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高田ねおの創作物置き場コミュのIntersecting Bullett 登美丘詩織編 FILE1『依頼と少女』3

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  四



 鹿島大学付属病院。ビジネス・シティの外れにある、大規模な施設を持った病院である。
 内科、神経外科、精神科、小児科、形成外科、脳神経外科、皮膚科、歯科…エトセトラ。
 細かく分かれた受付が横一列にずらりと並んでいる。受付の手前には患者が待
つ間、くつろぐためのソファが設置されていて、そこに座る患者の数も少なくな
い。
 受付での話を終えて、戻ると斬が物珍しそうな表情を浮かべてきょろきょろし
ていた。
 「ほあ〜……これが大学病院か。なんか病院つーよりも銀行の受付窓口みてぇ
だな」
 田舎もののような反応だった。まあ、珍しい気持ちは分かるが。
 あたし達バスター戦闘要員は戦闘時の負傷は勿論、その他の病気、怪我などの
処置はすべて対妖狐殲滅機関本部ビルに設置されている医療エリアにて行ってい
るのだ。
 そのせいか、診療所や大学病院なんかの施設にはあまり行く機会がない。だか
ら、物珍しい気持ちも理解できる。実際、あたしもいま、受付に行ったとき、市
役所にでも来たような違和感を抱いていた。
 「けっこうでかいよなぁ、この病院。いくつもブロックが分かれているし。こ
んなところに入院したら迷子になるんじゃねぇか?」
 「たしかに小さな子供とかだったら、迷っちゃうかも。あと、斬みたいな子供
と同レベルの大人とか」
 「……喧嘩うってんのか、お前は……」
 「あははは。でも、ここは大学病院だからね。べつにここのすべてが病院とし
て機能しているワケじゃないのよ」
 斬が眉を潜める。
 「……? どういうことだ? 病院と大学病院って、なんか違うのか?」
 「ええ。簡単に言っちゃうと、大学病院の半分は『病院』ではなく、『研究機
関』として機能しているのよね。様々な薬の開発、治療法、新たな病気の発見、
その解決法なんかを細かい分野に分けて、それぞれの研究室で研究を続け、その
成果を学会で発表するの」
 「なんかよくわかんねぇけどよ……要するにここは病院であり、同時に研究所
でもあるってことか?」
 「そういうこと。当然、研究室の設備は大学病院によって異なるんだけど……
この鹿島大学付属病院の研究施設は半端じゃないらしいわ。なんせ『三ツ葉社』
が資金支援している病院だからね。研究の機材にかけるお金は並の大学病院に比
べて桁が違うわよ、きっと」
 斬は腕を組み、
 「三ツ葉社って……ひょっとして、対妖狐殲滅機関の資本金を出している、あ
の三ツ葉社のことか?」
 と、言った。
 「おっ、お馬鹿な斬でもそのくらいのことは知っているワケね。えらいえら
い、頭なでなでしてあげまちょうか?」
 「お、おまえなぁ……って、本当になでるなっ!」
 「正解正解。その三ツ葉社よ。その援助資金の中から、妖狐専門の研究棟が造
られているらしいから、鹿島大学付属病院と対妖狐殲滅機関は親戚同士みたいな
モノね。もちろん、石和生物研究所とも繋がりがあるはずよ。だからこそ、石和
所長もこんな場所を待ち合わせにしたんでしょうね」
 「……そういや、詩織。時間はいいのか?」
 「え?」
 「だからぁ、石和所長との面会だよ。たしか約束の時間は一時って言ってた
が、もうあんまし時間がねえぞ。ここに来るのか?」
 「う……そ、それが、石和所長、ここにいないみたい」
 「は……?」
 斬の目が点になった。
 「いま、受付に石和所長との面会を申し込んだんだけど、『現在、こちらの病
棟にはいません』って言われたのよ」
 「はあ? なんだそりゃ! 詩織、おまえ待ち合わせの場所、間違えたのか
よ。モーロクしたんじゃねえか?」
 「ちがうわよっ、失礼ね! 場所はここに間違いないんだけど、この病院、ブ
ロックが全部で六つに分かれているらしくて。それぞれのブロックは独立してい
て、ほかのブロックのことは分からないって言うのよ。ちなみにここは一般棟で
研究棟はまたべつの建物の中にあるんだって」
 「なんだ、それじゃ話は早いじゃねえか。はやくその研究棟とやらに行こう
ぜ。そこの受付に行けば、すぐ場所がわかんだろ?」
 「ブロックは全部で六つあるって言ったでしょ。一つはこの一般棟で、もう一
つは特別病棟。ほかの四つはぜんぶ研究棟。どのブロックに石和所長がいるかな
んて、全部探すまでわからなーーーーって、斬、どこにいくのよっ!?」
 無言ですたすたと奥へ行こうとする斬の腕を掴む。
 「ナンパ。せっかく病院に来たんだから、俺だけのナイチンゲールを捜さねえと。薄幸の美少女でも可」
 「病院でナンパするなあぁぁぁぁっ!? これから面会でしょうが! あんた、頭湧いてんのっ!?」
 「やかましいわっ! 場所もろくに分からないで、面会もくそもあるかっ! 
アホらしくてやってられるわけねえだろっ! 大体なんで事前に細かい場所を聞
いておかなかったんだよ!」
 「矢矧にはこの時間にこの場所へ行ってくれとしか言われなかったから、受付
を通せばすぐに会えると思ったの! あたしのせいじゃないわよ!」
 「だったら、とっとと矢矧に連絡して、場所を聞き直せよ!」
 「とっくにしたわよ! だけど繋がらないのよ!」
 「それじゃあ、どうしようもねえだろっ! この胸なし尻デカ女!」
 「な……なんですってぇっ!? 妖狐を倒すことしか能のない、馬鹿のくせに!」
 「へっ、馬鹿って先に言ったヤツが馬鹿なんだぜ、ばーか、ばーか!」
 「あんたは子供かぁぁぁっ! ともかく! まだ時間はあるんだから、なんと
かなるわよっ!」
 「こんな馬鹿でっかい場所で、時間内に探し出せるわけねえだろうが!」
 「できるわよっ! 愛と努力と根性があれば!」
 「アホかぁぁぁっ!」
 歯をぎりぎりと噛みしめながら、斬と額がくっつきそうな位置で対峙する。

