修復腎移植を認めさせようコミュの移植学会幹部への公開質問状、原本その２

2.5.公開質問状を出す理由、無視された「医学のあゆみ」論文＝同じ議員勉強会において、富岡議員の「今後、本人或いは難波先生など、修復腎移植の適応があるんじゃないかとお考えのグループを、私たちが呼んで討論会をやって、医学的な議論をもっとつめるべきではないかと思いますが、その点についてはどうでしょうか？」という質問に対して、寺岡移植学会理事長は「もしそういった議論が必要だとおっしゃるのであれば、私共はいつでも…」と答えている。福島医大の渡辺教授は「難波先生の論文は間違っている。必要なら病理学会の場ででも、公開の討論に応じる」と発言している。しかるに、この間、日本生命倫理学会の関係者が申し入れたシンポジウム等にはいずれも拒否回答をしている。筆者はごく最近になって議連での移植学会幹部の発言内容を知った。
　筆者は堤教授（前出）と共同で『医学のあゆみ』に「日本の実態」（前出）、「世界の実態」、「世界的ドナー不足とその対処策」（225巻12号）と３回にわたり発表した。その中でブエル論文の存在や進行中のニコル移植にも触れ、日本では小径腎がんの全摘は決して標準治療になっておらず、患者がどうしても全摘を希望する場合があり、ドナーとなることを承諾した場合に、修復腎移植を採用すれば年間約2,000個の腎臓が新たな供給源となる。これは人口100万人当りに換算すれば、欧米移植先進国における「献腎」比率と変わらない、と3月22日号論文で指摘した。
　驚いたことに移植学会はこの論文を完全に黙殺し、一切の反論や異論を同誌に寄せなかった。もちろん読まなかったのでないことは、前項の事実からも明らかだ。これらの論文は、病理学者としての良心と能力のすべてをかけて調査・執筆したものだ。それをつまみ食いした上に、「誤り」呼ばわりされるのは許せない。
　公開質問状を発表して回答を求めるとともに、この間一度も実現していない「公開討論会」の開催を要求したい。

　３.間違いだらけの日本移植学会発表
　 3.1.07年3月30日の厚労省における「高原発表」＝ 07年3月30日、日本移植学会の高原史郞大阪大教授は厚労省で記者会見を行い、市立宇和島病院の「病腎移植」25例の成績はきわめて悪く、特にがんの11件の成績が悪いと発表した。3月31日付「読売」の報道によると、表３のようになっている。この高原発表が元になり翌31日、病腎移植否定の「四学会共同声明」が出され、これらに動かされるかたちで４月以後、厚労省移植対策室が中心となり「病腎移植」禁止のために、「臓器移植法の運用指針」の改訂作業を開始した。そして7月12日に病腎移植を禁止する局長通達が出されたのが事実経過だ。
　よって、かつては保険診療として認められていた修復腎移植を再解禁させるには、スタートとなっている高原発表の誤りを指摘するのが必須となる。

