渉さえ出来れば、一気に凍らせて剣を生成できる」
 息を整えながらも、冷静に雪人は手負いの蛇に言い放つ。

(こいつ、そのためだけにわざと自分から斬られに行ったのか! 用心深い私の隙を付く為に! 私が一撃で殺さないことも計算して!)
 正に肉を切らせて骨を断つ作戦。彼はこれで敵に負傷を追わせただけではなく、能力を封じられた圧倒的不利な状態で自らの武器を作りだした。

 もはやここまでくると認めざるを得ない。
 彼が天才の策士家であることを。
 思わぬ大物に出くわしたオピオンは、雪人の実力に冷や汗をながしつつも舌を出して嘲笑う。

「ふふふ、だが忘れていることがあるぞ、小僧。ハンターの端くれなら私の能力を知っているだろう? どんな傷をつけられても一瞬で回復する超再生能力を」
「ああ、知っているよ。だからこそ、僕はその傷を?凍らせた″んだ」
「―――なっ!」
 驚いたオピオンは傷口を触ると、そこには剣の切り口に沿って赤い氷がびっしりとこびりついていた。顔の傷だけではない。背中についていた雪人の血も、血中に含まれていた『力』による冷気の影響で凍りつき、周りの水分も取り込んでどんどん結晶を肥大化させていく。

「人や神に限らず、生物の再生は細胞分裂によって起こるものだ。細胞組織を凍らせれば再生は止まる。
――――これは斬るための剣じゃない、凍らせるための剣だ!」
 雪人は言い終えるなり、オピオンの全身に冷気の血刀を刻み始めた。剣が当たった箇所から氷が発生し、彼の体の自由が奪われていく。

「や、やめろ! やめないかっ!」
 頭、首、腹、脚、腕・・・。
 次から次へと氷に蝕まれていく自身の体に動揺し、オピオンは必死に叫ぶ!
 だが、雪人は振るう腕を止めない。
傷だらけの体を破壊衝動で突き動かし、残された力を振り絞って、全力で相手をたたみかける。

「うおおおおおおおおおっ!」
 駆け巡る激痛を雪人は咆哮と気迫で吹き飛ばした。
 そして、血に含まれていた『力』を使い切り、雪人の剣が砕け散った時には、巨大な氷の塊がオピオンの全身を覆いつくしていた。

「これで終わりだ!」
 雪人は渾身の力を拳にこめると、強力な右ストレートで氷の殻ごと敵の体を粉砕した。テニスコートに砕けた氷の欠片が飛び散る。

「やっ・・・た」
 ついに倒した強敵に、雪人は傷だらけの右腕を握り締めた。戦いの緊張が解けた途端、今度は貧血からくる眩暈が彼を襲う。
「雪人!」
傷口を押さえつつ、駆け寄ってきたファイに雪人はそのままドサッと倒れこんだ。突然の不意打ちにファイは動揺して顔を紅潮させる。

「ち、ちょっと、雪人っ?」
 ファイが彼の顔を覗き込むと、雪人はすでにすやすやと寝息を立てていた。
「まったく、いつも無茶ばっかりするんだから」
ファイは安堵と一緒に呆れたように大きく息を吐く。

(でも今回ばかりは完全に助けられちゃったわね)
 ファイは彼の寝顔を眺めつつ、「ありがとう」とやさしくつぶやいた。彼女の手が雪人の顔をそっと撫でる。
「今日ぐらいはちゃんと休ませてあげないとね」
 ファイが独り言を口ずさんでオピオンの残骸を見みやった時、ふとその違和感に気がついた。

(え? 何あれ?)
 氷付けになっていたオピオンの体は紙細工の様に厚みがなかった。まるで抜け殻のように。
(これってまさか――――脱皮!?)
 答えにたどり着いたファイの十メートル後ろには、生まれ変わったような新しい体皮を持ったオピオンが頭をもたげながら、こちらをじっと見下ろしていた。

「う・・・そ・・・」
 あれだけ雪人が決死の覚悟で与えた傷跡が全て綺麗に消え去っている。
 信じがたい光景に、ファイは絶望に満ちた声を上げた。
 その表情を待っていたかのように、残忍な笑みでオピオンはファイを見やる。

「ふははは、この私に最後の奥の手まで使わせるとは大した奴だが、残念だったな。すでに一人は戦闘不能、もう一人は重傷ときている。残された時間ではどうあがこうがお前らには完全に勝ち目がない!」
「そ・・・んな・・・」

 ファイは顔を青ざめて、ショックで手を震わせる。
 もう七時まで五分をきっている。
 今からオピオンと戦っても、到底時間内には倒せない。
せっかく雪人が命をかけて戦ったっていうのに。これでは全てが無駄になってしまう。
オピオンが勝利を確信して高笑い声をあげる中、ファイは雪人の体を抱き寄せる。

(ごめん、雪人。私、大切な生徒達を守れなかった)
こらえていた涙が頬を伝い、ファイが諦めかけた刹那、他人から隔絶された世界にひょうきんな声と足音が響き渡った。

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