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アナタが作る物語コミュの【サスペンス】子供の時間

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 文字数約15500文字。だから中編?
 主人公の年齢に合わせた文章にしてみたのですが、どうでしょう…。あせあせ

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 ママがぼくの手首をつかんでバスルームに向かった時から、そんな事をするんじゃないかな、と思っていた。
 だから、そのままバスタブのぬるい水の中に、あたまからおしこまれても、やっぱりとしか思わなかった。ただ、ぼくはつい目をつぶってしまった。

 目を開けたら、ぼくの口からあわがのぼっていくのが見えた。
 ゆれる水の向こうだったから、ママの顔ははっきりと見えない。
 でも、きっとママはないている…。ぼくはそう思った。

 ぼくの首とかたはママの手がおさえていたから、ぼくは動けなかった。
 でも苦しくなって、思わず、ぼくはバスタブのヘリをつかんでいる手に力を入れた。

 そしたら、ママの手から力がぬけて、ぼくは水の中からおき上がった。
 目のはじで、ママがかみそりをつかんでかべのほうを向いてしゃがむのを見た。

 水をすいこんでいたから、ぼくはせきが出て動けなかった。

 バスルームのドアがいきおいよく開いて、パパが入ってきた。
 そして、何も言わずにぼくをひったくるようにしてだきしめた。

『ちがうよ、パパ! ぼくじゃない、ママだ』
 ぼくはそう言いたかったけれど、せきがひどくて声が出なかった。

 ママの右手が動いて、かみそりがママの手首を切った。
 ぼくはそれをパパのうでの中で見ていた。
 赤い血がバスルームのかべにとびちって、ママの心がこわれていくのを見ていた。

『ちがうよ。パパ。
 ぼくはだいじょうぶだよ。
 ママだよ。だきしめなきゃいけないのはママだ。
 どうして見えないの。
 ずうっと前からママはないているのに』

 ぼくはそう言いたかった。


 子供ってなんだろうね。
 パパやママが60さいになっても、ぼくが60さいになっても、ぼくはパパやママの子供だ。
 それに、ぼくはまだ10才で。小学4年生で。だから子供だよね。
 だけど、そういう事じゃなくて。
 ぼくはぼくの事を子供じゃないって、そんな気がする。

 ぼくはもう子供じゃない。
 パパやママや、つまり大人な人たち。
 そういう人たちとぼくがちがうのは、チシキとかケイケンとかだけだ。
 そう思う。
 そういう事、チシキとかケイケンとか、ぼくがパパやママよりぜんぜんすくないって事はわかってる。
 でも、やっぱりそういう事じゃなくて。
 パパやママとかわらないココロをぼくは持っている、って感じるんだ。
 ぼくはもう子供じゃないよ。

 だけど、そんな子供って大人はきらいだよね。
 だからぼくはパパやママや大人たちの前で、子供のふりをする。
 ニコニコわらってさ。なんにもわかってないってふりをする。

 それって変かな。子供なのに、子供のふりをするってさ。
 だけどさ、そのほうが楽なんだよ。
 ぼくがほんとは子供じゃないって事、見せないほうがいい。
 とくに大人たちの前ではね。

 パパやママはなんだろう。
 ほんとうは大人なのかな。子供なのかな。
 もしかしたらぼくと同じなのかな。
 パパたちは大人のふりをしているだけなのかなあ。

 なんでママはちゃんとパパにないてみせないんだろう。
 なんでパパはママがないているって事に気がつかないんだろう。
 なんでパパはあの時、父おやみたいな顔をして、ぼくをだきしめたんだろう。
 ほんとうはママをだきしめなきゃいけなかったのに。
 大人のくせにそんな事もわからなかったかな。

 パパはママの手からかみそりをひったくって、ママをぶった。
 パパもママも何も言わなかった。

 ぼくは10さいも、20さいも、30さいも、いっぺんに年をとりたかった。
 体が、だよ。そうしたら、なにか言えたかもしれない。パパやママに。
 それから、なにかできたかもしれない。
 なんでぼくの体は子供なんだろう。

 パパはきゅうきゅう車をよんで、ぼくとママとパパは病院に行った。
 でもパパはずうっと『なんでこんなめんどうな事になったんだろう…』って考えていたんだと思う。
 ぼくの事もママの事も見なかった。それになんにも言わなかった。

 ママは手首のキズをぬってもらった。
「ケガはたいした事は無い」とお医者さんは言った。
 でも、心のほうがね。
 お医者さんもパパも、病院にいるほうがいいと言った。
 ぼくもそう思う。

 ただ「良い病院をショウカイしますから…」とお医者さんが言って。
 パパとお医者さんは小さな声で話し始めた。
 ちかよって聞きたかったけれど、それはダメだ。
 きっと「子供はあっちに行ってなさい」と言われるだけだ。

 ちかよらないようにして、聞いてないふりをして、ぼくはふたりの話を聞いていた。
 ふたりの声は小さくて。でも、なにか聞こえないかなぁ。なにか大事な事。

「奥さんのゴジッカが近くなんですね」とお医者さんが言って、パパがうなずいた。

 ケータイを出して『ジッカ』ってケンサクをした。
 そうか。『ジッカ』ってママのお父さんとお母さんの家、つまりおじいちゃんちの事だ。
 パパはきっとおじいちゃんとおばあちゃんにママの事をたのむつもりなんだ。

 お医者さんがぼくのほうを見て「一晩入院をして様子を見て…」と言ったけれどぼくは「うちに帰る」って言いはった。
 なきまねだってできるけれどね。そこまではしなくてすんだ。

