史跡コミュの旧唐人屋敷内土神堂・観音堂・天后堂

　長崎県長崎市館内町16番17号(土神堂)・５番14号(観音堂)・18番5号(天后堂)

　1974年10月15日、長崎市が史跡に指定。

　https://www.google.com/maps/place/%E5%94%90%E4%BA%BA%E5%B1%8B%E6%95%B7%E8%B7%A1%E8%B1%A1%E5%BE%B4%E9%96%80%EF%BC%88%E5%A4%A7%E9%96%80%EF%BC%89/@32.7394349,129.875585,19z/data=!4m5!3m4!1s0x3515531038d70def:0x693c1f76cb3a8376!8m2!3d32.7397423!4d129.8763483

　寛永12(1635)年、３代将軍徳川家光は明船の来航地を長崎に限定する命令を発しましたが、そもそも明帝国は豊臣秀吉の朝鮮出兵以来、日本を敵国と見做して日本との貿易や往来を禁じていましたから、長崎には東南アジアの華僑の船が来航する程度で、長崎に滞在する明人の数は多くありませんでした。当時、長崎で貿易を認められていたポルトガル人はキリスト教禁教政策徹底のため築島(後の出島)へ隔離されていましたが、明人はキリスト教徒では無いので日本人との雑居が認められていました。
　寛永16(1639)年にポルトガル船の来航は禁止され、代わってオランダ商館が寛永18(1641)年に平戸から出島に移転、オランダ人は厳しい隔離をされますが、明人は自由が認められ続けました。
　1644年、明帝国が瓦解し、満洲人国家の清が中国大陸制覇を開始しますが、明の残党は江南地方で抵抗を続け、南明と呼ばれる事になります。南明は日本に救援要請をし、日本との貿易を開始したため、長崎在住の明人が増える事になりますが、引き続き雑居が許されていました。
　清帝国は1661年に中国大陸を完全制圧しますが、南明残党の鄭成功(ﾃｲｾｲｺｳ)はオランダから台湾を奪取して徹底抗戦を継続します。鄭氏政権の収入源は大陸との密貿易だったため、清の順治(ｼﾞｭﾝﾁ)帝は遷界令(ｾﾝｶｲﾚｲ)を発して沿岸住民を内陸部へ強制移住させ、対外貿易を厳禁します。従って長崎に来航するのは鄭氏政権の船だけでした。
　しかし、台湾の鄭氏政権が1683年に滅亡すると、清の康熙(ｺｳｷ)帝は1684年に中国商人による日本との貿易を承認、長崎には多数の清船が来航する事となりました。その結果、長崎に滞在する清国人が急増、密貿易を企てたり、風紀を紊乱(ﾋﾞﾝﾗﾝ)させたりする者が現れたため、元禄２(1689)年に５代将軍徳川綱吉は清国人と日本人の雑居を禁じて土塀で囲まれた唐人屋敷と呼ばれる清国人居住区を設定、約5000人の在留清国人が収容される事となったのです。日本人の唐人屋敷立ち入りも規制されました。
　唐人屋敷の面積は約9400坪に及び、周囲は塀と堀で囲まれ、大門の脇には番所が設けられて出入りが監視されました。唐人屋敷の建設費は長崎の町人が幕府から借金する事で賄われ、清国人が勝手に家屋を建造する事は禁止されます。
　但し、出島のオランダ人とは違い、切支丹では無い清国人は比較的自由に出入りが許され、崇福寺(ｿｳﾌｸｼﾞ)・興福寺等の清国人菩提寺への参詣も認められていました。
　また、二の門から内側へ入れる日本人は遊女に限定されており、彼女達の場合も長期滞在は禁止されていましたが、江戸時代後半になると清国船の入港から出港まで数ヶ月間の滞在が大目に見られていた様です。
　元禄11(1698)年の大火で清国船の荷蔵が焼失したため、倉庫に目が届き易くするため、唐人屋敷前面の海が埋め立てられて清国船専用の倉庫区域である新地が造成されています。
　天明４(1784)年の大火では唐人屋敷全体が関帝(ｶﾝﾃｲ)堂を残して全焼してしまったため、以後は清国人が自前で住居等を建築する事が認められました。
　安政６(1859)年に長崎港が国際開放された後、慶応元(1865)年に新地が唐人屋敷に編入されたため、海岸に近い新地に移り住む清国人が増加しました。そして、明治３(1870)年に唐人屋敷は再び大火に見舞われたため、在住清国人の大半は新地へ移住して長崎新地中華街を構成する事になったのです。

　土神堂(ﾄﾞｼﾞﾝｿﾞｳ)は元禄４(1691)年に土神の石殿を建立したいとの清国人達の願いが許され建立されました。初代の堂宇は天明４(1784)年の大火で焼失してしまいましたが、興福寺・崇福寺・福済寺の三福寺や、華僑達の出資によって再建され、その後も改修が行われて来ました。
　しかし、二代目堂宇は昭和時代に入って老朽化が甚だしくなっていた処に昭和20(1945)年の原爆の被害で致命傷を受けたため、昭和25(1950)年に石殿を除いて解体され、現在の三代目建物は昭和52(1977)年に長崎市が復元した物です。
　土神とは土を司る神、即ち郷土の守護神の事で、ここの場合は福徳正神(ﾌｸﾄｸｾｲｼﾝ)を指し、土地や家を守る豊作の神として尊崇されて来ました。祈願すれば、五穀豊穣(ｺﾞｺｸﾎｳｼﾞｮｳ)・金運招福等に利益があるとされ、軒丸瓦にも「福」字が描かれています。

　天后堂(ﾃﾝｺｳﾄﾞｳ)は、元文元(1736)年に南京出身者達が天后聖母、即ち媽祖(ﾏｿ)を祭って建てたのが初代です。天明４(1784)年の大火で初代は炎上してしまいましたが、寛政２(1790)年に修復されました。現在の建物は、明治39(1906)年に再建された二代目で、原爆の被害も僅少で済みました。

　観音菩薩を祭る観音堂は、元文２(1737)年に初代が建立(ｺﾝﾘｭｳ)されましたが、天明４(1784)年の大火で焼失し、天明７(1787)年に再建されました。大正６(1917)年に華僑の鄭永超(ﾃｲｴｲﾁｮｳ)が改築しましたが、令和時代になって再改築されました。