アナタが作る物語コミュの【青春活劇】中二病疾患　第十四話『アイムホーム～アイスクリームとキャッチボール編』

「オレ、普通にしゃべれるじゃん」
　洗面所の鏡の前に立って、実際に口に出して言います。
　やっぱり違和感があります。自分、工藤仁平と言います。母が父に、同じ部活の後輩だったせいで『自分～っす』と話しかけているので影響を受けて、同じしゃべり方になってしまいました。
　いや、ちょっと頑張れば普通にしゃべれるんすよ？　『オレ』とか言えるし。ただ違和感がありますので無理に直さないだけっす。
　それにうちのクラスには『ですのよ』とか言う村上真理子さん（お嬢様っすか）や『だぜぃ』とか『でやす』とか言う三宅洸太くん（時代劇っすか）がいますから、自分が体育会系のしゃべり方なのも違和感ないっすから…多分。
「早く開けろよ」
　後ろから兄貴が言いました。さすがに成人した兄貴と中二の弟が仲良く並んで歯磨きをするのは抵抗があるのでしょう、少し不機嫌そうっす。
「はいはい、兄貴は先に着替えれば良いんすよ」
　と答えておきます。
「朝練は？」
「今日はないっす。兄貴こそのんびりしてるとまた遅刻っすよ」
　朝から兄弟ゲンカの気配が…。勘弁して欲しいっす（いや、自分も悪いんすが）。
「二人とも早く朝ごはん食べないと遅刻っすよー」
　母の声がします。

　＿＿＿

「おはようございます、おじさん。おはよう、新川さん」
　すっかりお約束になっている朝の風景だ。
　僕か新川さん、どちらか先に着いた方が岩崎のおじさんと話しながら時間を潰し、後に着いた方が挨拶をして、新川さんと僕の二人で学校に向かう。
「おはよう、浩樹」
「おはよう、津山くん」
「じゃ、行って来まーす」
　最近はかなりエロくなった僕は新川さんのユサユサ揺れる胸を横目に登校する。冬服のブレザーの締め付け感がでかさを強調するから最高♡　いかんいかん、にやけてたら。
　学校が近くなると教室でつるんでる仲間と合流し出す。僕はアキやマサやタケやはじめくんと、新川さんは沢菜さんや立野さんと。
　しかし、自分にこんな日が来るなんて…。半年前の自分が他人のようだ。
　四月の終わり頃、アキ達に誘われて高原に行って仲良くなって…いや、それより少し前にタケから『もうごちそう様？』とか言われたのがキッカケだっけ？　何が転機になるかなんて分からない。

　藻茶市で生まれたものの心臓の病気のせいで体が弱かった僕は静岡県に引っ越す事になった。大学病院を紹介され、そこで心臓の手術をするためだ。体が小さくて弱かったせいで、体力が持つかどうか分からないと言う理由で手術の予定は一年延びてしまい、小学校入学の一ヶ月前になってしまった。おかげで小学校の入学式には行けなかった。
　小学校は病院のある大学の教育学部の附属に通う事が決まっていた。先生達は病気の事を通達されていて、色々と気を遣ってくれたし、通院やリハビリで授業に出られなくても院内の特別教室に出席させてもらったり、特別に補習してもらったりしていた。
　学校では友達はできなかった。あいつは心臓の手術をしていてあまり激しい運動ができない、そう言われていたんだと思う。多分、クラスメイトの親から伝わったんだと思う。だから、別に邪険には扱われなくても、無理をさせて何かあったらいけないからと親しくしなかったんだと思う。
　小学校に通い始めてからは長期の入院はなかったけれど、検査やリハビリプログラムのための短期の入院はたまにあった。
　そんな時はいつも大部屋に入院していた。個室は贅沢だからとかではなく、僕が夜中に一人で寂しくないようにと両親がそうさせてくれていたのだ。当時の僕は学校ではあまりしゃべらなかったが、入院中の子達とはよく話していたと言うのもあるだろう。
　僕は入院患者の中では元気な方だった。当時のクラスメイト達が見たら別人だと思うくらい明るい少年だっただろう。クラスの隅っこで薄ぼんやりしている津山が楽しそうに笑って、看護師さんに怒られるくらいのヤンチャ坊主になっていやがる、的な。
　でも病院は病院だ。人がケガや病気を治す場所でもあると同時に、治らずに息を引き取る場所でもある。何人かが病院を去った後、亡くなっている事も知っている。
　青空もその一人だった。

　………

「お前ちっちゃいなぁ。俺と同い年だろ？」
　当時から同学年の子達の中では背が低かった僕はムッとした。そりゃ確かに小四にもなって一年生と間違われる事もあったけどさ…。
「何だよ、お前？」
　かなり生意気に返した。そいつは大して背は高くはないけど低くもない、標準的な奴だったから余計に腹が立ったのかも知れない。
「遠野青空」
「名前訊いてるんじゃない」
「じゃ、何だよ？」
　小さいとか言うな、とは言えなかった。気にしていると認める事になるからだ。それを分かっているのか青空はニヤニヤしていた。
「お前から話しかけて来たんだろ？」
「そうだっけ？」
「お前、アホだろ？」
　つい笑ってしまった。いや、笑う所じゃないんだけど。
　小児科の四人部屋、後は就学前のシャイな男の子と無愛想な六年生の男子がいるだけだ。二人ともあまり話していない。
「アホって言うな！　笑うな」
「だってアホなんだもん」
　僕らがその後ケンカを始め、就学前の子が泣き出して病院職員と母からこってり絞られた事は言うまでもない。

　青空は抗がん剤の作用で髪も眉も全て抜けていて、ニット帽を目の上ギリギリまで深く被っていた。
「お前は普通に学校行けてるんだな。俺は退院しても中々通えなくてさ。しかも今回は長引きそう」
　長引きそう。そう言った時、妙に寂しそうで哀しそうだった。多分、長引いた末に次に病院から出るのは、こいつが亡くなる時なんだろうと直感的に分かった。分かりたくなかったけど。
　一週間で退院した（そもそも検査とリハビリだった）僕と青空は携帯でメールのやり取りをするようになった。青空もケンカはしたけどバカ騒ぎしたりできる友達はいなかったのだから、寂しかったのかも知れない。
『昨日の夜は痛み止めが効かなくてしんどかったわー』
『今日は朝から白和えだった…。ハンバーグ食いたい…肉…肉ーっ!!』
『そろそろ学芸会だろ？　リコーダーちゃんと練習しろよな』
　なんてメールがちょいちょい届くようになった。
　僕の予想に反して小四を乗り越えた青空とのそんなやり取りは中一の夏まで続いた。

　………

「ヒロくん、近付かない方が良いっすよ」
　風が少し冷たかったので閉めようと窓に近付いた時だった。突然、声をかけられた。同じクラスの工藤仁平くんだった。
「どうし…」
　僕が言いかけるよりも先に口を開いたのは、窓際で本を読んでいた宅間ひかるさんだった。それにしても『黒魔術全集～これであなたも人を呪い殺せる！』って…。
「失礼だな、ちゃんとしっかり口をゆすいだよ。まぁ、少し飲み込んだけど」
　あっけらかんとした口調で言う。何を飲み込んだんだろう？
「とうとう超えてはいけない線を越えてしまったんす」
「超えてはいけない線って？」
「拾い食いして、カリントウと間違えて犬の…」
　仁平くんが言葉に詰まる。
「これ以上は…」
　仁平くんの黒渕眼鏡の奥に哀しみが…。
　まさか！　宅間さんの口元を見ると、茶色い何かが口角に小さく付着していた。拾い食いの時点で問題があるのに、そんな…。

　＿＿＿

　だから言ったんすよ、拾い食いはやめるように。
「あれ？　カリントウが落ちてる。ラッキー♪」
　登校中、宅間はいつもの調子でソレを拾い上げ、口に運びました。
「ぐふっ…これ、犬のウンコだ…」
　いや、自分は一目でわかりましたけど（おそらく小型犬のソレ、飼い主の方はちゃんと片付けましょう）…眼鏡は伊達だから視力は良いんす。
「大丈夫っすか!?」
　宅間はこの程度じゃ腹を壊しそうにありませんから、訊くだけっす。
「ちょっと飲み込んだ…」
「マジっすか…」
　少しだけ困ったような表情になります。遂に踏み入れてはいけない領域に足を踏み入れたのに、本当に少しだけっす。
「まぁ口をゆすげば平気かな…」
　立ち直りが早過ぎっしょ!?　案の定、トイレでゆすいだ後はいつも通り呪いだの占いだのの本を窓際で読んでいました。こいつ…どう言う脳の構造をしてるんでしょう？
　何も知らないヒロくんが無防備に近付いてしまったので、念のために近寄らないように忠告はしました。せめて口の横に着いてるアレを拭き取るまでは、人を近付けさせるのは危険っす。ヒロくん（相当ショックだったらしいっす）が離れてから、宅間にはもう一度口をゆすいで口の回りもきれいに洗うように言っておきました。
　でも悲劇は続きます。その日の給食のメインはドライカレーでデザートはココアトリフでした（自分は全部食べましたけど、ヒロくんは半分以上残していました。多分宅間のせいっす）。

