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チャンの小説コミュの間違いメール、ありがとう

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☆ 登場人物

 加藤りえ(20)……主人公。大学二年生
 
 小西俊行(18)……間違いメールの彼
 
 宮地ヒカル(20)……主人公の友人
 
 星野由佳里(20)……俊行が恋をした女性



 主人公、加藤りえのメールに間違いメールが届い
 たことから始まる、ちょっと不思議な恋愛小説


コメント(38)

一章
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「好き」って言葉ってさあ、「女子」って書くからこの漢字を考えた人はきっと男の人で、
「恋は男性が女性を好きになって初めて始まる」なんていうカッコいいこと思って考えたのかもしれないね。



私も女だから恋は好きになるよりも好きになってほしいっていう気持ちの方が強いかな。
 


でも、私は生まれてから今まで、人を好きになったことはたくさんあるけれど、振られたこともたくさんあるけれど、好きになられたことはまだない。


この顔で生まれてきたんだから仕方ないっていうのはわかっている。


けれど、同い年の周りの子たちがどんどん彼氏を作っていくのを見て、焦ったり寂しかったりする。


ああ、ドラマみたいな衝撃的な出会いはないかなあ。

そう夢に思いながらも、また一つ私の恋が終わった。


でも、今回の失恋はちょっとだけラッキーというか、変わったことがあった。



もう朝だった。


今日も朝を迎えた。憂鬱な日々が始まる。


失恋のほぼ一週間の朝はいつもこんな脱力感に襲われる。

何もやりたくない。


だから私は、失恋たばかりの頃は起きて行動するのが嫌で寝ていることが多い。


動く時はご飯を食べるときとお風呂に入る時とテレビを見る時だけだ。あと、トイレも。


そして私はその行動の一つの、テレビを見るという行動をしようと自分のベッドからノッソリと起き上がって居間に行き、テレビをつけた。


テレビ番組はちょうど、ニュース番組をやっていた。ニュース番組を見ていると、あることにひっかかる。


――ただいま入りました情報によりますと、成田空港発、ニューヨークジョンFケネディー空港行きノースイースト167便が、太平洋沿岸に墜落したという情報が入ってきました。日本人の乗客情報や詳しいことは入ってきていませんが、詳しいことが入り次第お知らせいたします――
 


あれ?
 


