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☆週刊薮上文庫☆コミュの1998年、中野フレグランスMにて (上)

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窓の向こうから雨の音がする。
重たい瞼をこじ開けてうっすら視線を窓に向けると、カーテンの隙間から細かい雨が幾筋か見える。
シトシトと雨は降り続く。
部屋は愛想無く薄暗い。
寝返りをうって布団にくるまった。
いつからだろう、日曜日の昼がつまらなくなったのは…?

今の日常に対して決して不満はない。
東京の大学を卒業した後、世間では優良と呼ばれるビール会社に就職した。
特にどの企業に入って、どんな仕事がしたいなんて当時の僕には無かったから、どこでもよかった。
大金持ちになりたいわけでもなかったし、企業に命を捧げるつもりもなかった。
入社してから最初の5年間は東京で働いて、それからの5年間は、福島の支店に赴任して働いている。
福島のいくつかのスーパーや酒屋を担当し、自社のビールの配置や販売戦略を考えたり、新しい顧客を増やすために営業として新しい酒屋を巡る。
目標もなく狭い東京でダラダラ生活するよりも、たまに帰り道にタヌキに遭遇する福島の仕事の方が僕には向いているのかもしれない。
ここに住む人たちは皆人が良い。
仕事もつまらなくはない。
でもいつのまにか僕は毎日をこなすように生きるようになった。
いつこうなったのか、僕には正確にはわからないし、そんな事はどうでもいい。
休みの日に外に出る事も少なくなり、家で過ごす事が多くなった。
外の雨は、今もシトシトと降り続いている。



金曜日の夜だというのに、僕はいつもどおり7時45分には家に着いていて、8時にはスーツを脱いで部屋着に着替えている。
ここ最近は年齢からか、体型を気にして糖分控えめのビールしか飲まない。
ふうとベッドに腰掛けて、一人『お疲れ様』と呟いてビールのプルを押し開けた。

32歳になった僕を見て、21歳だった頃の僕は何と言うのだろう?
『まぁそんなもんなんじゃない?』
『いつのまにそうなったんだよ。それが自分の望む姿なのか?』
あの頃はよかった、なんてフレーズは大嫌いだけれど、もしもう一度人生をやり直せるとしたら、僕はもう一度21歳の自分に戻りたい。
小さな中野区のアパートで、意味もなく元気だったあの頃に。

久しぶりにテレビをつけると、騒々しいお笑い番組が流れていた。
どうやら最近は見た目が奇抜だったり、おかしなお決まりフレーズをオチにもってくる芸人が世間にウケているらしい。
いくつもの芸人がそれぞれの芸を披露して、そしてすぐにベルトコンベアーに乗ってステージ裏に流されていく。
いつのまにかお笑いの世界も、薄利多売になったようだ。

そんな時、懐かしい顔がベルトコンベアーに流されて画面の中央にやってきた。
僕があっけにとらている間に画面下には『アヴァンギャルズ』という名のテロップが出て、彼らは漫才を始めた。
大学時代の友人、山江ユウキは、中野の僕のアパートに泊まりにきていた時と変わらない幼い顔をして舞台の上で暴れている。
顔をクシャクシャにしながらボケ老人を演じている。
いつの間にか僕は食い入るようにして画面を見つめていた。
ユウキは他の芸人よりも誰よりも、その3分間という限られた時間の中で戦っていた。
彼が相方に叩かれて髪の毛がなびく度に会場は地響きのような大声の笑いで包み込まれた。
ユウキは、戦う男の顔をしていた。
予想もしていなかった。
彼らのネタが終わった頃には、ユウキを『テレビの人』として見ている自分に気付いた。
カップヌードルの為に沸かしていたヤカンが噴き出して、僕は現実の世界に引き戻された。



(中)に続く…

コメント(4)

早く(中)書いて!!!

気になる。

この小説に猛中毒。

文才やな。




とりあえず、ハードル上げといたから

後頑張って★☆
面白いじゃない!!

久々に俺も書きたくなってきた!!

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