「よう、今帰り？」
　旬ちゃんが言います。
「珍しいっすね、こんな時間まで」
　旬ちゃんは科学技術部、自分は卓球部っす。旬ちゃんの方が終わる時間が早く、また自分のペースで進められるので参加せずに帰宅する事も割と多いんす。一方自分は練習やジョギング、筋トレなどもありますので、部活は時間ギリギリまでする事が割りと多いんす。
「ちょっと新しい機械を相田さんに頼まれてね」
　和やかに答える旬ちゃんっすが、相田さんと言う名前に嫌な予感が一瞬過ぎりました。まぁ、旬ちゃんに限って悪用されるような物（男子数名を裸にしてキスさせる道具、等）を作る事は…多分ないっす。
「送るよ、暗くなるの早いだろ？」
「大丈夫っすよ。自分はもう中学…」
「見えない」
　ひ…人が気にしている事を…。
「まぁそんな顔すんなって。最近小学生が不審な男に声をかけられる事が多いらしいから」
　旬ちゃんの妹さん経由っすね。おそらく小学校で通達されたんでしょう。
「だから自分は小学生じゃないっす。そもそも男に…」
「声かけられるのは男の子らしいよ。それも高学年くらいの」
　ピンポイントで責めて来ないで下さい。確かに自分は背が低いので、見た目は小学校高学年くらいに見えるようっすけど。でも少し不安にはなります。旬ちゃんは人をからかうような人ではないので本当に心配してくれているんしょう。
「でも男子に声をかけるんなら、ヒロくんやダイちゃんも危ないんじゃないっすか？　あの人達も見た目はそうっすよ」
　認めたくないっすけど。ちなみにその二人に自分と図書委員のモモさんを含め、二年四組のちっちゃいものクラブと言う不名誉なあだ名をつけられています。こちらは更に認めたくありませんが。
「大輔は務が付いて帰る事が多いし、あの気の強さじゃ心配ないだろ。浩樹は明仁が送るか、新川さんと帰るかしてるし」
　それなら安心っすね。
　でも、安心とは行きませんっした。

「え？　知らないっすよ？」
　夜九時に電話をかけて来たのはアキさんでした。
『そっか。夜遅くにごめんな』
　そう言うと電話は切れました。ヒロくんが帰っていないそうっす。何があったのでしょうか？
　その数分後、ヒロくんのお母さんから家に同じ内容の電話がかかって来ました。

　翌朝、ヒロくんの行方不明騒動のせいで、宅間の食糞事件は広がらずに済みました（全部食べなかったから未遂だと本人は主張してるっす）。
「津山くんが昨日から帰っていません。もし知っている人は後ででも良いので先生達に教えて下さい」
　朝のホームルームで担任の灰田先生が言いました。それでも朝はやって来るんす。いつも通りの陽射しを自分達に注いでくれます。教室の空気はいつも通りじゃなくても…。

「昨日はヒロと一緒に帰ったんだ。妹の小学校で男の子が不審な男に声をかけられて、一緒に来ないかって言われる事が何度か起こっていたから。ほら、ヒロって見た目は小学生くらいだろ？
　マンションの前まで送ってそれっきり。俺も家の手伝いがあったから帰っちまった。ちゃんと家の中に入るまで一緒にいるべきだったんだ」
　一時間目は自習になりました。アキさんは後悔しているようでした。
「心配し過ぎじゃない？　見た目は小学生でもちゃんと中二男子なんだし、単にプチ家出的なもんじゃない？」
　食糞…じゃなくて宅間が言います。おそらく慰めのつもりっしょうが、アキさんを余計につらくさせたようっす。
「ヒロはそんな事しないよ。一万歩譲ってしたとしても行く宛は俺かタケかマサの家だろ？」
　確かに、タケもマサも隠し事はできないタイプなのでヒロくんを匿っているとしたらすぐにバレるっしょう。二人も心配している様子を見るとそれは明らかっす。
「でも何で男の子なんだろ？　まさか…」
　相田さんが口を挟みます。またＢＬ絡みのネタを混ぜ込みそうっす。
「百合、今それシャレにならないから」
　木下姐さんが釘を刺します。度の越えた下ネタで風紀が乱れる事を阻止する役目を担当している人っす。その相棒のケンちゃんも『反省文用原稿用紙』と書かれた封筒を持って相田さんの横に立ちます。
「いや、でもシャレじゃなくヤバくない？　津山くん家ってお父さん社長でしょ？　身の代金目当ての誘拐なら害を加えないかも知れないけど、ハナっからイタズラ目的だったら何され…」
「やめてくれ」
　相田さんの言葉をアキさんは遮りました。
「ともかく、俺達ガキがどうこう騒いでも混乱させるだけだ。後は保護者や警察に任せて大人しくしとこう」
　アキさんは吐き捨てるように言いました。確かに自分達にはそれしかできません。

　＿＿＿

「やっぱり皆心配してるかなぁ…」
　朝が来ると唐突に不安になった。親とか学校とか。
「今からでも帰る？」
　ジョーさんが訪ねて来る。
「うーん…怒られる…かな」
　長引けば長引く程怒られる事は僕だって分かる。
「ごめんな、付き合わせちゃって」
「いや、乗った方も乗った方だから」
　そう、誘われてフラフラ着いて来たのは僕自身なんだ。
　一Ｋのアパートは少し古くて埃っぽいけど、ジョーさんのおかげで寂しくはなかったし、初めてお酒も飲んだ。いや、未成年飲酒がいけない事は知っているけど。
「しかし少し大人っぽくなったな」
　心の中では嘘吐け、とぼやいたが、少しだけ嬉しい。
「最後に会ってからまだ半年ちょっとしか経ってないよ。いきなりそんなに大人にはならない」
「中学に上がったらある日突然大人っぽくなる日が来るんだぜ。
　でもまさか藻茶市でまた会えるなんてな。すげー偶然だ」
　ジョーさんはそうに言いながらニコニコと笑って僕の頭を撫でて髪をクシャクシャにした。そう言うのは大人扱いしてないと思うんだけど。

　………

　ジョーさんと初めて会ったのは中一の夏休みの少し前、期末テストが終わって後は夏休みを待つばかり、周囲がそんな浮ついた気分をしていた時だった。
　僕はそんな浮ついた気分にはなれなかった。クラスに馴染めなかったからと言うだけじゃない。
　夏休みは学校に行く必要もないし、父や母も毎年三日は休みを作ってくれて、どこかに連れて行ってくれるから嫌いじゃない。
　青空が本当に青い空に帰っていってしまったからだ。
　本当は入院していて、同じ病室で過ごしていた子が亡くなるのは初めてではない。
　僕が入院中に亡くなった子もいるし、手紙やメールのやり取りをしていて、家の人から亡くなったと報される事もあった。
　正直、ケンカまでしたり、一緒に悪さをしたりした友達は青空が初めで、だから印象に強く残っていたのかも知れない。
　青空のお母さんから葬儀に出て欲しい、そう言われて告別式に出た。
　違う中学の制服を着た子が何人もいたが、彼らはあまり哀しそうではなかった。ただ無表情に、義務的にそこにいます、そんな感じだった。学校にあまり行けなかった青空はクラスには席を置いていてもいないも同然だったんだ。だから彼らには実感がないんだ。学校には通えていても、僕もそうだから。
　そう思うと病院での明るい青空の表情が痛々しくなる。僕は勝手に青空はクラスでもお調子者で人気者だと思い込んでいたからだ。
　何だよ、このうそ臭い葬式？　ご両親は泣いてるけど、他の人達は全然悲しそうじゃないじゃん。そうか、ドッキリだ！　『実は生きてました』ってプラカード持って、ニヤニヤしながら棺桶から起き上がって来るんだろ？　趣味が悪過ぎるだろ、そのギャグ。
　なんてムチャな事を考えたりもした。
　でも現実だった。焼かれた青空は白くてボロボロと崩れ落ちる骨になった。

「坊や、そんなとこ歩いてたら危ないぜ？」
　葬式の帰り、その声に振り向くと、無精ヒゲにボサボサ頭の男が立っていた。年は若いような、若くないような…。原付バイクを押して歩いている。ヨレヨレのＴシャツにジャージにサンダル履きだ。
「あ、ご忠告ありがとうございます」
　僕はいつの間にか道路の真ん中を歩いていた。道幅は広くなくて、車の通りも少ないから歩道もない住宅街の道だ。僕は右端に寄る。
「坊や、制服着てるけど中学生か？」
　あ、背が低いし童顔だから小学生に見えるんだ。ムッとする気にはなれなかったので気のない返事をする。
「そうです。一年です」
「そっか、そっか。今日は日曜なのに学校？　部活？」
「いえ、葬儀です」
「ソウギ…？」
　男が首を傾げる。
「お葬式です」
「あ、成る程。坊やは難しい言葉を知ってるな」
　子供扱いされているようで、少しムカついて来た。何で人がそれなりに虚しい気持ちになってる時に…。
「あの…その坊やってのやめて下さい。津山って言います」
「ごめんごめん。津山くん。下の名前は？」
「浩樹です」
「浩樹か。俺は兼松丈」
　ジョー？
「そうですか。じゃあこれで」
　何だこの人？　何で僕はこんな人に個人情報をベラベラしゃべってるんだ？　ああ、アホらしい。さっさと帰ろう。
「あ、端を歩き過ぎても危ないぞ」
　返事はしなかった。でも忠告はキチンと聞くべきだった。
　三歩踏み出すと、僕は右足を溝に突っ込んだ。
「うわっ！　つっめてぇ」
　つい大きな声を出す。
「ほら、言わんこっちゃない。あははは」
　背中の後ろでジョーさんが笑っている。何かムカつくので無視して靴と靴下を脱ぐ。ズボンをまくり上げる。ケンケンで帰るには無理があるので、気持ち悪いけど濡れた靴を履いて帰るか。
「送るよ？　それ履いてたら気持ち悪いだろ？」
　振り返るとジョーさんは人懐っこそうな笑顔を浮かべて、バイクの荷台を叩いた。
　癪だけど頷いた。