 パパはママの事も考えなきゃいけないからだろうな。
 すぐに「連れて帰ります」と言ってくれた。
 ぼくはこれからいそがしくなる。入院なんかしてられないよ。

 おじいちゃんちはぼくんちから自転車で10分ぐらいだ。
 何度もママと行った。だからひとりでも行ける。行かなくちゃ。

 よく朝、ぼくはパパに起こされて、パンと牛乳とつぶれためだまやきだけ、っていう朝ごはんを食べて、学校に行った。

「休んでもいいんだよ」とパパは言ったけれど、ぼくが「行く」って言ったら、パパはほっとした顔をした。
 ぼくが休んだら、パパは学校にウソをつかなきゃいけない。
 まさかね。ママがぼくをころそうとして、ジサツしようとしました、なんて言うわけにいかないしね。
 だから、ウソを考えなくてすんでパパはほっとしたんだ。

 それからパパは「ママの事はパパから伝えるから。それまで誰にも言うんじゃないよ」ってぼくに口どめをした。
 でも、パパがだれにも言う気なんかないって、ぼくにはわかった。

 パパってウソがヘタだよね。なんでも顔に出ちゃう。
 いつだったかママもわらいながらそう言っていた。


 休み時間に、しょうこう口のかいだんにすわって、校ていであそぶみんなを見ていた。
 うん。つくづく、あいつらはガキだねって思う。
 サッカーボールをおいかけて走りまわったりさ。わらったり。どなったり。まったくガキだ。
 でもね。
 もしかしたらぼくのように子供のふりをしているやつもまじっているのかもしれないな。
 もしいたら、話してみたいな。そう思う。


 学校がおわってうちに帰った。家にはだれもいない。ママは病院で、パパは仕事だ。
 ランドセルからキョウカショをぜんぶ出して、ランドセルのそこから、朝パパにもらったカギを出した。

 カギにひもをとおして首にかけながらママのつくえに行った。
 ママが子供の時に、おじいちゃんとおばあちゃんに買ってもらったつくえだって、むかしママが言っていた。
 そこでママは本をよんだり、てがみを書いたりしていた。

 いちばん上の小さなひきだしにはカギがかかっている。
 でも、カギのあるところは知ってるんだ。
 ママはいつもいちばん大きなひきだしから出していた。
 小さなカギで。カンタンなかたちだ。
 さがしたらあった。

 小さなひきだしの中のいちばん前にさがしていた紙のたばがあった。
 タクハイビンのハコからママがはがした紙だ。ママの名前やぼくんちの住所が書いてある。
 ふるいのからきちんとならべて、クリップでとめてあった。

 月よう日から金よう日までまい日、ぼくんちにとどいた。
 土ようと日ようはとどかなかったから、パパは気がつかなかった。
 小さなハコだけれど、同じハコじゃなかった。ちょっと大きかったり、ちょっと小さかったりした。
 たたんで、キッチンのすみにおいてあって、ゴミを出す日に無くなった。
 たたんだハコはまい日ふえていって、ゴミの日に、無くなる。
 ずうっと、ずうっとつづいていた。

 ママはキッチンのすみのハコのたばを、見ないようにしていた。
 まるでそこにはなにも無いみたいにしていた。

 紙のいちばんふるい日づけは3か月くらい前だ。でも、ハコがとどきはじめたのはもっと前からだった。ぼくが気がついたんだって4ヶ月ぐらい前だ。
『受取人』ってところにはママの名前が書いてあって、『送り主』ってところにもママの名前だった。
 でもそんなのへんだよね。字だってママの字じゃないしさ。

「なんなの?」ってぼくがきいたら「さあね」ってママが言った。

 タナからカラになったおかしのハコを取ってきて、中に紙のたばを入れた。
 ハコをママのツクエのはじに置いて、ツクエの上にあったママの本をその上に置いた。
 かくしているみたいに見えるように。
 でも、パパがさがしに来たら、すぐにみつかるように、ね。


 3日後、ママはシンリョウナイカにテンインをしたってパパが言った。
 またケンサクだ。
 テンインは病院をかわる事。
 シンリョウナイカは心療内科。心の病気をみる病院。
 …そうか…ママは心の病気で入院だ。

 会社でいそがしいパパはママの事なんかなんにもしない。
 テツヅキは、きっとおじいちゃんとおばあちゃんがしたんだ。
 ママのいるところは、おじいちゃんちに行けばわかるだろう。

 パパはおじいちゃんとおばあちゃんにどこまで話したんだろう。
 きっとパパは話したんだ。ママがぼくをころそうとしたって事。
 だから、おじいちゃんとおばあちゃんは、ぼくをむかえにこないんだ。


 ママが入院をしてさいしょの土よう日に、バッグにぼくの服やパパの服や、いろいろつめこんで、パパはぼくを車にのせた。
 そしてぼくを女の人の家につれて行った。

 車で5分ぐらいかな。
 あるく時間は少し長くなるけれど。
 よかった。今の学校にかよえるみたいだ。


 マンションの10かい。
 げんかんで「今日からここがお前とパパの家だよ」ってパパが言った。

 女の人はなんにも言わないでぼくらをじろじろと見ていた。
 パパはその女の人に向かって「しばらくだよ。しばらく。ちゃんとしたら、あっちにみんなで行くから。頼むよ。今すぐはまずいだろう」って言って。
 ようやく女の人は少しわらった。

