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コルダ★ドリームコミュの夜想曲 2話

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コメント(13)

「虹、いいわね。今度前みたいに問題なんて起こしたら、二度と連れて来られなくなるんだからね」
「分かってるって。こないだは少しやり過ぎたって、自分でも反省してるんだからさ」


新聞部の荷物を運び終わりいつものように会合が始まる前にさっさと退場しようとしたら、親友で我が校の新聞部部長の清華に前回のちょっとした失態に釘を打たれあたしは反省していることを言う。

でもあたしが悪いとは思ってない。
年上の癖にくだらないことで、兄貴を責め手を出そうとした奴らが悪いんだ。

兄貴が親の七光りだから注目されてるだって?
音楽科の癖して兄貴の演奏聴いてもそんな言うなんて、自ら才能がないと認めているようなもん。
兄貴はお世辞抜きでも実力ある人なんだから、変な言い掛かりを付けてしかも暴力を奮って欲しくない。
だから兄貴を殴りかかる瞬間を捕らえ、容赦なく大怪我を負わせないようにボコしてやった。
でも相手はいくら男といえども弱い奴らだったから、少しだけやり過ぎたかなって思っている。

「少しだけ・・・。まったくあんたっていい年して、相変わらずの見上げたブラコン魂よね。まぁあんたの気持ちは分かるけれど、もしこれが校長の耳に入ったら」
「分かってるって。んじゃぁ終わったら電話よろしく!!」
「あ、ちょっと虹。まだ話は終わってないのよ?」

説教が長引くと判断したあたしは適当に相づちを打ち、清華の止めるのも聞かず教室を飛び出し兄貴との待ち合わせ場所である森の広場に急ぐ。
と言っても兄貴は練習室で練習した後来ると言っていたから、結構時間に余裕があるんだけどね。


他校であるあたしが一ヶ月に一度星奏に来れるのは清華のおかげ様々だから感謝はしているんだけど、説教はどうしても願い下げしたいんだよね。
だったら問題なんか起こすなって言われるけれど、兄貴にケチ付けている奴らをほっとけるほどあたしは薄情な人間ではない。

−兄貴をいじめる奴は、あたしが許さない。
あたしが兄貴を守ってあげる。−

あたしが初めて兄貴をいじめている奴らをぶちのめしたあの日、家に帰る途中で交わした約束だからね。
なのに近頃兄貴は、余計なお世話だって怒るけれど・・・。
それはあたしが女の子だから言っていると・・・思う。







「あ、志水。いいところにいた」

森の広場のテーブルで何かをやっている志水を見つけたあたしは、そう言って答えを待たずに向かいの椅子に座る。
テーブルには楽譜が散乱しているからして、作曲をしていたのだろう。
ますます都合がいい。

「月森さん、こんにちは。僕に何か用でしょうか?」

私に気づいた志水はゆっくりの顔を上げ、首をかしげいつも通りのゆっくりとした口調で問う。
それがちょっと可愛かったりする。

志水って男にしとくのはもったいないぐらいの可愛い少年なんだよね。
最近成長期らしくてあたしより高くなっちゃったのは残念すぎるけど、まだまだ可愛いのは変わらない。
素直で純粋でおっとりしていて、今はやりの癒し系キャラだよ絶対に。
・・・って今はそんなことじゃなくって・・・

「これをちょっと見て欲しいんだ。あたしが寝る間を削って作った人生初の曲」

気を取り直しあたしは鞄から四枚の楽譜を取り出し、そう胸を張って言いながら志水に渡す。

「月森さんも、作曲するんですね」
「うん。あいつらが楽しそうに曲を作るのを見ていたら、あたしも作りたくなっちゃったんだよね」

少しも嫌がらず志水は、あたしの曲を熱心に見てくれる。

あたしが組んでいるバンド『JOKER』のメンバー全員は音楽が本当に大好きで、練習はいつも楽しくって毎日があっと言う間に過ぎていく。
そんな仲間があたしは音楽同様大好きだから、あたしの作った曲でもっともっと仲間達と楽しみたいって思ったんだ。
この曲にボーカルのエリーがどんな詞を付けてくれるか今からとても楽しみなんだけど、何せ初めての挑戦だったからまずは志水に見てもらって意見をしてもらうことにした。
それから、エリーに見せて詞を付けてもらう。



