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高田ねおの創作物置き場コミュの混沌のアルファ 「第二段階『人類進化促進塾』9

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『ヒトは必ずなにかひとつ、他の人よりも優れたスキルを持って生まれ出てくると言われています。それは世間で『才能』と呼ばれるもので、自分の持っている才能を研磨することにより、ヒトは光り輝くのです』

 中に入ると綺麗な容姿をしたコンパニオンがマイクを持って解説を行っていた。

 『しかし、才能とは鉱山に埋まった鉱石のようなもので、どれが自分の才能なのか見つけ出せないことも多々あります。生涯を終えるまで自分の才能を見つけ出せない方も大勢いらっしゃいます。
 そこで、人類進化促進塾では三歳〜六歳までのお子様に適性検査を受けてもらい、適正のあった子供達の手助けを行っています。脳専門の特殊なCTスキャンを使い、お子様の『才能』を見極めます。そして、個々の才能に基づいて、脳の専門家が造った特殊なカリキュラムでお子様達のスキルを確実にUPさせます。
 塾に預からせていただく期間はほんの半年。期間内に確かな成果を親御様の元へ届けます。親御様から感謝の言葉を次々と頂いております。人類進化促進塾では日本の未来を担うお子様達の為に微力ながら力添えをさせて頂く−−−−』

 気分が悪くなる解説だった。石和は解説の内容を頭の中から振り払い、辺りを見回した。ロビーの造りはかなり広い。大人数の来訪者に備えて造ってあるのだろう。
 入り口付近に受け付けの窓口。何組もの親子が長者の列を造っている。まるで遊園地の人気アトラクションの様な有様だ。
 中央には待合い用に設置されたソファが何列にも渡って並んでいる。受付で『適性検査』の申込書を記入し、受理されると番号札をもらう。番号を呼ばれた人がCTスキャンのある部屋に入る。要は銀行や郵便局と同じシステムだ。
 CTスキャンのある部屋はすべてで六つあるようだ。一つのCTスキャンで対応したら、ここにいる子供全員をスキャンなど出来るわけない。複数の機械が置いてあるのは当然の対応だろう。
 
 (まあ、これなら時間はかかるだろうが、予想よりも早く事が終わるかも知れない)
 
 石和達は長い列に並び、一時間ほどしてようやく受付に辿り着く。申込書を記入し、提出するとようやく列から解放され、自由に動けるようになった。石和はもらった書類と番号札を佐々木に手渡した。
 
 「佐々木は勝義と一緒にそこのソファで待っていてくれ。勝義を一人にするわけにはいかないからな。呼ばれたら、一緒につきそってやってほしい」
 「別にそれは構わないけど……君はどうするんだい?」
 「俺は例のコンパニオンを捜す。ここのコンパニオンって結構人数いるみたいだからな。片っ端から調べてみる」
 「分かった。なんかあったら連絡を。ここ、携帯の制限は特にされてないみたいだからね」
 「ああ、任せたぞ、佐々木。勝義、いい子にして待ってるんだぞ」
 「はいっ、おとうさん!」
 
 いつもの勝義の快活な声。石和は微笑んで頷くと、中央フロアを離れ、コンパニオンの捜索を始めた。
受付の横にいたコンパニオンは申込用紙を記入するときにさりげなく名前を見たが、違った。解説のコンパニオンも違う名前。と、なると何処を探せばいいのか。
 
 「さすがに名指しで聞いたら、警戒されるか……」

 ここはかつて戸木原のいた、いわば敵地だ。なるべく他のスタッフとの接触は避けたいところである。コンパニオンを指名するというのは、あまりにも不自然で、目立つ。人に聞くのは避けた方がよさそうだ。
 きょろきょろと辺りを見回す。人が多いせいで、コンパニオンの姿が見つけづらいし、名前を確認するには至近距離までいかないと名札が見えない。あまりまじまじと見ると不審者に見られそうなので、横目でちらりと見ながら、一人一人確認してゆく。

 「こいつは……思った以上に大変だな」

 名札を五人ほど確認したが、まだ見つからない。石和はげんなりとした顔で大きく溜息を吐いた。
 とにかくこの施設は無駄に広い。『適性検査』の順番を待っている間、退屈させないため、人類進化促進塾の歴史や概要などをモニターやコンピュータでデモを流したりしている。子供専用の遊び場もあるし、レクリェーションルーム、図書館などもあるようだ。
 そのせいでコンパニオンも様々な場所に散っているので、探すのも一苦労だった。

