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アナタが作る物語コミュの【地方伝奇】Local limited!2 前篇 〜前略、北の国からカボスの国へ。夏〜

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原作 レイラ・アズナブル『神話夜行』
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シリーズ1話目【神話夜行シリーズスピンアウト】Local limited!〜吉野梅園〜はこちらから↓
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その他の作品はこちらから↓
【作品一覧【2009/02/25現在連載中】
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『向こう側』から神がくる。

 神は人を守り。

 貪り喰らい。

 導き。

 弄ぶ。

  
『こちら側』には魔物が潜む。
  
 魔物は神を狩り。

 人に誅され。

 惑わし。

 忘れる。



 神も魔も人も、誰も知らない。

 そこに善悪の彼我はない事を。
 
 










 夏草に埋もれる廃墟に、断末魔の叫びが響いた。

 その一拍後、拳大の結晶が円を描くようにバラバラと落ちる。 
 円の中心に立つ男は、それを一つ拾って舌打ちした。

「ちっ……濁ってやがる。これだから雑魚のクリスタルは」
 
 草木の線維で織った着物に、赤みを帯びた毛皮を羽織ったその男は、刃物で全身を削いだ塑像のように痩せていた。
 歳の頃は見た目四十過ぎ。目は鋭く、こけた頬から顎にかけて無精髭が覆っていた。
 
「だからと言って、回収しないわけにはいかぬだろう?」 

 ハスキーな美声でそう言ったのは、男の肩にちょこんと乗ったエゾリスだった。 
 
「塵も積もれば山になろうし、たとえひとかけでも人間に拾われたら大事ぞ」

 耳の後ろを掻いたり、ふさふさの尻尾をくしくししながら言う様に真剣味はまるで感じられなかったが、男はもっともだと頷いた。 
 
「聞いたかポンセタ。残さず拾っとけよ」
「ウェンカムイ!俺の名前はポンセタじゃねぇぇぇぇぇっ!!」

 崩れた天井の大穴から、怒鳴り声と共に一人の少年が飛び降りた。
 十代後半だろうか、浅黒く日焼けした肌に犬歯の目立つ白い歯がなんとも野性的な少年だ。 
 だが少年の容貌で何より目立つのは、黒灰色髪と同色の獣毛に覆われた三角な耳と、背後で毛羽立つ同色の尻尾だった。
 
「俺は犬じゃなくて狼だって、何度も言ってるだろっ!!それに小さくもねぇっ!!」 
 
 この地の古い言葉で、『ポンセタ』は『小さい犬』という意味になる。
 ちなみに『狼』は『ホロケゥ』で、『ウェンカムイ』は『悪い神』もしくは『人喰い熊』だ。

 実際、少年の背丈はウェンカムイと呼ばれた男より指三本分ばかり高く、目をぎらつかせて怒鳴る様は乱暴で高圧的だ。
 だが男は鋭かった目を柔らかく細めて少年の頭を撫でた。

「いい子だからクリスタル拾ってこい。ポンセタ」
「もう十六だ!ガキ扱いするな」
「ん?ここがいいのか」
「耳の後ろを掻くなぁぁぁぁぁぁっ!」

 エゾリスが髭を震わせてククッと笑う。

「いくら図体が大きくとも、感情を先走らせた言動をするようでは、器の大きさが知れよう」
「トゥスニンケてめぇ、げっ歯類が鳥みてぇに囀ってんじゃねーよ。ザンギにされたいか?あァ?!」
「おぉ、小さい小さい。我の尾が縁よりはみだすわ」 
「毟ってハタキにしてやらあ!」
「はっはっはっ」  
 




「くっそ、今にみてろよ……」 
 
 ぶちぶちと文句を吐きながら、少年はクリスタルを拾う。
 神はこの結晶体の力で、空間に穴をあけ、こちら側にくる。
 他の使い方もあるのかも知れないが、それは他の連中が考える事だ。

