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コルダ★ドリームコミュの『夜想曲』 1話

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金色のコルダ2リレー夢連載


『夜想曲』 第1話





・順番・

リミ→湛増→璃緒

コメント(14)


「いってきまーす」
「あら咲那、もう行くの?」
「もうって、いつもと同じ時間じゃない。あ、今日は放課後練習してくるから、帰り遅くなるね」
「ええ、わかったわ。いってらっしゃい」
「しっかり練習して来るんだぞ」
「うん、わかってる」


お父さんとお母さんに笑顔で見送られて、朝、いつも通りに学校に行く。
2人とも忙しい人だから、こうして2人に見送られて学校に行くなんて、1年に数えるくらいしかない事だ。
まあ、来週には2人ともまた外国に行っちゃうから、少しの間だけなんだけどね。

お父さんとお母さんは……ついでにおじいちゃんもおばあちゃんも、うちの家族は皆音楽家。
お父さんとおじいちゃんは指揮者、お母さんがチェリストでおばあちゃんがピアニスト。
特にお父さんは世界的な名指揮者としてかなり有名だし、みんなそれぞれ忙しくて世界各地を飛び回ってる。

寂しい、とはあまり思わない。
子供の頃からこれが当たり前だったから、慣れたって言うか。
両親はあたしの事をうんと可愛がってはくれるけど、仕事が忙しいから傍にはいない人。
これが、あたしにとっての当たり前の価値観だし、それに文句を言うつもりもない。

いつか、あたしにも子供が出来たら、ずっと子供の傍にいてあげられる母親になりたいな……とは、思うけどね。



そんな事を思いながら、あたしはぼんやりと空を見上げた。

綺麗な青い空……今日も、晴れそうだな。
ウィーンの空も綺麗だったけど、やっぱり慣れ親しんだこの街の空が一番好きだ……。
















「おはよ!咲那」
「おはよ、真奈美」


教室に行くと、普段よく一緒にいる森真奈美がいつも通りに笑って挨拶してくれる。
それを皮切りにクラスの人も挨拶してくれて、あたしも一つ一つに返事を返していく。

いつもと変わらない、朝の風景。


普段の行いが行いだからか、クラスの皆とはいい関係が作れてる。
穏やかに、にこやかに、けれど絶対に気取らずに。誰とでも親しめるいい人……
あたしは基本的に、他人の前でその姿勢を崩す事はないから。

自分が周りからどう見られているか、どんな印象を与えるか……これは、あたしにとってはかなり重要な事だ。
他の人達が万一、この事を知ったら、理解できないって顔をするかもしれないけど……。
余計な摩擦や揉め事を起こして悪印象を与えたりしたら、色々な場所に影響が出る。
それは、あたしにとっても両親にとっても、あまりいい事態にはならないからね。

何事も問題なく、誰からも好かれる存在である……それが常に、あたしには求められてる。
お父さんと、お母さんと、あたし……
『篠河』の評判を、名前を、落とさないためにも。


「ねえ、知ってる?さっき職員室に行った時に先生が話してたんだけど、今日、普通科に転入生が来るんだって」
「転入生……?しかも、普通科に?」
「そう!珍しいよね、こんな時期に」

あたしと真奈美は席も前後だから、席に座っても会話は続く。
へえ……転入生かぁ。
音楽科に来る事ならさほど珍しい事でもないけど、普通科にってのは確かに珍しいね。

「そうだよね。何でこんな学期の途中から……何か、家庭の事情でもあったのかな」
「んー、詳しい事は私も知らないけど、まあそんなところじゃない?」

その転入生に関しての話題はそこで終わって、自然と別の話題に切り替わっていった。
まあ、学年がどこかはわかんないけど、普通科ならあまり接点もないしね。
用がない限り普通科校舎にはあまり行かないし、普通科であたしと個人的に親しい人も限られてる。
コンクールで知り合った土浦くんや香穂子や菜美、絢……くらいかな?
最も、その中の誰にも、あたしが普段猫を被ってる事は言ってない、言うつもりもないから……『本当の友達』とは、言えないのかもしれないけど……。
そもそも普通科の人たちって、あたしの事悪く思ってはいないみたいだけど、向こうから声をかけて来たりってのもあまりないし。

