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高田ねおの創作物置き場コミュのIntersecting Bullett 登美丘詩織編 FILE1『依頼と少女』5

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  七



 「いや、申し訳ない。お見苦しいものをお見せしました」

 目の前の男が苦笑しながら、深々と頭を下げた。
 白髪が入り交じった黒い前髪を無造作に伸ばしており、それがまた不思議と似
合っている。歳は四十半ばと聞いていたが、白髪を除けば、中年男に見えない容
姿である。
 目には黒いフレームの眼鏡をかけており、レンズ越しに見えるその瞳は人懐こ
そうな優しい目をしていた。
 気のいい、中年のおじさん、というのが私の石和所長に関する第一印象だった。
 「アレは私の娘でしてね、あの年頃になると、どうも親に反発したくなるよう
で。いえ、言い訳ですな。娘の非礼をお詫びします」
 そう言って、再び頭を下げる石和所長。あたしは笑顔を造って、手をぱたぱた
と振った。
 「い、いえ……気にしてませんから」
 「そうだぞ、詩織、元気出せ。二十歳過ぎでおばさん顔でも人生終わった訳じ
ゃねえんだ。前を向いて明るく生きねえとダメだぜ」
 「哀れみの顔で肩を叩くなあっ! 誰がおばさん顔よ!? 女性の魅力全開じゃないのっ!」
 「えー全開じゃなくて、全壊の間違いだろ。おっぱいも致命的なまでに足りないし、あと色気が悲しいほどにーーーぶごっ!?」

 失礼極まりない斬の顎に右拳を叩き込んで、無理矢理黙らせる。その光景を見
て、石和所長が笑った。
 「はっはっはっ、大丈夫です。あなたは充分魅力的な女性ですよ。もっと逞し
いイメージの女性をイメージしていたのですがね。こんなにも可愛らしい方だっ
たのだと正直、驚いてます。もっと自信を持った方がいい。私が保証しますよ」
 「え……あ、ありがとうございます」
 あまりのストレートな物言いに頬が熱くなる。こ、この人、若い頃、女たらし
だったんじゃないかしら。
 「おっと、失礼。自己紹介がまだでしたね。石和武士(いさわたけし)です。
この石和生物研究所の所長を務めています。どうぞお見知りおき」
 自己紹介しながら、石和所長が右手を差し出してきた。あたしは笑顔で頷き、
その手を握った。
 「あたしは登美丘詩織。こちらは神崎斬。あたしも神崎も対妖狐殲滅機関実行
部第十二小隊に所属しています。どうぞよろしくお願いします」
 「十二小隊のことはよく存じてます。バスター機関最強と謳われ、こなした任
務は数知れず。登美丘さんは小隊長として、状況に応じた戦略を即座に組み上
げ、的確な指示で次々と妖狐を殲滅していっている。神崎さんは現役最強の『属
性使い』として、実行部の頂点に君臨し、その力はAランク妖狐の力に匹敵する
とか。噂は常々。 お会いできて光栄です」
 あたしは手をぱたぱたと振り、
 「そ、そんな褒めすぎですよ。こちらこそ、『属性』の開発者である石和所長
にお会いできて光栄です。あなたはバスター機関の生みの親といってもいい存在
ですから」
 強大な力を持つ妖狐。その力には並みの武具では歯が立たない。
 小型の拳銃や刃物ではDランクの妖狐ですらダメージを与えることは出来ない
だろう。
 だが、イメージした力を現実空間に顕現化(マテリアライズ)させる『属性』
と呼ばれる技術を石和所長が開発したことにより、個人レベルで妖狐を殲滅する
ことが可能な対抗手段となった。
 『属性』の力は様々な制約、リスクを伴う上、個人の素養が不可欠になるの
で、万能の力とはお世辞にも言い難い。それでも、この『属性』の力は妖狐を殲
滅する為の必殺の切り札として、大いに活用され、それが民間組織『対妖狐殲滅
機関』を生むきっかけとなった。そういった流れを生み出したのはこの石和所長
なのである。
 バスター機関の生みの親という表現は的確だとあたしは思っている。
 