「月森さんらしい、元気な曲だと思いますよ」
「本当に、そう思う?」
「はい。これにどんな詞が乗るか僕も楽しみなので、完成したら是非聴かせて下さい」

笑顔付きの高評価をしてくれ、しかも完成した曲を聴きたいまで言ってくれる。
志水ってお世辞とか言わなさそうだから、鵜呑みにしちゃってもいいんだよね?
さすがにあたしは曲を作る才能があるとまでは言わないけど、でもう嬉しくてもっと曲を作りたいって思っちゃった。

「うん。出来たら連絡するから、練習所に来てね」
「はい、分かりました」






それからあたしは志水と音楽史について語り合っていると、兄貴とそれから咲那の声がこちらに近づいてくる。
何かを咲那は止めようとしているけど、兄貴はまったく聞き耳を持たないそんな感じだ。

「本当にそんなこと言って大丈夫なの?虹がまた嫌な思いをするかも知れないんだよ」
「大丈夫だ。今度は虹なら乗り越えられると俺は信じている」

どうやらそれはあたしのことらしく、なんだかとっても嫌な予感がしてきたのは気のせいだろうか?
そう言えば今日星奏に行くと言ったら、兄貴が珍しく会おうって言ってきたんだった。
その時の兄貴はやたら機嫌が良くって・・・。

・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。

ねぇ、逃走してもいいですか?

「月森さん、気分でも悪いのでしょうか?顔が真っ青ですよ」
「そうだね。気分が悪いよすごく」

あたしの異変に気づいた志水は心配そうに尋ねてくるから、あたしは力強く頷き頭を抱える。

逃走して今は逃れたとしても、当たり前だけどあたしと兄貴の帰る場所は同じ家。
つまりはあたしが兄貴から逃れられるのは、絶対に無理なのだ。

「虹、待たせたな」
「お兄様、一体私に何のご用ですか?」
「虹、これに出ろ」

言葉改め気味悪がらせようと思った行動もあっけなくスルーされ、兄貴からA4サイズの茶封筒を渡される。

何も書いていない茶封筒から嫌なオーラがしてくるけど、あたしは渋々中を取りだし取り敢えず読んでみれば。

         パサリ

一行目を読んだ瞬間、あたしはあまりのことに紙を落とす。

だってそこには

ヴァイオリンコンクール参加届け と書いてあったから・・・。

「何、これ?」
「読めば分かるだろう?ヴァイオリンのコンクール参加書だ」
「それは分かるけど、何でそれにあたしが出なきゃいけないの?あたしはもうこんなの出ないって、知ってるでしょう?」
「ああ。でもこれには出てもらう」
「嫌だよ。いくら兄貴の頼みだって、こればかりわ」
「約束だろう?俺が学内コンクールで優勝したら、一つだけなんでも聞くと。俺だって今までさんざん守ってきたんだ。諦めろ」
「う゛・・・・」

ここであたし達の会話は終わり、珍しく兄貴が勝利した。

いつもはあたしが言っている最終大義なのに、今日は兄貴にそれを使われてしまいもう何も反論できない。


大会で一位を取ったら、一つだけなんでも言うことを聞く。(ただし可能な願いだけ)

これがあたしと兄貴の約束。
あたしが都大会と全国大会に優勝した時は、愚痴をこぼしつつも兄貴は二回ともあたしの言うことを聞いてくれた。
人混みと騒がしいのを嫌う兄貴を、アミューズメントパークに連れ出してさんざん引っ張り回して・・・。
だからあたしも兄貴の言うことを、ちゃんと言うことを聞かないといけない。

・・・こんなことなら、そんな約束をしなきゃ良かった。

「虹、嫌ならちゃんと断りなよ。無理してまで出る必要はないと思う」
「咲那は黙っていてくれないか?虹、いつまでも逃げていたら何も解決はしないんだ。お前だって本当はこう言う大会に出たいんだろう?」
「蓮・・・」

咲那があたしを庇ってくれたものの、兄貴の熱意に負け口ごもってしまう。

あたしもまた、そこまで兄貴があたしのことを考えてくれているなんて思いもよらなかったから、ちょっとだけ感動して目がらしが熱くなり、ますます嫌だとは言えなくなってしまった。