「そうそう、進路希望調査の締め切りって確か今週中よね」
「あ、そうだったね。真奈美はどうするの?内部進学?」
「うん。一応第一志望は内部かなー。咲那は?」
「う〜ん……あたしも一応、今のところ第一志望は内部進学だけど、まだちょっと迷ってるんだよね」

あたしとしては内部進学がいいんだけど、両親は留学を勧めてる。
あたしの意見や話も聞いてくれるけど、最終的に両親の意見が優先されるのが常だからなぁ……うち。
そもそも、春のコンクールが終わってからウィーンに短期留学に行ったのだって、お父さんの友達が経営してる音楽学校に声をかけてもらったからだし。
それで後悔した事はないし間違ってた事もないから、あたしはそれでも不満はないけど。

「やっぱり、留学?」
「んー……あたしとしては、留学は日本の大学で色々勉強してからでも遅くはないと思うんだけど、両親は早いうちに海外で勉強した方がいい、って」
「ああ、夏に留学してた間に行ってた学校も、お父さんの知り合いの学校なんだっけ?」
「うん。大学こっちに来るならちゃんと状況を整えて待ってるから、って言って下さってね」

って言うかあれって、遠回しに「卒業したら来い」だよね。
何だか、妙にあたしの歌を気に入ってくれて、かなり急な話だけど向こうで小さなコンクールにまで出る事になったし。
そう言ってくれるのは凄く嬉しいし、あたしもいずれ海外に行くつもりではいるけど。


そう……あたしは物心ついた時から音楽をやってきて、そして一生、音楽の道を歩いていくつもりでいる。
歌う事も、音楽そのものも大好きだし。
それに世界に出て声楽として活動していくことは、子供の頃からずっと思い描いてきた目標だから。

家族が望むとおりに。自分もまた、望んでる通りに進む。
どこまでも、どこまでも、音楽と一緒に……行けるところまでの高みに。
それに不満なんか、あるわけもない。



「おはよう、咲那。森さん」



そこまで話していたところに、聞きなれた静かな声が聞こえた。
あたしと真奈美で同時に振り返ると、そこには相変わらずクールに佇んでいる幼馴染の姿。

「あ、おはよう蓮」
「おはよー、月森くん!」

あたし達が挨拶を返すと、蓮はそのまま自分の席に座った。
彼とも、他校に通ってる彼の妹の虹とも、もう随分長い付き合いになる。
蓮のお母さん……浜井美沙さんとあたしのお父さんが古い知り合いで、その繋がりで小学校入学頃から知り合いだった。
まあ、幼馴染って言っても、子供の頃はただ親同士が知り合いの顔なじみってだけだったんだけど……。
今は、蓮とは高校で同じクラスになってから結構仲良くなれたと思うし、虹とも、たまに一緒に遊んだりバンドの活動を見に行ったりしてる。
あたしがバンドなんて言うと、みんな揃って意外そうな顔するけど……あたしはクラシックでもポップスでも、音楽なら何でも好きだから。

「ああ、そうだ咲那。これを君に」

蓮もあたし達とは席が近いから、椅子に座ったまま体の方向だけを変えて、鞄から何かを取り出した。
なんだろ。小さい袋に入ってる……プレゼント?

「え?これ……どうしたの?って言うか、どうして……」
「母から君にだ。ウィーンで出場したコンクール、優勝おめでとうと……そして、お祝いが遅れてすまないと伝えて欲しい、と」

言いながら蓮は、小さなクリーム色の紙袋をあたしに差し出した。
けど、あたしも予想外な自体に咄嗟に反応できなくて……。
ぽかんと紙袋を眺めてると、蓮は席を立ってあたしの机の上にそれを置いた。

うそ……。って言うか、いいのかなぁ……?
そんな、ウィーンって言ってもこじんまりしたコンクールだったんだから、お祝いなんて別に気にしなくていいのに。
それに、この袋に書いてある銘柄……かなり有名なアクセサリーブランドの店じゃない。
値段だって、どれをとっても決して安いものじゃないはず……。

