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Y.コミュのシェルター学生設計競技2009

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課題=「本を読むための木製の部屋」
アントネロ・ダ・メッシーナが1470年ころに描いた「書斎の聖ヒエロニムス」という絵画があります。

この絵画は長いこと建築家から特別な関心を寄せられてきました。なぜかというと建築の可能性と目的が豊かに描かれているためです。
そこには空間があり、素材の質感があり、時間の経過もあり、アクティビティがあり、過去の記憶があり(暗い色彩の部分)、未来への希望もあります(明るい色彩の部分)。
また、この絵画のなかに木製の"ボックス状”の領域が描かれていて、そこで聖ヒエロニムスが読書をしているのですが、その読書スペースが彼を包み込み、彼の行為とぴったりと馴染んでいます。

この読書スペースは「建築」なのか「家具」なのか明らかにされていません。
読書スペースは木造であり、足元の固い石の床からわずかに浮くように設置されていることからすると、周囲の石造の教会とは明らかに別のものとしてデザインされているのですが、ただし、読書スペースの4周のうち2面が開放されていることからすると、周囲の教会の壁がなければスペースとして成立しないようにもデザインされています。

もともとこの絵画が物語っているのは、本と読み手の一体感です。
多くのルネッサンス絵画が遠近法の消失点を主人公の顔に設定しているのにたいし、この絵画の場合、消失点を主人公の顔にも本にも設定しておらず、両者の間に設定しているーーいわば読書という行為に焦点があてられています。。
また、この絵画はある一瞬を捉えたものでありながら、よく見ると、一日の推移を明瞭に感じとれるように描かれています。
朝に聖ヒエロニムスが石の床を歩いて読書スペースに近づいて行く、その足音を想像のなかで「聞きとる」ことができるほど、絵画は克明に描かれています。
教会の高い天井いっぱいに響きわたったその足音が、木製の4段のステップにさしかかると低い中空音に変わるのも「聞き取る」ことができるほどです。
彼は板張りの床を横切り、帽子を脱いてベンチの上に置き、重い椅子に腰を下ろします。
半円形の背もたれが彼を所定の位置に固定するように座らせると、彼は机の上の本を開きます。
自然光の状態が一日をとおして変化しながら、彼の読書を助けたり妨げたりするでしょう。
たまにリラックスするために彼はこちらを振り返り、鑑賞者との間にある大きな開口をとおして外を眺めます。
あたりにロウソクはなく、夕暮れが迫ると彼は読書をやめることになるはずです。
そして朝の行動を逆向きに反復するようにして、画面の外へ去って行くことになるはずです。

このデザインコンペでは、聖ヒエロニムスのためのもうひとつの読書スペースをデザインする必要はありません。
あなたが独りで本を読むための場所をデザインしてください。ただし、敷地はパブリックな場所に設定してください(たとえば都市の中、あるいは都市的な施設の中)。
アントネロの絵画においては教会の中に読書スペースが設置されていましたが、教会というのもパブリックな場所のひとつです。
ちなみに、なぜパブリックな敷地にするかというと、私たちは本を読む人の振る舞いや、読んでいるものを目で見ることができますが、その人が頭のなかで考えていることだけは見ることができないーー人の最もプライベートなものを見ることができないーーということから来ています。
つまりそうした想像の世界と現実の世界が出会うための場所として、「本を読むための部屋」をデザインしてください。

もうひとつ注意してほしいのは、このデザインコンペが求めているのは「本を読むための部屋」であることで、パソコンのディスプレイを見るための部屋ではないことです。
デジタル・ディスプレイは最新の情報を大量に得るにはよいと思いますが、このデザインコンペは本にこだわります。
本というものは手で触れて感じながら読み進むような存在であって、むしろ木の板や石材のような物体と似たところがあります。

アントネロの絵画は、建築がいかに人の感覚と行為を親密に、また詩的に一体化しうるのかを描きだしました。
私たちが静かに本を読むとき、普段気に止めなかったものに注意を惹かれることがありますが、聖ヒエロニムスは確かに自分の呼吸の音を感じていたでしょうし、木製パネルの香りや木目を感じていたでしょうし、時間が刻々と過ぎていくのを気温や光の変化のなかに感じとっていたでしょう。
アントネロが捉えた建築は極めて感性豊かなものであり、、そこに描かれたセンシュアルな素材感は昨今の建築において稀有なものです。
このデザインコンペでは、そうした感性豊かな場所を現代生活に取り戻すことを目指します。
[ 出題 トムヘネガン ]

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