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[mixi小説]BLACK OR WHITE?コミュのBLACK OR WHITE? 6 〜誰が為に騎士は行く.part9〜

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夢を見ていた。

特別な夢なんかじゃない。空を飛ぶわけでも、空から真っ逆様に落ちる夢でもない。大好物を山ほど食べる様な夢でも、巨大な怪物に一飲みにされる夢でも…。母親や妹の夢でも、父親の夢でも…。

あの日の夜の出来事。正直、夢に出て来るまで忘れていた。それ位にどうでも良い出来事。

思えば、リリムとまともに話をしたのは、あの時が初めてだっけか?

真夜中の森に、焚き火の温もりが一つ。パチパチと火の粉が舞い上がって、満天の星の中に消えて行く。淡い橙色の光とほんの少しの肌寒さが、昔話をしたい気分にさせたのだと思う。隠そうと思えば隠せた身の上だが、その日に限っては話してしまった。

嗚呼、こんな時に見る夢がこんなのかよ。



…こんな時?



今、どんな時だっけ…?



…きろ…


…何だ…?この声は…?


お…だ…


あれ?体中痛ぇ…


「起きろっつってんだよぉお!!まだ、くたばってねぇだろうがよぉお!!」

顔に拳が飛んで来る。その衝撃で、微かにクロードの意識が戻った。目の前にいるのは狂気に満ちた顔。暗闇には違いないが森の中のようではない。ここは?…誰だ、コイツは?

「っ!!」

体中に痛みが駆け巡っている。体の自由が利かない。…まだ頭がクラクラする。朦朧とする中、男は徐々に状況を掴んでいった。

そうか…俺は…



両手両足に打ち込まれた巨大な釘『吸血鬼』。毒が切れたのか、血が固まり始めて出血が止まりつつある。それでも、床を真っ赤に染め上げるだけの血液を失ったのだ。人間は全血液量の二割を急速に失った場合、死に至る事もある。危険な状態には変わらなかった。

更には、所狭しと身体を貫く数十本もの釘。内臓と内臓の間に異物が擦れる感覚が気持ち悪い。中身を傷付けていないとは言え、感覚が受容する痛みはとっくに限界へ達していた。しかも、釘が身体に一本、また一本と刺さる光景を見続けていたのだ。精神的ダメージも計り知れない。

事実、クロードの思考はほぼ止まっているも同然だった。

まず頭に入るのは五感からの刺激。全身を襲う苦痛。拷問室はまるで、血液とアルコール、そしてカビの混合物に満ちた瓶の中の様。色んな臭いが充満して、まるで、それらにどっぷり浸かっている気分だった。光無く、虚ろに開かれたその目に、目の前の狂人じみた笑顔の男が映っている。けたたましい笑い声が、ぼんやりと一枚壁を隔てた様に聞こえた。

それだけである。そこから何も感じる事が、考える事が出来ない。嫌な苦しみ、嫌な臭い、嫌な顔、嫌な声…そう思っていた事も、今や只の事象としてしか分からなかった。傍に立っている鉄の処女と何も違わない。



満身創痍でグッタリとしている男の髪の毛をむんずと掴み、無理矢理に顔を上げさせるペーター=キュルテン。異様なまでの冷静さや狂気に近い無邪気さは既に失い、自制の利かない野獣が脳を支配している。目は血走り、呼吸は荒々しく、痙攣が起こったみたいな笑いを漏らす様は、化物以上に化物らしい。磔になった男の頭を滅茶苦茶に揺さ振って楽しんでいる。

「どぉしたぁあ!?さっきまでの威勢は何処に行ったぁあ!?さぁ、気の利いた台詞を言ってみろよぉお!!これまでみたいに、悪態吐いてみなよぉお!!」

どれだけ挑発しても、何の反応も無い。目に生気は残っておらず、口も半開き。何とも無様でだらしない様だった。それ以前に、彼が身体に触れているのに対して何の抵抗も示さない…。見る見る悦びの熱が冷め、長髪の男は元の冷静さを取り戻した。玩具に向ける目は、これっぽっちも興味を示していない。

「…飽きた」

髪から手を放し、後ろに用意した釘の元へ向かう。縛り付けられた男の頭は、糸の切れた操り人形の様にだらんと下りた。手に取ってのはその中でも一番太い、握り拳程の太さのある釘…これは最早、杭だ。執行人はその黒鉄で出来た杭を丁寧に舐め回した。

