§「Do the Right Thing for the Right Reason (そうすることが正しい、だから正しい行いをする)」
3月11日の大地震、大津波から、二週間が経ちました。ニュースを見る自分の目を疑うほどの災害に、ほとんどの人が大きなショックを受けました。そして今も、被災した人たちの状況、被災地の様子、そして福島第一原子力発電所の事故の進展状況が新聞やニュースで伝えられ続けています。 教会にも、多くの人たちから励ましのお便りをいただきました。未曾有の災害ですが、今回は人々が今自分たちにできることを懸命に考え、行動することを望んでいることを強く思います。アラブ諸国からはじまったジャスミン革命でも、インターネットを使ったネットワークが人々を支えましたが、この災害でも、人々がネットワークを通じて経験や思い、情報を伝えあっていることを感じます。手を差し伸べ合い、希望を語り合い、祈り合い、募金をしたり、援助物資を送ったりすることで、この危機を共に乗り越えようとしています。 この地震のちょうど一週間前まで、こじらせていた副鼻腔炎の手術の為、入院していました。その時、マイケル・サンデルの Justice -What’s the Right Thing to Do?(日本語版:これからの「正義」の話しをしよう)を通して、イマニュエル・カントの哲学を勉強していました。カントは、人々の行動が道徳的に正しいかどうかは、その行動がもたらす結果とは関係なく、その行動が正しいから、そうせずにはいられない、 そうすることが正しい、だから正しい行いをする、という動機にかかっている、と主張しています。 わかりやすく言えば、そうしないと先生に怒られるから、ちゃんとやりなさいよ、というのは、その「ちゃんとやる」ことそのものを望むことが動機になっているのではないので、カントに言わせると落第なのです。サンデルは、ニューヨークのBetter Business Bureau(商事改善協会)が会員を集めるために出す新聞広告を例に出して説明します。Honesty is the best policy. / And it’s most profitable, too.(誠実こそが最良の施策/そして、誠実であることは、もっとも利益を生むことにもなるのです。) 前半の「誠実こそが最良の施策」であるために、誠実でいようとすることの動機が、そうすれば儲かる、というのでは、打算に基づく行動だというのです。カリフォルニアでクリスチャンのメッセージ・Tシャツがはやり始めた頃に人気のTシャツがありました。Smile, and people will wonder what you’re up to.(ほほえみなさい、そうすれば、人々はあなたが何に夢中になっているのかなあって思うだろうね) アメリカの教会や宣教師の人たちのお話に、Christian should ~ クリスチャンは、〜するべきだ、というお話が多いなあと感じていた頃でしたので、それに結びついて、心に引っかかっていたのを覚えています。人が、どう思うか、なんて考えないで、神さまの恵みを感じ、生きる喜びを感じ、人間一人ひとりの大切さを感じ取るなら、ほほえんでいたいではないでしょうか。I smile because I want to.(私はほほえむ、だってほほえんでいたいから)、という方がいいですね。 これに対して、映画になるような例は、全然人格者でもない人が、その時の状況で、損得を秤にかけて立ち回っている内に、結果的に素晴らしい行動を取って人々を救う、「シンドラーのリスト」 のような例ですね。神さまの働きは、人の思いを越えている、ということが感動を呼ぶのです。 そして、今度の災害に際して、多くの人たちがその行動の結果どんな見返りがあるかということを考えずに、したいことをする、助けたいから助ける、なんとかして力になりたい、という湧き上がるような思いが満ちあふれています。これは、軍事力よりも、経済力よりも、もっとずっと強い力です。「平和をつくりだす者たちは幸い」であり、「憐れみ深い者たちは幸い」ですね。