飛行機事故、ニューヨーク。



「ああ!」

私は慌てて自分の部屋に戻り、勉強机の携帯を取り出す。



「もしもし光?私、私。ニュース見たよね? あれって、私たちが乗るはずだった飛行機だったんじゃない?」



「ええ? ニュース? ごめん。私、たった今帰ってきたところなの。何だって? 飛行機がどうしたって?」


「朝帰りなの? そうそう。ニューヨーク行きの飛行機が落ちたんだって。だからさ……」


「わ、わっ。本当だよ。チャンネルかけてもこのニュースばかり」


宮地光は私に言われて初めてテレビをつけたらしい。


「マジやばいじゃん。こんなことってあるんだね。マジで」
 

光はかなり驚いたらしく、「マジで」を連発していた。



私と光の二人は、大学の友達で今年の夏ニューヨークへ行こうと計画を経てた。


でも、そのニューヨークへ出発する一週間前に私が失恋したため、旅行どころではなくなってキャンセルをしていたのだった。


「へえ。りえがさあ、失恋したから行きたくない。なんて言った時はマジで頭にきたけれどもさあ。まさか、こんなことになるなんてね。今回はりえの失恋に命を救われたわ」


「何よ。その言い方。私が失恋してよかったみたいじゃない」
 


私は、私のピュアな恋を馬鹿にされた気がして、少しムカッとした。


「だからそうだって言ってるでしょ?」



「何でよ。私はねえ、今ものすごい落ち込んでいるの。光にも話したでしょ? 今回はねえ、二人で映画まで見に行ったのよ。それで」


「それで、もう一度二人で遊ぼうとした時に、彼の彼女が一緒についてきたんでしょ?」
 


光が、もうその話は聞き飽きたと言わんばかりに私が話す前に呆れ声で失恋話の続きを話す。


「光もわかるでしょ? 勝手だと思うでしょ? 私が可愛そうだと思うでしょ? それなのにどうしてそんなこと言うのよ」
 

なんだか、自分で話していて悲しくなって涙が出てきた。


「え? 泣いているの? もう。悪かったよ。悲しいね。悲しいね」


「馬鹿にしないでよ。いっそ、あの飛行機に乗って光と一緒に死ねばよかった」


「わかった、わかった。じゃあ、眠いから切るね。じゃあね」
 

光から一方的に電話を切れれた。もっと、聴いてほしいことがあったのに。
 

私は携帯電話を机に放り投げてそのまま、部屋のベッドへダイブした。
 

ああ、本当に死にたい。生きていても仕方ない。
 

私はそう布団の中で呟きながら、一人でいじけていた。
泣き疲れて、私は二度寝してしまったらしい。


窓から外を見ると、外の景色はもうオレンジ色に染まっていた。


眼をこすりながら起き上がって机の携帯の画面で時間を見た。


十七時三十二分。今日は光と電話してあとは寝たという一日だった。

と、脱力感に浸っていると、私の携帯に誰かからメールが届いていることに気が付いた。


光からかな。と思いながら私は早速メールを開いてみると、それは私のアドレス帳に乗っていない見たこともない人からのメールだった。



タイトルには『突然驚かせてすみません。俺は小西俊行というものです』と書いてあった。


小西俊行。


私は大学のクラス、サークル、バイト先、中学、高校の頃の友人。様々な人の名前を頭の中で思い出してみたけれど、この名前は全く思い出せなかった。


誰だかわからないけれど、私は本文を読んでみる。
 


『突然メールしてすみません。僕はあなたと、いつも同じ電車に乗っていてそしていつもあなたのことが綺麗な人だと思いながら見ていました』
 


ええ! 私は初めの文を読んで思わず叫んだ。
 

何これ。何これ。これって告白? うそ? え? 電車の中? 私を見ていた人? しかも、この私が綺麗だなんて。こんなことってあるの? 

誰だろう。誰だろう。
 


私は興奮気味に続きの文を読む。



『それで、あなたは覚えていないかもしれませんが一昨日、あなたは電車を降りる時にハンカチと一緒に名刺を落とされて、僕、気づいてすぐに追いかけようと思ったんですけれども、電車のドア閉まっちゃって』
 

はぁ? 一昨日は私は、ずっと家にいて電車はおろか、外に一歩も出ていないんですけれども。


さらに私は読み進める。

『今、僕はあなたの名刺とハンカチを大切に持っています。で、いつかお時間の空いている時にあなたに直接会ってハンカチと名刺を返したいのですが、どうでしょうか。
 

あの、このメールアドレスは名刺の裏に書いてあるのを見ました。よかったら返事ください。』
 

何このメール。完璧に私のことじゃない。


気持ち悪い。何かの出会いサイトの詐欺メールかなあ。

さっき、一瞬でも興奮した自分が馬鹿みたいだ。
 

私は携帯をズボンのポケットにしまい込み、このメールは無視することに決めた。

夕ご飯を適当に食べて、お風呂に入ってそれで、髪の毛を乾かして寝て、そしてまた朝になった。
 

ああ、また一日が始まるのか。
 

ふと、窓から外を見る。外は日差しが眩しいくらいに射していて今日も晴天そうだった。
 

それなのに、私のテンションは最悪。


昨日、光に電話越しにいっそ飛行機事故で死ねばよかったと言ったことを思い出す。
 

もし、あの飛行機に乗ったら簡単に死ねただろうなあ。
 

そんなことを本気か冗談だか考えながら、私は携帯で今の時刻を見る。
 

十時二十三分。
 


と、デジタル時計が指している下にまたメールが来ているというロゴがついている。
 

メールだ。
私はとりあえず、メールを空けてみる。


すると、またあの夕方に来た変な男からのメールアドレスが書いてある。
 

またこの人? 嫌だなあ。メルアド変えようかなあ。
 

私はそうぶつくさ言いながらも文章を読んでみる。


『どうも、すみません。あの、突然メールをしたので間違いメールとか、いたずらメールとかと勘違いされているのではないかと思って嫌な思いをされているかもしれないと思いましてメールをしました。
 

僕は単純にあなたにハンカチと名刺を返したいだけで決して怪しいものではありません。
 

会ったからと言って、レイプとかしようとかそんな嫌らしいこと考えてないんで』
 

レイプ?
 