「もう少し、楽しめると思ったけど…。やっぱり、人間は壊れ易いなぁ…」

一しきり舐め終わると、死の一歩手前に立つ。左手の杭を彼の胸に、右手の鉄槌を振りかぶった。致命傷を与えるそれの先端が僅かに肉をえぐり、つーっと、なけなしの鮮血を流す。その先にある心臓の鼓動が伝わって来た。死の半歩手前。鉄の処女は何も言わず、何にも動じず、事の行く末を見つめている。

「まぁ、でも楽しかったよ。…好意を以って、バァイバイっ!!」

最期への一撃を振り下した。ここで、彼の何もかもが終わる。終わってしまう。消えそうな意識であるとは言え、さすがに胸に軽く突き刺さった痛みが何を意味するのか、男には分かっていた。

ここに来て、彼は謝り続けていた。神への懺悔ではない。最も身近であった人達への、最期の言葉。



ごめん、エミリー。ごめん、母さん。ごめん、ルナ。ごめん、皆。…ごめん…

おいおい、何で最後に出てくるのがお前なんだよ?リリム…ごめんな。



ザンッ!!



「!?」

鎚が振り下ろされ切る直前だった。爆発音にも似た拷問室の扉が斬り破られる音に、白導の吸血鬼の動きが止まる。振り返ると、分厚い鉄のドアは見事に真っ二つ。断面はまるで業火で焼かれたかの様に赤く熱を帯びていた。

粉塵が舞うその先に人影が二つ。そこから出て来た一つは八枚翼の大天使ミカエル。神の焔を纏った大剣を携えていた。恐らく、彼の一撃がこの頑強な戸を打ち破ったのだろう。刃を執行人に向け、そのまま、後ろのもう一人の為に道をあけた。ブロンドの長髪に、その身の丈よりも大きな槍…

「へぇ、随分と唐突で乱暴でワガママな御登場じゃないか。新しい教皇」

教…皇…?

風前の灯だった彼の意識が。、その言葉に再燃する。重たい頭を辛くも持ち上げると、夢にまで見た清らかな姿がすぐ近くまで来ている。ハッキリしない意識の中では、幻覚が混ざって更に脚色されていた。

しかし、不敬な言葉遣いだ。これは絶対の自信からだろうか?それも、彼女の天使の目には愚かな行為にしか映らない。剣を構え、臨戦態勢に入った。

「ミカエル、ここは私に…」

「…御意」

たった一言で四大天使をなだめる。そうでなければ教皇は務まらない。そこから、手にした槍の先を長髪の男の喉元へ真っ直ぐに向けた。ふざけた態度を取る相手に対し、冷徹な眼差しを送る。

「ペーター=キュルテン…確か、私が即位する前に死刑になった重犯罪者だと聞いていますが…」

「帝国は広いだけじゃない。貴女が思っているほど、底は浅くないのさ」

「えぇ…今日はその事を嫌と言う位、思い知らされました。まだまだ私が教皇として未熟だと言う事なのでしょう。ですが、目の前で不当な扱いを受けている者を見捨てるまでに未熟であるつもりはありません!」

「この男を解放しろ…って?フフフ…こんな脅迫紛いの方法を取るなんて、白導の指導者としてどうなんだろうねぇ?」

顔色一つ変えない…。人の領域から這い出た者の証…その片鱗を見た気がする。自分の置かれた状況を理解しているとは思えなかった。

「分かってますか?この槍は神の御子の命を奪った槍ですよ?只の人間が受けて、無事で済む様な代物ではありませんよ!」

「なら殺せば?造作も無いんだろう?ほら、あと一歩前に出なよ。それで済む」

「…ッ!!」

視線をクロードに向ける。荒くも弱々しい息遣い、開けるのも困難な目、そして彼の血の錆臭さが充満する部屋…。一刻の猶予もならない。だが、彼には辛うじて意識がある。それが問題だった。想いが迷いを生み、迷いが彼女の動きを殺す。

