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高田ねおの創作物置き場コミュの混沌のアルファ 第一段階『D−計画』2

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『え−−−?』

 淡々と結論を語る川上の言葉に皆が眼を丸くする。

 「壊滅って……よつのは生物研究所の施設全部がかい?」

 佐々木の言葉に川上は深々と頷いた。

 「肯定。α細胞の書き換えが終わった生物は我々の想像を遙かに上まわるほど、危険なものらしい。百獣の王、ライオンですら単純能力は比較にならない。通常では考えられないパワーと超常能力を持って、研究施設を一瞬で壊滅させた。死者多数の大惨事。だから、事実を隠蔽し、研究内容すら封印した。事が外部に漏れれば、大事になってしまうからだ」
 『…………』
 「そして、彼らが目にしたモノは融合生命体の狩猟、食料の確保だった。食料の餌食になった研究員は全部で五名。完全なる絶命だった。しかし、皆が想像しているような狩猟とは少し違う。獣のように鋭い牙で生肉を引きちぎり、血をすすり、それを糧にするのではない。その融合生命体は本当の意味で『食料の確保』を行っていた、らしい」

 「本当の意味での食料……確保?」

 石和の反芻した言葉に川上は深々と頷く。

 「まず、首の動脈を切断。これは出血を誘い、獲物を弱らせる為の行為で、命そのものは絶たない。無抵抗になったところで、獲物の腹部を開き、その中に足を突っ込み、中の臓器を抉る。しかしそれは中の臓器を喰らうためでなく、川原博士が今もっているその石を精製するための行為。そして、それが融合生物の食料そのもの。

 もともとαという生命体にはあるスキルが備わっていたらしい。それは生命体に絶対不可欠であり、誰もが持っている生体エネルギーを極限にまで凝縮して、物質化するというモノ。αという生物種はそれを摂取して、直接身体にエネルギーを取り込んでいた。
 その物質がその川原博士の持っている結晶だ。α細胞は融合生物にそのスキルを継承し、食料確保の為に生き物の命を結晶化した」

 そう言って、川原の持っている水晶を指さす。

 「にわかには信じられんな。生き物の持つエネルギーをなんの触媒や装置もなしに結晶化するなどと……」

 腕を組みながら戸木原が唸る。石和はかぶりを振った。

 「いや、分裂世界にはあらゆる可能性が内包されている。どんなスキルを持つ生命体がいたとしても不思議じゃない。それにああやって、結晶体に変換させておけば、腐らない保存食として、いつまでも残しておける。なかなか理にかなった特殊能力だと思うがな。川原、その結晶体はどの位持つんだ?」
 「特に期限はないわ。物質化が解除されることも、溶けて消滅することもない。その生物がそれを口にしない限りね。まさに究極の保存食ね。しかも体内に入れれば一瞬でその生体エネルギーを取り込むことが出来る。食べ物を食べて、消化して、エネルギー変換を起こし、余分なモノを排泄する、の活動がまったくないんだもの」

 「しかし、αの生体構造を見る限り、そういった器官もまた存在する。食物を口にするが、同時にエネルギーの確保というスキルが発達した生命体という見解が正しい」
 「なるほどねぇ、改めて自分の研究が非常に興味深くて、面白いモノだと、再確認させられるなあ。身体機能も常軌を逸脱しているし、こんな生物が僕たちの世界に君臨されていたら、間違いなく僕らは絶滅していただろうね」

 言いながら、佐々木は顎に手をあてて感心の事を吐く。石和は眉間に皺を寄せながら頷き、苦笑した。

 「同感だ。しかも次元震でαが現出したとポイントは分裂世界における同一の位置だ。 と、いうことは我々の地球上で、しかも東京の中にああいった生物が出現する可能性があったわけだ。それを考えると、ぞっとしないぜ」

 「さて、前置きが長くなったけど、ここからがいよいよ本題。こういった特殊な経緯でに入れたこの水晶だけど、これを細胞と融合すると面白い特性が得られることに気付いたの」

 いつの間にか、川原がまた話の主導権を握っていたが、川上はもうなにも言わなかった。
 おそらくこれ以上長引く話がないのだろう。安心して川原の話を聞く。前置きが長くなったのはお前のせいだろう、という突っ込みはしないでおく。