「そ、そんな、優勝って言ったって本当に小さなコンクールだったんだし、気を使って下さらなくてもよかったのに……」
「いや、俺が言うのもなんだが、気にせずに受け取って欲しい。母もそう思っているはずだから」


いや、気にせずにって言われても気にするんですけど……。
けれど美沙さんも好意から贈って下さったんだし、突っ返すのも逆に失礼、よね……。
すごくすごく申し訳ないけど。


「じゃあ……ありがとう。美沙さんに、本当にありがとうございます。これからも今以上に頑張ります、って、お伝えしてくれる?」


あたしは素直に、それを受け取る事にした。
伝言だけじゃなくて、近いうちにちゃんとお礼しに行かなきゃね。

「ああ。わかった」
「よかったね!けど、ウィーンでも優勝かぁ……さっすが、星奏の歌姫よね!」
「え?も、もう……そんな風に言ってもらえる程でもないのに。あのコンクールだって、本当に規模の小さいもので……」
「それでも、コンクール自体のレベルはこっちとは比べ物にならないはずでしょ?やっぱり、凄いよ」

真奈美はそう言いながら、真っ直ぐにあたしを褒めてくれる。
何の裏も嫌味もないただ純粋な賛辞であるその言葉は、友達に言われてしまうと何ともくすぐったいものがあって。
あたしはちょっと苦笑しつつ「ありがとう」と返して、頂いたプレセントを鞄の中にしまった。

中身は何だろ?
何が入ってても凄く嬉しいけど、今度コンクールに出る時に付けさせてもらおう。
ドレスやアクセサリーの種類が制限されないのが、声楽のいい所だよね。


美沙さんや、期待してくれる人達に答えるためにも……もっともっと、頑張らなきゃ。

3年生に進級する前に、もう一度くらい国内のコンクールに出ておくのもいいかな?
その頃には進路もしっかり決めなきゃいけないだろうし……留学するにしても日本に残るにしても、経歴を残しておくに越した事はないし。



『篠河の娘』としても、『篠河咲那』一個人としても、あたしに期待してくれている人はたくさんいる。
時々、その重さに潰されそうになる時はあるけど……あたしもその期待に答えたいと思う。

歌う事が好きだから、もっともっと上手くなりたい。今よりももっと上に行きたい。

だから、あたしはこれからもその道を歩き続ける。
それが家族の望みだし、そしてあたしが望んだ道でもあるから。

だから、これからもずっと歌い続ける。



だって、あたしには音楽しかないから。

それ以外の道を歩く方法なんて……知らないから。








************************************


コルダリレー連載『夜想曲』1話、リミのターンでした!
今回のヒロインは音楽一家のサラブレッドで、悪く言えば猫かぶり?女版柚木?な子です。
月森と柚木を足して割った感じと思ってもらえれば(笑)

今回は他のヒロイン達と関わりが持てませんでしたが、次以降に!
お相手は衛藤ですが、次かその次あたりに会わせてあげたい^^


ねぇ、兄貴は覚えてる?

あたしと幼い時、交わした約束。

あたしと兄貴どっちが先に、ヴァイオリニストになるか競争しよう。

って。

今だったらどう言う約束に変わるのかな?

兄貴はあの時と同じヴァイオリニストが将来の夢だけど、あたしの将来の夢は何になるんだろう?


「虹、早くしないと置いていく」
「わぁぁ兄貴、ちょっと待ってよ!」

玄関先でやや不機嫌にそう言う蓮に、あたしは慌ててトーストを加えヴァイオリンケースを持ちリビング飛び出し玄関に急ぐ。

今日は学校が特別休日で、バンドの練習は十時からだと油断してたら寝坊しこの始末。
兄貴がいなかったら、きっとあたしはまだ夢の中にいただろう。
昨日兄貴に一緒に途中まで行こうって約束しといて、本当に良かったよ。
だって遅刻したら昼食おごらないといけないから、あいつらおごるとなるといつもの倍は食べるからな。
まぁそれはあたしもだけどね。