　それから学校の帰り道などで声をかけられる事がある。帰宅部の中学生の下校時間に寝間着みたいなジャージにＴシャツのおじさんって…何をしてるんだろう（後に夜間の工場で働いていて、仕事に行く前の時間だった事を知る）。
　夏休みの間は、夕方にジョーさんと遊ぶ事が多くなった。河川敷でキャッチボールをしたり、ゲームをしたり、コンビニでアイスを買ってもらって一緒に食べたり、そんな感じだ。
　今から考えると得体の知れない大人と親密になるのは怖い気がした。両親にはジョーさんの事は話していない。会う事を禁止されそうな気がしたからだ。
　だからではないが、岩崎のおじさんについてはキチンと紹介していて、両親には地域の人として見てもらっている。

　………

　ジョーさんの生まれが藻茶市だとは昨日初めて知った。ジョーさんは幼い頃に両親が離婚して、高校を卒業して就職してすぐに育ててくれたお母さんを亡くしているらしい。それからは職を転々としながら静岡に流れ着き、ふと里心が付いたとかで藻茶市に戻って来たと言う。
「そう言えば携帯も鳴らないな、中学生の息子が一晩帰ってないのに…」
「昨日は充電してて部屋に忘れてたから」
　昨日の朝、電池が十％を切っていたので学校には持って行かずに充電器に刺してから家を出た。
　多分、母は僕に電話したけど部屋から着信音が聞こえたので驚いただろう。ちなみに別に携帯を一日持ち歩かなくても不便だとは感じなかった。

　＿＿＿

　いつもの食欲もどこへやら…アキさんと新川千沙さんは早々と給食を食べ終えると教室を出て行きました。大盛りはいつもの事っすが、お代わりをしないなんて…（二人は大柄なのでいつも沢山食べるんす）。
「やっぱり津山くんが心配なんだよ、田村くんも新川さんも仲良かったから」
　給食委員の戸田さんが言います。同じく給食委員の旬ちゃんも頷きます。
「しかし、どこへ行ったんだ？　まさか授業をサボって浩樹の捜索じゃ…」
　旬ちゃんが言います。自分は春雨スープを口にしながら横耳で聞きます。
「ちーちゃんも部活じゃなかったら一緒に帰ってたのにって自分を責めてた」
　結唯姐さんは今度は千沙さんの心配を始めました。
「ごちそう様っす」
　自分はさっさとソボロがけ豆腐を掻き込むと席を立ちました。
「おい、仁平、いくら柔らかいからってちゃんと噛まないと…」
　旬ちゃんが言いますが、ヘイヘイと気のない返事を返してトレーを片付けます。こんな事で怒るような人じゃないっす。
　さて、アキさんと千沙さんはどこへ行ったんしょうか？

「田村くんと新川さんを探すんでしょ？」
　教室を出ると宅間に呼び止められました。
「口、拭かないとまたアレを思い出します」
　口の横に着いたソボロ餡が昨日の…いえ、何でも…。宅間は大人しくブレザーの裾で口を拭きました。
「私の推理によると、二人はおそらく街を探してもラチが開かないと分かっていて何か別の方法を探ってると思うんだ。それが何かは分からないけど」
　よく見ると宅間の胸に着いているのは学校指定のリボンではなくわざとらしい蝶ネクタイになっていました。そして自分の眼鏡をひょいと取り上げると、かけました。コナンのつもりっすか？
「いや、夏にケンちゃんがホームズやってたから今更っすよ…」
　宅間の頭にタライが落ちて来て、ぐわあーんと音を立てます。
「まぁ、それは良いんだよ」
　宅間は眼鏡を自分に戻すと、今度は蝶ネクタイを黒ネクタイに替え、腕まくりをして左手に黒手袋を付け…
「眉毛を描いてぬ～べ～なんすね」
「まぁそうだけど…。私のインチキ霊能力がビンビン反応してるんだよ」
　自らインチキって…。
「もうネタは良いから早くアキさんと千沙さんを追いましょ。街を探してもラチが開かないって分かってるんなら校内にいるんしょ？」
　昼休みは無限にある訳ではないんす。
「あんなデカい人達隠れようがないからすぐ見付かるよ」
　ギャグを封じられて不機嫌になった宅間が言いました。非常時にやめて欲しいんすけどね、そう言う事は。

　案の定、アキさんはすぐに見付かりました。
「あ、あのオウムっす」
　たまにアキさんの肩に止まっていてはすぐに消える白いオウムを今は腕に止まらせているアキさんを見付けたのは、屋上へと上がる階段っした。と、言っても屋上は二学期が始まってすぐに飛び降り自殺未遂があったので閉鎖されたので、扉に鍵がかかっていて出られないんすけどね。
　暗い中で浮かぶアキさんの大きなシルエットは右腕を顔の前に持って来ていて、腕に止まったオウムと向かい合っているようっす。オウムの白い羽は暗闇の中では薄ぼんやりと光って見えます。
「え？　私は見えないよ」
　インチキ霊能力者の宅間が口を尖らせます。
「シッ！　見付かるっすよ」
　取り敢えず宅間を黙らせると自分達は踊り場のアキさんからの死角に入ります。多分、見付かってはいないはずっす。一瞬オウムと目が合った時はドキドキしましたが。
　アキさんは何も言いません。ただ押し黙っているだけっす。暗いから表情も読めません。
《やっぱり私じゃ明仁以外は感じ取れないよ。浩樹の行く宛を知っている人がいれば頭の中を読み取れるけど》
　いつもはすぐに消えてしまうオウムっすが、今日に限ってはずっと見えています。それに声まで聞こえます。クチバシを動かしている所を見るとしゃべっているみたいっす。凄過ぎっしょ！　アキさんは小さく頷くだけっす。
《もう一度探してみる。建物の中もできるだけ入ってみるよ》
　そう言うとオウムは羽ばたいて、壁の中に消えました。まさか霊っすか…？
「ヤバい、アキさんが来ます。離れるっすよ」
　小声で宅間に囁いて足早にそこから離れました。

コメント(12)

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[1] mixiユーザー 12月03日 20:11

　多分、会話が終わったからこっちに来てもおかしくはありません。
　自分達はいつしか競い合いながら家庭科室の前に来ていました。
「で、私達は何で走ってたんだっけ？　どっちが素早いか競うためじゃなかった気がする」
「アキさんが気付く前に立ち去るためっす。さて、次は千沙さんを探しに…」
《その必要はないよ》
　年齢と性別は不詳の…多分女性寄りの声がして辺りを見渡しました。さっきのオウムの声っす。
《分かってたよ、だから君に波長を合わせて私の声が届くようにした》
　自分と宅間しかいないはずの静まり返った家庭科室の前っす。それなのにザワザワと聞こえないはずの音が、何とか言えばいいんしょうか？　頭の中で直接響くような感覚っす。
《その感覚はすぐ慣れる》
　肩にふんわりと何かが止まったような気がして左を向きます。アキさんの白いオウムの横顔が目に入りました。羽は雪のように白く柔らかな光りを放っています。目とクチバシは金色っす。近くで見ると近くでよく見る機会は初めてっすが、美しい鳥だと思いました。
「白いオウム…」
　クスリと笑うような声が頭に直接入ってきます。
「え？　田村くんの？　いるの？」
《私はコミタ。明仁の肩に寄り添う存在。明仁以外の者には時々、波長が合った時にだけ姿が見える。今は君の波長に合わせている。よろしくね、仁平》
「名前まで知ってるんすね？」
《明仁の周りの事は大抵知ってる。浩樹の居場所は分からないけど》
「宅間には見えないんすか？」
《ひかるには見えない。声も聞こえない。二人以上に波長を合わせる事はできないから》
　宅間は不思議そうに、でも真剣に自分を見つめます。宅間には見えない、聞こえないのなら一人芝居をしているように見えるかも知れません。
「何で自分の前に出て来たんすか？」
《たまたま仁平と波長が合って見付かったから。変に詮索されるよりは良いと思って波長を合わせた。君も浩樹が心配なんでしょ？》
「まぁ、それなりには…」
《私は実体がないから物をすり抜けたり、頭の中を覗いたりは出来ても何の行動も起こせない。明仁は今、責任を感じて浩樹のためなら無茶もやりかねない。だから仁平に協力して欲しい》
　確かにアキさんは小学生時代から責任感が強く、一人で背負い込んでしまう所がありました。
「何をするんすか？」
《出来るだけ側にいて、もし何かしようとしたら止めて欲しい。出来る範囲内で構わないけど》
「分かりました。やってみます。出来る範囲で」
《そう、じゃ…あ、待って》
　コミタはそう言うと窓をすり抜けて行ってしまいました。
《窓を少しだけ開けて、外から見えないように見て》
　再び窓をすり抜けて自分の肩に止まったコミタが言います。宅間にも同じ事を言って身を隠させてから窓を五センチくらい開けました。外を覗くと千沙さんがいました。
「俊也くん、やっと見付けた」
　千沙さんは誰もいないとこに向かって話し掛けていました。
「津山くんを探して欲しいの」
《千沙は岩崎俊也と言う少年の霊に話し掛けている。ただ、俊也は基本的に人に話し掛ける事ができないから首を横に振っているだけ》
「何でだめなの？」
　千沙さんは困ったような声を出しました。
《私が伝えて来る。私が俊也の頭の中を読み取って千沙に伝えれば話しは通じるから》
　そう告げるとコミタはパッと消えてしまいました。少ししてまた自分の肩に止まりました。
「その俊也くんと千沙さんはどう言う関係なんすか？」
《千沙や浩樹の近所に仲良くしている岩崎と言う名のおじさんがいて、その人と校長先生は元夫婦。二人の間には子供がいて十四年前に亡くなっている、それが俊也。千沙と浩樹は岩崎のおじさんと仲が良いから俊也が見える》
　夏休みにセイちゃんの件で校長先生や岩崎のおじさんに会った事ありますし、息子さんが亡くなっている事は知ってましたが、その霊を千沙さんとヒロくんが見えるなんて初耳っす。
「で、どうやって伝えたんすか？」
《俊也は生前、深く関係のあった人物の周囲にしか現れる事ができない。この学校の中なら校長先生の管理領域だから現れる事が出来るけど、それ以外は家族や友人の周りにしか現れる事ができない。それを読み取って千沙の頭に流して来ただけだよ。コピペ的な》
「千沙さん、落ち込んでますね」
《幽霊だから何でも出来る訳じゃない。実体がないから行動を起こすのは実体のある者達だよ。私も明仁が悲しむのが嫌だから浩樹を探すけど、実際に連れ戻す事は出来ないと思う。
　じゃ、明仁の事はよろしく。私は一っ飛びして浩樹を探して来る》
　そう言うとコミタは羽ばたいて、壁をすり抜けて行きました。
　窓の外では俯き気味に千沙さんが歩いていきます。
「あの白い鳥、何て？」