 「ははは、生みの親とはまた持ち上げられましたなあ。いや、嬉しいです。例
えそれがお世辞だったとしても。我々の苦労が報われる想いです」
 「お世辞なんかじゃないです。対妖狐殲滅機関にいる人間はみんな本当にそう
思ってますから。ねえ、斬?」
 「…………」
 「……斬?」
 「ん? ……ああ、まあな」
 曖昧な返事が返ってきた。見ると、斬が神妙な面持ちでしきりに部屋の入り口
を見据えている。
 この男はいったいなにをやっているのだろうか。
 あたしは斬の頭を抱え込み、耳打ちした。
 (ちょっと! あんたがこういうの苦手なのは知ってるけど、せめて相槌くら
い打ちなさいよ。心証が悪くなるでしょう?)
 (いや、どうもさっきの女の子、気になってな……あの子の後ろに変な気配が
ーーー)
 (あんたねえ……ナンパは時と場所をわきまえてやりなさいって、何度言えば
わかるのよ!あの子は社会的地位のある石和所長の娘なのよ! 手を出したりし
たら殺すわよ!)
 (違うってーの! そうじゃねえ! そうじゃなくて……ああ、クソ、、もう
いい。なんでもねぇよ!)
 (なによ、その言い方! もっと真面目にーーーー)

 「……あの、どうかされましたか?」
 と、背後から石和所長が怪訝そうな声で聞いてきた。
 まずい、露骨に内緒話をし過ぎた。
 あたしは慌てて手を振って、笑顔で答えた。
 「あ、すいません!何でもないんです。このバカ、お腹が空いてたって文句を
言うから、我慢しろって諭していただけです」
 口から出任せだったのだが、石和所長は『ああ、なるほど』と、頷きながら、
笑った。
 「もう昼時ですからね。無理もない。軽いもので良ければ、ここで出せます
よ。どうぞ、こちらへ」
 と、ソファが設置してある場所へと誘導される。
 「ああっ、いえ、いいんです! そこまでしていただく無くてもーーー」
 「気がきくじゃねえか、おっさん。俺、カツカレーとクラブサンドな。両方と
も大盛りで頼むぜ」
 「アンタは遠慮しなさいよ! なに失礼な口の利き方をしてんの!」
 「ははは、別に構いませんよ。ここには研究棟専門の食堂がありまして、注文
すれば各研究室に届けてくれるのです。味もなかなかのものですよ」
 「いえ、でも」
 「今は昼時です。白状しますと、私も空腹でしてね。どうでしょう。みんなで
食事をしながら、話を進めるというのは。私から個人的な依頼をお願いするので
すから、その位のもてなしはさせて頂きたいのですが」
 「……まあ、そういうことでしたら」
 お腹に手を当ててさする。確かにお腹は空いているので、有り難くはあるんだけど……なんか露骨に催促したみたいで、気恥ずかしい。
 「なあなあ、詩織。こういう所の食事って女性の看護士が持ってきてくれたり
するのか? 『あ〜んして食べさせてあげるサービス』とかあるなら、是非とも
注文してえよなあ……」
 「お願いだから、アンタは少し黙ってて……」
 ホントに恥ずかしいわ。こいつといると……。

 ーーそうして、石和所長とあたし達の話が始まった。


    八

 「あ〜疲れた……かったりぃ。やっぱ苦手だわ、俺。こういうの」

 第三研究棟と出ると、斬が肩をごきごきと鳴らしながら、大きく溜息を吐いた。
 「……よく言うわよ。アンタ、話なんてあたしに任せっきりで、ずっとご飯食
べてたじゃないの。しかもカツカレーとクラブサンド、両方とも三度もおかわり
って、どんだけ厚かましいのよ」
 今、思い返しても恥ずかしい。石和所長も笑顔でいたが、内心は呆れていただ
ろう。
 「うむ。病院の食事だから、味には正直期待してなかったが、驚いた。ありゃ
あ絶品だぜ。濃厚なカレーの味と肉汁溢れるカツ、クラブサンドもいいパン使っ
てたし、素材も抜群に旨かったぞ。詩織ももっと遠慮せずに食えばよかったのに
よ。本部ビルの食堂じゃ味わえないぜ、あんな飯」
 うっとりとした顔で腕を組み、うんうんと頷く斬。
 「アンタは遠慮って行為をもっと学習しなさいよ。食事中もちらちらと入り口
の方見て落ち着かないし、石和所長にはため口聞くし、まるで子供じゃないの」
 額に手を当てて、嘆息する。
 「しょーがねえだろ。俺はああいうお堅い雰囲気は苦手だし、大嫌いなんだ
よ。依頼の内容も只の人捜しじゃ、身も入るわけもねえし。それに俺が下手に口
出ししてもボロが出て、話を無駄にかき乱すだけだろ? だったら黙って飯食っ
てたほうがマシじゃねえか」
 「……まあ、言われて見れば確かにそっか。退屈だからといって、そのまま研
究室の奥にいる女性研究員をナンパとかしなかっただけでもヨシとすべきなのか
しらね」
 「いや、お前な、いくら俺でもそんな見境なしじゃーーって、奥にそんなのい
たのかよっ!」 
 「いたわよ。けっこう美人な研究員が何人か」
 「ぐあっ!? なんで俺に教えない! 美人の白衣! 白衣の美人! アイシャ
ル・リターンッ!」
 「もどるなぁぁっ! はあ、やっぱりアンタは信用なんないわね、どんなとき
でも……」
 あたしは大きな溜息を吐いて、肩を落とした。
 「でも、あたしも正直疲れちゃったわ。なんか難しい話聞かされちゃったし」
 「ああ。なんかよくわかんねえ話をしてたな。記憶制御がどうたらって」
 「そ。本題の話より、あっちの方が長かったわよ。本当、勘弁してほしいわ
ね、まったく……」
 石和所長との話し合いは特に問題なく進んだ。石和所長の話は事前に矢矧から
聞いた内容以上のことはなく、依頼書の手続き、依頼料、必要経費などの相談を
含め、三十分もしないうちに話し合いは終わるかに見えた。