　3.2.統計計算における基礎的誤り＝　医学統計の場合、異なった患者グループを比較するには、比較する因子以外の患者属性をできるだけ均一化しなければならない。白血病や悪性リンパ腫の化学療法において、病名、病期だけでなく年齢が重要な予後因子であることが知られている。異なったソースの腎移植を比較する場合にも、生体、死体、「病腎」（あるいはその病名）の区分だけでなく、ドナー及びレシピエントの年齢、過去の移植歴などが、比較するグループ間でできるだけ均一化されないといけない。
　まず年齢について見よう。市立宇和島病院の「病腎移植」は、ドナーについては22人中(ネフローゼで両側腎摘出が３人あるので、ドナー件数としては25件)11人(50%)が70歳以上の高齢者であり、高原氏が比較した移植学会に登録された生体腎・死体腎のドナーと年齢が大きく異なる。
　もう一つ重要な相違点は移植回数である。「病腎」グループは、初回7例、２回目12例、３回目4例、４回目２例となっている。複数回の患者はいずれも親族からもらった腎臓が機能しなくなり、２回目以後に修復腎移植を受けている。腎移植を複数回受けられる機会に恵まれた患者は日本にはほとんどいない。だから移植学会の過去のデータの圧倒的多数は初回腎移植のものである。つまり初回腎移植が「病気腎」であった７例のみが、移植学会の生体腎・死体腎移植データと比較可能なのである。
　つまり高原データは、ドナー年齢とレシピエントの移植回数という移植成績に大きく影響する患者属性を無視して、機械的、単純に死体腎、生体腎のデータと比較しているのだ。
この点で誤差を除去しようとすれば母集団を大きくして呉共済病院と宇和島徳洲会病院の症例を併せた「修復腎移植全42例」のデータを使用すべきであった。さらに年齢や移植回数による変動を除去するために、多変量解析という手法を用いるべきだった。生存期間、無病生存期間、生存率などを計算するには「カプラン＝マイヤー(Kaplan=Meier:ＫＭ)法」を用いるのが統計学の常識である。これは対象となる患者数が少ないことと、患者が長期生存の場合に追跡不能例が必ず出てくるためだ。５年目、10年目になると死亡例に加えて追跡不能例が出て来るから、分子と分母から追跡不能例を除外して生存率を計算する。しかし高原発表のデータが多変量解析やＫＭ法を用いた形跡はない。
　高原発表における修復腎移植の成績は死体腎、生体腎にくらべて著しく悪い。これは筆者や藤田氏が計算した値、あるいは日本移植学会が統計作成を委託してきた民間統計会社に、医療法人徳洲会が同じ元データを渡して計算してもらった値と対照的である。これら三者の計算では「生着率・生存率ともに死体腎の成績を上まわる」という万波論文と同じ結果が出ている。
　なぜ高原発表だけ異常に成績が悪いのか？高原グループはＫＭ法を知らず、予後調査も不十分なまま、追跡不能例を「死亡」と見なして計算し、高い死亡率を出したのであろう。この市立宇和島病院25例の解析データをもとに、「病腎移植の成績はきわめて悪い」という記者会見発表を07年3月30日に厚労省で行い、翌31日の病腎移植を認めないとする「四学会共同声明」につなげたのである。予定された共同声明にあわせて、データ意図的に操作されたのであればきわめて悪質であり、無知によりなされたのであれば「研究者失格」といわざるをえない。

　４.進まない日本の腎移植
　4.1.人口比世界一の生体腎移植
　1997年、移植関係者待望の「臓器移植法」が施行され、08年からは遺族の同意のみで臓器提供ができる「改正臓器移植法」が施行されたにもかかわらず、死体からの献腎数は法施行前の1996年の186個から増えていない（表1）。このため末期腎不全患者をかかえる家族では、家族の一員を救うための腎臓提供が、医師からも当然視されている。日本移植学会は学会「倫理指針」において「健常であるドナーに侵襲を及ぼすような医療行為は本来望ましくない」としている。しかし、日本では2010年に1,276件とこれまでで最多の生体腎移植が実施されている。同年の死体（脳死を含む）からの腎移植（膵腎同時移植を含む）は209件にすぎない。日本の腎移植の実に86%が生体ドナーに依存している。対人口100万人当たりの死体腎移植の件数は、スペイン46.7、フランス32.5、米国29.5、イタリア26.4。日本は死体腎0.6、生体腎10.0となる。死体腎に関しては、最上位のスペインと比べると、その差はなんと78倍もある。コンマ以下の数値にしか達しない日本が、「移植後進国」と見られているのは当然ともいえるだろう。死体腎の足りない分を、日本では生体腎が補っているのである。
　移植学会幹部は事あるごとに、「献腎移植を進めるべきだ」と口にするが、修復腎移植の公認とその推進以外に具体策はあるのか？あれば提示してもらいたい。「本来望ましくない」生体腎移植が、腎移植医の移植行為の86%を占めて常態化していることを、学会幹部は倫理的にどう考えているのか？特に「修復腎移植」潰しを「ジハード」と称している東邦大相川教授にはぜひお答え願いたい。