[2] mixiユーザー 12月03日 20:14

「あの白い鳥、何て？」
「ああ、アキさんがヒロくんを探すのに無茶しないように見ててくれって。コミタって言うらしいんすけど、コミタもヒロくんを探しに行くみたいっす」
　そう言えば宅間には見えないし、聞こえてなかったんすね。でも信じるんすね。
「とにかく、教室に戻ろうよ。田村くんも見張らなきゃならないんでしょ？」
　宅間が言ったので頷きました。

　＿＿＿

　朝起きて、再び寝てしまい、気が付くと正午を過ぎていた。
　とうとうやってしまった…初サボリ。
「よう、起きたか、不良くん」
　ジョーさんがにやけた顔で頭を掻きながら言う。
「自分から連れ出した癖に…」
　いや、帰らなかったのは僕にも責任があるんだけど。
「さっすが十月、日中は温かいな」
　ジョーさんはご機嫌だ。
「ちょっと久々に外で遊ぶか？　キャッチボールでも」
　ジョーさんはキャッチボールが好きだ。静岡にいた時もよく一緒にしていたっけ。
「でもこんな時間から中学生が遊んでて何も言われないかな？」
「大丈夫だろ、世間は割りと冷たいから」
　そんかもんなの？　まぁ、気にしないでおこう。

　ジョーさんの住むアパートは河川敷と程近い。濁った黒緑色の水がもったりと流れる川、静岡の田舎に住んでいた時はもっと澄んでいる川があったはずだ。それでも歩いてる老人とか、犬を散歩させてるおばさんとかはいる。
　秋風は少し冷たいけど、日射しはまだまだ暑い。
　中一の夏はずっとジョーさんと二人で遊んでたっけ？　何だか思い出してしまった。
　会ったばかりの頃、ジョーさんに何で学校で友達がいないのか聞かれた事があったから、病気で入退院をちょくちょく繰り返していたし、皆の気遣いが災いして遊ぶ事ができなくて距離ができてしまった事を話した。ジョーさんはどこが悪かったのかは聞かずにただ哀しそうに頷いただけだった。自分の事でもないし、自分の子どもの事でもないのにそんな顔をさせてしまい、何だか申し訳なくなった事を覚えている。
「寒くないから？」
　昨日から着たままの制服のブレザーを脱いでカッターシャツだけになった僕にジョーさんが訊いた。
「平気平気。動いてたらすぐ暑くなるし、日射しは強いから」
　事実そうだ。
「それにジョーさんだって上着も着てないし、裸足にサンダルじゃん」
「俺は良いの」
　どんな理屈だよ？　そう思いながらグローブを着ける。ジョーさんがグローブを着けたのを確認する。津山選手、振りかぶって、投げました！　ボールは兼松選手のグローブに吸い込まれるように…入ったぁーっ！
「中々強いの投げるようになったじゃん」
　ジョーさんは僕にボールを返す。あれ？　こんなにゆっくり？
「本気出して良いよ？」
　僕は再び、ボールを放つ。
「いや、一年前と同じくらいの球だよ」
「ウソ？　年のせい？」
「浩樹が強くなったの！　俺はそんなに年じゃない」
　えーと…今年で三三だっけ？　ゾロ目。ちょっとムキになったのか少し球が強くなった。
「何カ月かでそんなに変わらないよ」
　体育は二だし。
「お前、中坊の数ヶ月前を舐めてるだろ？」
　投げてから話す。まさに言葉のキャッチボールだな。
「でもまだジョーさんの方が強いよ。僕は本気でこれだもん」
「いや、あと一年くらいで抜かす」
「そんなバカな」
　言ってから笑い出してしまった。
「何だよ、マジだって」
　ジョーさんも笑い出す。笑いながらだからか、球が遅くなった。
　だめだ。もうキャッチボールにならない。
「何がおかしいんだよ？」
「いや、何かさ、こう言うのって昔のドラマとかだと親子でやらない？」
　僕はジョーさんに歩み寄る。
「ちょっと若い父親みたいな年だろ、俺」
　ジョーさんは『若い』と言う言葉を少し強調して言った。
「まぁ父さんはあんまり家にいないからね」
「洋菓子の会社の社長さんだっけ？」
「うん。藻茶市にいるのは月の内に一週間とか十日くらい。それでも仕事で時間が合わないから会えるのは月に二、三回」
　小さい頃はもっと顔を合わせていた。僕が中学に上がった頃から会う回数は減った。
「寂しいな。じゃ、今でもお母さんと二人きり？」
「こっちに来てから学校で友達もできたし、母さんも地元はこっちだから友達と遊びに行ったりだから寂しくないよ。夕飯は一緒に食べるし」
　そうだ、昨日は夕飯を一緒に食べていない。母は僕の分まで用意したのだろうか。
「そうか…。良かったな」
　ジョーさんは柔らかく笑うと、僕の頭を撫でて髪をクシャクシャにした。
「昼飯でも食うか」
　ジョーさんが言う。そう言えば朝もまだだけど。

　＿＿＿

[3] mixiユーザー 12月03日 20:15

　兄貴は中学生の時にいじめに遭い、鬱になった時の検査で知的障害分かりましたが、軽度であるため自分や家族も時々忘れてしまいます。車の免許も持ってますし、物流センターで働いてだっています。中学までは一般の子と同じ公立を卒業して、高校は特別支援学校に行きました。
　その後は就職して、成人して、たまに休みの日などは自分を遊びに連れて行ってくれたり、給料日には家族を食事に連れて行ってくれたり、良き息子、兄っす。
　その兄貴が…。
「何しに来たんすか？」
　校門の前に愛車のポルシェ３００W（あくまでも兄貴の職場のおじさんが付けた名前っす。本当は中古の軽ワゴンっす）を乗り付けてお迎えに来ました。
　自分は送っていくと言う旬ちゃんを何とかアキさんに送ってもらうから大丈夫、アキさんなら途中まで帰る方向は同じだからと言って、アキさんと帰る事にしていたのに…（コミタに言われたからと言うのもあります）。
「見ての通り、お迎えだよ」
「仕事はどうしたんすか？」
「近所で男児への不審な声かけが多発している事、男子中学生が行方不明になっている事、家には小学生に見える弟がいる事を話して、午後から有給休暇で早退したんだ」
　ぐわあーんと音を立ててタライが落ちて来ました。小学生に見えるは余計っす…。と、言うかアキさんがヒロくんを探すのに無茶しないように少しでも長く一緒にいたかったんすけど。
「良い兄ちゃんじゃん。家のと取り替えて欲しいくらいだぜ」
　アキさんが言います。本当はヒロくんの事で心配なのに無理して笑ってるのが痛々しくなります。
「じゃ、俺も帰るわ」
　アキさん、行かないでっす！
「ならさぁっ！　田村くんも送ってもらえば？」
　宅間、ナイスフォローっす！　ってか、いつの間にいたんすか？
「私も送ってもらおっと」
　真の目的はそれっすね。
「うん、良いよ」
　兄貴も簡単に乗せられるんすね。
「いや、俺は車が狭くなるからさ」
　アキさん、遠慮しないで是非っす！
「まぁまぁ先生もそう言わずに、送って行きますよ」
　兄貴、アキさんが老け顔な中学生だって分かってて言ってるっしょ？
「まぁ兄貴もそう言ってるし、送ってもらって下さい」
「そうそう、私も送ってもらうし」
　だから、宅間は図々しいだけっす！　ちょっと助かったんすけどね。
「まぁ、じゃ、お願いします」
　こうして兄貴の車に乗り込みました。ちなみに自分の指定席のはずの助手席にはアキさんが乗る事になりました。
「だって俺と宅間が後ろに乗ったら狭くて体が触れるだろ？」
「自分と宅間なら良いんすか？」
「だってお前ら、性別の意識ないじゃん」
「自分は男っす！」
「私も男だよ！」
「いや、宅間、女だから！」
　そうっしたっけ!?
「そうだった！」
　パンツに右手を突っ込んで左手で胸を揉むお約束をやってのける宅間を見て、あ、こいつ生物学的にはヒトのメスだったんすね、とか思うんすが、木下さんやケンちゃんが近くにいたら止められるんしょうねぇ、その行動…。
「相変わらず宅間ちゃんぶっ飛んでるねぇ」
　兄貴、そこは感心しないで欲しいっす…。それに…犬の…。