他人は兄貴のことを冷たくて何を考えているか分からないエリートって言うけれど、本当の兄貴は優しくて家族想いの頼りになる。
確かに几帳面で真面目で融通聞かないことはあるけれど、それは子供の頃からだからその辺は馴れている。
なんせあたしと兄貴は双子だから、お互いのことはお互いによく知った仲。
今さら兄貴に合わせるつもりもないし、兄貴だってあたしに合わせる気配なんてまったくない。
ただ文句を言いながらも、兄貴はあたしが来るまで待っててくれる。


「お待たせ、兄貴」
「?虹、そのネックレス新しい物だろう?」
「あ、気づいてくれた?ママが全国大会で優勝したお祝いだって、昨日貰ったんだ。可愛いでしょう?」
兄貴は早速新しいネックレスに気づき問われらから、あたしはそうネックレスを見せつけ自慢する。

誕生石であるダイヤが中央に入っている四つ葉のクローバーのネックレス。
ママ御用達のブランド品で特注品らしく、試合にいけなかったから奮発してくれたらしい。
あたしはそんなの気にしてないのに、ママってそう言うのにこだわるタイプだから。

性格上なのか兄貴は、そう言うことに良く気づく。
そう言うのは彼として最適化も知れないけど、
「虹には高価すぎるだろう。それにそう言う物は、それなりの服装の時だけにした方がいい」
いつもこのように、ムカツク一言余計な感想が返ってくる。

どうしてそう言う言い方しかできないのだろう?
例えそれが正論であっても、そんなストレートに言われたくない。

「今日だけなんだから、多めに見てよね」
朝っぱらから口喧嘩するほど子供じゃなく、兄貴の意見を聞き入れこの件を終わりにしようと試みた。

妹のあたしが大人になればいいだけのこと。
でもあたしが正装する時って、兄貴と違って年に数回しかないんだけど、その辺分かっているのだろうか?
それとも試合の時とかライヴの時は…………なわけないよね。

「しかし」
「蓮、いいのよ。母さんが虹に普段から、着けてと言ったんだから」
「母さんが?」
「ええ。だからそんなこと言わないであげてね。虹は女の子なんだから、普段からおしゃれをしても良いと思うの」
それでも納得行かず何か言おうとした兄貴に、ママがやってきてあたしの味方をしてくれ意見してくれる。
これでもう兄貴は何も言わない。
ママの意見は兄貴はいつも何も言わず、素直に聞き入れるから。
「母さんがそう言うのなら、………仕方がないな」
不満ありますと顔に書いてあるが、やっぱり何も反論せず頷くだけ。
ちょっといい気味。
「ママ、ありがとう」
とあたしは笑顔を浮かばせママにお礼を言う。
「いいのよ虹。それと蓮、これを咲耶ちゃんに渡して欲しいの。その時こないだのウィーンでの出場したコンクール優勝おめでとうと、お祝いが遅れてごめんなさいってことも言
ってくれると嬉しいんだけど」
そう言いながらママは兄貴に、小さなクリーム色の小袋を差しだす。

兄貴と一応あたし達の幼馴染みである咲耶は同じクラスで、そこそこ仲がいいらしいから。
兄貴に仲が良いクラスメイトがいて、妹として安心している。

「分かりました。必ず咲耶に渡しておきます」
「ありがとう。じゃぁ二人とも気を付けていってらっしゃい」
「うん。ママ、いってきます」
「いってまいります」
兄貴は素直にそれ受け取り、あたし達ママに見送られ仲良く家を出る。



今日から十月だって言うのにまだ日差しは熱く、衣替えはまだ早いと思うあたしがいる。
明日から、あたしも冬服か…………。




「そう言えば、虹。進路は考えたのか?虹の学校も出てるはずだろう」
無言のまま歩いていると、兄貴が口を開きあたしに問う。
いつもながらお堅い問いだ。
「取り敢えず大学進学。刑事になるにしても、兄貴の代わりにパパの会社を継ぐとしても、大学ぐらいで出とかないと駄目じゃん。あ、でも兄貴と一緒にウィーンに留学して、剣道を広めるのも面白そうかも」
だけどあたしは軽い気持ちで、馬鹿正直にそう答える。