 自分達が命じられているのは、この土地に顕現する神の迎撃とクリスタルの回収だけだ。
 
 正確にいうと、命じられて戦ってるのは羆の悪神ウェンカムイとエゾリスの妖トゥスニンケで、少年自身は見てるだけだ。

 そう、見てるだけ。

「俺も戦士なのに」

 少年は人狼だった。
 人の身に獣の爪牙と、満ちては欠ける月の再生力と狂気をその身に宿し。
 戦う為に生まれて、戦う為に死ぬ事を運命づけられているはずだった。  
 
 なのにウェンカムイが命じるのは『後方待機』ばかり。

 まだ小さい。
 まだ早いと。

 修行は充分過ぎる程に積んでいる。
 足りないの経験だけだ。

『行け』と一言命じさえすれば、死体の山の一つや二つ朝飯前だ。

 だから『まだ弱いから』と言われると、理不尽でしょうがない。

「大体、ウェンカムイより強い奴がいるかっての」
「結構いるぞ」
「ッ!?」 
 
 声に驚いて振り向くとウェンカムイが真後ろにいた。
 足音も気配も感じなかった。

「俺より強い奴など、ゴロゴロしてる」
「アンタが言うと謙遜だか嫌味なんだかわかんねぇよ」
「どっちでもねぇよ。事実だ」

 少年の口調を真似ると、ウェンカムイは少年の頭をわしわし撫でた。

「撫でるな」
「ケチケチするな」

 何度言ってもやめてくれない悪い癖だ。

「外には、俺より強い奴が大勢いる」
「外なんて知らねぇ」 
 
 物心つく前から少年は、ウェンカムイと一緒だった。
 小さい頃はいつもねぐらにしてる廃墟に留守番で、こうして仕事について来れるようになっても、巧妙に組まれた結界から出ることはなく。
 人間とか人間が住む町や村は知識でしか知らない。

「まぁ、聞けポンセタ」 
 
 顔をしかめる少年の両肩に、厚い掌が掛かる。

「子犬じゃねぇと……」
「お前、強くなりたいか?」 
「当たり前だろ」

 ウェンカムイの目が鋭く光った。
 戦っている時と同じ色だった。
 
「本当に強くなりたいか?」 
 
 ふと気が付くとウェンカムイの肩にいたはずの、トゥスニンケの姿がない。

「もちろん」

 いつも視界の隅をよぎるはずのふさふさ尻尾を目で追おうとして少年は、自分が指一本たりと動かせなくなっている事に気づいた。
  
「力が欲しいか、誰よりも強くなりたいか?」

 背筋が凍てつき、歯の根が合わず、舌がもつれそうになったが答えた。

「俺は、アンタより強くなるっ!」 
「いい度胸だ」
 
 ウェンカムイがニヤリと笑った次の瞬間。

 ガツンと激しい音と衝撃が走って少年の目の前が真っ暗になった。



 至近距離で頭突きを食らって昏倒したのだと、理解したのは、それからずっと後の事だった。

コメント(6)

 
 大分県は国東半島の南端。
 大分市と別府湾を挟んで北側に向かい合う、杵築市。

 特産物はみかんと半導体。
 
 時代劇のロケ地にもなった武家屋敷の並ぶ坂道があれば、先端技術の工場があちらこちらに点在する。
 
 自然と工業。 
 過去と近未来が混在する杵築市で、もっとも古いモノといえば……
 

「やっぱりアレですよねー」
 
 麦わら帽子をかぶった少年、絲蓮は堤防に腰かけて、足をぷらぷらさせながら呟いた。
 傍目から見ると、可愛らしい子供が退屈そうにしてるように見えるが、その正体は蜘蛛の魔物で実年齢は4ケタになる。
 
 眼下に広がる守江湾。
 今は丁度干潮で、滑らかな干潟が出来上がっている。

 空は青く、陽は高く、砂泥を薄く覆う汽水の膜はきらきら輝く。

“ズバシャアッ”

 のどかな風景を、小山のような影が横切って壊した。

 陽光を鈍く照り返す甲状の頭胸、6対の棘の並ぶ台形の腹部、細く長く鋭い尾。

 ――カブトガニ。 



++++++++


【説明しよう!】
 
 カブトガニとはッ!!
 節口綱カブトガニ目カブトガニ科カブトガニ属に属する節足動物である。
 学名はTachypleus tridentatus(タキプリウス トリデンタータス) 

 カニと名前についているが、カニよりも蜘蛛やサソリに近い生き物だ。

 古生代(約5億4400万〜約2億5000万年前)から姿の変わっていない、まさに生きた化石ッ!!
 しかし、環境破壊によってその生息数を減らし続けている絶滅危惧種だ。
 日本では瀬戸内海の山口県沿岸と九州北部沿岸に生息しており、杵築の守江湾もその一つ。

 そう、杵築で最も古い歴史を誇るのがこのカブトガニなのだッ!!