「あ、集団下校してるっすね」
　自分は車の窓越しに、先生らしき大人に連れられて何人も連なって歩く小学生の群れを眺めていました。
「まだヒロの行方不明と不審者の声かけが関連づけられた訳でもないのになぁ…」
　アキさんが呟きます。
「そうなんすか？」
「そうだよ。ヒロはホントに宅間が言うように単に家出してるだけかも知れん」
「でも津山くんに限ってはそれはないんじゃない？」
　いや、アキさんと宅間、朝と言ってる事が逆っすよ？
「ねぇ、不審な声かけ男ってどんな奴なの？」
「そうっす。アキさん、妹さんいるんすよね？　学校からの通達とかで聞いてないんすか？」
「それが目撃者によると二通りいるらしい。眼鏡をかけた奴とひょろ長い人相の悪い奴、いずれも若い男で、下手したら中学生とか高校生とか言われてる」
「マジっすか」
「あ、宅間ちゃん、着いたよ」
　兄貴が宅間の自宅マンションの前に車を停めます（前にも送った事があるから分かるんす）。
「ありがとうございます」
　宅間が兄貴に軽く頭を下げ、自分とアキさんにじゃあね、と手を振りました。
　このままアキさんを家に帰して良いんしょうか？　誰もいなくなったのを良い事に、ヒロくんを探しに行ったりしないっしょうか？
「アキさんの家は妹さんはもう帰ってるんすか？」
　よし、イチかバチかっす。
「ああ、多分な。今日は塾もないし」
「じゃ、妹さんが不用意に遊びに出ないように見てないといけないっすね。まだ不審者も捕まってませんし」
「オレもジンが不用意に遊びに出ないように見てないといけないからな」
　兄貴、そこ口を挟まないでっす。

[4] mixiユーザー 12月03日 20:17

「まあ、女の子を狙う不審者ではないとは聞いてるけど、それもそうだな」
　流石はアキさん、理解が早いっす！
　これでアキさんは多分、ヒロくんを探しに行かないっすよね？

　＿＿＿

　昼はすき家で、ジョーさんは牛丼、僕は中華丼を食べた。その後は二人でスーパーに寄ってアイスを買って、ジョーさんの家で食べた。
「何か懐かしいな。静岡にいた時はちょくちょくアイス買ってくれてたよね」
　僕はチーズケーキ味のアイスをスプーンですくいながら言った。
「だな。ほんとは洋菓子会社のお坊ちゃんに、コンビニやスーパーの俗っぽい菓子を食わせるのはどうなんだろうとか思ってたけど」
　ジョーさんはイチゴ味を食べながら言う。
「たまに会社から送って来るお菓子を試食的な感じで食べる事はあるけど、スーパーのお菓子とかも普通に母さんは買ってるよ」
　それよりもピンク色のアイスを食べるおじさんの方が見ていて違和感がある。
「もう下校時間だよな」
　ジョーさんが言う。窓の外では小学生が何人も連なって歩いている。先生らしき大人も先導している。集団下校だろうか。
　ジョーさんにもあの子達くらいの子供がいてもおかしくないんだよな。まだ結婚すらしてないけど。
　頭の中で何かがカチッと鳴るような音がした。
　生白い腕が僕の後ろから、顔の横に伸びる。その手は人差し指をまっすぐに示している。その指の示す先には…岩崎のおじさん!?　何か思い詰めたような顔をして歩いている。
　その手は…まさか、俊也くん!?
　振り向くと俊也くんが困ったような、哀しげな顔をしていた。
　何で俊也くんがここにいるの？　生前の関係者が近くにいないと現れる事は出来ないんじゃ…あ、岩崎のおじさんが近くにいるから良いんだ。
　突然の俊也くんの出現に驚いた僕に、ジョーさんが驚いている。

　＿＿＿

　アキさんを家に降ろして、自分も兄貴と一緒に帰る…はずっしたが…。
《ようやく見付けたよ、浩樹を》
　コミタが突然、自分の肩に止まりました。自分は兄貴の手前、黙って頷きました。
《心で思えば私には通じる》
　心で？
（どこにいたんすか？）
《浩樹は河川敷の古いアパートにいる。誘拐じゃない。ただ、訳ありで俊也に側に付かせたよ》
（俊也くんは生前の関係者が近くにいないと出られないんじゃないっすか？）
《岩崎のおじさんの頭の中に呼びかけて上手く誘導した。でもいつまでおじさんがそこにいるかは分からない》
　そんな事まで出来るんすね。
《その場所まで行って何とか浩樹を説得して欲しい。実体のない私や俊也じゃ限界があるから。詳しい場所は…》
「兄貴、ちょっとドライブしたいっす。そこの角を右に曲がって下さい」

　＿＿＿

《こうやって話しかけるのは本当は力をかなり使うからあまりやらないんだ》
　俊也くんが口を開いた。
《でも浩樹がこの状態だから今はこうするしかない》
「分かってる」
　僕は頷いた。
「何が分かるんだ？」
　ジョーさんが訊いてきたけど、俊也くんの力が尽きる前に話しを終わらせなければならない。悪いけど、聞こえない振りをする。
《早く家に帰れよ。俺も父さんが離れて行ったらもう現れる事も出来ないし、そもそも長話し出来る幽霊じゃない》
「うん、分かった。帰るよ」
《皆、心配し…》

　＿＿＿

「あの人、知ってる人っす。ちょっと挨拶して来ます」
　自分は兄貴に車を止めてもらうと、降りて、岩崎のおじさんに駆け寄りました。
「おい…ジン、待て…」
　兄貴、ごめんっす。色々と立て込んでるんす。晩ご飯のオカズが肉系だった場合は三分の一くらいあげますから…！
「岩崎のおじさん！」
　おじさんは振り向くと自分の顔を見ました。
「えっと…君は夏に俊也の話しをした時に…」
「工藤っす」
「工藤くん。どうしたのかな？」
　自分はおじさんの立っている前に建つアパートを指しました。川近荘と言う建物っす。
「ここにヒロくんがいます」
「何でそんな事が分かるんだい？　浩樹は携帯を家に置きっ放しにしてたってお母さんから聞いたよ」
「えーと…男の勘っす！」
　コミタって言う謎のオウムが…なんて信じてもらえない事くらい分かります。
　さっさと歩き出します。建物に入ってしまえば多分、着いて来るっしょう。きっと力になってくれるっしょう。
　兄貴も車を停めて自分を追って来てます。
「ちょっと…工藤くん、待ちなさい」

　＿＿＿

　俊也くんは床にへたり込んで俯いている。
　どうしよう…。夢の中以外で話しかけるのは力をたくさん使うんだっけ。ずっと前に夢枕に立った時に言っていた。僕のせいだ…。一瞬、青空の顔が頭に浮かぶ。まさか、俊也くんは消えちゃうんじゃないか？
　嫌な汗が背中をじっとりと濡らす。
　僕の混乱した様子を見て、ジョーさんも混乱している。

[5] mixiユーザー 12月03日 20:18

　ここはどこ？　雨が降ってる。薄暗い。濡れたアスファルトが街灯を反射させて光っている。周りの空気は生暖かいのに、寒くなって来る。
　あ、これ、俊也くんの記憶だ。俊也くんが死んだ時だ。
《やだ！　死にたくない！　もっと生きてたかった！　助けて！》
　さっき聞いた俊也くんの声だ。錯乱してる。そりゃそうだろう、これから死ぬんだもんな。

　場面が切り替わる。
　ここは岩崎のおじさんの家だ。
《今朝の事だよ》
　テレビとちゃぶ台の部屋に疲れた顔の父とロクに化粧をしていない母が並んで座り、向かい合うようにおじさんが座っている。
「息子がいつもお世話になっているそうで…」
　父が頭を下げ、母も釣られる。
「いえ。それよりいつも忙しいと聞いてましたが、お仕事は大丈夫だったんですか？」
　おじさんが父に訊く。そう言えば仕事であまり会えないって話した事があったっけ。
「ええ、息子が行方不明なのに仕事なんてしていられませんから」
　父は無表情で答えた。
「警察は中学生なら単に家出とか友達の家で遅くなっているだけだろうって、今日の夜までに帰らなかったらまた来るようにと…」
　母がため息を吐く。
「分かりました。私も探してみます」
「あの…岩崎さん、お仕事は…」
「休みます。こんな時に仕事なんて言っていられないでしょう？」

　また場面が切り替わる。
　学校だ。二年四組の教室だ。後ろで高山旬くんや戸田香織さんが後片付けをしているから、昼休みだ。多分、皆が給食を食べ終えた頃だろう。
「藻茶市内で男子中学生が巻き込まれた事件とか事故は調べられる？」
　タケが委員長に訊いている。委員長はノートパソコンを開いてカタカタと打ち込む。マサがタケの後ろから身を乗り出すように画面を見ていた。
「今のところはないみたい」
「じゃ、ヒロは無事って事？」
「うーん…分からないけど、ニュースになるような事件や事故には巻き込まれてないと思う」
「そっか、ありがとう」
　タケは小さく礼を言っていた。
「アキも新川さんも心配で居ても立ってもいられないみたいだ」
「あんた達もね」
　マサが言うと委員長も返した。