今は刑事になりたいって思っているけど、変わるかも知れないからまだよく分からない。
だから取り敢えず大学に行って、そこで自分にしかできないことを見つける。
もちろん留学って言うのは、冗談だけどね。
それにしても兄貴が来年留学するなんて、予想はしてたけどやっぱり寂しいかも。

「虹………。去年は体育教師になりたいって言ってなかったか?その前は弁護士で、その前は確か………」
「いいでしょう?あたしは兄貴と違ってなりたい物が沢山あって、まだ決められないんだから」
そんなあたしの答えに、兄貴は立ち止まり呆れ溜め息をつく。

これが今どきの女子高校生の考えなのに、音楽一筋の兄貴にとっては信じられないらしい。
そりゃぁあたしんちは、両親も祖父母も音楽関係の音楽一家。
あたしと兄貴は物心ついた時からヴァイオリンをやっていて、両親は将来私達をヴァイオリニストにさせたかったらしい。
兄貴は期待通り幼い頃からヴァイオリン一筋の音楽馬鹿で、あたしも小学生の頃まではヴァイオリニストになりたいと思っていた。
だけどあたしにはコンクールでの競争意識全開で殺伐としたイヤな雰囲気が合わなくって、がらになく結構悩んであたしもあいつらと同じ音楽は競い合うものだと思ってしまう気がして狂いそうだった。
そのことは両親も祖父母もちゃんと分かってくれていて、ある日あたしにこう言ってくれたの。

ー虹の好きなことを、一生懸命やりなさい。音楽はあなたの友達であって、必ずしも将来音楽の道に進まなくてもいいんだから。

って。

だからあたしはそれ以来コンクール出場するのは辞めて、中学からは音楽に無縁な学校を選び音楽と同じぐらい好きな剣道で頑張っている。
ヴァイオリンはもう家族の前だけでしか弾かないと思っていたのに、気づいたらあたしは学校の仲間たちとバンドをやり始め、今ではあの時のようにヴァイオリンを人前で弾くようになっていた。
あたしと同じように音楽は楽しいと思っている連中だから、あの時と違って今がとっても楽しい。
そして偶然知り合った兄貴と同じ学校の普通科に通っている偶然知り合った香穂子に、ヴァイオリンを指導することになって現在もそれは続いている
魔法のヴァイオリンで出場した初心者の香穂子は、今では普通のヴァイオリンでもちゃんと弾けるようになっているからすごい。
これって、あたしのおかげかな?

「………案外ヴァイオリンの先生に向いていたりして」
「虹………いい加減にしろ」
ボソリと新たな可能性を呟いてみれば兄貴に聞こえたらしく、眉間にシワを寄せ怒られてしまった。

………別にふざけて言ったんじゃなく、ちょっとだけマジなんだけど。
そしたら両親は、きっと喜ぶだろうな。
本当はあたしが音楽の道に再び進むことを、未だに望んでいるんだと思うんだ。




そしてその後あたしと兄貴は交差点で別れしばらく歩いていると、よく知る顔が視界に入る。
でもその彼は今ここにいるはずがないし、そもそも着ている制服事態がありえない。
だってその制服は兄貴の通う星奏の普通科ものだったから。
まさか他人のそら似じゃないよね?

「あれ、月森さん?」
不思議に思い彼を見ていると彼もあたしに気づき、笑顔を浮かばせあたしの元へやって来る。
やっぱり彼はあたしの知り合いだった。

加地葵。
ギタリスト市堂の友人であたし達のバンドのファンでもあり、ライヴの手伝いや打ち上げにも参加してくれている。
だから多分あたしにとっても、加地は友人だと思う。
そんな加地は確か、国立の高校に通っていたはず。

「か加地?その格好は一体?」
「あ僕今日から星奏に通うことになったんだ」
「加地が星奏?ひょっとして香穂子を追いかけて来たとか?」
「そうだよ」
以前加地が言っていたことを思いだし軽い気持ちで聞いてみると、さも当然にあっさりと頷かれる。
正直も何もあまりのことに顔が引きつり、なんて言っていいのか分からない。