兄貴はあたしの本心を知っている。
そうあたしもまたコンクールに出たいと思い始めていた。
それは香穂子や志水、他のコンクール参加者と出会って、音楽を楽しんでいる人達も中に入るってことを知ったから。
バンドももちろん好きだけど、クラシックもやっぱり私は好きなんだよね。
音楽を戦争だと思っている奴らに、バンドで伝えているように音楽の楽しさを伝えたい・・・。

でもまだ少しあの時のように傷つくのが怖くって、なかなか最初の一歩を踏み出せずにいた。

でも・・・。

「・・・分かった。私参加するよ」

これがチャンスだと思った私は、勇気を出し踏み出すことに決めた。

兄貴の言う通り、逃げてばかりいたら駄目なんだよね?
それにそんなのあたしらしくない。

「だったらすぐに伴奏者を捜」
「あ、それならいるよ。私の音を一番理解してくれている奴が一名ね」
「確かに彼なら虹の音を理解してくれていると思うけど、クラシックは大丈夫なの?」
「うん。だって桜井も、元は将来有望のピアニストだったからね」

咲那にもあたしの言っている人物を分かったらしいけど、彼の過去を知らずにそんな心配をするから胸を張って推薦する。

『JOKER』専属キーボードの桜井は、中三まで様々なピアノコンクールで優勝しまくってた天才少年。
性格にかなり問題がある兄貴のような奴で、元々「音楽は戦争だ。一番を取り続けなきゃ死んだと同じ」と言っていたんだけど、『JOKER』に入って交流していくうちに、いつの間にか音楽は楽しいものだと思ってくれるようになった。
だからその桜井とだったら、きっと最後までやれると思う。

・・・あいつをGETするのは、至難の業だけど・・・

「なら楽しみにしている。きっと父さんや母さんも喜ぶだろう」
「私も楽しみにしてる。出来るだけ応援に行くようにするからね」
「僕もです。あまり月森さんのそう言う演奏を聴いたことないので、興味深いです」

そんなあたしを三人とも、笑顔で応援してくれる。

こんなに応援されたら、頑張らない訳には行かないか。

もちろん上位を目指すとかは別として。

「あれ、月森さん。君が一体どうして?」
「あ、本当だ。今日って新聞部の会合の日?」

そんな時、加地と香穂子の驚く声が、あたしにそう問う。

何も知らない加地はあたしが校内にいるそのものに。
おおよその理由を知っている香穂子は、今日来たって言うことに。

「うん。そうだよ。加地には言ってなかったね。うちと星奏の新聞部は交流があって、あたしは荷物持ち係としてこうして来るんだ」

二人の視線にあわせ二人の問いに明るく答えたけど、あたし達の元にやって来たのは二人だけではなくもう二人もいた。

一人はあたしもよく知る兄貴とは仲の悪い土浦で、もう一人は学内コンクール参加者と言うことは知っているんだけど直接話したことない女の子。

名前は確か悠希絢・・・。
菜美曰く見た目は真面目そうに見えるけど、実は中抜けの常習犯でかなりの自由人だとか。
あたしもこの学校では見た目だけだと兄貴と同じ冷血人間に見られるから、人のことは言えないけど中抜けはどうかなと思ったりする。

少なくてもうちだったら、毎放課後は校長の餌食になっている。
自由な校風の星奏でと違い、うちはとにかく厳しいお堅い高校なのだ。

そしてその悠希さんもあたしのことを不思議そうに見て、土浦に何かを聞いている。
聞かなくてもだいたい内容は分かるし、聞くのが怖いから見なかったことにしよう。

「虹、お前。相当な噂がつきまくってる見たいだな」
「え?」
「お前は月森のナイトで、月森が姫だってさ」
「は、何それ?」
「あ、それ私も聞いたことある。虹がこの前月森君を守っていたからそう言うことになったんだよ」

ここぞとばかり馬鹿笑いする土浦に、香穂子は悪気なく真相を暴露する。
信じたくない内容だった。

兄貴が姫で、あたしがナイトですか?

