オホーツク文化の会コミュの宗谷の昔話

宗谷の昔話、つまり宗谷アイヌの昔話、
というのは伝承者が僅かなため滅多にお目にかかれない。

書籍で容易にお目に掛かれるものといえば恐らく、
更科源蔵「アイヌの民話集」『更科源蔵著作集』２　1981　みやま書房
早川　昇｢北蝦夷の山人ばなし、その他」『アイヌの民俗』1977　岩崎美術社
の柏木べん(アイヌ名：ハタアンコイマッ)さんからのみのように思う。

しかし、宗谷アイヌは樺太と北海道をつなぐ、
あるいは北海道とアムール下流域の沿海州をつなぐ
山丹交易において重要な役割を担っていた民族であると私は思う。
最近亡くなられた谷本一之氏も聴き取り調査の中で
樺太アイヌや山丹交易の痕跡を「三角交易圏」という用語を用いて
それを感じていたようである。

谷本一之｢1960年代、古老の歌の記憶―フィールド･ノートの落穂ひろい(?)」『北海道立アイヌ民族文化研究センター研究紀要』第９号　2003
こちらの方からも余力があれば書き出したい。

恐らく、稚内市史などにもいくらかの話がみられるようにも思うのだが、
手元にある資料から色々書いてみたいと。
お見苦しい点もあるだろうが、私の文章力のなさであることをここにお詫びする。

かりんぱに(とらんね)

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[1] mixiユーザー 09月10日 13:38

　ウサギの胆

天気がよいので、ウサギが海岸に出て、
砂丘を駆け下りたりして遊んでいた。

見ると海岸にはたくさんのトドが集まって、
まるで縄をなったように休んでいた。

ウサギはトドをからかってやろうと、砂丘を駆け下りると
ぴょいと、一頭のトドの背中に飛び上がって、
ポンポンと跳ねながら、次から次へと渡って行った。
しかしトドはうるさがらずに、動こうともしなかった。

ウサギはいい気になって、わざと頭を踏みつけたり、くすぐったりしながら、
段々沖の方へ出て行き、一番大きなトドの背中にとびうつった。

するとそれまでじっと寝ていた大トドが、急に沖に向かって泳ぎ出し、
他のトドもいっせいに沖に向かって泳ぎ始めた。

ウサギがビックリしていると、ウサギを乗せた大トドが言った。
「バカな野郎だ、アトゥイコロヘンケ(亀)の妹が病気になって、
　“ウサギの生き胆が効く”と言って探していたので、
　俺が仲間をたくさん連れてこの浜へ探しに行っていたのに、
　うまく引っ掛かったなぁ」

ウサギはしまったと思ったが、
「それはせっかくなのに、気の毒なことをしたな、
　よい薬になる胆は今日は山に乾かしておいたんだ。
　今持っているのは、薬にもならいつまらない胆だよ」

それを聞きトドはがっかりした。
「そうか、それでは駄目だ。　ではもう一度浜へ戻るから、
　山に置いてあるよく効くのを取って来てくれないか」
そういってトドはまた浜に引き返してきた。

ぽんと、トドの背中から陸に下りたウサギは
ぴょんぴょん跳ね上がって、
「ワハハ　ワハハ」
と大口あけて笑って転げまわり、

「大バカ野郎、どこの世界に
　胆を２つも３つも持っているものがあるべ。
　アハハ　アハハ」
とトドを笑ったとさ。

[2] mixiユーザー 09月10日 14:12

　島にされたトド

北の文化神サマイクルの子、ポノサマイクルがいた。

ある日浜へ出てみると、沖の岩に大きなトドが上がっていた。
そこで友人のポノオキキリマと二人で舟の用意をし、
立派なキテ(銛)を立派なオプ(柄)につけ、立派な網をしっかりと結びつけて、
トドの上がっている岩に向かって舟を漕ぎ進め、岩陰から舟を上って、
一番大きいトドに向かって銛を投げつけ、しっかりと両手で綱を握った。

ポノオキキリマも一緒になって綱をおさえていたが、トドは七日七晩も舟と一緒に、
二人の若者を引きずり回し、それでもびくともしない強情な奴。

八日目になって、トドがそっと水に浮んで二人の様子を見ると、
二人とも腹が減って疲れている様子がありありとわかった。
「よし、もう一息だ、今に見てろ」とトドは、またも水深深く潜って西に東に走った。