「大谷 裕子(おおや ゆうこ)さんだ」とパパがぼくを見ながら言った。
「で、こいつが息子の武(たけし)」

 ぼくが「おばさんが…」って言いそうになったら

「裕子さん、てよんで。おばさんっていいかたはキライよ」ってめいれいするみたいに言った。

 ぼくは『おばさんはおばさんだよ』って思った。

 ぼくが聞きたかったのは「おばさんがパパのウワキあいて?」って事。
『裕子さん、てよんで』なんて言われたから聞くのをやめた。
 おばさんは『ガキとなかよくする気は無いわよ』って言ってるんだ。
 だから、おばさんとはなす時は子供のふりをする事にした。

 でもさ。
 パパが言った「あっち」って、きっとぼくんちの事だよね。パパとママとぼくのうち。
 でも「みんなで行く」ってきっとママとじゃなくて、このおばさんと、って事だろうね。
 それから「ちゃんとしたら」ってなんだろう。

 おひるごはんと夕ごはんはおばさんが作った。
 パパが作ったごはんとあんまり変わらなかった。
 買って来たみたいなおかずや、やいただけのおにくとかだ。

 どうやらパパはとつぜん来たみたいで。
 おばさんはあんまりぼくの事をよく思ってない。
 ぼくと口もきかないし、わらわない。
 パパは気がついているのに気がついてないふりをしている。

 パパはうれしそうに、にこにこしながらおばさんに話しかけてる。
 ぼくはマンガの本を読んでいるふりをしながら、聞いてたんだけど。
 小さな声だからよくわからなかった。ときどきママの名前が聞こえた。

 だけど本当にパパって自分の事しか見えてないんだよね。
 こんなふうにひっこしをしたらきんじょのおばさんたちがなんて言うかな。
 ママのジサツミスイだって入院だって、とっくにおばさんたちは知っていると思う。
 おばさんのネットワークはすごいんだよ。


 よく日は日よう日だ。でも、おばさんが起こしにきた。
 そしておばさんが作った朝ごはんを3人で食べた。

 食べながらぼくはパパに「勇作君ちに行く」って言った。
 おじいちゃんちに行くって言ったら、きっとダメって言われると思ったからね。

「勇作のお兄ちゃんがね。ドラクエを買ったんだってさ。ぼくにもやらせてくれるかもしれないんだ」
 ぼくは目をキラキラさせながら言った。目をキラキラさせるぐらい、いつだってできる。

「おひるごはんはいらない。勇作君とこで食べるから」
「ああ。わかった」って、パパはぼくのほうを見ないでへんじした。

 それからパパは会社に行った。
 キュウジツシュッキンって言うんだって。
 ぼくもおばさんちを出た。
「いってきま〜す」って言っちゃったけど、へんじは聞こえなかった。

 ケータイの地図を見ながら、おばさんちとおじいちゃんちをかくにんした。
 ぼくんちとおばさんちは学校をはさんではんたいがわだった。
 あるいたらけっこうある。でもはじめにうちに行った。

 じてんしゃはぜったいにひつようだから。
 で、じてんしゃにのって、おじいちゃんちに行った。

 ぼくがおじいちゃんちのげんかんで「ごめんくださ〜い」って言ったらおばあちゃんがおどろいたかおをして出てきた。

 ぼくは「パパにないしょで来たんだ。だからヒミツだよ」ってニコニコしながら言った。
 おばあちゃんはこまったような顔をしておじいちゃんのほうを見た。

「まあ、いい。上がりなさい…」とおじいちゃんが言ったから、おばあちゃんはニコニコしながらぼくがぬいだくつを直した。

 おじいちゃんのショウギにつきあって、負けた。
 ぼくはふてくされたふりをして、たたみの上でゴロゴロところがった。

「つまんないなぁ。つまんないなぁ。
 そうだ。おじいちゃん。また、つりにつれてってよ」

 おじいちゃんにせなかをむけたまま言った。それからため息をついてみせた。
 エンギってばれたってかまわない。まごがあまえているんだよ。エンギでいいんだ。

 おばあちゃんがおじいちゃんに声をかけた。

「それがいいわ。ね。ね。おじいさん。
 それぐらいだったら、直行(なおゆき)さんだって…」

 なおゆきさん、ってパパの名前だ。
 やっぱりパパはママがした事をおじいちゃんたちに話したんだ。
 だからおじいちゃんもおばあちゃんも気をつかってるんだ。

「竿はどこだったかしらね。ねえ、おじいさん」
 そう言っておばあちゃんが立ち上がろうとしたからおじいちゃんがとめた。

「ああ、いい。物置だ。俺が見てくる」
 そう言って、おじいちゃんは出て行った。
 さて、おじいちゃんはいなくなったから、次はおばあちゃんだ。

「そうだ。おばあちゃん。お昼ごはんここで食べていい?
 お昼ごはんはいらないって言ってきたんだ。
 ねえ、いいでしょ?
 ぼく、さといもが食べたい。おばあちゃんのさといも、ぼく、大すきだ」

「あら。困ったね。里芋は買い置きが無くて…」

 ちょうど良かった。
「やだやだ。ぼく、さといもがいい」

「はいはい。武ちゃん。
 じゃあ、ちょっと買ってきましょうかね。
 お肉も無かったから…ついでに…」

「ブタにくがいいな。ぼく、ブタにくがすきだ」

「はいはい。武ちゃん。お留守番をお願いね」

 表でおじいちゃんと話しているおばあちゃんの声がする。

「おじいちゃん、ちょっと行ってきますから、後は……」

「ああ…」

 その声を聞きながら、ぼくはオブツダンにむかった。
 オブツダンのひきだしだ。だいたいおばあちゃんはそこにしまう。
 あけたらあった。『入院の手引き』ってパンフレット。
『説明』ってところに『心療内科』ってあったし、ママはきっとここだ。
 ケータイでしゃしんをとった。病院の名前や住所。ほかにもいろいろ。
 あとでケンサクする。