その言葉を見て、私は思わず失笑してしまった。
 

普通、そんなこと書くかなあ。余計怪しいよ。
 

私はさらに読み進める。


『だから、ハンカチや名刺がどうでもいいなら返信されなくてもいいんですが、もし、返してもらいたいと思いましたらメールください』
 


ここで文章が終わっている。
 

へえ。
 

どうやら、詐欺メールのようなものではなく純粋に間違いメールらしい。
 

そして送り主は、このメール先の、まあ私になっちゃっているけれども、ハンカチと名刺を会って返したいらしい。

おまけに、この送り主はこのメール先の女性に恋愛感情を持っているようだ。

ハンカチと名刺を人質? みたいにしてメール先の女性と会おうとしているのがバレバレだし。


これはかなりの恋愛下手な男だなと、一回も男性と付き合ったこともない私が偉そうに思ったりする。
 

ここで普通はメールを送らないで放っておくのだが、暇な私はこの送り主の彼にちょっと興味を持った。


私はちょっとふざけてやろうとメールを送り返してみることにした。
 

タイトルは『返信遅れてすみません』と


『ありがとうございます。親切な人ですね。ハンカチと名刺は私も忙しいですし、小西さんもお忙しいと思うので特別大切なものではないので差し上げます』
 

これだけじゃあ、代わりに会うのを断っただけみたいだから


『あの、それよりもせっかくこうやってメールを交わしたんですから、よかったらメル友になりませんか』
 

何ともわざとらしい文章だ。まあ、疑われてもそれはそれでいいか。
 

私は軽い気持ちで送信ボタンを押した。

そして、五分くらい経った頃にメールが届く。

『返信、ありがとうございます。もう、返信がこないって思っていました。そうですか。ハンカチと名刺は返さなくてもいいんですか。もし、迷惑ではなかったら、自宅に届けますけれども』
 

相手は全く疑っていないようだ。でも私の家に来てもらっては困る。


私はメールを読んでいて自然とニヤける。


『それと、メル友にならないかっていう話ですが、本当に僕でいいんですか?もちろん、僕はOKです!』
 

僕はOKです。単純だなあ。もっと疑えよ。この子、絶対セックス下手くそだな。
 

と、処女の私がメールの向こうの彼を馬鹿にする。
 

そして私はまた彼にメールを返した。


『よかった。じゃあ、メル友になりましょうね』
 私はメールを打ちながら笑いが止まらなかった



二章
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あれから、一日中間違いメールの彼と私はメールをした。
 

彼はすっかり私を彼の憧れの女性と勘違いし、私を名刺に書いてあった『星野』という名前で呼ぶようになり、そしてこれも名刺に書いていたらしいが星野さんという人はダンスのインストラクターをしているらしく、インストラクターという設定になった。

そして彼は、自分のことをたくさん私に教えてくれた。
 

彼は十八歳の高校三年生。今大学受験真っ盛り。私の予想した通りに女性とは一回も付き合ったことがなくて、部活動は空手部に所属しているとのことだった。
 

あと、趣味とか好きなアーティストとか、色々なことを聞いたけれどたくさん聞きすぎて全てを覚えていない。

私はすっかり、彼を茶化すことにはまってしまっていた。
 

私は彼を茶化していくうちに徐々に元気になっていくのがわかった。今日は一週間ぶりに大学へ行こうと思った。


「光!」
 

私は学校の教室に入ると、窓側の後ろの方に座る光に手を振った。

光は私の顔を見て、少し驚いた様子だった。


「りえ。もう傷は癒えたの?」


「うん。もう忘れることにした」
 

私はそう言って光の隣に座る。


「あらら、今回の立ち直りは最速だねえ。りえも少しは成長したということか」


「ええ?どういう意味よ」


「いや、何でもない。まあ、りえは顔は可愛いんだし、性格をもうちょっと……いいや。
そのうち彼氏ができるよ。でさあ、話変わるけれども飛行機事故のニュース見た?」
私は被りを振る。昨日は彼とのメールに夢中でテレビは見ていなかった。