ポノオキキリマがつい、音を上げた。「とても我慢がならない、綱を切るべ」
しかし、ポノサマイクルは歯をくいしばって、首を横にふった。「負けてたまるものか！」

二人の手は綱が食い込んで血だらけになっていた。
風がビュンビュンと二人の前額にあたり、
激しい波が幾度も頭を飛び越した。
そしてついにあきらめて綱を切った。

そして言った。
「やい、憎いトド、お前はただの人間だと思って、俺たちをひどい目に合わしたが、
今に見ていろ、二、三日もするとお前の身体に突き刺さっている銛の木はサビタだし、綱はイラクサだから、
おまえの身体にサビタやイラクサが茂って重くなり、段々泳ぐこともできなくなり、
そのうちに柄のシュウリが林になってまったく泳げなくなって、
夜昼七日の大時化で、山とよどみの間に流されて、波打ち際に寄り上がり、
腐って山になり、大きくなったサビタやシュウリを刈りに来る男たちや、
イラクサを刈りに来る女たちに小便をかけられ、
くさい目に、ひどい目にあうから見ていろ！」
そう言って舟を降りて山へ行ってしまった。
「何を、たかが人間の言うことが･･･」と鼻先で笑っていると、
二、三日したら、時化がきて、言われた通り浜に寄り上がって腐り、
その上にサビタやシュウリが大きく伸び、イラクサが生え、
それを取りに来る人間に小便をかけられ、情けない目にあった。

だから、人間だと思ってバカにするものでない、とトドが言った。

[3] mixiユーザー 09月10日 16:53

　稚内の抜海岩

稚内から10キロほど離れた、利尻富士を目の前にした日本海岸に、
抜海というところがある。
アイヌ語で「pakkai-pe　子を背負う・もの」という意味で、
ここに子供を背負ったようなパッカイシュマ(子背負い岩)という岩がある。

昔の記録によると、
「バッカイ石と云うもの有。大なる丸き石の上にまた三位ぐらいの丸石有。
ここに七五三（しめ）をはり、エナヲ（イナウ＝木幣）、立て、華表等を立まつる也」
(松浦武四郎『蝦夷日誌』)と神聖な場所であったことが見受けられる。

ここに伝わる伝説は２つある。

昔、ここに非常に仲のよい夫婦があったが、
ふとしたことから夫婦喧嘩をし、
夫は他の女と舟に乗って宗谷海峡の方へ行こうとした。
それを見ていた妻は抜海岩に登って、
天に向かって、海が荒れるように嘆願した。
すると大暴風が起きて、二人の乗った舟が
たちまち波に呑まれて死んでしまった。
それ以来、この岩に登ると、
宗谷海峡が荒れて犠牲者が出ると言われている。

｢アイヌ伝説集」『更科源蔵著作集』１　1981

もう一つはネット上に挙げられている話なので、出所は不明である。

昔、天塩アイヌと宗谷アイヌの間に闘いがあり、
劣勢となった天塩アイヌは、勇猛果敢な礼文アイヌに応援を求めた。
その時、応援に来た礼文アイヌの男子ワカルパと天塩アイヌの少女モナシノウク
とが恋に落ち、子供をもうけた。
その後、ワカルパは礼文が恋しくなり一人で礼文へ帰ってしまう。
残された妻子は、ひたすら夫の帰りを待つが、
やがて悲しみのあまり大きな二つの重ね岩に化身したという。

[4] mixiユーザー 09月16日 17:25

化けそこなったキツネ

あるところに上手に鍋をつくる、シュカラカムイという神様がいた。
毎日“カンルル　カンルル”と金を叩いて、大きな鍋、小さな鍋を作っていた。
大きいのは耳が四つもついた鍋も作れるので、
遠くから近くから、男も女も
シュカラカムイの所へ、鍋を買いに来た。

ところが性悪いキツネがいて、ある日占いをしてみると、
近いうちにシュカラカムイのところに、
サンナイペッ・モイレマッという娘が
嫁に来るということがわかった。

それでキツネは一つ先回りをして、
シュカラカムイの嫁になってやろうと思って、
木原に出かけて行って、樺の木に向かって「アカンベ」すると、
バリバリと木の皮が化けたので、その皮で鞄を作り、
トド松の松脂を取って来てウバユリの団子を作り、
樺の木に出る黒いサルノコシカケを玉にして、
もう一つのウバユリ団子を作って鞄に入れ、
今度はシナノキの所へ行って「アカンベ」をして皮を剝ぎ、
その皮で荷縄を作って鞄を背負い、
すっかり娘のような格好をしてシュカラカムイの所へ行った。