++++++++



「ふつーは、頭から尻尾の先までで5〜60cmくらいなんですけどねー」

 泥水を跳ね上げて走るカブトガニは、イ○バ物置より一回り大きかった。
 巨大という範疇を越えている。
 そして時速80キロで走っていた。
 カブトガニは本来、干潟の泥の溜まった海底で、一日の9割を休息に費やす大人しい生き物だ。

 これは普通のカブトガニではない。

 ――神の使いだ。

「ポセイドンの海将の上陸作戦、今年で何回目でしたっけ」

 絲蓮は走り去る巨大カブトガニを見送りながら、たこ焼きのパックを開けた。

 巨大カブトガニは猛スピードで走り回っている。
 逃げているのだ。

 ――真後ろから追ってくる女から。

 日よけ帽子に、花柄の割烹着、ジャージにゴム長靴。
 明らかに地元のご婦人の潮干狩りルックだが、ピンクのゴム手袋をした右手には土木工事用のハンマーがあった。
 柔らかな泥土の上を軽やかに走る秘訣は単純至極、右足が沈む前に左足を出す。それだけだ。

「師匠がんばれー」 

 絲蓮が手を振ると、女は走りながら手を振って応えた。 
 
 女の名はスミ。
 牛頭人身の怪物、ミノタウロスの娘だ。
 絲蓮は蜘蛛の蟲妖、アラクネの仔。
 二人とも、人でなければ神でもない。

 スミと絲蓮は大分県を縄張りにする、神狩りの魔。

 その役割分担ははっきりとしていて、仕事の済んだ絲蓮は、巨大カブトガニとスミのリアル鬼ごっこをたこ焼き片手に観戦していた。

 巨大カブトガニとスミの距離はあっという間に縮み、ゴム長靴が尾剣を踏んだと思った次の瞬間には、スミは後体部の甲羅に駆けあがっていた。
 同時にハンマーが振り上げられ、前体部目がけて打ち下ろされる。

“ゴォン!”

 重い音がしたが、巨大カブトガニの甲羅はビクともしない。
 それでもスミはハンマーを振りかぶり、殴打を続ける。

 巨大カブトガニは、飛んだり跳ねたりドリフトしたりとカブトガニにありえない動きをして、太鼓の達人と化したスミを振り払おうとするが、次第にその動きが鈍くなっていく。

 強固な甲殻のその下の、柔らかな内臓に感覚器官に衝撃が届き、ダメージが蓄積されていたのだ。

『ギィィィィィィィッ』

 死の危険をいよいよ感じ取った巨大カブトガニは干潟を抜け、沖まで逃げようとしたが、波打ち際で見えない壁のようなモノに激突して止まった。

「遊泳禁止ですよー」 
 
 小首を傾げて絲蓮が笑う。 
 干潟全域に張られた結界、それが絲蓮の主な仕事だった。
 
 蜘蛛の蟲妖の魔力が籠った糸を幾重にも編んで作られたそれは、柔らかくも強靭で力任せでは破れない。
 絲蓮が指先をくいっと動かすと、結界はぼよんと弾み、齧りついていたカブトガニをひっくり返った。

 フェイスハガー似の裏側がさらけ出され、跳躍したスミが6対の脚が宙を掻く中心にハンマーを叩き込んだ瞬間。

“ギャルリリリリリリリリィィィィィッ”

 巨大カブトガニの脚が高速で回った。フードプロセッサーのように。
 回転刃と化した脚はどれほど硬く鋭いのか、鉄のハンマーが粉みじんになって飛び散った。

「師匠ーーーーーーーー!?」

 日よけ帽の切れ端やゴム長靴の破片、ジャージのはぎれや割烹着だったモノも四方八方にまき散らされる。
 慌てて立ち上がりかけた絲蓮の足元に、コンクリートの堤防に大きな破片が飛んできて突き刺さって立ちすくむ。

「……え?」

 巨大カブトガニの脚だった。
 その断面は力任せにへし折ったように汚く、半透明の肉と青い血を滴らせていた。

 ベキバキという派手な音に絲蓮が顔を上げれば、スミが巨大カブトガニの脚を毟っていた。
 見れば着衣のほとんどが失われていたが、白い肌には傷一つなかった。
 傷どころかアザの一つもなかったが、そのこめかみにはうっすらと血管が浮いていた。