　また場面が切り替わった。
　暗くて、階段？　学校…のどこかだよな。
（見つかったか？）
《市内はぐるりと回ってみたけど中々見つからない。今度は建物の中も詳しく探って見るよ》
　知らない声が聞こえた。男か女か、何歳くらいかもよく分からないけど、きれいな声だと思った。
（感じ取ったり出来ないか？）
《私は明仁の側に寄り添う存在だから、やっぱり私じゃ明仁以外は感じ取れないよ。浩樹の行く宛を知っている人がいれば頭の中を読み取れるけど》
　何の話しだ？
（そうか）
　アキは悲しそうに頷いた。
《もう一度さがしてみる》
　そう言うと白いオウムが飛び去った。

　また場面が切り替わる。今度も学校、多分、校舎裏だ。
「俊也くん、やっと見付けた。津山くんを探して欲しいの」
　目の前にデカい胸…じゃなくて新川さんがいた。息を切らして、目には涙が貯まっている。
《無理だよ、俺は生きてる時の関係者が近くにいる場所にしかいけない》
　俊也くんの声がした。
「何でだめなの？」
　そうか、俊也くんは普段は声を伝えられないんだっけ。新川さんも俊也くんの制限に気付いたようにハッとした顔になる。
「ごめん、無理言って」
　小さくそう言うと俯いた。
《できる限りは協力するけど、期待はすんなよ》
　俊也くんがそう言ったのは聞こえてないらしい。新川さんの下を向いたままの背中を見ている。

　再び場面が切り替わる。ここは…僕の部屋？　ベッドも机も僕のだ。
《始めからこうすりゃ良かった》
「俊也くん!?　何があったの？」
　俊也くんの肩にはアキの肩に時々止まって見える白いオウムがいた。
《俊也が弱っていたから、浩樹の中に入ってちょっと精気を分けてもらうように提案したんだよ》
　やっぱりしゃべってる…。はっきりと日本語だ。
「それって…」
《そうしないと俺も力を使い過ぎて消えちゃうかも知れないし…》
《それに皆に散々迷惑かけたから、ちょっと気を失うくらいなら精気を分けてもらっても良いんじゃない、って提案したんだ。気を失えば夢に入れるし、夢の中なら話せるし》
　あ、それで意識が遠退いて…。って、事はここは夢の中なのか。
《あと、俺が見て来た色んな人が浩樹を心配してる場面も見せたかったし。反省しろよな》
　俊也くんが口を尖らせる。
「はい、すみませんでした。
　でも、俊也くんが死ぬ直前のあれは…」
《あーっ！　忘れて！》
　俊也くんが慌てたように顔の前で手を振る。うっかり見せちゃったのかな…。

[6] mixiユーザー 12月03日 20:21

「でもさ…色々と思い出しちゃったかな。小さい頃に入院してた時、手術する前にさ、めっちゃ怖かった。直らなかったらどうしよう、失敗したら死んじゃうよな、って。僕は成功して、今は元気になったけど…」
《そうだな。無断外泊して皆に心配かけさせる程度にはな》
　俊也くんがジト目で茶化す。
「はは…まあ、それはそうとさ。中には青空みたいに何年も治らなくて、それで亡くなっちゃう子もいるんだよなって。思い出したよ」
《病気とかじゃなくても、友達の家からの帰り道に交通事故で突然死んじゃう奴もいるしな》
　俊也くんが笑いながら言わないで、ブラック過ぎるから…。
《でも、ホントに皆心配してたんだぞ。起きたらちゃんと謝れよな》
「はい、反省します」

　＿＿＿

　大人二人が止めるのを得意の素早さと身軽さでかわして、コミタが飛び込んで行ったアパートの部屋に踏み込んだ時、そこにいたのはヒロくんと…知らないおじさんっした。
　自分が入った瞬間に、膝を着いて中腰になっていたヒロくんが、横向きに倒れました。ヒロくんは体が小さくて痩せているのに、バタンと大きな音を立てて畳に転がりました。
　何があったんすか？　訳が分からなくなりました。
「ジン！　よその家に勝手に…」
　兄貴が玄関に駆け込みました。兄貴の顔と知らないおじさんの顔を交互に見ます。自分にはどうする事もできません。
「浩樹!?　どうした!?」
　岩崎のおじさんが急いで靴を脱いで上がります。そう言えば自分、靴…脱いでたみたいっすね。こんな時に何を気にしてるんしょう？
「この倒れてる子が行方不明の…？」
　兄貴が訊くので頷きました。
「さっきまでは何ともなかったのに…急に…」
　知らないおじさんはうろたえながら答えていましたが、岩崎のおじさんは無視したまま携帯電話を取り出しました。
「救急です。子どもが急に倒れました」
　後は何を言っているのか自分には理解できませんでした。
「工藤くん、浩樹のお家に電話してくれ」
　岩崎のおじさんが言いました。
「は…はいっす」
　答えて、急いで携帯で電話帳を開きましたが、ヒロくん本人の番号しか登録してません。ええい、イチかバチかっす。
『…はい』
　電話の向こうで力ない女性の声がします。
「えっと…自分はヒロくんのクラスメイトの工藤と言う者っす…者ですが、ヒロくんのお母さんでしょうか？」
『はい…。あの…でも浩樹は今…』
「見つかったんですが、突然倒れまして…」
　とりあえず、岩崎のおじさんが側にいる事、これから救急車で病院に向かう事を伝えて切りました。

　救急車には岩崎のおじさんのみが付いて行きました。再び、ヒロくんのお母さんから自分の携帯に連絡が入り、その場にいた知らないおじさんの名前を訊いて伝えました。
　兼松丈。この人が昨日の夕方からヒロくんとずっと一緒にいたそうっす。
　ヒロくんのお母さんからは警察には届けなくても良い、そのまま家に帰って欲しいと言われたので、アパートを後にしました。
　その夜、家にヒロくんのご両親が高級なお菓子（お父さんの経営する会社の物）を持ってお礼に来てくれました。
　何度もありがとうを繰り返すお父さんは痩せていて高級洋菓子会社の社長と言うよりは腰の低そうなしがないサラリーマン風で（勝手にステレオタイプな高そうなスーツ姿のダンディなおじさんを想像した自分に問題ありっす）、お母さんは優しそうで小柄な可愛らしい人でした。

　翌日、それでも朝はやって来ます。朝日と共に白い羽をキラキラと閃かせながらコミタはやって来ます。
《おはよう》
「おはようっす」
《昨日は大変だったね》
「そうっすね。結局何があったんすか？　ヒロくんのお父さんやお母さんは教えてくれないし…」
《まぁこれは明仁にも言えないんだけど、仁平は協力してくれたし、教えてあげても良いかな…》
　その真相は…ええっ!?　どんな二時間ドラマっすか？　有り得ないっしょう!?

　＿＿＿

　昨日の夜は目が覚めてから両親にこってり絞られた。
　挙げ句の果てにようやく眠れたと思ったら夢枕に立った俊也くんから、音を外しまくった『ぼくたちの失敗』を歌われたり、お皿を百三十枚くらい数えられたり、井戸が映ってるテレビの中からロングヘアのヅラを被って登場されたり、と地味な嫌がらせを受けて寝不足になった。
　更にアキの肩に時々止まって見える白いオウム（コミタと言うらしい）が朝早くからやって来て、どう言う訳か説明を受けた。
《浩樹はご両親からは怒られただけで、静岡にいた頃の知ってる人に後先考えずに着いて行って無断外泊したって事になってるみたいだね。よろしい、では事の真相を教えてあげよう。これは明仁にも言ってないんだからね》