山を越え、原っぱを横切って行くと、
“カンルル　カンルル”と金を叩く音がした。
キツネ娘は静かに、シュカラカムイの家の戸を開けて内に入った。
シュカラカムイが見ると、口が耳元まで裂け、
耳の裏側の黒い娘が、炉の右側に荷物をおろして火を焚きはじめた。

「おやおや、サンナイペッ・モイレマッという女は変なものだなァ」
とシュカラカムイは独り言を言いながら、
相変わらず“カンルル　カンルル”と金を叩いていた。
娘はいい気になって鍋に水を入れて焚火にかけ、
サルノコシカケの火の玉をそれに入れて炊いていると、
股の間から大きな尻尾が見えた。

「不思議なおかみさんだなア。俺のおかみさんは、尻尾が生えているんだなァ」
とシュカラカムイが言ったので、
キツネ娘はばれたと思ってこっそり戸を開けて逃げた。

それから二日ほどして、またこっそり戸を開けて入ってくる女があった。
やはり荷物を右側に置いて火を焚きつけ、
鞄の中から鍋を出し、水を入れて火にかけ、
それから爼板を出して、その上でウバユリ団子を刻んで鍋に入れ、
二人の食べ物を作り、更にお膳とお椀を出してウバユリ粥を盛って
二人で仲良く食べ、幸せに暮らしたという。

[5] mixiユーザー 09月18日 14:21

　シャーマンの縄抜け

アイヌのシャーマンはtuskurと言い、
その術をtusと言う。

柏木べんさんがＮＨＫの録音の調査の際、
更科源蔵氏、谷本一之氏が聴き取ったものである。

これはべんさんが娘時代に見聞したものだそう。

“娘の頃「ヨアシ爺ちゃ」がやったのを聴いて憶えたんだ。
　ヨアシ爺ちゃは宗谷のアイヌだが、昔、殿様がいた頃に、
　運上屋で鍛冶屋の弟子になったと言っていた。ヨアシ爺ち
　ゃがtusをやる時は、戸を閉め部屋を真暗にしてやるんだ。
　ローソク１本の灯でも駄目だと言っていた。始める前に手
　伝の人が、笹を５本束ねた手草を作り、それで炉端を浄め
　てから、ヨアシ爺ちゃの手や足や、体のあっちこっちを縄
　で縛って動けないようにする。更に白いお札をあちらこち
　らに貼っておく。それからtusが始まるんだが、誰も部屋に
　は入れない。爺ちゃは｢abe･huchi(炉の神様)｣に祈ったら、
　炉から｢unarube(オバサン)｣の神さんが上がって来て、爺ち
　ゃを縛っている縄を解いてくれたんだと。その時unarubeの
　神さん(kamuy unarube)が白いお札に片足だけ足跡を残した
　んだが、それは赤ん坊のようにちっちゃかったらしい。
　「終わったよ｣という声がして、外にいた人が部屋の中に入
　ってみると、すっかり縄が解けていたんだとさ。やってる
　最中に口笛吹いたり、うなったりしているが、節つけて言
　っているのは、今から何日したら天気になり、そしたら鰊
　がやって来る。その後時化れば秋味(鮭)が来ると言った占
　いの文句らしい”

谷本一之「1960年代、古老の歌の記憶―フィールドノートの落穂ひろい(?)｣
　　　　『北海道立アイヌ民族文化研究センター研究紀要』９　2003

[7] mixiユーザー 09月21日 13:58

利巧な娘(前編)

女ばかり６人姉妹があった。
ところがその近くの山に「オンカミ･アチャボ」という悪者が住んでおり、
次々娘をさらって食ってしまい、最後に末の娘だけになってしまった。

末娘が１人でいると、山から岩でも踏み砕くような音をさせて、アチャボが出て来た。
娘は消し炭に化けて、炉の中に隠れていた。

「もう一人いたと思ったが、いくら呼んでも出てこないナ」
と同じ事を三度言って、ノッソリと家の中に入ってきて、
ギョロギョロ家の中を見回していたが、やがて消し炭の数を数え始めた。
「おかしい、どうしても一つ多い」
アチャボはなお丹念に調べたので、とうとう娘は見つかって、
大きな背負籠(サラニップ)の中に入れられ、ノッシ、ノッシと山奥へ連れて行かれた。