「図に乗るなよ、小童」

とうとうミカエルの剣までが彼の喉を捉えた。動く度に火の粉を振り撒く聖なる刃…ここまで近くにあると、その熱がビリビリと伝わって来る。

「ミカエル…」

「猊下、全てを御背負いになる必要は御座いません。貴女様には私めが付いております。今の内に彼を…」

「…そうですね。ありがとう、ミカエル」

槍を下げ、付き人に微笑み掛ける少女。命を何とも思わない男を睨み付けながら、その横を通った。男はそれに笑顔で応じる。…気持ちが悪い。だが、今はそんな事などどうでも良い。ボロ布の様になるまでいたぶられた彼の元に駆け寄る。身体に刺さった釘、殴られた痕…痛々しい有様に、思わず目を逸らしたくなった。

「こんな…酷い…!」

か細くすすり泣く声がした。見るも無残な彼の頬に手を添える。淡い白の優しい魔力が、癒しの温もりとなって彼女の手から注がれた。

「隙だらけだねぇ…。今なら僕と引き換えに教皇を殺れる」

キュルテンが言うと本気に聞こえるから怖い。教皇の騎士に武器を向けられていながら、よく言えたものだ。

「生憎、私はそれよりも速い」

その挑発に応えるミカエル。真面目過ぎるのが玉に瑕だ。



「なら…試してみるかい!?」

突然、鉄の杭と鉄鎚を振り上げる!



ザザンッ!!

焔の軌跡を残し、愚者の装備を両断。油断と身体の鈍りがあったとはいえ、人間の方は身体が付いて行けなかった。驚く暇も無い。

「もう一つ、これは心ばかりのプレゼントだ」

と、男の長かった髪が、肩から下にバッサリ切れた。これにはもう言葉が出ない。得物を斬られたのは分かった。だが、これは一体いつの間に…?ニヤッと笑い、天使に軽い拍手を送った。

「凄いなぁ!滅茶苦茶に速いなぁ!アハハハハ!」

楽しい遊びを満喫した後の子供の様に、無邪気な笑いを上げる。腹の底から上げる、満足の笑いだ。それを大天使は怪訝な表情で睨み続けた。





目の前で少女が泣いている。彼の名を必死に呼び続けている。吐きそうな位に気持ちの悪い血の臭いはいつしか消えて、懐かしく柔らかい花の様な香りが鼻を優しく喜ばせた。

泣くなよ…。俺は、そんな顔を見たかった訳じゃ…そんな声を聞きたかった訳じゃないんだ…!

頬を包む小さな両手。この暖かさは治癒魔法の心地良さか、彼女自身の体温か…。傷だらけの身体に、清く白い力が駆け巡った。苦痛が身体から抜けて行く様で気持ちが良い…。

畜生…暖けぇ…な……

涙が零れ、彼女の手に伝って落ちた。





…闇。真っ暗だ。

今、自分が立っている場所…町外れの小さな教会だ。俺が燃えカスだから、皆が虐めるから…。母さんがいなくなって、何処にも行く当てが無くて、あいつに連れられるがままに、ここに来たんだ。それは分かる。だけど、そこ以外は真っ暗で、教会は昼間な筈なのに太陽も見えない。夜空よりも真っ暗だ。

ガキの時の俺がいる。そこの神父と手を繋いでいる。この人の事はそんなに嫌いじゃない。だけど、あの時だけは大嫌いだった。

「少年、強くなれ」

目の前には、ローブを身に纏った天使がいた。剣を腰に、右手に大きな槍を持っている。小さな女の子と手を繋いでいた。うつむいて、悲しげな表情。こっちに視線を合わせようとしていないけど、くりくりとした目が潤んでいるのが分かった。…小さな時のエミリーだ。

何で泣いてんだよ?そいつ誰だよ?

何で…こっちにいないんだよ?

「登って、登って、登り詰めて、ここまで来い!そして、私に勝て!私よりも上を目指せ!その為にも強くなるんだ!」

何言ってんの?意味分かんねぇ…。

その言葉を最後に、天使と妹は行ってしまった。振り返って、真っ暗の中に、どんどん、どんどん、どんどん…

「ま、待てよ!!」

それを追い駆けようとした。追い駆けようとしたのに、クソ神父が俺の手を放そうとしやがらない。それどころか、もっと強く握ってきやがった。

「畜生!!放せよ、この野郎!!」

そうしてる間にも、天使は妹を連れて真っ暗な中に消えて行く…。

「待て!!待ってくれ!!…!!」





「エミリーっ!!」

「ブホぅッ!?」



「…ハァ、ハァ…ハァ…」

呼吸を整えるクロード。…教会じゃない。何故かベッドの中にいる。両手を見ると、ガッチリとギプスで固定されていた。それだけじゃない。点滴の針が挿入されてあるし、全身包帯だらけで、両足にもギプスがはめられている。清潔感のある部屋。白い天井と壁。だが、それ故に味気無い。

病院か…?何で病院なんかに…?

