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[mixi小説]BLACK OR WHITE?コミュのBLACK OR WHITE? 6〜誰が為に騎士は行く.part13〜

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闘技場に向かう途中、急に腹が痛くなってきた。



嗚呼、闇だ…。例え白の領域であろうと、強い光の下には濃い闇があるのだな…。久しく忘れていたが、わしを体現する真理だ…。



闇は語った。リリムにしか分からない言葉で。彼女にも聞こえるか分からない、微かなかすれ声で。



嗚呼、何たる鬱積であろうか。何と徒然なる日々年月であったか。あまりに膨大なる余暇を潰すも、語り尽くせぬ不平不満を申すも、全ての相手がわし自身であった。

「…何者じゃ、貴様は?」

忘れたと言うのか?今まで長く、これから永い付き合いであろうに!



闇は喉の奥で笑った。
闇の世界に生まれ落ちた、闇の長でさえも、自分ではどうしようもできない闇の巨獣。

姿は見えぬ…いや、ひょっとしたら既に見ているのかもしれぬ。気配があると言うよりも、わらわ自身が気配の中にいるのか…?

「何者じゃ!?王族を前にしてコソコソと!無礼者め!姿を現せ!わらわに平伏せ!!」

辺りを見回しても、そこら中に気配があり過ぎる。気配を消される以上に厄介だ。警戒と身体に入る力、腹痛が次第に強まり、冷たい汗が石造りの地下道に滴り落ちた。



まぁ…そう恐れるでない。わしは貴殿に手を出さん。出したくても出せん。

「………ッ」

ただ、やっと声が出せるようになった。それが我ながら爽快でな…。何ぁに、ほんの式礼だ。堅くならんで良い良い。

「…フン、式礼だけに御挨拶じゃな!!それに加えて臆病者じゃ」

…何だと?

「姿も見せん、名も名乗らん!!これが無礼な臆病者以外の、何だと言うか!?」

………



闇が黙した。返事がある様子もない。松明が爆ぜる音。地下水が染み出す音。腹で何かがのたうつ苦痛だけが残った。

「何だったのじゃ…?」

構うほどのことではない。先を急がねば…。

「…ッ!?」

腹の内側から何かが押し出て来る。正気を保てない苦しみ。両手で腹を押さえながら、リリムは値に伏してしまった。瞳孔は絞られ、口から止めどなく、糸を引くよだれを垂れ流した。

声が…出ぬ…っ!!

小さな腹に心臓を飼っているかのような脈動。外に出ようとする体当たり、体当たり、体当たり…。



力もまだ充分ではないというのに…。しかしながら、姫の御所望とあらば、いた仕方あるまい。



腹を押さえた手を、腹から出て来た何者かの手が、丁寧に払い除けた。

艶のある黒髪、ヤギの如く曲がった角、紅い瞳、耳は先が尖り、笑う口元から覗く牙…。知っているそれと違う所は、文字通り雪のような肌と、黒い目。



馬鹿な…!?これは………!!



「よう、久しいな。わし」



幼いリリムの腹から、大人のリリムが破り出た。歪んだ笑みを押しつけて、幼い方を押し倒す。

「やめろ…!」

長い舌で、顔を舐められた。



「やめろおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」





「なぁ、小悪魔ちゃん…」

先刻、目の前に現れた悪夢から目を覚ます。
リリムを肩車したルチアーノが、地下道を進んでいた。

「俺の頭にしがみついてくれるのは構わねぇ。それに、そのまま震えて脳震とう起こそうが、泣いて俺の髪型をダメにしようが、一向に構わねぇ」

小さな顔が紅潮する。
慌てて彼の頭から手を放し、涙を拭った。

「ばっ…馬鹿者!!誰が泣くか!!それにこれは武者震いじゃ!!」

「どうでも良い、っつの。つーかさぁ…」

松明ではない光。地下闘技場の灯。
リリムを肩から降ろす。と、怪訝な顔で首筋を擦った。



「ココ、妙に湿ってんだけど…まさかお前、漏らした?」



時は凍る。

そして、リリムの満面の笑み。
彼の両太腿を鷲掴みにする。



急所にヘッドバット。

男の時は、凍る。



「オゥあ!?…マイ……シンボ、るゥ……ッ!!」

顔面蒼白。腹の底から、魂の抜けた悶絶の声。男の象徴から脳天に激痛が貫いた。
シンボルをかばいながら地に崩れ落ちるルチアーノ。リリムは容赦なく、彼の前髪を掴み上げると、青筋を浮かべて冷ややかに男を睨んだ。