 『お、おい……なんだ、なんの騒ぎだ?』
 『喧嘩よ! 痴話喧嘩だわ!』
 『おいおいこんなところでマジかよ、原因はなんだ?』
 『なんでも愛と努力と根性が男に足りないらしくて、それが原因で別れ話を切
り出したらしい』
 『……ほほう……あと友情がそろえば、少年漫画が造れそうな展開じゃのう……』

 人目はばからず大声で言い争いをしていたので、周囲の注目の的になっている
ようだけど、気にしない! 
 ヒトの苦労も考えず、文句ばっかり一著前で、この男は〜!!
 完全に頭に来た!   
 「うぐぐぐ……」
 「ぐぎぎぎ……」
 あたしと斬の睨み合いが続く。互いに言葉を発しない無言の攻防。険悪な雰囲
気が広がり、病院内が奇妙な空気に変質してゆく。
 看護士に呼び止められ、注意を受けるが、睨み付けて、追い返す。この馬鹿と
決着をつけるまでは何人たりとも邪魔はさせない!
 
ーーーーと、そう思ったのもつかの間。
 「きーーきゃあぁぁぁぁぁっ!」

 突如、下半身に奇妙な感覚が駆け抜け、その戦いはあっさりと終結を迎えた。

 ずりずり、と。
 芋虫がはいずり回るような気色悪い感触が腰の辺りを何度も何度も行き来する。
 そのおぞましい感覚に身体が強ばり、肌が泡立つ。
 「ひゃっ、やっ、きゃあっ!」
 「ひょっひょっひょっ、相変わらず触り甲斐のある、ええ尻をしとるなあ、詩織ちゃん」
 「ーーーーっ!!」
 聞き覚えのある、しゃがれた声。あわてて、その場を離れて、背後へと振り返る。
 そこに奇妙な老人がいた。百五十センチにも満たない身長。がりがりに痩せた身体。
 その身長体格に似合わない大きめの白衣を羽織っている。まるでサイズが合っ
てないので、だぶついていて妙に滑稽な印象を受ける。
 完全に白髪と化した髪の毛は手入れした様子が見られず、水気が無い上にぼさ
ぼさだった。牛乳瓶のように分厚いレンズの老眼鏡をかけ、所々欠けた歯を大き
く露出させて、怪しげな笑みを浮かべている。
 それはーーあたしのよく知っている人物だった。
 