 お昼ごはんを食べてすぐにおじいちゃんちを出た。
 でも、その前にらいしゅうの日よう日にはおじいちゃんとつりに行く事になった。ヨテイガイ。

 おばあちゃんが「そのくらいいいでしょ。ね。直行さんには私から電話しますから」っておじいちゃんに言って、きまった。
 ママにころされかけたまごだからね。ぼくは。
 おじいちゃんもおばあちゃんも、ぼくにはとってもやさしい。
 それがなんだかくやしい。

 オブツダンには「入院の手引き」のほかにフウトウに入ったうすい紙があった。
 その紙には「離婚届」って書いてあった。

 離婚届はリコントドケって読む。意味もケンサクで調べた。
 きっとパパだ。パパがおじいちゃんとおばあちゃんにわたしたんだ。
 パパはママとリコンするつもりなんだ。

 おじいちゃんやおばあちゃんは、パパに女がいるって知ってるのかな?
 今、ぼくとパパがその女の人のところにいるって知ってるのかな?
 きっと知らないね。

『だいじょうぶだよ。おじいちゃん。おばあちゃん。
 きっとうまくいく。ぼくがうまくやる
 やらなくちゃ』

 ママの入院している病院は、となりのえきの近くだった。
 自転車で1時間ぐらいかかった。

 入り口で「めんかいに来ました」って言ったらふとったおばちゃんが出てきて、近くの長いすのところにぼくをつれて行った。

「あのね。
 あなたのママはね。心が疲れちゃってて。今、お休みをしているところなの。
 だから、今は誰にも会えないのよ。
 ごめんなさいね」

 うそくさいほどやさしい声でおばちゃんが言った。

「ママはぼくの事がすきなんだよ。
 だからね。ママは、ぼくに会ったらよろこぶよ。きっと、げんきになるよ。
 ねえねえ、会わせてよ」

 せいいっぱい子供っぽく言ってみた。ママが大好きな子っぽくね。
 そしたら急につめたい目になって「規則ですから。だめなんです」って。
 やっぱりね。クソババア。

 まあいいけどさ。
 クソババアと話している間に、すみっこのかべに病院の地図をみつけた。
 すなおに出て行くふりをして、その地図をケータイでとった。

 おじいちゃんちで見つけた「入院の手引き」のすみに「第2病棟412」ってメモしてあった。
 きっとママのへやの番号だよ。
 さっきとった病院の地図を見て、ママのへやをさがした。

 わりにかいだんに近い。4かい。4かいならかいだんで行ける。
 カクリとか立ち入りキンシのかいじゃないみたいだ。
 カクリは隔離。『ほかのものから引きはなして、べつにする事』だって。
 ママはカクリされてないって事だ。だから、行けばきっと会えるだろう。

 げんかんじゃなくて横の小さな入り口からなら、げんかんにいるさっきのおばちゃんたちにみつからずにかいだんまで行けそうだ。

 いったん外に出て、ぐるっと回って、小さな入り口の前に行った。
『通用口』って書いてあった。これはツウヨウグチって読む。病院の人の出入り口って事みたいだ。
 ドアを開けようとしたら開かない。
 そうか。中からはふつうに開けて出て行った人がいたけどね。外からは開かないのか。

 かんがえていたら、中から女の人が出てきた。開けたドアがぼくにぶつかりそうになって、おどろいていた
 ぼくはぼうしをぬいで、女の人が「どうも」って言って、すれちがった。
 女の人は、すぐにぼくの事をわすれたみたいに、歩いていった。
 だからぼくは手をのばして、とじかけたドアにぼうしをはさんだ。

 しばらくそのまま歩いてふり返ったら、女の人はかどをまがって見えなくなった。
 ぼくはドアのところにもどった。ぼうしはドアにはさまったままだ。
 ゆっくりドアを開けたら、こんどは開いた。

 そうっと中に入った。右にまがったらすぐにかいだんだ。
 かいだんの上からお医者さんがきるような白いふくをきた男の人がおりて来た。
 ぼくはふつうな顔をしてのぼって行った。
 もんくを言われるのはきっと入り口だけだと思っていた。
 そのとおりだった。男の人はぼくの事なんか見てなかった。

「ダイ2ビョウトウの412バンのヘヤ。ダイ2ビョウトウの412バンのヘヤ」
 ケータイでとった地図を見ながら歩いた。ママのへやはすぐに見つかった。

 入り口は開いていて、半分カーテンがかかっていた。
 ぼくはカーテンをそっと開けて中をのぞいた。
 いちばん近くのベッドにねていた人がこっちをむいた。
 ママだった。ぼくの顔を見て、ママはおどろいた顔をした。

「ママ、大きなこえを出さないで!
 ないしょで来たんだよ。だから…」

 でも、ママは後ろをむいてふとんをかぶって、そして大きな声でなきはじめた。
「ごめんなさいっ。ごめんなさいっ」なんどもそう言ってないた。

「ちがうよ、ママ!
 ママが手をはなしたから、だからぼくは死ななかったんだよ。
 ママがぼくをたすけてくれたんだよ」

 ぼくはふとんをひっぱって、ママが見えるようにした。

「ぼく、ありがとうって言いにきたんだ。
 それからママがすきだよって。
 ママもでしょ? ママもぼくの事、すきでしょ!」

 ママはぼくを見ないでないている。

「わすれないで、ママはぼくをころさなかったんだ
 今でもぼくはママがすきなんだよ」

 だれかが知らせたんだろう。
 さっきのふとったおばちゃんが走って来て、ぼくをへやからおし出そうとした。
 クソババア。

「すきだよ。ママ。
 きいて。おねがい。
 ぼくはママがすきだよ!
 ぼくをたすけて!」

コメント(25)