[7] mixiユーザー 12月03日 20:22

「分かったよ、言わないよ。静岡時代の友人に着いて行って無断外泊しただけって事にしとくよ」
《まぁ、丈の頭の中を覗いただけなんだけどね》

　………

　俺は高校卒業二カ月前に付き合っていた女性が妊娠し、何とか卒業はし、同時に結婚と就職をしました。妻は二学年下でしたので、高校を中退させてしまいましたが。
　母親は離婚して俺を一人親の子にしてしまった事を後悔しているようでした。自分が仕事ばかりにかまけていたせいで俺に手が回らずに若くして親になるような男に育ててしまった、と。
　しかし、俺はそんな風には考えませんでした。
　若く充分な収入もありませんが、結婚して子どもも出来て、これから幸せを築くんだ。母親にも可愛い孫を抱かせてやって、親孝行もしよう。仕事を頑張って給料も上がったら母親と妻と子どもとで旅行にだって行こう。家だってこんな狭いアパートじゃなくて持ち家は無理でも一軒家に引っ越すんだ。家具だって妻が好きな白やピンクを中心に集めて、母がやりたがっていた家庭菜園だって作ってみせるさ。子どもが大きくなったら、平日は遅くまで働いていたって休みの日は一日中遊んでやるんだ。男の子だったらキャッチボールかサッカーか、戦隊ヒーローごっこか…女の子だったら…何して遊ぶんだ？　ママゴト？　とにかく、俺は家族を幸せにして、皆で笑って暮らせる未来を作るんだ。
　そう考えていました。しかし、それは甘い幻想でした。現実はそう上手くは行きません。
　出産予定日を一か月前に控えた八月二四日、妻が行方不明になりました。翌日に見付かりましたよ。中学からの友達の家に家出していました。
「勢いだけで産むって言ったけど無理。私はもっと遊びたかったし、大学だって行けてもっとマシな男と結婚できるはずなの。今からでも堕ろす」
　無理です。そんなほぼ臨月も近い状態では堕ろせませんし、俺は自分の子どもにも死んで欲しくない。しかし、妻は聞きませんでした。
「私は騙された！　こんな貧しい暮らしして、ババアに気を遣って、子育てまでしなくちゃいけなくなって、幸せを壊された！」
　後から聞いた話しですが、妻は母親との同居には反対でしたが俺に独り立ちする経済力がなかったので仕方なく同意した事、高二の夏休みにオシャレをして遊び回る元級友達を見て自分も妊娠しなければそれが当然のようにできたと羨んだ事、経済力も危機感もない俺と一緒に子どもを抱えて生きる不安、などに押し潰されてしまいそうだったのです。
　それでも俺はとにかく子どもを産めば気が変わると信じて、妻を説得しました。
　妻が見つかった翌日、母親が自殺しました。発見者は妻でした。妻も妻で大変でした。突然、陣痛が起こってしまったそうです。
　近所の人の話しでは母親と妻が言い争う越えを聞き、妻が出て行ったそうです。妻は帰るなり部屋で首を吊っている母親を見付け、陣痛が来たそうです。真相は分かりませんが死体をみたショックで陣痛が来たと本人は主張しています。
　こうして、息子が産まれました。
　妻は息子を産むとすぐに俺に押し付け、実家に戻りました。そして妻に会いに行くと妻の両親から離婚届を突き付けられました。結局、妻とは会えずに、弁護士が出て来て、望まない妊娠、出産、結婚をさせられた慰謝料を払え、と言う話しになりました。
　当初、妻側が請求していた額よりはかなり少なくはなりましたが（逆に恐喝で訴えるように俺側の弁護士から言われたのです）、それなりの額を払わされました。お陰で母が俺のために積み立ててくれていた貯金は三分の一がなくなりました。
　妻は新たに学校に行き直し、再スタートするらしく、息子は俺が引き取って育てる事になりました。未熟児の新生児で、生まれ付き体が弱かった息子を抱え、託児所も保育園も見付からないので仕事を辞めて母親の残した貯金と生命保険で生活を始めました。
　そんな時、息子の心臓が悪い事を知ったのです。
　一年は働かずに何とか生活を切り詰め、息子が一歳になる頃には保育園に預け、パートで働き出しました。しかし、体が弱い息子は度々具合が悪くなり、保育園では見られないので仕事を休む事が増え、仕事をクビになりました。
　このままでは息子も俺も野垂れ死にです。
　俺は息子を養子に出す事を決めました。

　………

「で、ジョーさんが息子を養子に出した先が父さんと母さんだったんだね」
《そう、丈は浩樹の父親だった訳だ。
　ただ、浩樹を手放して仕事を転々としながらもお金を貯めて探偵を雇った丈は三年後に何とか浩樹の情況を知った。お母さんが過去の病気で子どもを産む事が難しい体だった事も。心臓の手術のために静岡に移り住む事も。だから藻茶市出身者だった事も静岡にいた事も偶然じゃなかった》
「僕を追いかけていたのか」

[8] mixiユーザー 12月03日 20:25

《そう。それで青空の死を受けて悲しんでいる浩樹が心配で、とうとう我慢できずに去年の夏に声をかけてしまった。
　実は浩樹の両親は静岡では丈と浩樹が会っていた事を知っていたんだよ。浩樹の両親も本当の父親がどんな人が知りたくて調べていてね、今更息子を返せって言われても困るでしょ？》
「じゃ、僕は父さんと母さんの本当の…」
《言っちゃだめ。そんな事は口にしちゃだめ。まぁ私は明仁の隣に寄り添う存在だから、浩樹がどうなろうと構わないんだけどね》
　このコミタはツンデレなんだろうか？　いや、本音だな。
《とにかく、私は伝える事を伝えたから明仁の隣に帰るよ。もう波長を合わせる必要もないから私が見えるのはたまに波長が合った時だけに戻る。後は岩崎のおじさんにでも訊いてよ。じゃあね》
　そう言うとコミタはフッと消えてしまった。

「浩樹、今日は早めに来たんだな」
　岩崎のおじさんは腕を組んで怖い顔をして僕を見た。
「はい。本当に迷惑をかけてごめんなさい」
　僕が素直に頭を下げて上目遣いで見上げると、おじさんはもう笑っていた。少しホッとする。
「夕方あれだけ寝てたしな、家で怒られて昨日は寝れなかったんだろ？　寝不足って顔してる」
　いや、どっちも俊也くんのせい…とは言えないので、頷いた。
「浩樹、お父さん、仕事で東京にいたんだろ？」
　そう言えばそうだった。でも昨日も今朝もいたよな。一緒に朝ごはんを食べたのはいつ以来だろう？　とりあえず頷く。
「お母さんが夜遅くなってもお前が帰らないからお父さんに連絡したんだ。まだギリギリで新幹線のチケットが取れると思ったが無理だったので夜行バスを探して急いで帰って来たらしい」
　そう言えば俊也くんが見せてくれた場面でそんか事を言っていたような。
「お母さん、いつもはちゃんと化粧もして髪も整えてるのに昨日はどうだった？」
「スッピンでボサボサだった…」
「お前が急にいなくなってそれどころじゃなかったんだ」
　少し胸の奥がチクチクする。息が詰まるような、むず痒いような。
「兼松さんは何か言っていたか？」
　さすがに私が本当の父親ですとは言っていなかった。
「大きくなったとか強くなったとか」
「他には？」
「こっちで友達ができた事とかも話したら、良かったなって」
「そうか。
　お父さんもお母さんもすごく心配してたんだ。分かるよな、この意味」
「うん。母さんにはちょっと泣かれた」
「この不良坊主」
「本当にごめんなさい」
「お父さんとお母さんに謝ったんならそれで良い」
　そう言いながらおじさんは僕の頭を乱暴に撫でた。髪がクシャクシャになる。
「ほら、千沙が来たぞ」
　離れた場所から新川さんが小走りに駆けて来た。やっぱり胸が揺れて…
「そこばっか見るな。お前、反省してないだろ？」
　おじさんに耳元で言われて俯いてしまった。
「おじさん、おはようございます。津山くん、おはよう」
　新川さん、いつも通りのトーンだ。ちゃんと顔を見る。
「…あ、おはよう」
　ちゃんといつも通りにでしたかな？
「ほら、行くよ」
「おう、行って来い」

　おじさんから離れてから、新川さんが口を開いた。
「皆、心配してたよ。どこ行ってたの？」
　新川さんも心配してくれてたんだよな。
「うん、えっと…静岡時代の友達に会って…そのまま泊まっちゃった的な…」
　うそではない。
「俊也くんが夢枕に立って聞いた。散々心配させといて信じられない。でも軽くシメといたとも言ってたから私からはこのくらいにしといてあげる」
　あ、あの地味な嫌がらせはシメられてたのか…。
「でも皆は俊也くんの幽霊が、なんて信じないからちゃんと謝りなよ」
　笑いながら言わないでよ、気が重い…。

　教室の前に立つ。新川さんは沢菜さん達とさっさと行ってしまった。
　よし！　第一声が肝心だ。やや前に構えて…。

　＿＿＿

「ごめん下さい！　どなたですか！　津山浩樹が無断外泊して皆に心配させておきながら、いけしゃあしゃあと登校して参りました！　ホントえらい根性してるわぁ。…。ありがとう」
　皆が教室内でずっこけている中、ヒロくんはシレッと入って来ました。宅間と務くんだけ青い顔をしていたのは謎っすが…。
「八点だな」
　はじめちゃんがわざわざずっこけておきながら毒づきます。
「あーあ、森先生怒っちゃったよ。ヒロ、どうする？」
　タケがからかうように続けます。で、何で務くんは顔が紫を経て赤くなったり青くなったりしてるんしょう？　犬の糞を食べても平気だったくせに宅間も、ヤンキー化だ…とか震えながら呟いていますし。
「えー？　ウケなかった？」
「うん、今の登場はタイミング的にも最悪だったぞ」
　アキさんもフォローする気はないみたいっす。
「えっと…滑りついでって訳ではないんだけど…心配かけて、ごめ…」

[9] mixiユーザー 12月03日 20:28

「ごめんなサイパ～ンはなしだからな」
　マサがヒロくんがボケる前に手を打ちます。
「いや、それは言わないよ。ほんと、ごめんなさい！」
　ヒロくんはマジで頭を下げました。
「良いからほら、顔上げろよ。もう心配させんなよ」
　アキさんが言いました。ちゃんと謝ったら許す、謝らなかったら怒るけど結局は許す、事前に皆で話し合って決めましたもんね。
「後、ジンにきっちり礼言っとけよ。チビ助の勘とか共鳴とかで居場所を突き止めたんだからな」
　タケ、男の勘っすよ（本当はコミタ情報っす）。ヒロくんもチビ助同士の共鳴にはムッとしてるみたいっすし。
「えっと…仁平くん。ありがとう」
「別に良いっす、ヒロくんが無事なら」
　それにしてもヒロくんは知らされてないんすかね？　あの兼松さんとか言うおじさんが本当のお父さ…まぁ、それはどうでも良いっすよね。
　その日は放課後、ヒロくんは灰田先生に職員室に呼び出されてしっかり絞られたそうっす。

　部活が終わって帰宅っす。
「だから、浩樹の件は違う人だったんだろ？　まだ不審者は捕まってないんだし」
　旬ちゃんは心配性っす。今日も家まで送ると言ってくれました。
「大丈夫っすよ。自分の家までだと遠回りに…兄貴？」
　二人で校門をくぐる時、兄貴がポルシェ３００Ｗ（ホントは軽）を停めているのを発見しました。
「遅かったじゃん」
　窓を開けながら兄貴が言います。
「仕事はどうしたんすか？　二日連続で早退きはマズいんじゃないすか？」
「いや、今日は定時上がり。ってか、いつも残業とかないだろ？　お迎えに来た」
　兄貴はそう言って微笑ました。
「あ、旬ちゃんも送るっすよ？」
「いや、良いんですか？」
　やや遠慮気味に旬ちゃんが訪ねます。
「良いよ、乗って」
　兄貴が運転席からシートベルトを外して腕を伸ばして車の後部座席のドアを開けました。