すると咲那と加地は笑いを懸命に堪え、兄貴は鋭い視線であたしを睨み付けるのは言うまでもない。


本当にこれ以上なんか問題起こせば、いろんな意味でもうここには来られないね。

・・・清華の言う通りおとなしくしてよう。




************************************
湛増のターンでした。
最後の方無理矢理絡ませた感じですが、後はよろしくと言うことで。←おい。
少しだけバンド仲間の話をさせてもらい今後もう少し出てきそうな感じです。少なくても桜井は(笑)
虹が出場するコンクールは、あの人が出るコンクールになっております。

あたしは、職員室への廊下を歩いていた。
色々考えていたら提出するのが遅れてしまった、進路希望調査のプリントを提出するために。

結局今のところ、第1志望は大学部への進学にした。
第2、第3志望は海外の大学にしたけど……ちゃんと決めるまでは、もう少し時間をかけて考えてみようと思う。
ひとまず、またコンクールに申し込んだしね。
国内で行われる、規模もレベルもかなり高いものだけど……そこで優勝できれば力もつくし、経歴も増える。


そう言えば……コンクールと言えば、虹も頑張ってるのかな。

虹はバンドをやってる時が一番楽しそうで、クラシックのコンクールなんて嫌がるんじゃないかって思ってたから、この間はあんな事言ったけど……。
でも、それは余計なお世話だったんだよね。
やっぱり、蓮は虹のお兄さんだ。
一見冷たい人に見えるけど本当は優しくて、虹の事を誰よりもわかってる。
桜井くんがクラシックもOKだったってのはビックリしたけど……でも、彼が伴奏してくれるならきっと、素晴らしい演奏が聴けるんだろうな。


「………あ」

なんて思いながら歩いてたら、タイムリーに見慣れた後姿が見えた。
何だか凄いタイミングだなぁ。
でも、何だかこんな偶然ってちょっと嬉しい、かも。

「蓮!」

姿勢よく歩く後姿に声をかけると、一拍遅れて振り返ってくれる。
ヴァイオリンケースを持ってるから、これから練習なのかな?

「咲那か」
「これから練習なの?」
「ああ。君は……」
「あたしは、進路希望を提出しに行くところ。色々考えてたら遅くなっちゃったから」

苦笑混じりに、二つに折りたたまれたプリントを見せる。
すると蓮は、少し驚いたみたいな……ちょっと意外そうな?表情になった。

「まだ、進路を決めていなかったのか?」

まじまじとあたしの顔を見ながら言い放たれたのは、そんな言葉。
ああ、なるほど。蓮はあたしがもう進路決めてると思ってたんだね。
自分も海外で音楽をやっていく事を視野に入れてる蓮だから……もしかしたら、あたしも同じようにウィーンに行くものだと思ってたのかもしれない。
まあ、実際に行く気ではいるんだけど……。

「うん。大学まで日本に残るか、それとも卒業したらすぐ留学するか、それがまだ決まらなくて」
「そうか……。だが、なるべく早いうちに結論を出しておいて方がいい。もし留学を選ぶのなら、それなりの準備は必要だろう」
「そうね。両親も、大学はどっちを選んでも構わないって言ってるし……遅くても進級する頃には答えを出すつもりよ」

大学生活の4年間を日本で過ごすか、それともウィーンで過ごすか……それはきっと、あたしの音楽人生を大きく左右するだろう。
きっとどっちを選んでも、それぞれ違った得るものがあるはず。
だから、2年生の残り後半……この半年間でじっくり考えて、答えを出さなきゃね……。


「やほー☆お2人さん、こんな所で何してんの?」


そんな話をしてると、ふと後ろから聞き覚えのある明るい声が聞こえた。
蓮とあたしと、同時に振り返ると……そこには普通科の友達の姿がある。

「悠希さんか」
「ああ、絢。あたしはちょっと職員室に行く所なの。進路希望のプリント、まだ出してなかったから」
「あー、そっちも配られてたんだ。咲那ってどこ志望なの?」

小走りでこっちに駆け寄って来たかと思ったら、「ちょっと見せてー!」って、こっちの答えを聞く前にあたしの手からプリントをひったくる。
行動が素早いというか、何と言うか……。

「あ、もう……いきなり何するのよ」
「え〜、いいじゃーん!別に減るもんじゃないしぃ♪」

言葉だけで注意してみるけど、案の定全く気にしてない様子の答えが返って来た。
まあ、絢らしいといえばらしいけどね。

そして、プリントの内容を見て……今までニコニコ笑ってた表情が、少し変わった。

「え……何これ?咲那、これマジで言ってんの?てか、どこの国?これ」
「ウィーンの大学よ。って言っても、まだ最終的にどうするかは決めてないんだけどね」
「へ〜……」
「でも、早めに結論は出さなきゃだから……色々と準備はしながら、3年に上がるころには決めるつもり」