いくつも低い山高い山を越し、最後の高い山を登ろうとした時、
アチャボは急に小便がしたくなったので、
娘を入れた背負籠を木の枝に掛けて、脇の藪の中に入って用を足そうとしたので、
「臭いから、もっと先に行け」
と娘が叫んだので、仕方なく少し先に行ってしようとすると
「そこでも臭いよ。もっと先に行きな」
アチャボは仕方が無く我慢して、遠くへ行って用を足していると、
その隙に娘は背負籠から飛び出して、そばの大石を籠に入れて、
近くの松の木に隠れていると、やがて帰ってきたアチャボは大石の入った籠を担いで、
「バカに重くなったなァ」
とぶつぶつ言いながら岩屋に帰った。

アチャボは留守をしていた2人の子供に
「娘捕まえてきたから、逃がさないようにしろよ。俺は山さ薪とりに行ってくるから」
そう言って、天井に籠を下げて出て行った。
2人の子供はドンドン火を焚いて、水を入れた鍋をかけ、籠の下の方をあけると、
「ドシーン」と大石が鍋の中に落ちて、鍋の底をぶち抜いてしまった。
ビックリして大騒ぎをしている間に、娘はさっさと家に逃げ帰ってしまった。

[8] mixiユーザー 09月21日 14:13

利巧な娘（中編）

山から薪をとって帰ってきたアチャボはカンカンに怒って、
また山を下って娘を探しに出かけた。

娘は今度は家の柱に化けて隠れていた。
しかし、一本一本柱を数えられ、またまたアチャボに見つかった。
アチャボは背負籠に無理やり入れられて逃げられないように籠の口を結わえられ、
今度は途中で小便もせず、とっとと岩屋に連連行されてしまった。
「今度は大丈夫だ。さァどんどん火を焚いて娘を煮ておけ。
俺は焚木をとりに行ってくるから」
そう言ってアチャポは背負籠を天井に吊し、出て行ってしまった。
娘は籠の中から２人の子供に話しかけた。
娘「この家になにか宝物あるの？」
子供「揺籠(シンタ)があるよ」
娘「なんだ、そんなものだけか」
子供「刀(エムシ)もあるよ」
娘「刀だけかい」
子供「白い玉、黒い玉もあるよ」
娘「その玉なんにするの」
子供「逃げる時に、黒いのを投げると暗くなり、白いの投げると明るくなるんだよ」
子供は得意そうに喋った。
娘「そう、でもあんた達舟を持っていないだろ。海へでも、川へでも乗って行ける舟をよ、
私を降ろしてくれたら、その舟を作ってやるんだがなァ」
子供達は娘の話にすっかり乗せられて、舟が欲しいばかりに、
娘を食べることなどすっかり忘れて、娘の入った籠を天井から下ろした。
娘「さぁ大きいのには大きい舟、小さいのには小さい舟を作ってやるよ。
だから揺籠の上に２人して立ってごらん」
子供は娘の言うとおりに揺籠の上に立ったところ、
娘はいきなり刀を抜いてスポスポと首を切ってしまい、
その肉を小さく切って鍋に入れてグツグツと煮て、
子供の首だけを串に刺して、寝たように並べ、
白と黒の玉の宝物を持って外に出ると、アチャポの帰って来るのが見えたので
草むらの中に隠れて様子を見ていた。

[9] mixiユーザー 09月21日 14:24

利巧な娘(後編)

オンカミ･アチャボは、ドシーンと薪をおろして、
「やアやア腹減った。おや、んまい匂いがする。娘がんまそうに煮えているな。
おやおやこの野郎ども、腹一杯食って寝ているわい。
ん、これはうまい、とても柔らかい肉だ」
散々食べて腹一杯になったアチャボは子供達の寝ているところに行って、
首だけで子供達の身体が無いので、ビックリ仰天。