「今の内に別れの言葉を贈ることじゃな。この次は、シンボルの明日が無いと思え。たわけ」

薄れ逝く意識。焦点を合わせることすら難しい。かすれた視界に見えたのは、闘技場の光の中に消えるリリムの後姿だった。

つ、角が…ジャ、ス………ヒッ…!!

ここで俺、ルチアーノ=イディオクランの記憶は途切れる。次に目覚めるのは、ケツを上げて股間を押さえながら、白目を剥いて泡吹いて失神してるところに第二発見者が来る時だ。
この日を境に、教皇庁七不思議「泣き姫」が「泣き姫の玉遊び」と名を変えることになったのは、また別の話。

じゃあ俺は失神する。てか、させ、…て…。





光を抜けると、地下とは感じさせない、明るく広大な空間だった。
頂が見えないまでに高い天井。ローマのコロッセオを模倣した闘技場。玉座に教皇、客席には五〇数名の見届け人たち。そして中央に対峙するクロードとルナ、そしてミカエル。

一瞬、本物の武者震いが出た。しかし…



み、見るからに出遅れたのじゃ…。クロードに殺される…。

もう一歩がなかなか踏み出せない。



「…ようやくお出ましか」

入り口の影から見え隠れするリリムを逸早く見つけ、ミカエルは呆れ顔で言った。
クロードが振り返る。

「リリム…!」

「お、大物は遅れて来るのじゃ…!!」

笑顔が引きつる。
我ながら、苦しい弁明なのじゃ…。

「リリム!」

対して、駆け寄る彼の笑顔は爽やか。

何じゃ…要らぬ心配じゃったか…。



白と黒の拳銃を抜く。

「泣いて詫びろこのクソがあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

修羅の殺気を振り撒き、笑い狂って突進して来た。

「のじゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

やはりこうなるのかやー!!

入場口へ、脇目も振らずに逃走。

「泣き喚くはクリアだ!!さぁ、詫びろ!!全力で詫びろ!!」



「…騒がしい連中だ。ルナ=エル、貴様も苦労が絶えんな」

「すみません、ミカエル様…いつものことなんで」

影の向こうで銃声が反響している。リリムの叫び声とクロードの怒号。決闘をする空気ではない。
その内、銃声が痛々しく鈍い音に変わる。

…静かになったな。



「おいテメェ、ルチアーノに何しやがった!?」

「ま、待つのじゃコレはッ…!!」

一際鈍い音。骨がきしむ音まで聞こえて来た。
ミカエルらが扉の向こうの光景を知る由もなかった。

「何か…応援する気も萎えたわ…」

客席。同僚であるはずのソフィアでさえも呆れて頭を抱える。溜め息が出た。

「それはそれで結構なことだよ」

丸渕眼鏡をハンカチで拭きながら、メイナード将軍が語る。

「ああ、我々は見届けるだけ。どちらかに肩入れするなど愚の骨頂だ」

つまらなそうな大きいあくびを一つ。エリザベス将軍が付け加える。

ソフィアは返事の代わりに流し目で答えた。





「それで貴様ら…茶番は済んだか?」

「ぢゅ…じゅーびだいぞーばぼじょ…(じゅ…準備体操なのじゃ…)」

三段重ねのタンコブ、目の上に大きなものも付いている。そして鼻血に、ひびの入った角。立っているだけで震えが止まらない。強がっても、今のリリムには一滴の威厳もなかった。

「それで?決闘を申し込んだどこかの間抜けは、この状況をどう始末するつもりだ?」

予定時刻は大幅に過ぎている。この場にいる誰もが暇という訳ではないのだ。クロードたちにとって、ただでさえアウェーだった会場が、更に重く険悪にのしかかる。高みから望む教皇の青い目も、今では冷たい海の色に見える。

おもむろに帽子を取るクロード。



「お許しください猊下ッ!!」

この程度で、騎士になるチャンスが潰れるとは思っていない。

「最早、言い訳になるような字句も御座いませんッ!!」

だけど、騎士になる以上はケジメってのをつけなきゃなんねぇ。

「こうして、頭を下げることしかできませんッ!!」

だったら俺は、頭の一つや二つ…。

「ですから、何卒ッ!!」

砕いてやる!!