プリントとあたしの顔を交互に見ながら、驚いた顔。
うちは音楽一家だし、あたしがプロの声楽家になるつもりだって事も知ってるはずだから、そこまで驚くような事でもないと思うんだけど……。
でも、やっぱり驚くことなのかな。
今まで短期留学は経験して来たけど、進学となれば完全に向こうに拠点が移るって事になるからね。
「あ、そう言えば蓮。虹はコンクールの準備、順調にいってる?」

これ以上あたしの進路について話す事もないから、会話が途切れた時にそう言って話を変えた。
虹の事は実際、気になってる事だし。

「ああ。どうやら本人も、ようやく真剣になったようだ」

溜息交じりのそんな返答を聞いて、自然と顔に笑みが浮かぶのがわかる。
口調は相変わらず淡々とした無感情なものだけど……虹の事を話すその目は、確かに優しくなったから。

「虹……って、例の月森の妹さんだよね?この間来てた、他校生の」
「そうよ。あ、蓮。虹に、あたしも応援してる、お互い頑張ろうねって伝えておいてくれる?」
「ああ、かまわないが……“お互い”とは?」

さすがにそこには気付いたみたいで、予想通り突っ込んでくる。
だから、あたしも蓮の目をしっかり見て、前向きな笑顔で答えた。



「あたしもこの間、コンクールに申し込んだの。全日本声楽コンクールの高校生の部よ」



このコンクールは、音楽家を目指す者の登竜門。
狭き門だし、全国から参加者が集まるから難易度も相当に高いけど……そんなコンクールだからこそ、結果を残せば箔がつく。

「え、コンクール……?咲那、コンクール出んの?」
「うん。と言っても、デモテープ審査の結果待ちだから、まだ出場できるかどうかはわからないけどね」

テープ審査の結果が来るのはまだ先だから、苦笑混じりにそう言っておく。
まあ今までテープ審査で落ちた事は一度もないから、今回も大丈夫だとは思うけど。
と言うか、最初の関門程度で落ちるなんて事、絶対にあっちゃいけないもの。
あたしが……最低でも最終審査まで残って当たり前の篠河の娘が、テープ審査なんかで落ちたりしたら……周りからどんな評価を受けるか……。

「ウィーンで勉強して来た事を試してみたいし、虹に続いてあたしも頑張るよ」
「ああ。難易度の高いコンクールだが、君の実力なら大丈夫だろう。自信を持って臨むといい」
「ありがとう。蓮にそう言ってもらえると心強いよ」

定型文通りの答えになっちゃったけど、本当にそう思うから仕方ないよね。
本選までいける自信はあるけど、蓮ほどの人にそう言ってもらえるのは心強い。

……って、そういえば絢は急に黙り込んじゃったけど、どうしたんだろう?
なんか『コンクール』って言ってから、表情が変わったような。
なんだか複雑そうって言うか、嫌そうって言うか……。
もともとあまり、コンクールの参加には熱心な方でもないし………コンクールに嫌な思い出でもあるのかな?

でもなんとなく、あまり突っ込まない方がいい気もするから……気付かなかった事にしておこう。



それから少しの間。
それぞれの目的地に向かうまで……あたし達3人は廊下で他愛もない会話をしていた。





















「ふぅ……ひとまず1つ終わり、っと」

担任の先生に進路希望を提出した後、あたしはそのまま屋上に来た。
屋上は、あたしの好きな場所の1つだから。
意外と来る人も少なくて、一人でゆっくり出来る場所だから……ここにいる時は、気を張る必要もないしね。
本音も言えない、常に猫被りっぱなし………そんな生活は、慣れてるとは言えやっぱりちょっと疲れるから。

空に向かって思いっきり伸びをして、大きく深呼吸。
風が気持ちいいなぁ……秋の晴れ空と風って、どうしてこんなに気持ちいいんだろう?