 「くそ、この過密の東京にこんな大きな建築物つくりやがって。たかが塾だろ? ここまで大きくする必要がどこにあるんだ。しかも塾にコンパニオンってどういう事だよ。あり得ない組み合わせだろ、まったく」

 苛々が募り、自然と愚痴がこぼれ落ちる。すると、

 「あの、すいません」

 と、石和の背後から声がした。振り向くと、コンパニオンの一人がこちらを見ていた。歳は二十代前半といったところか。ボブ・ショートカットの髪が似合う、見るからに若々しい女性だった。

 「先程から、この辺りを行き来しているので、ひょっとしたら、お子様が迷子になったのかと思いまして。迷子センターのほうに連絡を入れましょうか?」

 注意していたのだが、それでも端から見れば目立っていたらしい。石和は手を振って笑った。

 「いえ、待っている間暇だったもので、この辺をうろついていただけです。子供は連れが見ているので、どうぞご心配なく」

 コンパニオンは柔らかい表情を浮かべて、頭を下げた。

 「それはどうも失礼をしました。時間が空いているのでしたら、あちらのほうにビジネス書から漫画本まで、様々な種類の本を用意した本のフロアがございます。本の種類は五万冊以上ありますので、よろしければご利用下さい。人類進化促進塾のことをわかりやすく説明したドキュメント風のデモも中央フロアのスクリーンにて流してますので、興味があれば、そちらもご覧下さい。人類進化促進塾の事について、理解が深まると思います」
 「ああ。ありがとう−−」

 『それでは失礼します』、と言って、コンパニオンがその場から去ろうとした瞬間、石和は大きく目を見開いた。胸のプレートに『横川昌美』と書いてある。

 「ちょ……ちょっと待った!」
 「え?」

 石和が慌てて声をかける。

 「あなた……横川昌美さん?」
 「はい。そうですけど。あの、なにか?」

 不思議そうな表情を浮かべるコンパニオン。ようやく見つけた。石和は肩の力を抜いて、安堵した。これで七面倒くさいコンパニオン捜しから解放される。

 「いや、ちょっと聞きたいことがあって。ここにいる篠塚登喜夫って人に会いたいんですけど」

 言いながら、芳田源の書いたメモを渡す。
 メモを渡す行為自体に何の意味があるのかは分からないが、こちらはメモに書かれた以外の情報は何もないのだ。指示通りにしたほうが良いだろう。石和はそう思った。
 が、しかし。

 「篠塚登喜夫、ですか? それはうちの講師のものでしょうか。それとも所員のものでしょうか」

 あくまでも昌美は営業スタイルを崩さない。それが当然と言わんばかりの口調で、そう訊いてきた。石和は困惑した。

 「ご存知……ない?」
 「はい。申し訳ありません。受付の方に問い合わせてみます。少々お待ち下さい。お客様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
 「あ、ああ。石和武士です」
 「石和様ですね。少々お待ち下さい」

 頭を下げて、昌美は受付のほうへ戻っていった。

 「……どういうことだ?」

 眉間に皺を寄せ、考え込む。同姓同名の別人がいるのだろうか。いや、いくらなんでも同じ職場に−−しかもコンパニオンという特殊な職で同姓同名の名前があるとは考えにくい。
 だとすると、芳田源に一杯食わされたのか。その可能性も低い。腹黒い中年だとは思ったが、それは目的の為なら手段を選ばない、そういった類の黒さだ。そんな意味のない悪戯を彼がするとは思えない。第一、何のメリットもない。
 芳田源が彼女を指名したのにはそれなりの理由があるはずなのだが    

 「お待たせしました」

 五分ほどして、昌美が戻ってきた。深々と頭を下げて、

 「申し訳ございません。塾の講師、所員の名簿を調べましたが、篠塚登喜夫という人物はいませんでした」
 「いない? そんな筈はないんですが」
 「いえ、事実です。失礼ですが、何かの間違いだと思います」
 「…………」

 訳が分からなくなった。ここの関係者がいうのだから間違いはないのだろう。しかし、それでは篠塚登喜夫という人物はいったいなんなのか。ここのスタッフではないのなら、わざわざ人類進化促進塾にまで侵入した意味がない。芳田源はどういうつもりであんなメモを渡したのだろうか。これでは全くの無駄足ではないか。
 ともかく佐々木と相談して、体制を立て直そう。そう思った石和は、