　旬ちゃんを送ってからの帰宅っす。すっかり辺りは暗くなってます。
「まだ捕まってないんすかね、不審者」
「そりゃあまだ誘拐とかじゃなくて声かけただけだから、捕まらないだろ？」
「そんなもんなんすか？」
　事件が起きてからじゃないと警察は動かないんすね。
「あ、あの子達、昨日のじゃん？　アキくんと行方不明の…」
「ヒロくんっす」
　兄貴が車を停めてくれます。自分は窓を開けました。
「今帰りっすか？」
　二人は突然目の前に停まった車に驚いたのか、少し身を強ばらせましたが、自分だと分かって表情をほころばせました。
「おう、仁平は兄ちゃんがお迎え？　家のも早く免許取れるようになって欲しいぜ」
　アキさんが言いました。
「あれ？　でも仁平くん家ってこっちだっけ？」
「旬ちゃんを送ったからっす。お二人も乗りませんか？」
　兄貴がドアを開けるためにシートベルトを外します。
「いや、ヒロには歩いて帰らせる。俺はしっかりお母さんに引き渡すまで見届ける」
「だから、僕は小さい子じゃないから平気…」
「大きいもんな、無断外泊して皆に…」
「ああーっ！　もう言わないでよ！　分かりました！」
「近所迷惑だぞ…」
　ムキになっているヒロくんに兄貴が呆れています。
「じゃ、俺らは二人で帰るか」
　兄貴は言います。
「そうそう、声かけの不審者、捕まったらしいですよ。高校生二人組で、舎弟として育てて行く行くはヤンキーグループ作るつもりだったって。委員長情報だから間違いないです」
　窓を閉める前にアキさんが言います。何すか、そのショボくてセコい発想…。
「じゃ、もうお迎えは良いっすね、兄貴」
「だな。俺も今夜から安らかに眠れる」
　兄貴、安らかに眠ったら死んでるっすよ…。
「よく言うっすよ、大イビキで隣の自分の部屋まで壁が揺れてるくせに」
　こうしてアキさんとヒロくんと別れました。
　家では仕事から帰った母が夕食の準備をしている頃っすかね？　父もそろそろ帰って来る時間っす。

　＿＿＿

「田村くん、本っ当にいつもありがとうね」
　と、母が言うので、
「いえいえ、もっと手がかかるのがいますから」
　と、僕が返すと、母にちょっと睨まれた。アキはそれを見て溜め息をついた。今頃タケとマサはくしゃみをしているかも知れない。
「じゃ、失礼します。ヒロ、また明日な」
　アキは笑いながら去って行った。ドアが静かに閉まる。
「えっと…ただいま」
「お帰り」
　母はいつもの調子で返した。
　リビングを通ると父がいた。今日まで休みをとったらしい。
「ただいま」
「おう、お帰り」
　父にただいまを言うのは久し振りだ。
「ほら、もう遅いから夕食にするよ。早く着替えて来なさい」
　母が味噌汁を温めながら言う。
　改めてちゃんと家に帰ったんだな、と思う。

　ただいま。

【了】

[10] mixiユーザー 12月03日 20:29

【オマケ】

津山「はい、と、言う事で！　今回は謎の白いオウム、コミタについて訊きましょう！」
工藤「アキさん、コミタって一体何者なんすか？」
田村「知らん。そんなのいないぞ」
津山、工藤「!!?」
新川「いないって…。皆たまに見てるけど…」
田村「委員長が集団催眠の実験やってるか何かだろ？」
新川「あ、それなら有り得る」
工藤「ちょ…千沙さん、騙されないでっす！　自分には話しかけて来たんす！」
津山「あ、そうそう。俊也くんと意思の疎通が出来るみたいだよ。俊也くんにも…」
新川「俊也くんが必要だと思わないと話しはできないでしょ？　そんな事でわざわざ体力消耗したくないと思うけど」
田村「なのでこの話しは終わり！　以上！」
三人「えー!?」
田村「だってそんなのいないんだもーん」
工藤「アキさん、うそついてるっしょ？」
津山「今、肩の辺りを小突いたよね！　絶対にコミタに突っ込んでるんだ、余計な事言うな的な感じで」
田村「何の事やら。じゃ、俺は店の手伝いとか、妹の塾のお迎えがあるからこれで。じゃあな」（すたこらさっさ）
工藤「逃げたっすね…」
新川「ところで津山くん、俊也くんが言ってたけど、静岡時代の友達のおじさんってどんな人なの？」
津山「あ、うん。フリーターのおじさん。ジョーさんって言うの」
工藤「で、大人の事情を聞くようっすけど、ヒロくんのご両親はそのジョーさんを訴えたりしなかったんすか？」
津山「まぁ、実の父親が息子に会いたくてって言うのも含めて…しまった…」
工藤「自分、コミタから聞いてますから」
新川「私も俊也くんが夢枕に立った時に…」
津山「二人ともおしゃべりだな…。まぁ遺伝子的には父親だから訴えはしないみたい」
新川「良かったじゃん」
工藤「で、感動の再開でキャッチボールとか今時そんな…な事をしたんすね」
津山「ま…そうだけどさ」
新川「で、強くなったな、とか…うう…」
津山「新川さん、そんな泣く話しでもないから！」
工藤「千沙さんは泣いてませんよ。口に手を当てて下を向いて肩を震わせて、吹き出すのを我慢してるんすよ」
津山「ちょ…」（タライが落ちて来た）
新川「ごめんごめ…ブフッ！」
津山「それはそうと千沙さんもかなり心配してたんすよ。『もう私の胸やお尻を見てにやけてても良いから戻って来て！』って…」
新川「ちょ…あんな戻って来方したんだから、そんなの取り消しだよ！」
津山「えぇっ!?　そんな…」
工藤「ちなみにクラス全員の前で口走ってますから、ヒロくんがおっぱいしか見ていない事が皆にバレました」
津山「わあーっ!!　穴掘って来る！」
工藤「そもそも第一声で桑原和子ってどうなんすか？」
津山「パチパチパンチはキツそうだし、おじゃましますか？　はインパクト薄いし…」
新川「吉本新喜劇好きなんだね…」
津山「吉本大好き！　でもさ、仁平くんのお兄さんって羨ましいよね。お迎えとか」
工藤「いや、きっと仕事をサボる口実っすよ」
新川「意外とばっさり切って捨てる…私はお姉ちゃんがそれやってくれたらマジ泣きするけど。あの人キツくってさ…」
工藤「欲しけりゃあげますよ。いつでも会いに行ける距離っすし」
津山「こっちは弟の方がキツい…」
新川「それはそうと、回を追う毎に津山くんがオテンバになってる件」
津山「タケやマサが近くにいるとあんまり自分の問題行動が気にならなくなるんだよね」
新川「それ、問題だから！」
工藤「アキさんも甘やかしてますしねぇ」
新川「あ、確かに田村くんは甘いわ。ほら、世話焼きママ的な」
工藤「少し過保護な、を付け加えて下さい」
津山「まぁ、これが本性だしね」
新川、工藤「はぁ…（溜め息）」
津山「じゃ、そろそろ予告、行きますか」
新川「ここまでマイペースだとイラッと来る。絶対反省してないな」
工藤「まぁまぁ千沙さん、落ち着いて下さい。ささ、これをどうぞ」
新川「ありがとう、チョコバー大好き」
津山「シャクシャク…ムシャムシャ…」
新川「既に食べてるし…」
工藤「宅間の話しをしましょうか…（ぼそ）」
津山「…!?　ぐふっ！」
新川「ちょ…津山くん？　どうしたの、いきなり吹き出して」
津山「飲み込んだ…しばらく立ち直れない」
新川「何で…!?　シャクシャク…」
津山「うわあー！　食べてるー！」
新川「…？？？」
工藤「知らない方が良いっすよ」
新川「さて、次回は何と異世界からのゲストが登場！　『あいつが俺で、俺があいつで（仮タイトル）』をお送りします」
工藤「あの幼なじみコンビの委員長とタケの絆が次回、試される！」
新川「タイトルからして展開はきっと…」
工藤「はい、そこまでっす！　じゃ、いきまっしょう！」
新川「ほら、何でか知らないけど津山くん、いつまでも落ち込んでないで…」
三人「次回もお楽しみに！」

[11] mixiユーザー 12月03日 20:38

第一話　空色デイズ　四月終わりから五月始め頃（作中での時間軸）
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第二話　イタい子達のレクイエム　五月後半頃
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第三話　イタい子達のレクイエムパートⅡ　六月前半頃
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第四話　アジサイの季節に　六月後半頃
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第五話　雨上がりの屋上　七月前半頃
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第六話　それいけ！　アホ娘！　アホ男！　七月中頃
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第七話　夏時間　七月終わり頃
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第八話　寄り添って眺める朝日　八月前半頃
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第九話　涙色の夕日　八月後半頃
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第十話　守るって何？　九月始め頃
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第十一話　クラゲと一緒に旅に出よう！　九月中頃
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第十二話　私の世界　九月終わり頃
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第十三話　砂時計　十月前半頃
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第十四話　アイスクリームとキャッチボール
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その他の現在連載中の作品はこちらから↓
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[12] mixiユーザー 01月09日 12:35

>>[11]
　目次・連載中に追加しました。やっと。遅くなってすみません。

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