 「け、桂造じいさんっ!」
 
 「ひょっひょっひょっ、奇遇じゃな、二人とも。元気にしとるかな、ん?」
 あごに生えたヒゲをもしゃもしゃといじりながら、奇妙な笑い声を上げる。
 白木屋桂造(しろきや・けいぞう)。
 対妖狐殲滅機関調査部鑑識課に所属する検視官である。妖狐に殺害された遺
体、妖狐に殺害されたと思われる遺体を調べ、こまかな死亡原因、襲われた妖狐
の種類を割り出す仕事をしている。
 昔は死体解剖医の仕事を行っており、その経験は相当のものだ。現在、死体解
剖医と検視官、双方の仕事をこなす年老いた実力者である。
 また、本部では『セクハラ大好き変態検視官』として名が知れ渡っていて、多
くの女性職員から恐れられている。あたしもまた、その被害者の一人だった。
 「おっ。桂造じいさんじゃねえか。こりゃまた妙なところで会うなぁ」
 と、斬が右手を挙げて声をかける。心なしか、声が嬉しそうだ。
 「おう。斬か。お前も果報者じゃのう。R部隊に所属しているおかげで、この
素晴らしいお尻と一緒にいられるんじゃからな……むう、この肉感がたまらんわ
い、ひょっひょっひょっ」
 「やめんかぁーーーーーっ!!」
 無節操な老人の顔面を思いっきり殴りつける! 桂造じいさんの小さな身体が
宙に舞い、もの凄い音を立てて壁に激突したが、すぐさまむくりと起き上がり、
ひょっひょっと笑った。
 「もう……そんなに顔を真っ赤にして。詩織ちゃんはシャイじゃのう。詩織ち
ゃんの尻が魅力的なのはお世辞じゃなく、純然たる事実じゃぞ? そんなに照れ
なくてもいいぞい」
 「照れてないわよっ! 触るなぁあぁっ!」
 「そおかぁ? たしかにこいつ、尻はでかいかもしんねえけど、おっぱいねえじゃん。あと色気」
 「ひょっひょっひょっ、斬はまだ青いのう。背中から腰にかけてのラインにボ
リュームたっぷりの肉感。他じゃめったにお目にかかれん一級品じゃぞ? まあ
確かにそのぶんおっぱいは小さいがの。些細なことじゃ」
 「安産型か?」
 「うむ。見事な安産型じゃ」
 「あ、あんたら、いい加減にしなさいよ……」
 耐え難い屈辱とセクハラだった。
 「で、じいさん。病院なんかでなにしてんだ? わざわざ詩織のケツを触るた
めにこんな所に来たワケじゃねえんだろ?」
 「ワシは仕事でこっちにきてたんじゃ。ちょうどいま終わったところでな。こ
れから本部に戻って報告書を作成するところじゃよ」
 「仕事ってーーーーこんなところで?」
 「なんじゃ、詩織ちゃん知らんのか? この病院では妖狐に殺害された遺体の
解剖がよく行われるんじゃよ。ここには妖狐専門の研究棟もあるし、石和研究所
との繋がりも深いから色々と都合がいいんじゃ」
 「へえ……知らなかったわ。それじゃ、桂造じいさんはこの病院、けっこうよく来るワケね?」
 「そうじゃな。妖狐の知識に長けた解剖医は少ないからのう。刑事事件か、妖
狐の事件か、判別がつきにくい場合には司法解剖で呼ばれることは結構あるんじゃよ」
 本来、司法解剖とは刑事訴訟法によるもので、犯罪に関与している疑いのある
遺体を解剖し、殺害原因を割り出すことである。
 司法解剖の前には検視があり、(検視では見て調べるだけで解剖することは一
切無い)この時点で犯罪に関与した遺体か、妖狐絡みの遺体か、あるいはその双