 「分かりました。お手数をおかけして、どうも申し訳ありません」

 と、言って中央フロアに戻ろうとした。すると、

 「あ、お客様。お待ち下さい」

 今度は逆に石和が呼び止められた。石和が振り向いた瞬間、昌美は石和の手を掴み、ぎゅっ、と握りしめた。

 「こちら、お客様の落とし物です。お返しいたします」

 手の中に入れられた物がなんなのか確認する間もなく、横川昌美は一礼して去っていった。右手を開くと、そこには黒色の携帯電話があった。自分のものではない。スーツの左側内ポケットに手を当てると、自分の携帯が入っているのが分かる。
 他の人の携帯と間違えたのだろうか。昌美を呼び止めようとして、寸前で踏みとどまった。携帯のランプが点滅し、外線モードになっている。どこかへ繋がってるのだ。

 (なるほど。そういうことか。随分と回りくどいことをするヤツだな、ったく)

 昌美の意図を理解した石和は黒色の携帯を開き、耳元に当てた。

 『はっ! なかなか察しがいいじゃないか。このままアイツに携帯を返したり、電源を切ったりしたら、そのまま相手をしないつもりだったがな』
 「気付いたのは偶然だ。察しは関係ない」
 『知ってるか? 運も実力のうちってな。平行世界において、ヒトは常に取捨選択を迫れている。強い人間は無意識化で良い選択を常に選んで、良い未来へ進んでいく。それが運を引き寄せるって事だ。つまりアンタは自分で偶然を掴んだ強い人間ってことだ。誇っていいぜぇ」
 「……その為にわざわざこんな持って回ったやり方をしてるのか?」
 『ははっ! 怒ったのか? アンタ、短気だねえ。俺はアンタと赤の他人だ。出向く義理はねえ。それをわざわざこうして出てきてやったんだ。少しぐらいゲームに付き合ってもらっても罰はあたらねえと思うがねぇ』

 愉快そうな声で笑う。石和は眉を潜めた。随分と破天荒な性格のようだ。

 『まあ、今言った事はあくまでも二次的な要素よ。こうする必要があったんだ。昌美がさっき言ったろ? 俺はそこの所員でも講師でもない。本当のことだぜぇ』
 「え……?」
 『いやいや、正確には元、と言った方がいいかぁ? 今はお尋ね者の身、そこにいる塾の連中はみんな俺にとっての敵って訳だ。アイツが俺の唯一の外交手段ってワケ。オーケィ?』
 「いや、全然事態が飲み込めないんだが……どういうことだ、いったい?」
 『ああ? 飲み込みが悪いなあ。察しはいいけど、頭は悪いのかぁ? それともアンタ、事情なぁんもしらないの? はははっ! あのじーさんも意地が悪いねえ。なにも知らない一般市民巻き込みやがったのか! 災難だねぇ、アンタも』
 「悪いが、説明してくれるか?」
 『ノンノン、駄目だね。今も言ったろ? そこは俺にとって敵の巣窟。敵地なワケよ。この携帯だって、ダミー回線と暗号を複雑化して、会話を傍受できないようにしてあっけどよ。それでも、そこの背後にいる連中なら突破しかねないのよ。長話は危険過ぎるわけ。そんな話をする暇もないし、リスクはなるべく犯さない方向でいきたいからなぁ』
 「……なら、どうすればいいんだ?」
 『アンタが持ってきたあのメモな、筆蹟鑑定をさせてもらった。こっちのコンピュータでスキャンしてなあ。結果、本人のものと合致した。間違いなくあのじーさんが書いたメモだ。そして、じーさんから、あんたからコンタクトがあるから、協力してやってほしいと連絡があったのよ。とりあえず、こちらが用意した条件はすべてクリアー。コングラッチューレーション! ははっ! まあ、話を聞く限り利害は一致してそうだし、こっちもメリットがありそうだからなぁ。色々話を聞かせてやってもいいぜぇ?』 
 「会ってくれるのか?」
 『夜七時、ビジネスシティの外れにある、廃ビルに一人で来な。詳しい住所はその携帯にメモリーしてある』
 「一人? 相方がもう一人いるんだが」
 『相方? 駄目駄目。俺が頼まれたのはアンタ一人。それ以外は認めない。メリットもないし、人が多いと危険も増すだろぉ』
 「メリットはある。俺と同じ同僚で、一番信頼できる男だ。そして、彼は瞬間物質転送装置(テレポート・ゲート)を造った最高責任者と親友だった。色々な話が聞けると思うが」
 『……まさか……佐々木勇二郎?』