　4.2.年間1.5兆円の透析医療費を放置するのか？＝　慢性腎不全患者は「内部身体障害者１級」と判定され、障害者手帳を交付され、医療費は全額公費負担である。表１に示すように日本の透析患者総数は1995年に約15.4万人だったが、10年後には25.8万人と10万人以上も増えた。2012年には30万人を突破している。これは日本人の疾病構造が変わり、糖尿病に由来する末期腎不全が増えたのが関係している。毎年約3万人が新規に透析導入となり、透析中の約2万人が死亡するので、差し引き約１万人が純増となるという構図が2009年頃まで続いた。
　生活保護受給者の受給費総額や医療費が問題とされる割には、全国に透析患者が30万人以上いて、その数が毎年１万人以上増加していること、１人当たり年間約500万円、総額では約１兆5,000億円もの税金が使われていることをメディアはほとんど報道しない。これだけの医療費を使いながら、透析患者のＱＯＬ（生活の質）は貧しい。厳しい食事制限があり、定職にもありつきにくい。従って生活保護に依存する患者も多い。
　腎移植すれば移植した年こそ手術費用等が約500万円かかるが、移植腎を維持するための追加医療費は、年間150万円程度に下落する。それだけでなく、健康人と同じような食事ができ、定職にもつける。だからこそ、肉親から腎臓の提供を受けられる透析患者は、こぞって腎移植を受けようとするのである。
　しかし現在約1万3,000人いる「日本臓器移植ネットワーク」に登録している「腎移植待ち患者」は、寺岡移植学会前理事長の言によれば「100年待ち」の状況にある。それを知る患者の中には初めから諦めて登録料金（３万円）が無駄として登録しない人や登録維持費（年間5,000円）が払えず待機リストから脱落する人がいる。登録後に取り消す患者は44%であり、待機中に死亡する人が8.3%もいる。
　修復腎移植を否定・断罪した移植学会は、「ではどのようにしたら、日本の腎臓提供数を増やすことができるのか？」という問題に対しては「献腎移植を推進するべきだ」というばかりで、その具体案を示すことができないでいる。より優れた対案や代替案を出すことなく絶対反対を唱えることを世に「反対のための反対」と称するが、移植学会幹部には日本の移植医療の現状を劇的に変えるための対案はあるのか？

　4.3.修復腎移植を解禁するとどれだけの患者が救われるか＝
　1)堤調査：「広島県腫瘍登録」の腎がん年次統計に基づいて筆者が計算した全国の腎がん年間発生数と堤氏が出した全摘率83%を組合せて推計すると、年間に小径腎癌が2,664件全摘されている。この数値は07年のもので、高齢化の進行により腎がん発生率は増加しているから、今はもっと多いだろう。50歳以上の一般市民を対象としたアンケート調査によると小径腎がんになった場合42%が全摘を希望し、その場合70%が腎提供に同意している。よって推定ドナー数は783件となる。つまり、1202年の死体由来腎183件の4倍以上の「第三のドナー」が得られるのだ。他方、腎移植登録をした患者の7割は、がんになるリスク10%でも、腎移植を受けたいと望んでいる。
　08年2月27日「超党派議員の会」の第２回会合が開かれた。これには厚労省から西山健康局長、原口臓器移植対策室長、木倉大臣官房審議官などが出席した。この日、厚労省側から議員団に対して、かねて要求されていた「腎摘出の現状」と題する報告書が提出された。それによると、４cm未満の小径腎癌の全摘率は82.5%で、この数値は堤が独自調査した数値83%とほぼ一致していた。移植学会の「小径腎癌は部分切除が常識」という主張が事実でないことが明白になった。厚労省が自ら学会主張を否定する資料を提出した点で大きな意義がある。
　2)裁判提出資料：被告側の請求に基づき、高原史郞、寺岡慧、大島伸一、田中紘一、相川厚の被告５氏が当時所属していた施設の、腎臓がんによる手術件数、小径腎癌の件数、全摘件数、部分切除件数、部分切除のうち自家移植を行った件数について、資料が提出された。驚いたことに、どの施設においても小径腎癌の全摘の方が部分切除よりも多かった。
　つまり、部分切除は「標準治療」といえなかった。さらに「小径腎癌切除後の自家移植」つまり「修復した腎臓を患者に戻す」ことは、２施設ではまったく行われておらず、３施設でも1%に満たなかった。つまり彼らは「自分がなしていないことを他人要求した」のである。
　3)厚労省調査：前述の「厚労省アンケート調査」による小径腎がんの全摘率とそれにより修復腎移植に利用可能となる腎臓数を表2に示す。がん拠点病院数は増加しており、2011年には228施設に達している。日本全体では腎癌は増加傾向にあり、年間約12,000～15,000件が発生しているとみられる。そのうち小径腎がんが占める割合は、堤推計では48.2%と見積もられている。
　腎癌は比較的にありふれたがんであり、がんセンターなどのがん拠点病院以外の病院でも、多く治療されている。従って表2の全摘率46.7%という数値は、実情よりも低めであると考えるべきだろう。しかし最先端を行くがん拠点病院でさえも毎年約1,000個の利用可能な腎臓が摘出されていることは、強調されてよいだろう。