 「本来物質との細胞の融合はあり得ない。だけど、これは単に物質化されているエネルギーの結晶体だし、何の拒否反応を起こすこともなく、融合はできた。そうして出来た細胞には今までにない、利点が出来ていたのよ。それは……なんといえばいいのかしら。一言でいえば柔らかい細胞、とでもいったらいいかしらね」
 「柔らかい……さいぼう?」

 石和、佐々木、戸木原の三人の声が重なった。妙な表現だ。

 「あくまでもイメージ的なモノよ。柔らかいって。この細胞は環境適応力がもの凄く高い細胞でα細胞に浸食されても決して、飲み込まれず、なおかつ共存を図るための融合を行う特性を持っている。勿論、従来のα細胞の浸食スピードだと崩壊してしまうけど、これにさっきのα細胞を遅延させるプログラムを使用すれば、安定した実験体が完成するわ。まあ、実際に行ってみないと分からない部分もあるけどね。理論上はなんの問題もないとい思うわ」

 「すばらしいっ! ここに来て最大の難関である二つの問題点がこうもあっさり氷解しようとは! 出来る! 私ならDー計画を完成させることが出来る! この五人なら不可能なんて事なにもない筈だ! そうだろう? はっはっはっはっ!」

 すっかり陶酔した顔でそんな恥ずかしい台詞を言う、戸木原淳。石和は唖然とした。今の話でこの男が一言でも有益になるような言葉を一言でも発しただろうか。
 物語の中だけにしか存在しないと思っていたが、いるのだ。他人の手柄で鬼の首でも取ったかのような態度で振る舞える傲慢な男は。あきれてモノもいえない。
 なんでこんな男がDー計画の主任研究員なんだろうか。

 こちらの胸中を察したか、佐々木が石和の肩を叩いて、苦笑いを浮かべた。

 「ま、まあ、許してあげようよ。彼なりにこのプロジェクトの進行を喜んでくれてるんだし。それに彼の場をまとめる力は大したものだと思うよ。得意分野、不得意な分野、そして、それぞれの相性なんか合わせて、研究の進行に取り組んでくれている。この手際は無駄がなくてすごいと思う。少なくとも僕には持ち合わせていないスキルだよ」
 「まあ、それは認めるが……漁夫の利を得るために群がるハイエナみたいで、どうにもヤツは好かない。やる気をそがれてるぜ、ったく……」

 佐々木は『あははは』と笑ってそれ以上何も言わなかった。多かれ少なかれ、佐々木にも同じ思いがあるのだろう。あるいは、この場にいる全員が。

 「……ともかく、『鍵』を完成させるための材料は揃ったわけだ。それぞれの準備を万全にして取りかかるとしよう。川原、その柔らかい細胞とやらで造られた実験体はいつまでに準備できる?」

 「カプセルの中で成長加速をかけている最中よ。実験に絶えうる成体まで成長するには…そうね、あと三日ってトコ」
 「分かった。それじゃあ、それまでにナノマシンのプログラム組めるか、佐々木」
 「大丈夫、指向性を持たせるのはそんなに難しくないからね。三日で間に合わせてみせるよ」
 「了解だ。俺も細かいデータの整理、平行して双方のサポートをする。出来ることがありそうなら、いってくれ、なんでもだ」
 「了解した」
 「うん、分かった」

 川上と佐々木が順に頷くのをみて、川原はくすくすと笑った。

 「ふふ……石和君のほうがよっぽど、リーダーっぽいわよ。このままDー計画担当の責任者になったら?」
 「よせよ。そういうのは俺には向いていない。気分屋でわがままだからな。ヤツが権力を持ってリーダーシップを取りたいってのなら、せいぜい優越感を味あわせてやるさ。ここではな」
 「飾り物のリーダーでも必要ってワケね。成る程、納得。あたしのほうも了解よ。鍵の完成、心の底から、願ってるわよ」
 「ああ、俺もだ」

 そう言って、各自自分の持ち場に戻り、作業を開始した。戸木原だけは陶酔したような笑みを浮かべて、その場にしばらく佇んでいた。






  二

 仕事が終わり石和武士は自分の家へと帰宅する。駐車場の指定の場所へ自分の車を止め、外に出る。周囲に漂う冷気に石和は身体をぶるっと震わせた。もう十二月も半ば。寒いのは無理もない。それどころか、これから益々冷えてゆくことだろう。