加地は香穂子の音に引かれたらしく、あたしが香穂子の知り合いだと知るとしつこいぐらいに探られてたんだよね。
星奏に編入したいって言ったこともあったけれど、あたし達は冗談だと思い誰も信じなかった。

じょ冗談じゃなかったのね…………。

「月森さん?」
「…………まぁ、がんばりなよ」
「うん。そうそう市堂から聞いたんだけど、来月ライヴするんだってね」
何を頑張るのかはさておき取り敢えず応援だけしてみれば加地は嬉しそうに頷き、ありがたいことに話を変えてくれた。
これ以上触れたくなかったから、すごくありがたい。
「そうだよ。パパの伝手で安くライヴハウスが借りれたんだ。だから今はオリジナルを二曲増やして、みんな頑張っている所」
さすが音楽楽器の社長なだけあって本当に破格の値段で、みんな驚きここぞとばかりあたしに敬ってたもん。
パパって結構あたしに甘いからね。
「へぇ〜。楽しみにしてるよ。じゃぁ僕は行くね。月森さんも、頑張って」
「任せといて」
朝の登校中と言うこともあり会話は弾まずそう言って、加地も兄貴が言った同じ方角へ走っていく。


加地が星奏の生徒ね。
なんか無茶苦茶編入動機が不純だけど、その辺は触れないで温かく見守ってやろう。

…………ひょっとしたらまた一波乱あるかも知れない。

そんな予感がフッと頭の中で過ぎりながらも、あたしは再び駅へと向かう。




コンクールがあったおかげで、兄貴の音が前よりも自由になった気がする。
今まであまり他人と関わろうとしなかった兄貴が、コンクール出場者達と嫌々ながらも少しずつ関わりを持つようになって影響されたのかも知れない。

それにあたしだってもし香穂子達と小学生の頃出会えていたとしたら、ヴァイオリンを辞めずに星奏のの音楽科に通っていたかも知れない。
そしたらみんなと一緒に、あたしもコンクールに参加していたんだろうね。
そう考えると、ちょっと損したかも。

…………………………………。

なんてね。
あたしは今の学校が好きだし、何よりも一緒に音楽を楽しむ大好きな仲間たちもいる。
だから星奏に行かなかったことに、ちっとも後悔なんてしていない。


兄貴の音楽がクラッシクなら、あたしの音楽はロックバンドなのだから。





************************************


湛増のターン修正版でした。
双子ならではの正反対設定で、虹はお転婆娘となっています。他校の生徒なのであまり絡みは少ないかも知れませんが、香穂子のコーチってことでなんとかして見せます。
バンド仲間は他の漫画『JOKER』のキャラ達となっていますが、虹の相手はコルダキャラにしますのでご安心を(笑)



「ぁーあ。セレクションも終わっちゃたし、つまんないよなー」
「お前、部活でコンクール出るって言ってなかったか?」
「まぁ、出るけど今回の曲ノリ気じゃないし、ぶっちゃけクラシック苦手だし」
「ぶっちゃけすぎだろ……」


移動教室で廊下を歩いてる最中の何気ない時間。
一緒にいる奴は彼氏でもなんでもなく、ただの友達(傍から見たらカップルに見えると言われたけど、あたしは嫌だ)
あえて言うなら元ライバル?
春のセレクションで競い合った仲だ。
同じクラスで、同じ参加者ということで仲良くなった悪友みたいな奴。


「なんかおもしろいことないかなー」
「そんな簡単にないだろ」
「土浦、夢なさすぎ!! そんなんじゃ彼女できないぞー!!」
「彼氏いないお前に言われたかねーな」
「ぅぐっ……気にしてることを…」


欲しいのにそんな予感すら感じられない寂しい自分。
土浦を恨みを込めまくって睨みつけるが、奴はにやにやしながらこっちを見てるだけ(むきー)


「もういい!! 土浦のせいでやる気なくしたから、次サボる!!」
「サボるのは勝手だけど、俺を理由にすんな」
「だって本当だしー? ということでノート後で見せてねー♪」