 ママはりょうてで耳をふさいで、首をふっていた。
 ぼくの手首をつかんで、ろうかをひきずって歩きながら、クソババアがブツブツ言った。

「どうやって入ってきたのかしら。出てったはずだったのに。
 患者さんにはこういう事が一番いけないのに」

 ぼくはきいてない。
 ただ、ぼくをバスルームにつれて行く時にぼくの手首をつかんでいたママの手は、クソババアみたいに強くはなかった、って思ってた。そういう事。
 ぼくはあの時、にげようと思えばにげられたんだ。
 わかってるんだ。ママがほんとうはぼくをころしたくなかったって事。

 でも、ぼくのことば、ちゃんとママにとどいたかなあ?

 今日やる事はぜんぶおわったから、自転車でぼくんちに行った。
 れいぞうこのアイスをたべて、まんがを読んで、これからやる事をかんがえた。
 で、ゆうがたになってからおばさんちに戻った。

 パパは早く帰って来て、3人でごはんを食べた。

「このはっぱ、にがいね」ってぼくが言ったらおばさんがぼくをにらんだ。
「アシタバはにがいもんだ。子供にゃわからないかな。なあ裕子」とパパは言った。
 パパはおばさんのごきげんをとってるんだ。

 アシタバぐらい知ってるさ。ママだって作ってくれた。
 でも、ママのアシタバはもっとやさしいあじがしたよ。
 パパはわすれちゃったんだろうか。ママのアシタバ。
「そうだ。おば…ゆう子さん。これ書いて。わすれてた。
 あした、出さなくちゃいけなかったんだ」

 ぼくはポケットからたたんだ紙を出した。

「?」

「こんどのサンカンビ。出るか出ないかって紙。
 パパはしごとだからむりだし」

 おばさんがいやな顔をした。

「裕子が出るわけ…」ってパパが言いかけたから。

「うん。だから出ないってほうにマルをして。
 名前とかはママの名前でいいから、ゆう子さんが書いてよ。
 女の人の字のほうがいいと、ぼくは思うんだ」

 食べおわったちゃわんを横にどけて、テーブルのはしでおばさんは書いた。
 おばさんはなにも見ないでぼくんちの住所とママの名前を書いた。

「あれ。ゆう子さんの字って、よくにてるね。
 ぼくんちにまい日とどいていたハコに書いてあった字に。
 ゆう子さんがおくってくれていたの?」

 こんな時は子供ってべんりだと思う。
 おばさんはこわい顔をしてぼくを見たけれどね。
 ぼくは気がつかないふりをした。

「ねえ。ねえ。ゆう子さんがおくってくれてたの?」

「さあ。なんの事かしら。私は知らないわよ」っておばさんが言って。

 パパが「?」って顔をしてぼくらを見ている。

「さあ、書いたわよ。なくさないように、しまってらっしゃい。今すぐにね」

 そう言って、おばさんはぼくに紙をおしつけた。
 ぼくをパパからひきはなそうとしたんだなって思った。
 でも、すなおにとなりのへやにしまいに行った。

 しばらくしてもどったら、おばさんはキッチンに行っておさらをあらっていた。
 だから、しんぶんを読んでるパパのとなりにすわって、おばさんに聞こえないように言った。

「ぼく、ゆう子さんだと思うんだけどなぁ。字、そっくりだったよ」って。

 パパはすぐにしんぶんを読むのをやめて
「ママに届いていた荷物のか?」って聞いた。

 やっぱりパパはぼくが言った事が気になっていたのさ。

「うん。まい日さ。月ようから金ようまで、まい日。
 パパがお休みの土ようと日ようはこなかった。
 そうだ。ハコにはってあった紙。ママはとってたよ。
 ママのツクエの上のおかしのハコに入ってるよ」

 おばさんがもどってきて「武くん。おかたづけ手伝ってくれる?」ってきみがわるいぐらいニコニコしながら言った。

 パパがぼくと話すのをじゃましたかったんだろうな。
 でも、おそいね。ひつような事はもうみんな話しちゃったよ。
 だから、おとなしくキッチンに行って、おさらをあらう手伝いをした。

 なんだか、とってもつかれた。
 ぼくんちに行って、おじいちゃんちに行って、ママの病院に行って。
 今日は、いそがしかったからしかたがないか。
 いつのまにかねてしまった。
 よく日、学校に行ってもつかれていた。
 またしょうこう口にすわってみんなを見ていたら、花咲(はなさき)さんがとなりにすわってきた。
 で「武くん、なにかやってるでしょ?」ってぼくに聞いた。