「Hail holy queen and throne above Oh, Maria……
Hail mother of mercy and of love Oh, Maria……」


空に向かって、風に乗せるように、あたしは歌を口ずさむ。
ゆったりとした、澄んだメロディ。

クラシックの曲ではないんだけど、あたしが好きな曲の1つ……『Hail holy queen』。


「Triumph all ye cherubim Sing with us sweet seraphim
Heaven and Earth resound the hymn……Salve, salve……
Salve Regina……」


オペラじゃなくて、ゴスペルに分類されてる曲だけど……映画を観てこの曲を聴いた時に、一目………いや、一聴き、かな?
とにかく、一度聴いて好きになって。
ジャンルがジャンルだから、コンクールとかで歌うことは出来ないけど、こうして時々歌ってる。

序盤の優しくて、ゆったり流れるような調べ。
中盤からは明るくテンポがいいメロディに変わって、独特の手拍子と共に乗りやすいリズムに変わる。
聞いていると、一緒に歌いだしたくなるような……そんなこの曲が、あたしは大好きだから。

劇中でシスターたちが歌う曲なだけあって、歌詞の内容は賛美歌みたいなもので。
『聖母マリアに幸いあれ』……と、何度も歌う。優しく、朗らかに。
歌い続けてるうちに……すぅっと、歌の世界に入っていける。

大好きな歌を自分の声で紡ぐ事が出来るのは、とても楽しくて。
自分が思い描いたとおりの声が出せた時は嬉しくて、すごく気持ちよくて。
一曲歌うたびに、歌うたびに……歌の世界に魅せられていく。


コンクールに全く不安がないって言ったら、それは嘘になる。
ステージで歌うのは好きだけど……正直、いつだって不安だ。
あたしは音楽一家の一人娘………いわゆるサレブレッドだから、いつもコンクールでは『入賞して当然』って目で見られてる。
結果を残して当然、いい成績を残せて当たり前……。
そんな目で見られ続けるプレッシャーに耐えるのは、本当に辛いし大変な事だから。

だけど、あたしはそれを乗り越えていかなきゃいけないんだ。
歌い続けたいと思うなら、プレッシャーに押し潰されてなんかいられないんだし……。
『篠河の娘』って肩書きは、あたしに一生付き纏うものなんだから。


それに、やっぱりあたしは歌う事が好きだから。
どんなプレッシャーがあっても、周りからの過剰な期待が嫌になる事があっても。

歌う事が好きだから、ずっと歌い続けていたい。
歌う事を楽しむって気持ちを、なくしたくない。
音楽を奏でることも、歌うことも……何よりも楽しいもの。

その事を、伝えていきたいから………。



―――パンパンパンパンッ!



「………ッ!?」

区切りのいい所まで歌い終えた途端、後ろから手を叩く音が聞こえて、驚いて思わず肩を震わせてしまった。
そして、そのまま振り返ると……


「いい歌だったよ。上手いな、あんた」


多分、あたしと同年代くらいの男の子が、どこか満足げな笑みを浮かべてそこに立っていた。

赤みがかった茶色の髪。
かなりの美形って言っても差し支えない、整った綺麗な顔立ち。勝気そうな瞳。
そして、何故か私服姿……。


誰だろう……?

あたしの記憶が確かなら、全然見覚えのない顔。
って言うか……なんで私服姿なんだろう?うちの生徒じゃない……のかな。


「ああ、悪いな。邪魔した?」

あたしがポカンと見つめてしまったからか、その人はちょっとだけ申し訳なさそうに一言そう言って、こっちに近付いてくる。
柔らかそうな髪が、歩くたびに微かに風に揺れていた。

「あ、ううん。そんな事ないけど……」
「そっか、なら良かった。何となく屋上まで来てみたら、歌声が聞こえてきたからさ。つい聴き入っちまった」
「え、聴き入ったって……あたしの歌に?」
「ああ。やっぱ星奏ってレベル高い奴いるんだな。この間聴いた普通科の奴のヴァイオリンは全然大した事なかったけど」

そう言われてもどう答えるべきか判断に迷ったから、とりあえず曖昧に笑っておいた。
普通科の奴のヴァイオリンって……香穂子の事、だよね?
ヴァイオリン持ってる普通科の生徒なんて、あたしが知る限り香穂子しか思いつかないし。

でも……本当に誰なんだろう、この人。
こういう言い方をするって事はきっと、ある程度音楽をやってる人だと思うけど……。

「えっと、うちの生徒じゃない……よね?」
「ああ。衛藤桐也って言うんだ。あんたは?」
「衛藤くんだね。あたしは、篠河咲那って言います」

名乗ってもらった以上はこっちも名乗らないと失礼だから、簡単に名前を言って軽く微笑んで会釈する。
すると、彼……衛藤くんは驚いたみたいに目を見開いて、まじまじとあたしの顔を見て来た。
そういう反応をされたのは初めてじゃないし、むしろそれなりによくある事だから驚きはしない。