次第に記憶が再生されてきた。異端審問、拷問室で殺されそうになった事…教皇に助けられた事。

そうか…。俺、助かったのか…。

両手で頭を抱える…が、ギプスが邪魔で変な格好になってしまっている。良かった…。安堵にゆっくりと崩れ落ちる。湿っぽい…?見ると、シーツに橙色の粒々が散乱している。

…何だ、これ?

「え、エミリーなどではない。わらわはリリムじゃ!」

声の方に目を遣る。部屋の白さに似合わない黒い服を着た悪魔が一匹いた。見舞いの品だろうか、フルーツバスケットが傍にある。そこからオレンジを取り出して、皮を剥いていた。

「リリム…」

「全く、世話の焼ける奴じゃ。わらわがおらなんだら、貴様、助からなかったんじゃぞ?一つ貸しじゃな!きゃはは!」

「そうか…」

「クロード!!」

彼の声を聞きつけて、ベッド脇に吊るしてあったランタンからルナが出て来た。喜びのあまり、怪我人の顔面に飛び込んでしっかりと抱き締めた。

「もうっ!!心配したじゃないの!!貴方、三日もずっと寝てたのよ!?…もう、二度と目を覚まさないんじゃないかって…私、何も出来ないから…ッ!!」

むせび泣く小さな天使。大切な人が長い眠りの淵から帰って来た嬉しさと言ったら、比べる事など不可能であろう。心が揺さ振られて、その振動が涙腺を刺激して仕方が無い…

「…感動するのは良いけどさ…、邪魔…」

「え…あぁッ!?ごっ、ごめんなさい!私ったら…」

小悪魔がそれを見て笑い出した。それに釣られて、思わず二人からも笑いが零れる。何でもない事だが、こうして笑っていられるのが奇跡で、幸せだと感じた。

「で…何か言う事があるのではないか?」

一しきり笑い終わった後、剥き終わったオレンジを一つ、口に運んだ。モッキュモッキュと、瑞々しい甘酸っぱさを堪能している。何とも無邪気で幸せそうな顔だ…。

「あぁ、今回は助かった。ありが…」

ん?オレンジ?

「なぁ、お前…気になってたんだけどシーツのこれって…」

「あっ!?」

リリムの様子がおかしい。慌てふためいて、何か必死に言い訳を探している。この様子からバレバレなのだが。…そう言えば、目が覚めた時に「ブホぅッ!?」って…。

「こ、これは貴様が悪いのじゃ!!突然、大きな声を出すから驚いたのじゃ!!断じてわらわの所為ではないからのぅ!!」

「……テメェ」

クロードの怪しい眼光!歪みの無い笑みが恐ろしい…。

「ひっ!!」



―対魔導災害駆逐部隊庁舎、バートン=バナー小隊室

この部署は相変わらずやかましい。舞い込む任務、報告書の数々…てんやわんやも良いところだ。誰かがぶつかり合ってもおかしくない状況で、誰も衝突しない…慣れであろう。いつもと変わらない風景。唯一つ違うのは、クロードの席にリリムの影がいる事だ。

「小悪魔ちゃんからは今日も連絡無し…か」

頬杖を突いて、ルチアーノがつまらなさそうに影を見つめる。目の前には始末書の山。同僚を救い出す為とは言え、やりたい放題やった罰である。憲兵隊に情報部隊…たった二つの部隊からこれだけ出されると嫌になった。

「こぉーら!あんたはそれより始末書を仕上げなさいよ!」

ソフィアが爽やかな笑顔で、彼の肩をポンと叩いて励ました。ここ最近、彼女は妙に上機嫌である。この忙しさの中では気に留める者なんて誰もいない。が、毎日毎日、何かしらの形でちょっかいを出されている人間は例外である。