 きんじょのおばさんかなんかに聞いたんだろうな。ぼくんちの事。
 きゅうきゅう車が来たり、ママが入院したり。
 いろいろ言われているのは、ぼくだってわかる。

「なんにもないよ。ぼくにはかんけいない」

 ぼくは花咲のほうを見ないで言った。

「ちがうわ。武くん。
 なにかやってるでしょ? って聞いたのよ。
 手伝ってあげてもいいわよ」

 ぼくは思わず花咲のほうをむいて、じっと見てしまった。

「大人ってどうしようもないもんね。
 子供はくろうするわね」

 花咲はまっすぐ前をむいて、小さな声で言った。 
 ぼくはますます花咲を見た。なんて言ったらいいんだろう。

「ちょっと、そんなに見ないでよ。
 前をむいて。じゃないとみんなが変な目で見るわ」

 あわてて、前をむいた。
 前はむいたけど、さっきの花咲のきりっとしたよこ顔の事をかんがえていた。

「ぼ、ぼくってなんか変かな? なにかやってるみたいに見える?」

「まあね。
 変なのはむかしっから。最近はますますね。
 みんなはあんな事があったから、ってそう思っているからだいじょうぶよ。
 ばれてないと思うわ」

「み、みんなって…。それにあんな事って…」

「大人たちよ。先生とかおばさんたちとか、うちのママとかね。
 あんな事っていうのはおばさんが自殺みすいをしたって事」

「ふ、ふうん…」

 やっぱりね。ママのじさつみすいはみんな知ってるんだ。
 でも、気をつけないと…。
 どうしよう…花咲に話そうかな…。
 もう一回、花咲のよこ顔を思い出しながらかんがえた。

「はくじょうしなさいよ。はくじょうしなかったら話すわよ。うちのママに。
 武くんがなにかやってるって。
 そうしたら、みんなにばれちゃうわよ」

 しかたがない。
 ぼくは花咲に話した。
 ママがした事。ぼくがしようとしてる事。
 その代わり、ぼくが知らなかった事がずいぶんわかった。

 パパに女がいるって、もう前からご近所のおばさんたちは知ってたんだって。
 その女が住んでいる所も。今、ぼくとパパがそこにいるって事も。
 ばれてないのは、ママがぼくをころそうとしたって事ぐらいかな。
 おばさんのネットワークって、ほんとうにすげえな。

 ぼくが、ママがぼくをころそうとしたって事を話したら花咲がおどろいた顔をした。
 でもね。花咲は「ふうん」しか言わなかった。
『かわいそうね』とか『つらかったでしょ』とか言わなかった。

 さいごにケータイのばんごうとアドレスをおしえあった。

「私の名前、うさ子にして。そしたら見られてもだれだかわからないでしょ?」

 って、言うから「じゃあ、ぼくは、けしちゃんまん」ってぼくは言った。

 ママがぼくをそうよんでいた。ぼくになにかたすけてほしい時にね。

『けしちゃんまん! しゅつどうよ! おさらをはこんでちょうだい』ってさ。
 なんだかずうっとむかしの事みたいだ。

『うさ子はぼくとおなじなのかもしれないな。
 大人なのに、子供のふりをしているのかもな…。
 今度、聞いてみよう』

 ぼくは、ぼくからはなれて行くうさ子の後ろすがたを見ながら、そう思った。
 夜、ママに手紙を書いた。
 こんど行った時にわたそう。

『ママへ
 ママ。ぼくをたすけてよ。
 ぼくとパパは、今、ゆう子おばさんのうちにいるんだ。
 ぼくはとってもいやだ。ゆう子おばさんはぼくをすきじゃない。

 ぼくはおじいちゃんちに行きたい。
 おじいちゃんとおばあちゃんといっしょにすみたい。
 
 おねがいだから、もうだいじょうぶです、ってお医者さんに言って。
 おじいちゃんとおばあちゃんにぼくの事を話して。
 それで、ぼくをむかえに来て。

 ママだけだよ。
 ママだけがぼくを助けられるんだ。
                       けしちゃんまん』

 これを見たらママは元気になるかなぁ。がんばってくれるかなぁ。


 よく朝、おばさんがおこしに来て、でもつかれていて。おきるのがいやだった。
 あたまもいたかった。

「なんだかフラフラする…」

 そう言ったら、おばさんがふりかえって「あら、そう」と言った。
 わらっているみたいに見えた。

 おばさんが出て行って、パパがかわりに入ってきた。
「休みたい」パパにそう言った。

 ぼくは学校を休んで、パパとおばさんは仕事に行った。

 少しねた。ねながら思った。
『こんな事はしてられない。ママをたすけなくちゃ』
 ずうっと思っていた。
『ママをたすけなきゃ…』
 チャイムがなったので出た。体がおもかった。インターホンからうさ子の声がした。
 かなりムリをして、ドアのカギを開けた。

「なんで? 学校は?」ってうさ子に聞いた。

「とっくにおわったわよ」

 もう、そんな時間だったんだ。
 立っているのがつらくなって、ぼくはろう下にすわった。
 うさ子が手をかしてくれて、ベッドにもどった。

 うさ子はぼくにプリントをわたすと「お昼ごはんは?」って聞いた。
 ぼくがくびをふったら、だまってへやを出て行った。
 しばらくして、あったかいぎゅうにゅうを持って来た。
 ぼくはぎゅうにゅうはあんまりすきじゃないんだけど。
 のんだらあまくて、からだの中にしみた。

「なんなのよ。びょう人をひとりにして。ごはんもなくて。
 あんたのパパやうわきあいてのおばさんはなにをしてるの」

 そんな事をぼくに言われたってね。
 それに、そうなのかな。ぼくがびょう気だったら、だれかがいなきゃいけないのかな。
 ぼくはパパにもおばさんにもそんな事、きたいしてなかった。

「それに…」ってうさ子がなにかを言いかけたら、ドアが開いて、おばさんが入ってきた。
 うさ子はぴょんって立ち上がってにっこりわらった。

「はじめまして花咲っていいますぅ。武くんのクラスメートですぅ〜。
 プリントをとどけに来ましたあ」

 それから、ペコっておじぎをした。
 そして「おねえさんのるす中にかってに入ってごめんなさい」
 そう言って、ペロッとしたを出した。

 たった今まで『あんたのパパのうわきあいてのおばさん』って言ってたのにね。『おねえさん』かよ。女はこわいよなぁ。

「おじゃましました〜。かえります。
 じゃあね。武くん。またね〜」

 元気に手をふってうさ子は出て行った。
 うさ子のあたたかくてあまいぎゅうにゅうで、ぼくはまたねむくなった。
 夜になって、パパがへやに入ってきた。
「食べられるか?」って聞きながら、からあげべんとうをベッドのふとんの上においた。