　4.4.「腎移植認定医制度」＝　日本臨床腎移植学会は「病腎移植事件」後、「腎移植の質を担保し、倫理的に正しい腎移植発展のため」（認定医制度委員会委員長・相川厚）として、07年9月に腎移植医の認定制度を発足させた。当初の4年間は移行措置により、腎移植を実施中の現役医師のうち「認定審査」を求めたものの認定が行われ、08年からは新規腎移植認定医の審査が開始された。移行措置は10年度申請をもって終了し、現在は新規認定のみになっている。認定の有効期間は5年で審査料２万円、認定更新料１万円である。
　他方、日本移植学会は「病腎移植事件」が発生した当時は任意団体だったが、11年12月一般社団法人に移行した。同会は11年10月から「日本移植学会認定医制度」（以下「移植認定医」）を発足させた。認定医の有効期間は5年間で、認定審査料2万円、登録料1万円、更新登録料1万円である。移植認定医と聞くと世間は「臓器移植のエキスパート」と思うが、名称は同じでも分野別に認定が行われており、1)腎移植（経験10例）、2)肝移植(10例)、3)その他の臓器(3例)の経験でよく、それも執刀経験でなくても、内科医として相談に乗った例数、麻酔医として術前術後の管理にあった例数でもよい。従って透析医学会専門医、日本血液学会専門医でも、移植に関する筆頭著者論文または学会発表が３篇以上あれば移植専門医になれる。
　他方、一足先に発足した臨床腎移植学会の「腎移植認定医」の場合は、外科系と内科系で認定条件に違いがある。外科系の場合は「手術実績10例、うち５例は術者としての経験」以上、移植に関する論文が１篇以上となっている。内科系の場合は「腎移植手術の見学２例、移植腎生検の診断５例」が最低条件になっている。つまりどちらの制度も、移植専門医への入口はいろいろで、出口の「腎移植認定医」、「移植認定医」だけは同じなのだ。
　制度論的にみると、腎移植認定医と移植学会の移植認定医の認定条件は異なっており、腎移植認定医と移植認定医の関係はあいまいかつ複雑である。透析専門医がなぜ移植専門医になれるのか？このように腎移植認定医、移植認定医の制度設計は、相川認定委員会委員長や高原移植学会理事長の主張に相違して、日本の移植の質を高め、国際的にも賞賛されるような制度になっていない。
　それを痛感させる事件が、13年4月、沖縄の病院で起きた。生体腎移植手術の際にドナー腎臓の摘出に際して、血管を損傷したための出血死という信じられない医療ミスだ。沖縄県浦添市の病院で移植認定医が起こしたものだ。「臓器移植ネットワーク」は沖縄県で腎移植ができる病院として、この病院を含む４病院を推薦している。この資料はどの学会が提供したのか？沖縄には９名の移植認定医しかおらず、問題の病院には１名しかいない。この認定審査を行った委員会の委員長は、患者裁判の被告となっている相川氏だ。また執刀医が研修した施設も東邦大学である。相川氏は研修指導者として、学会幹部として、どのように責任を取るつもりなのか？
　現状をみると、「腎移植認定医制度」は、修復腎移植を推進する異端の医師たちを排除し、学会が専門医の認定料、更新料を徴収するための措置だったと勘ぐられても仕方がないだろう。日本病理学会は専門医制度を導入するにあたり、1)病理専門医に対して死体解剖数、生検経験数、細胞診経験数などの厳しい条件を要求し、2)認定医指導者がいる「病理認定病院」での研修終了後に、試験（筆記試験、口頭試問、標本の顕微鏡診断試験）を科している。これは医師国家試験よりも厳しい。それが「医師は貧乏人の弁護士である」と述べた近代病理学の父ルドルフ・ウィルヒョウ以来の伝統を受けつぎ、100年の歴史をもつ日本病理学会が社会的責任を果たす道だと考えているからである。