「あ、怒ってる。気に入ってたんですね、あの服」

 絲蓮は座り直すと、たこ焼きを爪楊枝でざくざくつついた。
 自分が綺麗なドレスをたくさん作るのに、スミは何故か作業服だのジャージだのばかり好むのが不満だった。
 
 一方、スミは脚を全てもぎ取ると、巨大カブトガニにまたがって、両の拳で殴り始めた。
 打撃音や破砕音が轟く度に、青い血飛沫が上がり肌や髪を濡らしていく。

「ほぼ全裸の美女が、マウントポジションで黒髪振り乱すって、キーワードだけならとっても破廉恥なのに」

 頭に角を生やして返り血(青)びっしょりという実態に、何かもう色々と台無しだ。
 しばらくすると、殴るのに飽きたのか巨大カブトガニの尻尾を掴んで振り回し始めた。

「師匠ー、結界はこの堤防から干潟までなんで、投げない方向でお願いしまーす」
「………」

 スミは小さく舌打ちすると、消波ブロックに巨大カブトガニを叩きつけた。
 結界の範囲がもう少し広かったら、最寄の杵築城天守閣にぶつけるつもりだったかもしれない。

 巨大カブトガニのライフはとっくに0になっていたが、絲蓮はあえて止めなかった。

「そろそろ、ですね」

 絲蓮の呟きを掻き消すように轟音が響き、地面が揺れた。
 スミの背後で干潟が一瞬、膨れ上がったかと思うと、壁のような影が現れ、倒れこんだ。
  
「――遅いぞ、親玉」   

 カブトガニだった。
 ただし、スミが振り回していた物よりずっと大きく、角が生えてて赤かった。

「師匠、気をつけて!そいつ絶対三倍……」 
  
“グシャッ” 
 
 スミは身体を捻って振り向きざまに、片手に掴んでいた巨大カブトガニを、赤カブトガニに叩きつけた。
 もう片手にはいつのまにか、武骨な拵えの戦斧があった。

“カッ!!”

 絲蓮には、スミが赤カブトガニの中を、頭から尻尾の先まで走り抜けた様に見えた。
 次の瞬間、赤カブトガニは真っ二つになって泥土にめり込んだ。

「三倍……何だって?」
「何でもないでーす」  

 三倍速いのか硬いのか、大気圏突入機能があったのか知らないが、結果は秒殺。 
 スミが巨大カブトガニを追いかけ追い詰め、ハンマーや拳で悠長にオーバーキルをかましていたのは、この赤カブトガニを引きずり出す為。
 
「とにかく、師匠。おつかれさまですー」
 絲蓮が水の入ったポリタンクを渡すと、スミは頭から水を浴びて、全身の血だの肉片だの甲羅の破片だのを流した。
 髪を絞ったところでタオルが渡され、拭き終わったら着替えが差し出される。

 タオルも着替えも、絲蓮が己の糸で作ったばかりの新品だ。

「………」
「どうしましたか?」  
「寸法を間違えてないか」

 ホットパンツはともかく、Tシャツのサイズが少しばかり小さい気がする。 
 
「今日は結界に頑張ったので、これだけしかできませんでした。伸びるから大丈夫ですよ」
「そうか」 

 言われてあっさりとその場で着替える。 
 結界で人目がないから安心しているわけではない、スミは放っておけば国道沿いでもかまわず黙々と生着替えをする。

 人間の事をあらゆる意味で脅威と感じてないからだと絲蓮は分析している。
 

 ――おそらくは、僕の事も。 
 
 ――ホントは僕のが年上だとか、僕が子供なのは見た目だけだってのは知ってる癖に。


 身体の線がくっきりと出るピチピチTシャツを渡したのはせめてものセクハラだが、あまり通じてないのはいつもの事。 
 
「うん。確かに伸びる」 
「だからって、襟をつまんで力いっぱい引っ張っらないでー」 
 
 時すでに遅く、ピチピチTシャツの襟はビロビロに伸びきっていた。
 落胆する絲蓮をよそに、スミの興味は別の物に移った。

「これも伸びるな」

 半分残っていたたこ焼きを食べようとつまみ上げると、真っ黒なソースが幕を引いた。
 糸ではなく幕。粘性が相当に高い。

「クロメたこ焼きですよ。ソースにクロメのペーストが入ってます」
 

++++++++++
 
【説明しよう!】

 クロメとは、コンブ科カジメ属の褐藻だ。
 冬芽は食用になり、加熱すると物凄くネバネバする特性がある。
 ちなみにクロメたこ焼きは、道の駅・佐賀関のたこ焼き屋の店主が10年かけて開発したらしいぞ! 
 近年クロメの収穫量が減り、値段が上がり続けている。
 作者は悲しんでいるぞ!