地面が赤黒く染まる。何度も何度も、地に頭を叩きつけ、こすりつける土下座。土の味がよくわかった。
誰もが脳の片隅に置いていたが、騎士公申請の方法にしても、執念にしても、どれを取ってもクロード=スティグマンという男は悪魔じみている。

「クロード…貴様…」

ルナがリリムの肩に座る。

「あなたにはあんな態度ばっかりだけど、クロードったら、実は信頼してるのよ?リリムのこと」

「…そうか」

悪い気はせぬ…な。



額からにじむ血液量が増してゆく。

「に…!!」

教皇ヨハンナが血相を変えて席を立った。両脇に控える近衛兵らがたじろぐ。

穏やかな猊下が、こんな大声で…!?

出かかった言葉を呑みこみ、息を整えて、教皇の話が続いた。

「二度と戻るものではありません。時間の浪費は、確かにもっとも避けるべき行為の一つではあります。ですが、咎めても仕方のないことです」



「嗚呼、何て御優しい御心なんだ…」
「尊い御方だ」
「あのような輩でも、御慈悲を賜るとは…」



「クロード=スティグマン。貴方にこれ以上は何も望みません。時間が惜しいです。決闘の準備を進めなさい!」

…そうだ。それでこそ俺の………。

「恐縮に御座いますッ!!」

最後に軽く一突き、頭を地に着けた。
流れ出る血を荒々しく拭い上げ、赤くなった金髪を隠すように帽子を深く被る。影から青い瞳を、対峙する大天使ミカエルに刺す。

「これで良いのか?あぁ?」

「…上等だ」

…気に入らない。



教皇が左の近衛兵に目配せをすると、手にした書簡を広げて読み上げた。

「今回の決闘の見届け人は、規定通り五〇名の騎士公様方と七大天使及びその候補、そしてその契約者の方々が四組で御座います。また、ウリエル様とラムシュタイナー将軍、ラファエル様とルシュド将軍、ラジエル様とゲイル将軍の三組は職務の都合により御出席されいていません。よって、今回は見届け人の御役目を、ヨハンナ八世猊下とミカエル様が兼任なされます」

「分かりました。次をお願いします」

右手の近衛兵が書簡を手にして前に出る。

「今回、試されるのは猊下を御守りできる力量でございます。挑戦者クロード=スティグマンは、護衛対象リリムを決闘終了までに生存させること。ミカエル騎士団長様は、全力でリリムを殲滅するように願います。またこれは、猊下たっての御所望でもあります。決闘の制限時間は三〇分とします。また、この決闘で死者が出たとしても、ヨハンナ八世猊下の名の下に不問となることを御留意願います」

…つまり、クロードが殺されても、誰も文句が言えない。ってことね…。

ソフィアの顔が曇った。心音が不吉に高鳴る。



「以上です。双方、位置に着きなさい!!」

教皇の声で、クロードたちとミカエルが互いに距離を取る。どれだけ離れようと、肌に痺れる殺気と闘気から逃れることはできない。どこであろうと、この闘技場内では互いの間合いなのだ。

「ミカエル!!」

玉座を向く。

「全力で叩き潰しなさい!!」

「…御意」

大剣を右手一本で軽々と構える。一振りの風が、クロードの頬をかすめた。額の傷に染みる。

「クロード=スティグマン!!」

玉座を向く。

「全力で退けなさい!!」

「猊下の御心のままに…」

右手には白銀、左手には黒銀の拳銃。右手のそれは人が扱うには巨大なもの。ヴォーティガーンの銃口は、ミカエルにはどのように見えているのだろうか?



自らの血の臭いが、鉄の味が、闘争心をかきたてる。流れる血は熱く、巡る血は冷たい。



「それでは、始めなさい!!」



ロンギヌスの槍が床を突き、決闘が始まった。





BLACK OR WHITE? 6〜誰が為に騎士は行く.part13〜 part14に続く

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