大雨のような涙を流して泣きながら、
憎い憎い娘の後を風のように、嵐のようにたけり狂って追いかけた。

娘はアチャポが乗って空を駆ける揺籠に乗って逃げたが、
風のように追いかけてくるアチャボは、たちまち揺籠に追い付き、
今にも揺籠に手が届きそうになった。

娘は必死になって刀を抜くなり、揺籠にかけたアチャポの片手を切り落とした。
片手になったアチャポは、もう一方の手を伸ばすと、これもスポリと切られた。
両手を失ったアチャボは、それでもひるまず大口を開けてなおも追ってくるので、
娘は黒い玉を取り出して後ろへ投げると、後ろは真っ暗闇になり、
アチャボは何も見ることができなくなった。

娘は自分の行く先に向かって、白い玉を投げ、光り輝く中をドンドンと逃げた。
やっと暗闇の中を抜け出したアチャボは、娘の揺り籠を見つけると、
またも執拗に追い迫り、ガブリと揺籠に噛み付いたが、
娘は振り返りざま刀でそれをなぎ振ったので、
さすがのアチャポも首がとんで、
雷が遠く去って行くような音をたてて、地獄の方へ転がって行った。

娘は姉達の仇をとり、アチャボの空を飛ぶ揺籠だとか、
刀を宝物にして一生楽に一人暮らしたという。
この利巧な娘の名はシンナイペッ･モイレパマッというのだ。

[10] mixiユーザー 09月21日 15:26

五弦琴(トンコリ)の化物

昔昔の大昔、遠い村に若い半神人(ヤイレスプ)がいた。
それから木ばかり生えている山に、チリキヤフンクフという老神が住んでいたが、
その屋根の下の棟に銀色、上の棟に金色の、夫婦の鳥が守神として止まっていた。

ある日老神が、何となく気がかりになり、浜に出てみると、遠くの村に化物が来て
「俺はどこから生まれたのか、その素性を知らせろ」と言って、
それに答えられないと、村々を荒らしながら、来ているということが分かった。
そこで老神は大急ぎで、
低い木はその枝の上をまたぎ、高い木は枝を身体でなぎ倒して歩くので、
柔かい枝は折れて小鳥のように飛び散り、高い木々は大風に揺れるように騒いだ。
そこで大股に歩き、小股に歩いて浜に出て沖を見ていると、
沖合いが血煙のように赤い靄が渦巻いている。
それを見て自分の家に帰り、棟に頣を乗せて考えていると、金と銀の鳥が、
何かに怯えるように、バタバタと羽ばたいて騒いでいた。
そこで老神は、若いヤイレスプに夢を見せ、
「明日になると、お前の村にも化物がやって来るから、私の言うとおりにするんだよ、
　そうでないと、お前の村も全滅になるぞ」
と言って何事かをヤイレスプに教えた。

朝になってヤイレスプは、不思議な夢のことを思い出して、自分でも浜にでてみると、
沖の方から血色の霞が巻きながら浜にあがってきた。
それを見ながら若いヤイレスプは、どうして自分の村を救うかと考えていると、
やがて霞の中から大きな船が岸に着き、そこから２人の男が陸に上がり、いきなり挨拶もせずに、ヤイレスプの家の戸をあけて入り、まるで昔から知っている者のように振舞って、客座にドッカリと座った。
「俺達はどういうものから生まれたか、お前知っているか」
「お前達は神様だろうが、私は人間だ。しかし神様のお前達だって、俺がどういう先祖から生まれたかわかるか、わかるまい。だが俺は人間だがお前達のことは知っている。お前達は五弦琴(トンコリ)から生まれたんだ。わかったか」
すると忽然と２人の男の姿が消え、
今まで座っていたところに古い五弦琴が二つ転がっていたので、
ヤイレスプはそれを斧で粉々に砕き、それを草という草、木という木にばら撒いて自分の村を助けたと。
だから家を空き家にする時は、五弦琴などは置いてくるものではない。

[11] mixiユーザー 09月24日 13:10

　ノブクン･グルに関する口伝(前編)

昔の昔の大昔、ノブクン･グルというお方が宗谷に住んでおられた。
その名から考えてみて、
このお方はどうも高い山(ノブク)におる(ウン)の神(クル)か
山人だろうという気がしてならない。
でもその高い山が宗谷岳だとまでははっきり伝えられていない。
穴居しておられたという。