「飛行機に乗っていた乗客全員死亡だって。怖いねえ。本当に今回はりえに助けられたよ」


「そうなんだ」と私は興味なさげに受け流しておいた。

飛行機事故なんてこの際どうでもいい。


「それよりもさあ、光は間違いメールって送られてきたことってある?」


ふと私は光に訊いてみた。すると光は眉間に皺を寄せた。


「間違いメール? 出会い系みたいな変なメールは来たことあるけれども、もしかしてりえ、来たとか?」


「いや、そうじゃないよ。ちょっと訊いてみただけ」
 

彼とのメールのやり取りを自慢やろうと思ったが、変態だと思われるのが嫌だったから言うのを辞めた。


「そう。それならいいけれども、もし来ていたら絶対りえなら送り返すと思うから。心配で心配で」


「そんなことあるわけないでしょ」と、光の肩を叩きながら、私はドキッとした。

さすが光。私と二年間付き合っていることはある。


夕方、学校から帰ってくると彼からメールが届いた。今日はこれが初めてのメールだった。


『今日は朝、星野さんと会いませんでしたね。乗る電車を変えたんですか?』
 

そうか。彼は星野さんっていう女性といつも電車の中で会っていたんだもんな。


『ああ、私、転勤したの』
 

とりあえず私はその場しのぎの嘘を考えて送った。でも、もし二人が電車の中で会ったら私が偽者だってすぐにバレるわけだから、彼とのメールもあと多くて二、三日だろうな。


『ああ。そんなんですか。寂しいですね。結構、僕、毎日電車で星野さんの顔を見るのを楽しみにしていたんですよ』
 

彼からすぐにこうメールが送られてきた。

どうも彼の文章を見ていると、友達との付き合いというよりか遠距離恋愛の恋人同士の文章に見えて仕方ない。
 

私の返事を待つ前に、彼からまたメールが送られてくる。


『僕もできることなら星野さんの転勤先を教えてもらって遊びに行きたいんですが、
受験がもうすぐでそういうわけにもいかないんでよね』

受験かあ。
 

今日は十二月五日。二年前、私も受験勉強を頑張ってしていた。
 

あの頃には一生戻りたくはないけれど、あの頃はあの頃でいい思い出だ。


『私も小西君と同じ年のころ、十二月ごろは一番勉強をしていたな。私は馬鹿だったから全然成績も上がらなくて、泣きながら勉強していた気がする。きっと小西君も今、一番つらい時期だと思うんだ。でもね、大学に入ったらたくさん楽しいことが待っているから今はガンバだよ』
 

ガンバだよって、何か何処かのアニメにあったようなセリフ。
 

でも、今彼に送った文章はほとんどが私の経験で本音だった。今の大学生活が楽しいかどうかはわからないけれども。


『ありがとうございます。すごい励まされました。僕は今から塾なんで、メールはまた明日します』 
 

それ以降、彼からメールが届くことはなかった。
 

私は顔はわからないけれども、メールの向こうの彼が何だか可愛いらしく思えてきた。


三章
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二月の上旬、今日は雪が降っていた。


学期末テストも無事終えた私は、寒さをしのぐようにベッドで毛布に包まりながら彼のメールを待っていた。


彼とメールを始めてから約三ヶ月。私の嘘は以外にもバレずに私たちのメールのやり取りは続いていた。


今日は彼の合格発表日。私は昨日から私のことのよう心配でならなかった。

それは私がこの時期、同じように心配な気持ちをしながら合格発表を見に行ったことと重なっているからだと思う。


どうか受かりますように。どうか受かりますように。
そう、私はずっと私の携帯に握りしめて拝んでいた。

すると、携帯の着信音が鳴る。彼からだ。


私は慌ててメールを見る。


『ありました。合格です。合格しました』


「やったあ」と私は思わず叫んでしまった。すぐに、メールを打つ。


『おめでとう。小西君なら大丈夫だと思っていたよ』
 そしてすぐに彼からメールが帰ってくる。


『星野さんのおかげですよ。星野さんが支えてくれたから僕は合格できました』
 

メールの向こうで、なんだか彼が涙を流しながらメールを打っているような気がして、私まで涙が出そうになってきた。


『ねえ、星野さん。僕が合格したご褒美に、僕と会ってくれませんか。勿論、星野さんが忙しかったら僕が星野さんのところまで行くんで』
 

私の返事を待たずに来た彼のメールに、もう少しで出てきそうになっていた涙が引っ込んでしまった。
 

それは無理だよ小西君。だって私は星野さんじゃないもの。
でも、私はこの機会に彼に会ってみたい気もしてきた。


『いいよ。小西君。小西君の家って東京に近い? そうだったら、ハチ公前にじゃあ今週の土曜日十時に集合して遊ぼうか』


そして彼からは勿論のごとく、OKのメールが送られてきた。
どうしよう。


勢いでデートの定番待ち合わせスポットを言ってみたものの、私は星野さんではないしどうすればいいのだろうか。


私はしばらく考えるとあることに気づく。そうか、私は星野さんじゃないんだ。

だから、私は彼の前に姿を現しても彼に気づかれることはない。

そうか、彼の顔だけ拝んであとは急用ができてしまったと言ってドタキャンすればいいんだ。


ちょっと彼には可愛そうだけれども、よし、完璧だ。
私は部屋の中で一人ガッツポーズを作った。

土曜日になった。
四日前に降った雪がまだ降り積もっている渋谷のハチ公前で、私は顔もあったこともない彼を二十分も前から待っていた。


目印は彼の右手に握られた赤いハンカチ。


これは星野さんという人が落としたというハンカチ。それを目印にしようと提案したのはこの赤の他人である私。
 

ハチ公前で待っていて十分くらいした時だった。駅から人混みに紛れながら、なんだか地方から観光で渋谷に来ていかにもそわそわした顔と不慣れな足取りでこっちへ来るスポーツ狩りの青年が現れた。
 