「うん」

 のそのそとおきてベッドの上で食べた。
 ぼくが食べているのを見ながらパパが聞いた。

「ママに届いていた荷物な。中、武は見た事があるか」

「うん。なん回か。ずっと前だけど。
 あとのほうはぼくにも見せないようにしてたから、わからないけど」

「ずっと前っていつ頃のことだ」

「う〜んと前。う〜ん。そうだなぁ、4ヶ月か5ヶ月かな…。
 ず〜っと前」

「中に何が入っていた?」

「ゴミ」

「え?」

「ゴミだったよ。ごはんののこりや、大こんのかわや。おさかなのほねや。
 あと紙のゴミとか。
 ほら、キッチンのゴミばこの中み。そんなかんじ。
 ビニールのふくろに入ってた」

「なんでそんな物…」

「うん。ぼくもそう思った。
 だからママにそう言ったんだ。なんで? って。だけど、ママはなにも言わなかった」

「……」

 パパはためいきをついた。
 ぼくは知らん顔をして、からあげべんとうを食べた。

 あんまりパパがなんにも言わないので、「ぼく、ゆう子おばさんの字だと思ったんだけどなぁ」って言ってみた。

 パパは「毎日…か…」って言った。

 ぼくはへんじしなかった。
 パパはきっと、かえってくる前に、うちに行ったんだ。
 で、ぼくがおかしのハコに入れてママのつくえの上においた紙を見たんだ。

 カラになったべんとうのゴミをもって、パパがへやを出て行った。

 ぼくは、ねる前に『あしたは学校に行く』ってうさ子にメールした。
 夕方、キッチンにあったカレーをレンジであたためて、ベッドで食べていたらげんかんのチャイムがなった。
 ランドセルをせおったうさ子だった。

「来るって言ってたじゃない?」ってうさ子が聞いた。

「うん。行くつもりだったけど、あさごはんを食べたら、また気もちがわるくなった」

 はいたって事は言わなかった。
 ぼくはベッドにもどって、昨日ママに書いた手紙を見せた。
 うさ子が手紙をよんでいるあいだ、またカレーを食べた。

「学校からまっすぐ来たから、今日は時間があるわよ。私、なにをしたらいい?」

「それ、ママにわたして。ぼくは…行けそうにないから…」

 うさ子はちょっとかなしそうな目をしたけど「わかったわ」と言った。
 ぼくはママのびょういんの事をくわしく話した。横の通用口の事も。
 それから、地図とかをうさ子のケータイに送って。

 そしたらなんだかだんだんはきそうになってきた。
 せなかがさむくなって。いきがくるしくなって。おきているのがつらくなった。
 しんぞうがドキドキいってる…。

 うさ子がさけび声をあげた。
 ぼくが…ケータイを…おとした…から。
 ぼくが…はいて……。
 ぼくが……
 だれかがぼくの足にしがみついていた。ママよりも小さくてあたたかい手だった。

「おじょうちゃん。どいて。そこにいたら運べないから」

 知らない男の人の声がした。

「いやあ。いやあ。
 死んじゃう。武くんが死んじゃう。
 毒よ。毒。カレーに毒が入ってたのよ」

 うさ子がなきながら言っていた。
 毒?

「変だと思ったのよ。びょう人にカレーなんて。変よ」

「おじょうちゃん。手をはなして」

「いやあ。私も行く。私もきゅうきゅう車にのる」

 うさ子はそう言ってぼくの足にしがみついてなきだした。

「おじょうちゃん。そんな事は…」

「乗せてってくれないなら、武くんの家族のれんらく先、教えないからっ!」

 みょうにちゃんとした言いかただったから、さっきないてたのはうそなきなんだなって思った。

 別の男の人の声がなにか言って。「さあ」って男の人の声がして、うさ子の手がはなれた。
 ガタンって大きくゆれて、きゅうきゅう車にのせられた。
 そしたら、ぼくのすぐそばにうさ子がすわってきた。
 ぼくと目が合ったら、うさ子がかた目をつぶった。
 ぼくはまたイシキフメイになった。
 入院して何日たったかな。
 せびろのおじさんがふたり来て、いろいろ聞いた。
 ぼくはこたえた。

「カレーはキッチンにありました」

「ラップがかかってて、ぼくがレンジであたためて食べました」

「うん。ごはんにちゃんとカレーもかかってたよ」


 おばあちゃんはまい日、来た。
 パパが来たら、おばあちゃんが「もう来ないでください」って言った。
「武は私達でみます」って。
 パパの返事は聞こえなかった。パパはそのまま帰った。

 うさ子が来て「手紙はわたしたわ」って言ってくれた。

「おばさんはきっとだいじょうぶよ。
 手紙を読んでね。それから長いこと目をつぶっててね。
 それからね。
『あの子に伝えて。
 きっと迎えに行くからって』
 って、そう言ったの」

「そうか…。ありがとう」

「武くんがうらやましいかなぁ。私。
 私のママはもうきめているの。
 私が中学校に入ったら、パパにリコンするって言うんですって。
 パパと行くか、ママと来るか、それまでに決めといてねって」