５.修復腎移植のどこが悪い？
　5.1.すべては病腎移植から始まった
　5.1.1.米国での腎移植＝世界初の修復腎移植は、1951年、米マサチューセッツ州のスプリングフィールド病院で、下部尿管癌がある患者腎臓を用いて、末期腎不全の状態にあった患者に移植したものだ。術者はジェームズ・Ｖ・スコラ医師。腎摘出し尿管がんを切除後に、腎移植を行った。まだ免疫抑制剤がなかったので、最初の数日は利尿もあったが、次第に拒絶反応が起こり３週間後に死亡した。これはマレー博士による最初に成功した一卵性双生児間の腎移植よりも3年前である。

　5.1.2. フランスでの腎移植＝フランスでも1951年にルネ・キュス医師が「ヒトの腎移植についての若干の考察」という論文を「外科学会紀要」に発表し、尿管結石、腎動脈狭窄など４例の「病気腎」を移植に用いたことを述べている。

　5.1.3.日本での腎移植
　5.1.3.1.新潟大のケース＝1956年、新潟大学医学部泌尿器科（楠隆光教授）で、昇汞を自殺目的で飲んだ若い男性の尿毒症に対する治療として、たまたま「特発性腎出血」のため左の腎臓を摘出する予定の男性患者から、治療目的で腎臓を取りだし青年の鼠径部皮下に移植した。これが日本最初の腎移植である。特発性腎出血は放置すれば貧血を来たし、全身に悪影響が出る。そこで最後の手段として出血している側の腎臓を摘出する。楠教授はこの腎臓を患者の腎臓が復旧するまでの「つなぎ」として移植することを考え、腎摘出と腎臓移植という二つの手術を同時に行った。幸いこの移植腎は１週間以上機能して患者の腎臓が働き始めた後、取り出された。救命に成功したのである。

　5.1.3.2.市立宇和島病院のケース＝「瀬戸内グループ」の修復腎移植は、公的には91年1月に呉共済病院で行われた75歳男性の腎動脈瘤のある腎臓を摘出して動脈瘤を切除後に、地方公務員の44歳男性に移植したのが最初とされている。患者は現在も生着生存中だ。
　だが筆者の調査により83年1月に市立宇和島病院で特発性腎出血のため入院中のA子(36)から、慢性腎炎末期のS子(26)に対して行われたことが判明した。このケースは入院中に友だちとなったA子が「この腎臓はうちに合わんから出血する。あんたにあげたら出血せんかもしれん」とS子に提供を申し出て、２人で万波医師に腎摘出後の移植を希望したものだ。
　万波誠医師はふり返って、「あの腎移植が修復腎移植の第１例だった。わしは患者さんに＜捨てる腎臓が使えるかも知れん＞というアイデアを教えてもろうた」という。このように現場で患者とともに悩み苦しんでいる医師であれば、「患者本人にとっては有害無益な腎臓でも、移植によって別の患者を助けられるかもしれない」という発想をもつのは当然である。国外でも国内でも異時性あるいは同時多発的に、同じような事例が生じているのは驚くに当たらない。
　米国、フランス、新潟、宇和島の７症例とも、移植学会のいう「病腎移植」の定義を満足している。移植学会が非難する「病腎移植」とは、①他人間の生体腎移植であること、②健康とはいえない腎臓を移植に利用すること、③治療目的で取り出した腎臓を移植に使用すること、の三つをいう。移植学会と共同声明に名を連ねた学会の幹部たちは、「万波移植」とともに、これら国内外の先人達の業績を全否定するつもりなのか？もしそうでないなら、万波移植とどこがどう違うか答えてもらいたい。

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