方に該当しない遺体か判別し、それによって、権限が専門の組織に移行するのだが……遺体の腐敗状況や損傷がひどいとき、その判別が困難な場合がごく稀にある。
 その場合、いったん警察機関に権限を委ね、司法解剖を行い、実際の見極めを
するのである。刑事事件であると判断された場合、そのまま権限は警察が維持する。
 妖狐関連の事件であると判断された場合。権限が民間の対妖狐殲滅機関へ移行(シフト)することになっている。
 ……成る程、警察での経験も相当長かったものね、桂造じいさんは。
 妖狐関連の経験も十年を超えているって話だし、ここまで双方の知識に長けた
人物も二人といないはず。
 判断役として、ちょこちょこ呼び出されるのも分かる話だった。
 「で、二人こそ、こんなところでなにをしとるんじゃい?」
 「え?」
 「ワシがここにいるのは今言った理由じゃが……詩織ちゃんと斬が二人で病院
にいるというのはなんか違和感があるぞい。ひょっひょっひょっ、二人で性病に
なることでもやったのかのう」
 「な……なんてこというのよ! んなワケないでしょっっ!」
 「そうだぞ、じいさん! 俺は性病なんてもってねえぞ! 詩織も性病を持つ
ほど男に縁なんかあるわけねえだろ!」
 「論点のずれた話をするなあぁぁぁっ! じいさんと同じで仕事よ、仕事!」
 桂造じいさんは眉を潜め、
 「仕事? 戦闘要員のお前らがなんで病院なんかにくるんじゃい」
 「それは…矢矧に頼まれてーーーーって、ああっ!? 時間!」
 腕につけているリング型の腕時計で時間を見る。
 午後十二時四十六分。約束の時間まで残り十五分を切っている。
 頭がくらり、とした。
 「ど、どうしよう……間に合わない……」
 斬があたしの肩を叩きながら、笑った。
 「あっはっはっ、だから言ったじゃねえか。無理だって。もう今日は諦めて、
ここでナンパに決まりだな。詩織もいっしょにいい女ゲットしようぜ!」
 「だから、病院でナンパするなあぁぁっ! っていうか、なんであたしが女を
ナンパしなくちゃいけないのよ! ああ、と、ともかく、もう一回矢矧に連絡し
て、どのブロックに石和所長がいるのかをーーーー」
 「……石和所長って、ひょっとして、石和生物研究所の所長のことかのう。奴
さんになんか用事でもあるのか?」
 桂造じいさんの言葉に斬は頷き、
 「ああ、矢矧に頼まれて、これから会う約束になっていたんだけどよ。詩織の
バカが詳細聞き忘れて、待ち合わせの場所がわかんねえんだと」
 「うっさいわね! ここじゃ携帯使えないから、外行くわよ、ホラはやく!」
 「いてぇぇぇっ! 髪の毛引っ張るな、コラ! いい加減諦めろって!」
 斬の後ろ髪を引っ張り、無理矢理外に引きずり出そうとしているのを見て、桂
造じいさんが笑う。
 「ひょっひょっひょっ、なんじゃ、そういうことか。それならそうともっと早く言え」
 そう言って、桂造じいさんは外へ向かって歩き出した。
 「詩織ちゃん、こっちじゃ。ワシが案内してやるわい」
 「え? え? ひょっとして……桂造じいさん、石和所長の居場所、知ってるの?」
 桂造じいさんはにやりと笑みを浮かべて、頷いた。
 「当ったり前じゃ。ついさっきまで、ワシは石和所長と仕事をしていたんじゃからな」





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