このお方のお背が低かった事ったら、
ご自身、鮭を尾づかみで持ち上げるにしても、
肩の高さまでお腕を上げねば、魚の口が土を離れぬ程だった。

ノブクン･グルはしかし、一般の同族人(ウタリ)には、そのお姿の全部を示されぬとされたようだ。
その事は次の手入墨(テケ･ヌエ)の起源に関して伝えられている所によってもお解かり頂けようと思う。

ノブクン･グルじゃ時たまだが、
夜明けに部落(コタン)の家々を回り歩いて、
恐らくはご自分が取られたであろうお魚を、
手ずから部落民の家々に恵んで歩かれたそうだが、
その時も戸口をちょっこり開けて、お手を屋内に差し入れるだけで、
決してお顔やお姿をお見せになる事はなかったそうだ。

ところが、悪い奴があったもので、
俺こそはノブクン･グル様のお顔なりと見てやれとばかり、
ある朝、お魚を差し入れて下さったその片手をむすと掴むと、
力いっぱい家内に引き入れようとした男があった。
ところが何と！
その片手が抜け外れてしまったのである。
あっと驚く間にもう、ノブクン･グルは行方知れず。
居合わせた皆で残された片腕を見たのだが、
それにはなんと、
手甲から前腕に掛けて、手入墨の輝く美しさ。
宗谷アイヌはそれまで、男も女も入墨(ヌエ)をした事も見た事もなかったので、
驚きはたちまちに口々に伝わり、
女(メノコ)達は喜んで、それに集まり見入った。

そうしてやがて、成女期に達した娘達の間から、ノブクン･グルにあやかって、
その年頃には手入墨(テケヌエ)をしてもらう習わしが始まったという。

[12] mixiユーザー 09月24日 13:24

　ノブクン･グルに関する口伝(後編)

ノブクン･グルは宗谷の地から、
後に樺太のノトロ、あるいは北海道のシレトク(知床)へ
切り上げて行ってしまったという。

しかしその際、ここ第二清浜(柏木べん氏の住まい)から
二里半隔たったトマリ･ナイと言う部落の川に臨んだ山に、
自身の家財をそっくり埋めていった。

その埋めた場所は土が盛り上がっていたのだが、
近昔、和人(シサム)がその一部を掘り崩して、
そこに弁天様の堂を建てた。
その掘り崩しによっては何も見つからなかった。

しかし、もっと深く掘りさえすれば、
きっと、何か、ノブクン･グルの竈道具が出て来ると思うのだ。

[13] mixiユーザー 09月30日 15:57

宗谷地方か天塩地方か悩んだのですがこちらにUPしてみました。

[14] mixiユーザー 09月30日 20:32

ゆうきさん

３で私が書いたものですね。
ネットでしか書かれていなかったので、この動画に感謝します♪

[15] mixiユーザー 10月04日 10:40

熊神のお授けによって霊媒になれた、老刀自の話(１)

以前三人の老婆(フチ)がシオナイ(地名)という山間の小沢へ
ウバユリ(トゥレップ)採りに入った時の事だ。

見ると、そこの叢の中に、熊(キムン･カムイ)が一頭、
のんびりと睡眠(モコル)しているではないか。

三人は驚きはしたものの、フチははやっぱり、フチらしく振舞った。
その二人は目で笑うと、五･六尺にも伸びている葦(サラケ)を横倒しに引っ張って、
その穂先で熊の足裏を突いて、とうとうその熊を目覚めさせてしまって、
その上ではじめて三人揃って逃げ出した。
これは熊が目覚めても、四方をよく見渡してからでないと立ち上がらない事を
彼女等がよく知っていたからである。
ところが、熊は意外な速さで、三人に追い迫った。
そして追いつきざま、１人のフチを激しく嗅ぐや、
その頭(マラット)をぐいと彼女の前に差し出したが、
それを見たこのフチは、あっと驚いてしまった。
というのは、その頭がダニ(バラケ)の巣みたいだったからである。
思わず知らず、カムイと呼び慣れている熊に向かって、
「カムイ！ポロンノ･アン！(｢神様！(ダニが)たくさんおります！｣)」
と口走るともう、何としてもこの神から、
ダニを取り除いて差し上げにゃならぬ、と決心したものだった。

[16] mixiユーザー 10月04日 10:55

熊神のお授けによって霊媒になれた、老刀自の話(２)

(話の続き)もっとも彼女に、熊に対する畏怖が無かったのではなかろう。
だが、その(時流れてきた)涙は、ただそれによるだけとは思えぬものだった。
泣きながら泣きながらに、彼女は熊の頭から、
群がるダニを一匹残さず摘まみ捨ててやるのだった。