 なんて言ったらいいかわからなかったから聞いた。

「もう決めてるの、花咲は?」

「ママと行くわ。パパには女がいるけど、ママにはだれもいないから。
 でも、ずっと先よ。中学校だから2年も先。
 だからどうなるか、まだわからないけど」

「そうか…。
 くろうするね。子供はさ」

 言ってから思った。
『前にうさ子がおなじ事を言ったなあ』

 病院の人やおばあちゃんやおじいちゃんや。
 みんながぼくには知らせないようにしたけれど、ぼくは知っている。
 うさ子がおしえてくれた。

 ゆう子おばさんはタイホされた。
 カレーにはほんとうにドクが入っていた。
 アリをころすのや、センザイやいろいろ。
 どうやらカレーにだけじゃなかったみたいで。
 ぼくがはいたり、あたまがいたかったりしたのはおばさんがいろいろ入れていたかららしい。
 だれもいない時に、ひとりでトイレに行こうとしたら、ろうかのイスにパパがすわっていた。
 おばあちゃんに来ちゃだめだって言われたのに、きっと何回も来ていたんだろうな。

 ぼくがパパのとなりにすわったら、パパが「すまんな…」って言った。
 パパもぼくも前だけ見ていた。

 ぼくはパパに『ゆう子さんがかえってくるまで、まつんだよね?』って聞きたかった。けれど言えなかった。
 パパはどうするんだろう。
 ママはどうするんだろう。


 あした、ぼくはタイインする。
 おじいちゃんとおばあちゃんと、それからママがむかえに来る。
 そしてぼくはママといっしょにおじいちゃんちに住む。

 パパはうちにもどってひとりで住んでるんだって。

 だけど、みんなおわったんだって思う。
 あとはもういい。
 パパとママはリコンするかもしれないけれど。それも、もういい。

 コウイショウとか出るかもしれないって。
 でも、そんな事はその時になってからかんがえる。

 それよりもぼくにはかんがえなきゃいけない事があるんだ。
 まだ時間はたくさんあるけどね。中学生になったらきめなくちゃいけないと思うんだ。
 だって、中学生になったらもう子供のふりはできないよね。
 だから。

 つまりさ。つまり、ぼくとうさ子はレンアイなのかなって事だ。
 まだ2年もあるからね。まだいいんだけどね。

 まだ子供でいいよね。
 だから、ゆっくり、ゆっくりかんがえるさ。

 …終わり
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【作品一覧【単発/完結】】
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=39667160&comm_id=3656165
>>[12]
 武ちゃんは多分、子供の体というハンディを乗り越えて、自分にできる事をしてママを助けようとしたのだと思います。
 何もしなければ、大人に決められてしまうはずだった運命を自分で変えたのだと思います。
 これからもダメな大人のまねは絶対にしないでしょう。

 と、表現できていないという事で、まだまだ未熟ですね。
>>[14]
 それは良かった。あせあせ

 とは言え、おとな達もそれぞれ精一杯なんですよ〜。
 子供でいるほうがやっぱり楽ですよ。わーい(嬉しい顔)
(((*´∀`)これは…ウサ子やゆう子おばちゃん、刑事さんや祖父母の視点から描いた話しも読んでみたくなる…!!
>>[16]
 お久しぶりです〜。またUPしませんか。PCかどこかに残ってません?

 はい。(いつもより)意識して、回りの人間の視点は排除しました〜。
 いろいろ想像できるでしょ?

 良かったら書いてください。スピンオフで。ウインク
>>[17]
(((*´∀`)ずっとケータイで書いていたし、データを残すなんてシャレオツな行為はしていないんですよ。なんで、前に書いていた話しはありませんよ↓

 スピンオフっすか? スマホに変えてから打つのが下手になって、いつの話になるか分からんですが、数ヶ月待たせた挙げ句『やっぱ無理でした、えへへ』とかありそうですが、やってみようかな。
>>[18]
 え〜〜〜〜っ。残ってない〜。
 うわぁ。コピペしてパクッとけばよかった〜。もったいないっ。たらーっ(汗)
 ていうか、携帯で書いてた! 私には無理。

 スピンオフ。
 読みたいですねぇ。大人達がどんな事を考えていたのか知りたいです。
 やっぱ無理でした、でいいので挑戦してみてください。

 他の話がわいちゃったら、それをちょっとUP、もアリで。わーい(嬉しい顔)
読んでて胸が痛くなりました。

頭がよくて行動力があって腹芸できてすごくハイスペックな主人公の語りの、ところどころが平仮名で、本当は本当に子供なんだというのが突き付けられて切なかったです。

裕子おばさん酷い人だけど、できればパパの方を殴りたいです。
>>[20]
 はい。私もパパを殴りたいです。
 裕子おばさんはゆがみっぷりが切ないです。
 ママの壊れ方も辛いです。

 主人公のような子供のふりをしている子供たちが、本当はたくさんいてくれて。
 きちんと自分を守って育ってくれたらうれしいなぁって思っています。わーい(嬉しい顔)
おもしろかったです。
子どもの頃していた「子どものふり」を思い出しました。
案外したたかですよね。
大人になると愚かになるんですかね。
>>[19]

(((;´∀`)ウサ子が『ウザ子』で『ヴサ子』になりそうな話を少しだけ書きました…。レイラさんの世界観をぶち壊しそうな話が完成しそうです…
>>[22]
 はい。私もしてました。子供のふり。わーい(嬉しい顔)
 そのせいか、大人になって子供の視線が怖いです。あせあせ(飛び散る汗)
>>[23]
 どんどん壊してください。指でOK
 むしろ、視線が変ると「これだけ違うものが見える」ってなってくれたら大成功です。
 武くんがただのズルイ子供になってもOKです。わーい(嬉しい顔)

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