溜息を吐いてる土浦を放置して、あたしは”いつも行くお気に入りの場所”へと向かった。
が、あたしを待っていたのは予想外のものだった。




「げっ」


 ば た ん っ


いつも通り部屋に入ったら、男の人が座ってた。
ここは空き部屋じゃなかったっけ?
てか、あの人この前金やんと一緒にいたときに会った人だ!!
確か次期理事長の吉羅さんだっけ……。

ヤバイじゃん!!!
偉すぎるよ相手は!!!
ということであたしはその場をダッシュで逃げ去り、仕方ないので屋上でのんびりと過ごしたのだった。
が、人生そんなに甘くなかった。





「ぉい、悠希」
「なんですかー?」
「お前ちょっと来い」
「は? ちょっと!! ひーとーさーらーいー!!!」
「人聞き悪いことを大きな声で言うな」


通りすがりの金やんに捕縛され、おまけに軽く小突かれずるずると引きずられた。
なんで誘拐されなきゃならんのさ!!!






「おーい。連れて来たぞー」
「げっ」
「君はそれしか言えないのか?」


連れて来られたのは理事長室で、あたしは吉羅さんの前までずるずると引きずられあっけなく差し出された。


「お前さん、何やらかしたんだ?」
「べっつにー……(棒読み)」
「堂々とここにサボりに来たんですよ」
「ここが理事長室になってたの知らなかったんです!!」


なんであっけなくバラすんだ!!と心の中で文句を言いつつ、抗議をする。
サボったのは本当なのであんまり言えないんだけど、これだけは言っておく。


「またサボったのか……」
「彼女は常習犯なんですか?」
「ぁあ。興味がなかったり、気が乗らないと理由をつけてサボるんだ」


しかもあたしは黙ってれば真面目に見られるらしく、サボってもサボったと思われない。
勝手に勘違いしてくれるから、そこそこやりたい放題してた。


「てか、そんなことをわざわざ暴露しなくたっていいでしょ?!」
「サボる君が悪いんじゃないのかね?」
「ぅうっっっ……見た目に騙されて疑わない先生も間抜けで悪いんだもん…」


そう言うと2人同時に溜息を吐かれた。
なんかムカツクなぁ……。


「てか通りすがりの一生徒がサボっただけで、なんで次期理事長に呼び出されるんですか」
「君は”ただの一生徒”ではないだろう?」
「どこにでもいる普通〜の学生ですけど?」


何言ってんだこいつ。
そう思ったし態度も隠さなかった。
けど吉羅さんは気にする風もなく言葉を続けた。


「君はコーラス部で団体・個人共に実績があるね?」
「……まぁそこそこは…」
「けれど団体はともかく個人は滅多に出ない。何故だね?」
「めんどうだから」


何が言いたいのかわからないけど、聞かれた答えにすっぱりきっぱり答えた。
金やんは簡単すぎる答えに苦笑いを浮かべていた。


「あたし歌は好きだけど、クラシック苦手なんです。
コーラス部は基本を学ぼうかな〜くらいの軽い気持ちで入ったんで、コンクールに特に思い入れもないしよっぽどのことがない限り出ないんです」


別に隠すことでもないので素直に話すと、金やんはやっぱり苦笑いを浮かべているし、吉羅さんは……何か考え込んでいた。


「実績があればあるだけ進路に有利にたつ」
「あたし、あんまり上を目指してないので興味ありません。そこそこでいいんです」


なんかこの人はあたしをコンクールに出させようとしてるな。
顧問たちと一緒。
あたしは別に実績とか名声なんてもんに興味はない。


「好きな歌が歌えないコンクールは嫌いだから、よっぽどのことがなければ出ません。以上!!」


あたしはそう言いきって、返事を聞く前に部屋を出た。
感じ悪かったかなぁって気もしたけど、出たくないもんは出たくない。


「それにしても厄介そうな人に目つけられたなぁ……。これから何もなきゃいいけど……」


期待を裏切る出来事が起きるなんて知らずに、絢は溜息を吐きながら早足で教室に戻って行った。






〈あとがき〉
ずいぶん遅くなったけど、璃緒のターンでした^^
他のヒロインと違って一般人設定です^^
普通科だけど、実績のあるというちょっと変わった設定にしてみました。
音楽は好きだけどクラシックは苦手なので基本無気力です(笑)



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