熊はそうしてくれるフチに身を寄せながら、
しばし楽しむように眼を閉じていたが、
やがて眼を開くと、しばしば彼女の匂いを嗅ぎに嗅いだ上で、
三人のフチの視野から離れ去った。

その後のことであるが、右に挙げたダニ除去フチは、
部落の人々の実に深い崇仰をその胸に集め得る、
ヤイコダ･トゥースとして、霊媒の生活に入った。

ヤイコダ･トゥースとは、人の誰を師匠にしたわけでもなく、
キムン･カムイたる熊からの『お授け』(イカオイン･ガラ)によって呪力を得、
その職を営んでいる霊媒(トゥース･クル)のことである。
その呪力は、極めて高く評価されて来た。

[17] mixiユーザー 09月05日 16:08

イフミヌの占い(串原正峰｢夷言俗話｣より)

宗谷アイヌの女性達22人が付近のマスホホ山にウバユリ採りに出掛けた｡
ところがそのうち2人が行方不明になってしまった｡
このうちの1人は首長の妻で､首長は幕府の役人を案内してカラフトへ出掛けて留守だっただけに心配が大きくなり､大騒ぎになった｡
捜索隊を編成して山中を探したが､見つけ出すことができなかった｡

集落にイフミヌという占いのうまい老婆がいた｡
老婆は宗谷場所で働いているケプチカという青年の母親だった｡
途方に暮れた人々はこの老婆に占ってもらったところ､
「行方不明の2人は今のところ熊にも襲われず無事にいる」と言い､
「今も山の上を歩いていて､捜索隊が探している場所はふもとに近いからそのうちに出会って無事に連れて帰れるはずだ」と述べた｡
捜索隊はまた2人を探して歩いたところ､占いに少しの狂いもなく､3日後､山の八合目辺りで道に迷った2人を発見､集落へ連れ帰った｡

イフミヌに占った時の様子を質したところ､彼女は不思議な話をした｡
老婆が真夜中に神経を集中させると､自分の身体が山に変化する(この場合マスホホ山)｡
その背中辺りを迷った2人がカサカサと足音をたてながら歩いていき､次第に頭の方へ登っていってやがて頭を越え､顔を下へと下って行く｡
これと反対に膝の方から捜索隊の足音がして身体の上の方へ登っていく｡
この双方の足音の進み具合や速度を比べてみると出会うのは自分の目の辺り､山にすれば八合目辺りに違いない､と判断したという｡
人々は老婆の占いの凄さに舌を巻いた｡

イフミヌはまた､宗谷通いの弁財船が沖に現れる日や､宗谷地方の沿岸にニシンが群来る日をことごとく言い当てたというが､それがいずれも身体が山になったり､海になったりしてその動向がわかるというのであった｡

当時はどこでも占い師がいたようだが､その占いぶりが記されているのはごく少ないし､身体で占うという記述は極めて珍しかった｡

[19] mixiユーザー 09月11日 21:25

コロポックル(『稚内市の文化財　総合編』等)

その昔宗谷に小人がいた(泊内､声問､宗谷､抜海に伝えられている)｡
住居は明らかでなく､他種族と接するのをひどく嫌う風があった｡
極めて敏捷であって､全くその容貌を認めることができなかった｡
しかしアイヌの窓下､家の入口に来ては魚･薪を与え､時には物品を交換することもあった｡
天明の大飢饉の折も餓死寸前になったアイヌの家に夜ごと食糧を投げ込んでくれた｡

ある夜､アイヌがその小人の手を取って無理に屋内に引き入れてみた｡
すると､１ｍ位の素裸の女子で､小児子どものような声を発し､
髪はざんばら頭で､口や手首の周りに入墨があったという｡
(アイヌが手と口に入墨をするのは､小人から習ったものだという)

姿を見られた小人は､それからいずこともなく消えていって､
樺太方面へでも渡ったものか､再び姿を見ることがなかった｡

蕗の下の人(コロポックル)と名付けられ､今は伝説となっている｡
コロポックルは他にも宗谷において｢サマエクル｣とも呼ばれた｡

住居についてはこうも伝えられている｡
・竪穴を作り､屋根に土をかけ､その上を蕗の葉で覆っていた｡
・自分達の種族の安穏を期するため､土を運んで土手をつくり､
小山のようなチャシ(砦)を作った(泊内のチルラトイ)｡