++++++++++ 

 
「タコが大きくてうまい」
「クロメの事を時々でいいから思い出してください」 
「クロメは刻んで熱い味噌汁に入れるに限る」 
 
 残り物のたこ焼きでは物足りないスミの手に、絲蓮はみかんを積み上げる。
 みかんはどれも青々としていた。

「青いぞ」
「極早生のハウスみかんですから」
 
 スミはみかんを一つ皮ごと齧り、それから次々と残りを口に放り込みだした。
 
「甘いな」
「でしょう」 

 絲蓮はトコトコ歩いて、赤カブトガニの断面の棒切れでつついた。

「やっぱりボスは大きいですねー……こんだけ大きかったらクリスタルも」

 神々がこちら側にくる為の穴を開ける、力の結晶。これの回収も仕事の内だ。
 クリスタルが大きく、純度が高いほど評価は高くなる。

「臨時ボーナスとか出ちゃったりなんかして」

 中を探ろうと触れた途端、赤カブトガニは無数の普通サイズのカブトガニになってガシャリと崩れた。

“ガササササササササササササ……”
 
「あーあ」

 てんでばらばらに逃げ去る無数のカブトガニ。
 神の気配はもう感じない。 
 ただのカブトガニだ。
 
「現地徴収か」
「そーみたいです」 
 
 こちら側にきた神は、守江湾のカブトガニを集めて下僕にしていたようだ。
 
「小細工は?」
「ばっちぐーです」
 
 絲蓮が結界を点検すると、わざと少しだけ薄くしていた部分に引きちぎったような穴が開いていた。
 そして穴はじわじわと広がっている。

 カブトガニ達を操っていた神はここから逃げた。
 自分に糸がつけられている事に気づかないまま。

「拠点の位置がわかったら、報告して指示を仰ぐという事で、今日は帰りましょう」
「そうだな」
「タマ〜帰るですよー」

 絲蓮が呼ぶと、岩陰から虎縞の子猫が現れた。
 子猫はフナムシをくわえて誇らしげに尻尾を立てていた。

「タマ、土産か」
「にゃ」
「タマはともかく、師匠は何ですか」

 スミは片手にカブトガニの尻尾をつかんでぶらさげていた。

「土産」
「ダメです。絶滅危惧種な上、天然記念物ですよ」
「森○中は食べていたぞ」

 日本では天然記念物だが外国……東南アジア等では丸焼きにして屋台で売られていたりするし、家畜の飼料にするところもある。
 その青い血が薬品の材料になる事も。

「バラエティのお笑い芸人のマネしちゃダメって、エキュドナ様にも言われてるでしょう」
「………」
「それにカブトガニよりワタリガニのが断然おいしいですよ」
「………………」 
「置いてきましょうね、カブトガニは」 
 
 スミは渋々とカブトガニを離した。
 
 子猫、タマが身をひと揺すりするとグリフォンの姿に戻り、二人がその背に乗ると宙を駆け上がった。

「帰りに、わったん(トキハわさだタウン)寄りましょうか」
「トキハがいい」
「同じじゃないですか」
「北海道物産展やってる」
「あれ来月ですよ」

 
 
 こうして魔物の日常は時に物騒に、それなりに平穏に流れていく。
 
 ゆるゆると。
 ゆるゆると。


【後篇に続く!】
 ありがとうございます。ありがとうございます。
 本当に泣きそうです。
 何度も申し訳ないことをした私なのに。
 このステキな話はなに!ぴかぴか(新しい)

 今、自宅に半分しかいないので、なかなか思うようにUPできません。
 でも、早めに神話夜行もUPします。
>>[5] 自分も7割近く書きあげておいて二年近く放置とかしでかしちゃってます。

神話夜行シリーズが好きなのでUP楽しみにしてます

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