 (どうにも寒いのは苦手だな……体調も崩しやすいしな。まあ、暑いのよりはマシかもしれないが)

 肩を縮めながら、石和はエレベータに乗った。十一階建てマンション五階の501号室。そこが石和の部屋であり、家族の城だ。
 
 エレベーターが五階に辿り着くと、部屋の鍵を開けて、中に入る。部屋の中は暖房がかかっていて暖かく、石和は肩の力を緩め、ほう、と溜息をついた。靴を脱ぎながら『ただいま』と、声をかけると、息子の勝義が小走りで駆け寄ってきた。まだ五歳の小さな少年である。

 「おかえりなさいっ、おとうさん!」

 満面の笑顔で歓迎する勝義。石和は軽く眉を潜めて、勝義の頭を軽くこづいた。

 「こら、勝義。部屋の中では走り回るなと、いつも言ってるだろ。転んだりしたら、周りの家具が壊れる可能性があるし、なによりもお前自身が危ない想いをする」
 「ご、ごめんなさいおとうさん。早くおとうさんをむかえにいかなくっちゃいけないと思って……」

 しゅんとしてかわいい事を言う。石和は笑って、勝義の頭をぐりぐりとなでた。

「わかってくれればいい。次から気を付けろよ。ただいま勝義。出迎えてくれて、ありがとうな」

 子供の表情はコロコロよく変わる。泣いていたのに、一瞬で笑顔になったり、はたまたその逆だったり。それは勝義も例外ではないようだ。しょんぼりとしていた顔が一瞬で笑顔になった。
 
 「はいっおとうさん!」
 「よし、いい子だ」
 「おかえりなさい、武(たけ)ちゃん」
 
 ぐりぐりと頭をなで続けると、部屋の奥から女性がやってきた。
 石和の妻、千恵子である。背中まで伸びた黒い髪の毛を束ねている。整った顔立ちだが、瞳が大きく童顔である。 身長が低いのも相まって、周囲には年齢よりも幼く見られがちである。両腕には抱かれた小さな赤ん坊−−−ことみがいる。

 「おう、ただいま。千恵子、ことみ」

 そう言って、至近距離まで来た千恵子の頭もぐりぐりとなでてやる。心地よさそうに、千恵子は顔を弛め、笑顔を浮かべる。

 「昔っから変わらないよな、千恵子は。頭を撫でると喜ぶ」
 「うん……武ちゃんに頭撫でてもらうと、気持ちよくて」
 「ぱーぱ、ぱーぱ」
 「おっ、ことみもか。そら」

 両手を使って、二人の頭を撫でる。ことみはきゃっきゃっ、と笑いながら、満面の笑顔を浮かべた。
 石和武士の妻である千恵子とは昔からの幼なじみで、昔から石和のことを好いていた。 七年前、とある事件をきっかけに、二人は恋人同士に。その二年半後に二人は結婚した。勝義とことみという二つの子宝にも恵まれ、夫婦仲は円満。
 仕事も鰻登りで石和にとってこの刻が幸福の絶頂だった。

 ことみを抱きながら、居間に向かうと、テーブルに湯気を立てたおかずが並べられていた。石和が帰ってくるのをわざわざ待っていたらしい。

 「すまないな、わざわざ俺の帰ってくる時間に合わせてもらって。でも、ことみや勝義も腹を空かせているだろうし、無理して待って無くても、いいんだぞ」
 「うん、分かってる。でもね、やっぱりみんな揃って食べたほうが食事は何倍もおいしいから、出来るだけ待たせてほしいの。子供達はおなかがすいたら、食べさせるつもりだけど、あたしは武ちゃんと一緒にご飯を食べるのが好きだから」
 「ああ、ありがとう。俺も出来る限り、定時に帰れるように努力するよ」

 そう言いながら、石和は食卓に目を向ける。テーブルにはきのこの炊き込みご飯、カレイの煮付け、肉じゃが、なめこのみそ汁、海草のサラダが乗っている。和食攻めの献立だった。きのこの炊き込みご飯は石和の好物だった。冷めないうちに食べることにする。