私は彼の顔を見たこともないのに、何故だかすぐに彼だとわかった。

手にはちゃんと赤いハンカチが握られている。
 

彼は私のすぐと隣に立ち、周りをそわそわと見渡している。
 

私は彼に怪しまれないように横目で彼を見た。
 

体格は細めで、細めの黒のジーンズが良く似合う。顔はイケメンじゃないけれども、清楚な顔立ちで素直な青年って感じで結構好感が持てる。
 

私は横からだけじゃつまらないと、人混みに紛れて彼の前を素通りしてみたり、はたまた、遠くから彼を見つめたりした。
 

確かに頼りないような気もするけれども、純粋で真直ぐなのが体全体から出ていてメールの文章で私が予想した通りの彼だった。
 

そうこうしているうちに、約束の十時の時間を十分もオーバーしてしまった。
 

もうそろそろ、教えてあげないと可愛そうだ。


私はもとの彼の右隣に立って益々不安そうな彼をチラリと見ると、携帯をバックから取り出してメールを打った。


『ごめんなさい。私、急な仕事が入っちゃってそっちに行けなくなっちゃった。本当にごめん。今度絶対に時間つくるから』 
 

私がそう送ると、隣の彼が自分のポケットから携帯を取り出す。
 

彼は携帯をしばらく眺めると、「はぁ」とため息をついて携帯で何か少し操作してから駅の方へと歩き始めた。
 

彼が歩く後ろ姿を見つめていると、私の携帯が鳴った。彼からのメールだった。


『そうですか。それは仕方ないですね。また今度』
 

私はその文章を読んでから顔をあげ、彼の姿を探した。
 

しかし、そこにはもう彼の姿はなかった。
家に帰って今日の私はさすがにやりすぎだと私なりに反省した。
 

いくら相手が勝手に間違いメールを送ってきて勝手に勘違いしているからって、相手の気持ちを利用して自分の気まぐれ興味で相手を呼び出すのはちょっとひどかったかもしれない。
 