 『現在はどんな研究をされているのですか?』

 ーーあたしが世間話にと、余計な質問をするまでは。
 『そうですね。研究所内ではいくつものグループを編成して研究を進めている
ので、一概には言えませんが、いま私がもっとも注目しているのは<NEXT G>の
研究でしょうかね。Nextと言えば肉体の治療するナノマシンを思い浮かべると思
うのですが、コレは脳に干渉させる新型のナノマシンです。脳には側面から後頭
部にかけてU字状の海馬と呼ばれる記憶を蓄積し、制御する回路があります。大脳
皮質に直結した海馬には感覚記憶、作動記憶、長期記憶、自伝的記憶、展望的記
憶と様々な記憶の引き出しがあり、常に活動を続けてます。これにナノマシンを
干渉させて、記憶回路を操作してやろうというのが<NEXT G>の目的なんです。
例えば短期記憶から長期記憶の流れをスムーズに連動させる。これが可能となれ
ば、覚えようと思った事柄を思いのままに保存することが出来る。その逆の忘却
も可能になります。灰白質の脳神経細胞もこの<NEXT G>を干渉させることによ
って、再生が可能であり、ゆくゆくはアルツハイマー病を治療して全快させるこ
とも出来るようになるでしょう。そして、最終的には海馬だけではなく、他の部
位にも干渉させ、最終的にはあのブラックボックスと言われている頭頂葉の解明
まで可能にーーーー』
 と、言った具合に石和所長の話が始まった。
 最初は興味深い内容であったので真剣に話を理解しようと努力しながら、聞い
ていたのだが、次第に難解な専門用語や聞いたこともない数式が飛び出し、訳が分からなくなった。
 愛想笑いと適当な相槌を打っているだけになったにも関わらず、石和所長はそ
れを察することもなく。熱を帯びた難解な説明を延々と続けた。
 話がようやく終わった頃には、すでに一時間以上が経過しており、あたしの脳
はクタクタに疲弊していた。
 「愛想のいい人だったから油断してたわ……科学者が無類の説明好きってこと
忘れてた。ホントに疲れたわ……」
 はあ、と嘆息する。
 「確かに喜々としてしゃべってたな。あのおっさん。とても息子が失踪して捜索を依頼した父親にはみえねえ」
 と、皮肉たっぷりの笑みを浮かべて、言う。あたしは『確かに』と、頷いた。
 確かにいい人ではあったが、それがいい父親であるとは限らない。
 口では心配そうな風を装っていたが、あたしにはそれがひどく薄っぺらいもの
に感じられた。
 自分の息子が失踪したのだ。普通ならば、もっと取り乱していてもおかしくは
ない筈なのに、それどころか我を忘れて自分の研究内容を語る有様。
 さっきの自分の娘とも何か言い争いをしてみたいだし、息子が失踪したのも受
験だけが原因じゃなかもしれない。