[20] mixiユーザー 12月05日 23:47

利尻富士の怪

昔、元気のいい一人の宗谷アイヌが、利尻富士に登ろうとして何日分かの食料を用意して、ようやく頂上の沼のところまで登ることができたが、登山の途中、谷間や峰の方から色々な不思議な獣が現れ、中には顔が人間で身体が獣であるものや、虎のようなものまで現れたが、やっと頂上の沼に達すると、沼には波を起こして動くものがあり、しばらくしてそれが水面に飛び上がると、急に大暴風雨になり、顔も向けることができないほどなので、やっと木の根や岩角にすがって難を逃れて帰ることができたという。

原文：「松前随商録」
更科源蔵「アイヌ伝説集」

[21] mixiユーザー 10月30日 13:24

サメにまつわる事

・ナマコなどをたりに海に行くときは、弁当に梅干しを入れて行くとサメは梅干しが好きなので近くに寄って来るから、サメの嫌いな生味噌を持って行くように言われた。
→近年になってからの話か。
・熊送りのとき熊に供える油飯には、サメの油を入れたものを供えてはいけない。
→理由はよくわからない（熊送りに油飯が作られていた事が判る）。

ニシンにまつわる事

・神憑き（トゥス）をする者は、ササを五本ずつ束ねた手草を炉の周りに飾ってニシンの来る日数（群来や数か）を占ったりした。
・子供はニシンの乾かした頭を口に当てて、「コイセ　トゥトゥ、コイセ　トゥトゥ」といってキジバトの鳴真似をして遊んだ。

アカエイ

稚内の声問の沼の主はアカエイで、ある年コタンに食糧が無くなった時、沼の上にアカエイが腹を上にして浮かび、腹の中の脂肪を村の長老に授けてくれた。この脂肪によって食糧難を免れることができたので、長老はそれを貰った後に木を削った木幣（イナウ）をどっさりつめてお礼をした。

タラバガニ

私は姉と二人で暮らしていたが、私が山からヤブマメを掘って来て煮ると、姉は美味しいところをヤマブドウとコクワと一緒に膳に入れ、それを二つ作って毎日どこかへ出掛けて行っては、カラにして戻って来た。一体どこに行くのだろうと後をつけて行ってみると、海岸の岩磯の深みに棚があって、そこへ姉はお膳をあげると「テンテコ　テンテコ」といって踊り始めた。すると沖の方から大きなタラバガニが泳いで来た。そして「サンタクルーツ　クルーツマッ、サンタクルーツ　クルーツマッ」といって、海岸に上がってブルブルと身震いすると、急に金髪で金の眉毛とまつ毛をした立派な金色の神人（カムイニシパ）になった。姉は持って行ったご馳走を一緒に仲良く食べてから、神人に「頭のシラミを見てあげよう」といった。神人は「何だか今日は気分が落ち着かないから早く帰る」といって浜に出ると身体を震わせ、また元の大きなタラバガニになった。そして「サンタクルーツ　クルーツマッ、サンタクルーツ　クルーツマッ］と言ってお気に帰って行った。

『コタン生物記Ⅱ　野獣・海獣・魚族篇』更科源蔵・更科光

[22] mixiユーザー 11月08日 13:51

ガン（雁）にまつわる事

宗谷地方ではガンが弓なりの列をつくって飛んで来ると鮭が豊漁であり、列をつくらずにやって来ると漁が薄い（少ない）といってガッカリしたという。

カモメにまつわる事

カピウは大きくて灰色の汚い色のカモメ、マシは小さくてきれいなカモメだという。
また珊内（宗谷の字）というところの島（日本名弁天島）は、マシがたくさん止まるので「マシソ（カモメの床）」と呼んだところである。
※珊内の弁天島
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%81%E5%A4%A9%E5%B3%B6_(%E7%A8%9A%E5%86%85%E5%B8%82)
現在の日本最北端（宗谷岬より北端）

[23] mixiユーザー 11月08日 16:12

追記：隣にも平島という小島がありました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E5%B3%B6_(%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93)
この話だとどちらの島を指したのかちょっと不明です。

弁天島は地元漁師からは「とど島」とも呼ばれたもようです。

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