 「そうだ、千恵子、以前言っていた話な、本決まりになりそうだぞ」

 炊き込みご飯をかき込みながら、石和は千恵子に話を切り出した。

 「それって……武ちゃんが総括で行う研究所のこと?」
 「ああ。三ツ葉社の上の方から強く支持されていてな。いまやっている仕事に一段落ついたら、本格的に話が動くらしい」
 「すごいよね。武ちゃんの若さで研究所の所長なんて」
 「俺はあまりそういうのは向いてないと思うんだがな。気まぐれだし、わがままだし」
 「そんなことないよ。だって武ちゃんだもの。責任者だって上手くこなせるよ」

 「こらこら、そんなに簡単にいうなよ。責任者ってのはリスクを負うことでもあるんだ。なにか問題が起きれば、すべてこちら側に責任が回ってくる。それに俺になにかあれば、お前らの生活にも問題が起きる」
 「あははは、そんなこと言ってたら、なんにも出来ないよ。それになにがあってもあたしもこの子たちも平気だよ。だって武ちゃんがいるんだもの。武ちゃんがそばにいてくれる。それだけで、じゅうぶん幸せなんだよ」

 千恵子のストレートなものの言いように石和は赤面した。

 「ち、千恵子、恋は盲目というが、付き合って二年、結婚してもう五年だぞ? さすがに少しは落ち着いて、モノの見方が冷静になってもいいんじゃないか。友達で結婚しているヤツらなんて言ったら、月日を重ねるごとに、夫の扱いがぞんざいになってゆくって愚痴って−−−−」
 「知らないよ、他の人の事なんて。何年、何十年経ってもあたしは同じだよ。ずっと武ちゃんに恋してる自信があるもの。ずっと、ずっと好きだよ、武ちゃん」
 「う……あ……」
 「くすくす、武ちゃん、顔真っ赤。武ちゃんこそ、結婚してから五年も経っているとは思えないよね」
 「ほんとうだ、おとうさん、かお真っ赤だ」
 「まっかー、まっかー」
 「うっ……うるさいっ! 男をからかうもんじゃないっ! ことみも! 勝義も!」

 照れ隠しに大声で怒鳴って炊き込みご飯をかき込む。

 「あははは、でも武ちゃんが所長をやるっていっても、それはあくでも研究の統括で、営業はまた別の責任者なんでしょ?」
 「まあな。作り上げた薬品やナノマシンなんかの販売、技術提供なんかの方はまた、別に責任者がいるからな。総務部長ってヤツだ。肩書きはともかく実権はそっちのほうが俺よりも上になるのかな。こういったものを造ってほしい、っていう最低限の指示もそっちからでるらしい。勿論、俺は傀儡じゃないから、平行して独自にやりたい研究を進めてもいいことになってる」
 「だったら、平気だよ。武ちゃんは今まで通り、仕事をこなせばいいんだよ。怖い事なんてなにもないよ。だから、頑張って、武ちゃん。柄じゃないっていうけど、やっぱり、自分の研究所を持つことにあこがれはあったんでしょう?」
 「ん……まあ、な」

 千恵子の言葉に少し考えて、頷いた。確かに不安要素はあるが、自分の研究施設が持てることに憧れはある。研究者なら誰でもそうなのではないだろうか。

 「でしょう? だったら、武ちゃんのしたいようにすればいいと思うよ。それがあたしの冷静なモノの見方で言った意見だよ」
 「……ありがとう、千恵子」
 「べつにお礼を言われるようなことは言ってないよ。あたしのお願いを言っただけだから。さて、あたしも食べようっと。いただきま〜す」

 そう言って、千恵子はご飯を食べ始めた。本当に彼女にはかなわない、と心底思う。こちらがいくら懸念しようが、千恵子にかかればそれがほんの一言で吹き飛ぶ。彼女はどんな過酷な状況でも不安を吹き飛ばしてしまう。そんな力があるように思えた。
 だからこそ。この三人を護ってやりたい。幸せな一生を送らせてやりたい。
 強く強く石和はそう願う。その為なら、自分はなんでも出来る。そう思えるのだ。

 「ん? なぁに、武ちゃん。なんかあたしの顔についてる?」

 じっと千恵子の顔を見続けていたのが気になったのか、赤面して、そんなことを言う。
 石和は笑いながら、首を振った。

 「いや……なんでもない。千恵子、おかわりを頼む」
 「うん、たくさん食べてね。勝義はいい?」
 「食べる! ちょうだい!」
 「はいはい、二人とも少しだけ待ってね」

 微笑みながら、千恵子は二つの茶碗を持って炊飯器に向かった。





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