 「……まあ、あたし達の仕事は息子の勝義を捜し出すことだけだし、それ以外
のことは知ったこっちゃないわ。とっととどら息子探し出して、このめんどくさ
い仕事を終わらせるわよ」
 「めんどくさいも何もお前が引き受けたんだろうが」
 「く……お、男が過ぎたことをぐだぐだ言わない! そんなんだから、長髪で
タンクトップな変態なのよ!」
 「意味のわかんねえ逆ギレの仕方してんじゃねええ! いいから、これからど
うすんだよ?」
 あたしは腕を組みながら、考え込み、
 「そうねえ。石和所長と会って、少しぐらい捜索の手がかりが掴めるかるかと
期待していたんだけど、あれじゃあねえ。なにか手がかりぐらいはないとね」
 「おいおい、まさかローラー作戦とかやるんじゃねえだろうな」
 と、斬が眉を潜める。
 「そんなわけないでしょ。ローラー作戦は人手が多いときに使う人海戦術よ。
あたしと斬とカスミ、それに鷹栖と南に手伝わせたとしても合計五人。この人数
で闇雲な聞き込みなんてやってたら時間がいくらあっても足りないわ。それより
ももっと、有効な手段があたし達にはあるでしょ?」
 言いながら、携帯を取り出し、事務所へと外線を繋げた。

 「……あ、もしもし、詩織だけど。うん、そう。石和所長との面談はいま終わ
ったわ。で、これから捜索を始めるんだけど。うん……それでね、カスミ。ちょ
っとお願いがあるんだけど。石和所長の息子、勝義のキャッシュカード履歴を調
べてほしいのよ。石和所長に聞いて、番号は知ってるから後で転送する。
 そう……うんうん。さすがカスミね。よく分かってるわね。そう、ホテルや宿
の記録名簿もよ。勝義がいなくなってからすでに一週間も経過している。だとし
たら、いるのは友人の家か、ネットカフェ、あるいは宿泊施設……どちらにしろ
キャッシュの使用履歴があれば、ある程度的は絞り込めるわ。
 そこから対策を立てていくから。うん、出来たら街の監視カメラもモニターし
て。許可はそっちのほうから頼むわ。ん、それじゃよろしくね、カスミ」
 用件を終えて、電話を切る。
 「ま、ざっとこんなもんでしょ。変換憑依の力を使えば、この位の情報収集は
朝飯前だし。カスミの力はこういうときに利用しないとね」
 うちの第十二小隊所属のサポート、前原香住(まえばら・かすみ)は人類進化
促進塾で被験者だった少女である。
 悪名高い『能力者計画(ネオ・チャイルドプロジェクト)』の実験体だった彼
女は常人にはない特殊能力を持ち合わせている。
 自分の意識をコンピューターネットワークに展開することの出来る、その『能
力(ちから)』は情報収集するには持ってこいの能力である。
 これで引っかかってくれれば、楽に事が進むんだけどーーー
 
 「……まさかとは思うが、お前、カスミの能力を変なことに使ってたりしねえ
だろうな。銀行口座の残高改竄とか」
 「…………」
 「…………」
 「…………シテナイワヨ?」
 「なんだその微妙な間は!? おいっ! 洒落になんねーぞ!」
 「うるさいわね! 本当にやってないわよ! やろうとしたことはあるけど!」
 「あるのかよっ!?」
 試しに一度カスミへそういう話をしたら、涙目で睨まれて、しばらく口を聞い
てくれなくなったことがあったんだけど、ここでは言わないでおこう。
 も、もちろん冗談よ、冗談。
 本気でやるわけないでしょう。って、あたしは誰に言い訳してるのかしら。
 「ま、まあ、それはともかく! カスミが調査している間、あたし達も動くわよ」
 強引に話を打ち切って、歩き出す。斬が慌てて、後を追ってくる。
 「待てよ、おい! いったいどこ行くつもりだよ」
 「どこってーー決まってるじゃない。あそこよ」
 奥に見える建物を指さして、言った。
 「へ?」
 「失踪した現場から手がかりを探す。捜査の基本でしょう?」
 名探偵よろしく、気取った言い方をしながら、自分の前髪を掻き上げた。あた
しの指さした先はーー特別病棟。

 石和勝義の入院していた病棟である。



続く。



……とりあえず、ここまでです。
冒頭中の冒頭で、まだ、話は始まったばかりですが、
一度500ページ以上書き下ろした作品なので、
話に詰まることはないと思います。
根性注入して、続きをUPしてゆきます。
ここまで読んでくれて、ありがとう。

もし、少しでも面白そうと感じてくれたら、次の更新も読んでください。

ありがとうございました!

続きができました〜

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=50496501&comment_count=0&comm_id=4711681
  

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