ああ、このまま彼を勘違いさせたまま、メールを続けるのだろうか。
 

それは無理だということはわかっていた。

いくら、彼が単純な単細胞で私が嘘の天才だとしても嘘というものはいつかはバレる。
 
でも、私は彼とのメールを止めたくはなかった。
 

そう、私はいつの間にかメールの向こうの彼に惚れてしまったのである。あの馬鹿みたいに素直で純粋な彼に。
 

このメールを止めてしまうと、また普通のつまらない日々が始まる気がする。


でも、彼は私のことが好きなわけではない。というより、当たり前だけど私の顔さえも知らない。間違っているだけなんだ。



寂しい。でも、これが現実。
私は居間のソファーに寝転がった。


そして、仰向けになって天井に向かって呟いた。もう少し、私に夢を見させてくださいと。


そんな時に、携帯が鳴る。彼からのメールだった。


『あんた誰だよ』
 
そのメールの冒頭はその言葉から始まった。
 

その言葉に私は、体全身に電流が流れたかのような刺激を受ける。


『テレビをつけてください。あんた、僕をずっと騙していたんですね』
 

メールはそこで終わっている。
 

私はしばし呆然とした後、テレビのスイッチを入れる。
 

テレビはちょうど夕方のニュース番組を放送していた。


画面は仏壇に手を合わせている五十代くらいのおばさんが映し出された。


仏壇には綺麗な顔のしたロングヘアーの女性の写真が飾られていた。

そして、画面下のテロップには『特集、十二月四日、ジャンボ墜落事故。今は亡き星野由佳里さん(二十歳)の願い』と書かれていた。


星野由佳里。


まさか。まさか。


私は画面を食い入るように見た。


その番組は星野さんの半生を追ってくような内容だった。


星野さんは高校を卒業後、好きだったヒップホップダ
ンスを学ぶためアメリカへ留学し、日本へ帰ってきた後はスポーツクラブのダンスインストラクターをしていた。


そして、またアメリカへダンスを学びに行こうとしたその飛行機で、あの飛行機事故にあってこの亡くなったという話だった。


夢はプロのダンサーとして活躍することだったと、その星野さんのお母さんが涙ながらに語っていた。
 

嘘。こんなのって、あるの? しかもあの飛行機での事故で……。
 

私はあまりに衝撃的すぎて涙も出てこなかった。
 

そんな私に彼からメールが来る。


『見ましたか? あなた、何が面白くて僕とメールしていたんですか? あなたは何を考えているんですか?……』



後にも、二、三行文字が続いていたようだった。


でも、私はそれ以降の文章は読まなかった。読むことができなかった。

四章
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遊び半分でやっただけだった。
 

失恋したばかりで、寂しくてちょっとふざけてみただけだった。
 

誰かを傷つけるつもりなんかなかった。

むしろ、彼、小西君には最初は馬鹿にしていたけれどもメールをしていくうちに本気で小西君の幸せを願っていったし、彼を本気で愛しもした。
 

見ましたか? あなた、何が面白くて僕とメールしていたんですか?
 

あの文章を見て初めて結果的に私は彼を欺き、彼の恋を踏みにじることになったとわかった。

恋を踏みにじられた辛さは人一番わかっていたはずなのに。


きっと、いや絶対に彼は私を憎んでいるだろう。
 

そして彼を欺くと同時に、私は星野由佳里さんという女性も貶した。
 

まさか、あの飛行機事故で死んでいたとは思いもよらなかった。

でも、これで私と小西君の間違いメールが長く続いた理由も説明が簡単につく。全ては星野さんが死んでしまったからだ。

電車で会わなくなったのも。そして、これは小西君がアドレスを打ち間違えたからかもしれないけれども、私のところにメールが届いたのも。

私は亡くなった人のメールアドレスなど全く知らずに、神様がくれた偶然だとかこじつけて何の罪もなく星野さんを偽って小西君とメールを続けていた。
 

きっと、星野さんも天国で私のしている行動を恨んでいるに違いない。
 

ごめんなさい。そんなつもりはなかったの。


二人ともごめんなさい。


どうしてよ。


どうして私は間違いメールの人なんかとメールをしようとなんか思ったの?


 どうしてすぐに止めようって思わなかったの? 


こんなことをして、いつか嘘がバレた時に相手がどれだけ傷つくのか、どうして気づかなかったの?


 今頃気づいたってもう遅いよ。


私なんか、生きている価値なんかない。
私はずっと星野さんと小西君への謝罪の気持ちと、自分への後悔の気持ちで三日間何も喉に通らず、ベッドに寝込んでいた。
 

当たり前だけど、あれから彼からメールは来ない。
 彼はどうしているのだろうか。

ちゃんと学校には行っているのだろうか。まさか、ショックで不登校になったり自殺したりしてはいないだろうか。
 

私は彼のことを心配する資格などないことはわかっていながらも、心配で仕方がなかった。



「りえ。りえの友達の宮地光さんって子が来てくれているよ」 
 

と、ドアの向こうからお母さんの声が聴こえる。


光? 私に何の用だろう。


「りえ。私。入らせてもらうよ」
 

そう言って光が私の返事を待たずに部屋へと入ってくる。


「ねえ、どうしたの? 私がメールしても返事くれないし。電話してもでてくれないし」
 

蒲団を顔まで被っているから顔は見えないけれども、声から不安そうな顔をする光が想像できる。

「りえは、いくら凹んでいても私から連絡すれば絶対に返事はくれたし、絶対に返事がこないってことはこの二年間なかった。それでどうしたのかなって思ってきたら案の定、食事も禄にしないで寝たきりなんだって? 一体、どうしたのよ」
 


光の暖かい手が蒲団を触る感触が伝わった。


光は本当に私のことを心配してくれているんだ。こんな私なんかのことを。


でも、今の私には彼女に大丈夫だよと嘘を付いて安心させる心の余裕もなかった。


「放っておいて。私のことなんか」

 私は呟くように言った。


「馬鹿! 放っておけるわけないでしょ。家族の人だって今回ばかりは変だって心配しているよ」
 

どうしてよ光。私なんかのために、そんな声を荒げて怒らないでよ。


「光。私、人を傷つけたの」

私は洗いざらい彼女に今まであったことを話した。メールのことも。小西君のことも。


「ね。わかった。だから、こんな私なんかに構わないで」


そんな私に光は一息ついて「なんだ。そんなことか」と、安心したような声を出した。
 

その彼女の意外な反応に私は「え?」と思わず訊き返す。


「私はてっきり、何かもっと大変なことをしたと思ったよ。人を殺したとか。麻薬に手を出したりとかさ」
 

どういうことよそれ。今、私が悩みに悩んでいることは下らないっていうの? 光。光は何もわかっていないよ。私は、人を殺すと同じくらいに酷いことをしていたのかもしれないんだよ。