「そっか、あんたが篠河咲那なのか」


じーっとあたしの顔を見てたかと思ったら、やがてふっと笑って、そう呟いた。
あたしの事を知ってる………じゃあやっぱりこの人、音楽をやってる人なんだね。

「あたしの事、知ってるの?」
「そりゃあな。声楽界のプリンセスって言われるくらいの実力者で、その上あの篠河秋成の娘だ。まともに音楽やってる奴なら、知らない奴の方が少ないだろ」

篠河秋成。
それは、多分音楽をやってる人なら誰もが知ってる……指揮者であるあたしのお父さんの名前。
お父さんが指揮してるオーケストラは何度も何度も見たけど、身内贔屓を抜きにしても世界レベルの指揮者だと思うから。
最も、お父さんの知名度が高いから、そのおかげであたしの知名度も無駄に上がるんだけどね……。
音楽の世界で生きていく上でそれは大きな武器にもなるけど、出来れば自分の名前と実力で名を上げたいあたしにとっては、やっぱり少し重いものでもある。
いつだってあたしは『篠河咲那』としてじゃなくて、『篠河の娘』としか見られないって事だから。

「そう、かな?」
「そうだって。まあ、実際に顔見たのは初めてだけど………思ってたよりずっと可愛いじゃん」

にっと笑いながら、間近であたしの顔を覗きこんでくる。
なんだかフランクって言うか、遠慮のない人だなぁ……。日本人にしては珍しいかも。
まあ、日本人の中にも、柚木先輩とか加地くんみたいな例外はいるけど……。
………いや、柚木先輩はまた別格かな。色んな意味で。

「そんな事ないと思うけど………でも、そう言ってくれるのは嬉しいよ。ありがとう、衛藤くん」

笑顔を浮かべて、当たり障りのない返答をしておく。
この手の褒め言葉は、お世辞と社交辞令も含めて言われ慣れてるしね。

すると、衛藤くんはちょっとだけ何かを考えるような仕草をした後、ニッと悪戯っぽい笑みを浮かべて……


「桐也でいいよ。俺もあんたの事、咲那って呼ぶから。いいよな?」


………は?

正直予想外の言葉を言われて、またも呆然としてしまう。
さっき会ったばかりなのに、いきなり名前呼びって……なんだか、本当に遠慮のない人だなぁ。
まあ、海外に行く事は多いし国外の知り合いもそれなりに多いから、名前を呼ぶのも呼ばれるのも抵抗はないけど……。

……あ、もしかして……衛藤くんも海外にいた事があるのかな?
もしそうだとしたら、それならこの無遠慮なまでのフランクさも納得がいくし。

「え、あ……うん、あたしは構わないけど……」
「じゃあ決まり。よろしくな、咲那」

そう言いながら、衛藤く………桐也は笑って右手を差し出した。
うん、やっぱりこの仕草、確実に海外に……それもそこそこ長い期間いた経験がありそう。


でも……咲那、か。
ちょと驚いたけど、苗字じゃなく名前を呼んでくれるのは……少しだけ、嬉しいかも。

『篠河の娘』じゃなくて……篠河咲那って言う一個人として見てもらえる。
錯覚でも……そんな気がするから。


差し出された、体格の割に大きな手をゆっくりと握り返して。
あたしも、「よろしくね、桐也」って返事を返した。

彼の笑顔に答えるように、あたしも笑顔を浮かべて。





あたしはまだ、知らなかった。

この出会いがあたしにもたらすものと………
彼があたしにとってこの先、どういう存在になっていくのかを。









*******************************


夜想曲2話、リミのターンでした!

今回は、咲那と衛藤の出会い〜♪
ちょっと衛藤が馴れ馴れしすぎるかな?とも思いましたが、まああいつはこんな感じだろうと開き直りました(コラ)
咲那の歌の実力は、ヴァイオリンで言えば王崎とか月森クラスのレベルなので、衛藤も最初から好意的です^^
そして、相変わらず微妙に裏表のある咲那です(笑)
ちなみに咲那パパは世界的な指揮者ですが、その実力と知名度は小澤征爾くらい……と思って下さい^^

余談ですが、『Hail holy queen』は私の好きな曲です(オイ)
高校時代、コーラス部の発表で歌ったんですが、歌ってて凄く気持ちいい曲なんですよー♪

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