「お前、そう言うけどさ…。これ全部書く俺の身にもなってくれよぉー」

「それはあんたが悪いんでしょ!隊を出た上にこれだけやっといて、二等兵で復隊出来ただけでもラッキーなんだからね!贅沢言わない!」

「へいへ〜い…」

ぶーぶー文句を垂れながら、幸運の男はペンを手に取った。

「ブホぅッ!!」

突然、何かを吐き出す様な、あるいは吹き出す様な声が響く。その部屋に不似合いな音の方向へ、一同の顔が向いた。悪魔の影である。凍り付く時間。隊長を始め、皆が息を呑んだ。

「皆の者…」



「…」



「クロードが目を覚ましたぞ!」

瞬間、小隊室は歓声に沸き上がった!肩を組み合う者、ハイタッチをする者、ガッツポーズをする者…小さな部屋の中が、一種の大きな祭の状態だ。特に仲の良い二人の喜び様なんて、この中でも一番と二番を独占している。



ルチアーノの場合…

「やりましたよ、隊長!!これで万事解決万々歳っすよ!!」

「あぁ、そうだなルチアーノ!!」

「こりゃ、隊を挙げてお祝いー…とか!?」

上官が上機嫌なのを確認し、自分の欲望を解放する姑息な男…それが彼である。

「あぁ、良いぞ!!」

「勿論、無礼講で!!」

ここで一気に加速をつける!

「良いぞぉ!!」

「始末書と俺の階級も何とか!!」

本命!!

「駄目だ!!」

「そんなぁーッ!!!!」



ソフィアの場合…

「やったね!リリムちゃん、やったねッ!!」

薄っぺらい影と両手を合わせて、乙女の様な喜び方をする。これで完璧だ!元通りのバートン=バナー小隊だ!とても嬉しそうなはしゃぎ様に、ついつい悪魔の方は踏ん反り返った態度を取ってしまった。

「きゃはは!これも一重にわらわの活躍があっての事じゃ!敬うが良いぞ!!」

「そうねッ!今度、オレンジいっぱい買ってあげるッ♪」

「おぉ!!お主、大好きじゃ!!」

そもそもの原因って悪魔だよな…?
と、突っ込もうとしたルチアーノだが、その後の展開を考えて、その台詞を飲み込んだ。リリムを抱き上げて、楽しそうにくるくる回ってる彼女を見ていると、そう言うのがはばかられる。
…泣きっ面に蜂、って言うし。

…ていうか、実体無いのにどうやって持ってんだソフィアは?



「ひっ!!」

影の様子がおかしい。情けない声を上げたかと思うと、元々悪い顔色が、更に黒く青くなった。ガタガタ震えている…。回転を止めて、心配そうにソフィアは声を掛けた。

「リ…リリムちゃん?どうしたの?…回るの、速かった?」

「…」

「リリムちゃん…?」

「ぎゃあああぁぁぁーッ!!!!」

「きゃあぁーッ!!」

突然暴れ出す悪魔の影。室内を所狭しと、縦横無尽にコミカルに駆け回る…漫画のキャラクターの様だ。実体が無いというのは助かる。どれだけ暴れ回っても、部屋の装いに傷一つ付かない。

「だ…誰か来てたもれーッ!!」

「おい、どうしたんだ?小悪魔ちゃん」

「クロードに殺されるぅーッ!!うぎゃあああぁぁぁーッ!!尻尾は…尻尾はやめてたもれぇーッ!!」

先程の大騒ぎから打って変わって、部屋の中が静まり返る。

心配して損した…。何だ、元気じゃないか…。…だけど、良かったよな?ある意味、こうでなきゃクロードじゃないよね?…

ぽつぽつと沸き起こる笑い声が次第に大きく育って、部屋を丸々占拠するまでになった。そうだ、これが普通だ。いつもの彼だ。こうでもなきゃ、待ってた甲斐が無い。

笑いを何とかして抑えつつ、大佐が声を張る。

「よし、ソフィアにルチアーノ!見舞いに行ってやれ!」

「了解っす!ハハハッ!!」

「了解!ウフフッ!!」

「つ…角も駄目なのじゃぁーッ!!」

腹がよじれそうだ。お陰で足元が覚束無い。よたよたとドアまで歩み寄り、敬礼を一つ。影と一緒に、衛生部隊属帝国立大病院へ向かった。

「貴様らも、いつまでも笑ってないで仕事に戻れぇ!!」

「サー、イエス、サー!!」





BLACK OR WHITE? 6〜誰が為に騎士は行く.part9〜 part10に続く

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