「光……」


「りえさあ、あんた、自分が普通の人間だって思っていたの?」


 私が話そうとすると光が話し出した。


「私はさあ、りえのこと、変わっている子だってずっと思っていたし、今に始まったことじゃないよ」
 


光はそう自分で言ってハハハと馬鹿笑いをする。


私は彼女が真剣に考えていないように見えて少しムカッとする。

「それで私は、変わっていて、わがままで、鈍感なりえに振り回されっぱなし。何度、りえにキレて口も利かないでやろうと思ったことか」
 

確かに、光とは何度も喧嘩した。でも、それは仲のいい証拠だといつも思っていた。


「でもね、その怒る度にりえはすぐに私が悪かったごめんねって謝ってくるんだよ。すぐに謝るんだったら最初から考えて行動しろって言いたくなっちゃう」
 

何? 謝るのがそんなにいけないの? 私は反論したくなる。


「だから私はりえとずっと友達でいられた。私は変わっていて、わがままで、鈍感で、大学生とは思えないくらい子供っぽいりえだけれども、自分の間違ったことをちゃんとわかって、ちゃんと謝れるりえが大好きだよ」
 

意外だった。


こんなふうに光は私を思ってくれていたなんて思わなかった。私は涙が溢れて止まらなかった。



「ほら。泣かないの。私まで泣けてきちゃったじゃない。りえは、人に迷惑をかけるために生まれてきたものなんだからさ。いつものノリで謝っちゃえばいいじゃん。ごめんねって」
 


その光の言葉に、私は久しぶりに叫びながらワンワン泣いた。

五章
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電車を乗り継いで、私は星野由佳里さんのお墓がある千葉県の霊園に行くことにした。


テレビで見たと時、ちょっとだけ星野さんのお墓が映って、そのお墓の場所が私のおじいちゃんと同じ霊園だったからそこへの道筋は何度も行っているから良く知っている。
 

私はまず、光の言葉を訊いて謝れる人から謝ろうと決めた。小西君は連絡が取れないし、彼が何処に住んでいるのかわからないから謝る方法が見つからないけれども、星野さんならお墓に行けばすぐに謝ることはできると思ったのである。
 

謝って簡単に済むような問題じゃないことぐらいはわかっている。

でも、謝らないと何も始まらない。
私は霊園の最寄り駅で電車を降り、霊園へと続くまっすぐな登り坂道を二十分ほど登って霊園へと着いた。
 

霊園へと着くと、ゆっくりとした足取りで霊園を周り星野と書かれているお墓を探した。そして以外にも早く、星野由佳里さんのお墓は見つかった。
 

星野さんのお墓にはたくさんの花束や食べ物が供えてあった。
 

まだ、亡くなって間もないということもあるけれども、こんなにたくさんのお供え物があるということは生きていた頃は、たくさんの人から愛された人望の厚い人だったのだろう。



私はそのたくさんの花束の隅に、自分が持ってきた花束を置いてそしてお墓の前でしゃがんで手を合わせた。
 


星野さん。ごめんなさい。私はあなたがお亡くなりになっているとは全く知らず、あなたと偽ってあなたが好きだっていう男の子とメールをして遊んでいました。本当にごめんなさい。



実は私、あの飛行機に乗る予定だったんです。でも偶然にも乗らなくなって……。だから余計に、ふざけた事をした罪悪感はあります。



でも、こんな私だけれどもあなたの分まで一生懸命生きようと思います。まだまだたくさん人に迷惑をかけて、間違いも犯すこともあると思いますが、その度に謝って謝り続けて私は生きていこうと思います。
この度は本当にすみませんでした。