 石和は眉を潜めた。何故佐々木の名前を知っているのだろうか。

 『はは、まさかいきなり本命を連れているとはなあ! 段階を踏んでから、呼び出すつもりだったが……オーケィ、オーケィ。そいつを連れてきな! だが、それ以上はどんな理由があろうとナシだ。これ以上、リスクは増やしたくないからなぁ』

 最後にはよく分からない事を口走って、携帯の通話が一方的に打ち切られた。 石和は黒い携帯を閉じ、ふう、と溜息を吐いた。

 篠塚登喜夫。どうも、想像してたよりも危険な人物らしい。たかが話をきくのに随分と手間の込んだやり方。それに他人の名前はおろか、自分の名前さえ口にしなかったことを考えると、相当周囲を警戒している様だ。お尋ね者と言っていたが、犯罪者なのだろうか。 人類進化促進塾の人間はすべて敵と言っていたのも気になる。
 なにか危険なことに首を突っ込んでしまった気がする。しかし、真実を追究するためにはある程度のことは仕方がない。
 ともかく、もうここに用はない。中央フロアに戻ろう。佐々木に話して、今夜の打ち合わせをしなければならない。

 −−と。その時、石和は妙な視線が自分へ向けられていることに気付いた。誰かに見られている。周囲を見回すと石和のいるフロアの壁際に少女が立っていた。
 幼い少女だった。勝義と同じくらいの年頃……五歳くらいだろうか。髪は栗色のロング。大きな白いリボンで後ろを結んである。肌は透き通るほど白く、服もまた純白のワンピース。少女が背にしている壁もまた、白。
 白、白、白、白。その少女は白で満ちていた。
 そのせいだろうか。その少女の存在感が薄く、儚げに感じられるのは。物理的に存在しない幻覚−−−あるいは透明な存在。そんな錯覚を石和は感じた。

 「−−−−−−」

 白い少女はじっとこちらを見ながら近づいてきた。幼いが、整った綺麗な顔立ち。しかし、そこに表情はない。端麗だが、それは無機質な人形に近い。
 本来この年頃の子供は喜怒哀楽を激しく主張する生き物だ。だが、この少女は表情が全くない。目もどこか虚ろだ。少女の胸元にはプレートがつけられており、『NO.016 前原香住(まえはらかすみ)』と書かれている。ここの塾の生徒だろうか。

 「え……と。どうしたんだ、君。迷子にでもなったのか?」

 白い少女の視線に戸惑いながら、話しかける。返事はない。すっと、少女は手を伸ばし、石和の持っている黒色の携帯電話に触れた。そして、

 「禍なるかなバビロン。そのもろもろの神の像は砕けて地に伏したり」

 少女はよく分からない言葉を口にした。瞬間−−光が走った。

 「−−−−−−っ!」

 それは白い光だった。石和の視覚を一瞬にして奪うほど、強い強い、鮮烈な光が黒い携帯から溢れている。石和は目がくらみ、目元を腕で覆ってよろめいた。足がもつれ、床に転倒する。

 「っ! あ……あれ?」

 目を開けて辺りを見回す。そこに光はなかった。通りかかった親子が転倒した石和を見て、くすくすと笑っていた。右手の黒い携帯をみるが、何ともない。間近にいたはずの白い少女はフロアの壁際に寄りかかっている。

 (な……なんだ、今のは?)

 腰をはたいて、立ち上がると、白い少女はもうこちらを見ていなかった。奥のフロアに向けて歩いてゆく。石和は呆然として、その白い少女の姿を見送った。
 なんだったのだろうか。今のは。あまりにも非現実的な光景だった。いや、そもそも今のは実際起こったことかどうかすら疑わしい。あれほど強烈な光ならば、この施設内の人間も気付くだろうし、騒ぎになるはずだ。しかし、周りの人々は何事もなかったようにこのフロアを通り過ぎている。

  幻覚か。それとも白昼夢なのか。疲れているのかもしれない。

 石和は額に手を当て、首を左右に振ると、黒い携帯をポケットにねじ込み、中央フロアに向かって歩き始めた。   





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