私は十分ほど目を瞑り手を合わせた後、立ち上がって上を向いて深呼吸をした。



空が青かった。


星野さんが許してくれたかどうかわからないけれども、やることはやったとスッきりとした気分だった。
そして私はそろそろ帰ろうかとお墓に背を向けた時だった。



どこかの高校の制服姿で星野さんのお墓へと歩いてくる男の子姿があった。
 


スポーツ狩りで、清楚な顔の男の子。それはまさしく、小西君だった。制服姿を見るのは初めてだったが、渋谷で会った時よりもいい男に見えた。


私はあまりに突然のことに動揺した。



どうしよう。どうしよう。


彼が私に気がついた。


私はとっさに会釈をする。


彼も不思議そうな顔をしていたが会釈をした。

「あ、あの」
 

私の声に小西君が反応する。


「はい」


 勇気を出せ私。


「あの。私、ごめんなさい。星野さんと偽ってメールしていたの私なんです」


 彼はいきなり私に謝われて声も出ないほど驚いている様子だった。


「そう、私が勝手にあなたとメールをしていたし、勝手にあなたを渋谷に呼び出した。許してもらおうとは思っていない」
 

彼はやっと状況を理解できたようだった。


彼は顔こそ表情はあまり変わらなかったが、彼の右手は硬く握られ、腕は小刻みに震えていた。
 

きっと、小西君は今にも私を殴り殺したいのだろう。


でも、彼は自分の怒りと理性と葛藤しそして殴るのを耐えている。
 

私はそんな彼を見て、覚悟を決めた。


「いいよ。気の済むまで殴って」 


と私は目を瞑って身体の力を抜く。


それに対し、彼は「え?」という戸惑いを見せる。



「小西君、あなた空手部だったよね? だったら殴るのは慣れているでしょ?」
 

私だって怖い。


本気で誰かに殴られたことなんかないから、どれだけ痛いのか検討もつかない。でも、こうでもしないと彼の気が治まらないことはわかっていた。
少し間が開いて、突然、叫び声が聴こえたかと思うと私のお腹に激痛が襲った。


「ウッ」
 

私はあまりの激痛に、お腹を両手で抑え、その場に膝から崩れるように倒れた。
 

痛い。ジンジンと内臓が潰されたように痛い。
 


でも、この痛みよりも彼が私に負わされた心の痛みの方が、もっと痛かったんだろう。私はそう思うと目から涙が滲んできた。


「だ、大丈夫ですか?手加減して殴ったんですけれども」
 

そんな私に小西君は心配そうに地面に蹲る私の背中に手をかける。でも、私はその手を強引に払いのける。


「何やっているのよ。て、手加減なんかしてんじゃないわよ。もっと殴って。ほら!」
 

私は痛みをこらえながら、彼に罵声を浴びせる。


「もう、いいですから」
 

彼がそう言ってまた私の背中に手をかける。私はもう一度彼の手を払いのける。


「馬鹿! だからあんたは私みたいな女に騙されるのよ! さあ、殴って」

「だから、もういいって言っているでしょ!」
 

そんな強情な私に、彼は声を荒げた。


「もういいですから。あなたの気持ちはよく分かりました」
 

今度は宥めるように彼は言った。


「どうして、どうして小西君はそんなに優しいの?」
 

私は彼の性格の甘さと、優しさに涙がこらえきれずに零れだした。


「私はあなたの気持ちを利用してカラかったんだよ。悔しくないの?」


「悔しかったですよ」
 

彼は私の問いに即答した。



「それは本当に悔しかったですよ。僕がどれだけあのメールを送るのに勇気を振り絞ったのか、あなたはわからないでしょう? メールが返信された時、どれだけ嬉しかったかわからないでしょう? そして嘘だってわかった時、僕がどれだけ悲しかったのかわからないでしょう? だから、僕はあなたを殴らせてもらった」
痛みが少し和らいだ私は、彼の顔を見上げるように見た。

彼の目は真っ赤だった。


「じゃあ、もっと殴れ……」


「殴ったって仕方ないでしょ。それに、僕はあなたのしたことは許せないけれども、あなたのとのメールは楽しかった」



「え?」


「いつも、あなたのメールを待っていた。あなたとメールをしている時が一番楽しかった。あなたの励ましがあったから、受験もうまくいったんだって思う。だから、僕はあなたとのメールにある意味、感謝しているんですよ。間違いメールに返信してくれてありがとうございました」
 


何て素直なのだろう。私はやはり、こんな彼が好きだった。彼が私を好きなのかは別として。



「私も初めはふざけ半分だったけれども、だんだん本当にあなたとのメールが楽しくなっていった。だから、間違いメール、ありがとう」
 


私がそう言うと、小西君はニコッと笑った。


私も彼につられて笑顔を作ろうと思ったけれど、まだ殴られたお腹が痛くて彼のように旨く笑うことができなかった。



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