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俺と伝説のニーランチャーコミュの180

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180

「ハン様すまないが、ロビ殿を連れてどこか別の部屋に行っていてくれないでござるか?」
「わかった。」

ハンは立ち上がると「行こう」と言ってロビの手をひいて連れて行った。
ロビは14歳とは思えないほど華奢だった。

「家族に何があった?」

ヨーエルが切り出す。

「分からないでござる。拙者もロビの記憶に残ったイメージを引き出す以上のことは出来なかったでござる。」

樋口があごに手を当てて尋ねる。

「アレって何年前?」
「恐らく7〜8年前でござろう。」

クレオが声をあげた。

「分かった!秘密警察!!」
「なにが?」

俺の相槌を飛び越して樋口の声も続いた。

「南米ペルーか!秘密警察の手で市民が殺傷された事件があった!」
「実際どれぐらいの人数が暗殺されたのか、未だに掴みきれてないようでござる。」

マイアーの喋り方がいちいち気になるが今はそんなことを気にしている場合ではない。

「じゃあ、ロビの家族は秘密警察に暗殺されたって?」
「ただの予想だ。地域にすむテロリストかもしれん。」

クレオは秘密警察説を支持したい様子だ。

「チラッと見えた母親と思われる女性の服装がペルー人っぽかった。」
「どうして分かるんだ?」

レンツォが尋ねると、クレオは

「夏でも肌を隠すペルー人は多いわ。」

とさらっと言った。
全員の視線がクレオの服装に注がれる。
確かにクレオの露出度は凄い。
ヘソ、肩、胸の谷間、背中と出せる限り目一杯出している感じだ。

「・・・これが普通なのよ。」

クレオもさすがに何か気まずさを感じたようだ。

「私の服装はいいの。ロビゾーメンって言うのは大兄弟の末っ子が13歳までに洗礼を受けれなくて狼男になるって言われているの。」

マイアーが口を挟む。

「非科学的な話でござるが・・・先ほど術をかけていた時に、ロビ殿の場合、自己暗示に近い減少で変身しているのではないかと感じました・・・でござる。」
「自己暗示か・・・」

レンツォが黙っている。
服装の話し以来、話についてきていないようだ。

「ロビに『お守り』を持ってきた爺さんが何かしってるかもしれないな。」
「『秘術の』マーリンですね。呼ぶことは出来ますが、あまりお勧めしません。」

ケットシーが浮かない顔をした。

コメント(9)

181

「なんで?」

俺が尋ねると、ケットシーは声を潜めて言った。

「マーリンが私たちの味方だと思われると、赤い勢力が黙ってはいないでしょう。強力すぎます。少年について真実がしりたいという理由だけで呼び出すのはリスクが高すぎます。前回は彼が人間として過ごせるように必要でお願いしました。」
「なるほどな。だが、結果的に『赤い勢力』は攻めて来るんだろう?」

ヨーエルの問いに、ケットシーは不快そうに答えた。

「間違いないと思います。私たちがそう呼んでいるだけですが『安保理』とRSSSの力を彼女が拮抗したとみなすまではどちらかの戦力を削ぐか、片側の勢力を増強するでしょう。」

俺たちのほうが強いのはなんとなく分かるが、向こうには石井いおんがいる。
正体不明の鎖鉄球使い卞喜だって神行太保の俺に一歩も退かないどころか、次に出会っても勝てる自信が無い。
となると・・・

「赤月にとってヨーエルのインパクトが強すぎたんだろうな。」

俺がそういうとヨーエルは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「まさか、思いっきり温度を下げただけで怒られるなんて思ってなかったんだよ。」
「あの一件が無ければ赤月はデビョルワンをイモータルにしようなんて思わなかったでしょうね。」

全員からため息が漏れた。
ヨーエルは不服そうに呟く。

「デビョルワンが不死になったことで、赤月は『バランスが取れた』って解釈しないんだろうか?」
「恐らく、もう数万年の付き合いになりますが、赤月が平等に物事を見たという話は、聞いたことがありません。」

ケットシーがつまらなさそうに答えると、また全員からため息が漏れた。

「コンドルの王からそうした話を多少聞いてはいたんだけど、こうして、対峙してみると根が深いみたいね。」

クレオはそういえばイモータルに見出されたのだと言う事を忘れていた。

「なんで民族自決支援活動をするために集まったのに、世話焼きの女子の相手をしなきゃいかんのだ。」

樋口がぶーたれた。
俺も同調する。

「馬鹿らしぃ!!」

ケットシーも俯きがちに漏らした。

「そう言われてみると、だんだん腹が立ってきましたね。不可侵条約を結んでいるのはカラバ様の国であって、カラバ様がいなくなったRSSSには無関係です。」

レンツォが言った。

「ケンカか。」
「チャベスの選挙さえ終われば、拙者も助太刀いたす。」
「役に立てるか分かんないけど・・・」

クレオまで兜に手をかけて同調した。

「待ってください。せめて掲げる大義名分や正義みたいなものは無いんですか?」

チョン隊長の一言に全員が顔をしかめた。
ケットシーにいたっては餌をもらえない飼い猫のような顔をしている。
ヨーエルがチョン隊長に同調した。

「俺たちが赤い勢力を相手にケンカしてる時に安保理がカラバ王国を攻めてきたらどうする。ある程度、俺たちがそんな役回りをやらされるのは仕方が無い事だ。対処するだけで精一杯でも今はいいんじゃないか?」

チョン隊長とヨーエルに言い返せずにケットシーが折れた。

「分かりました。冷静に相手の出方を見ましょう。チョン隊長とマイアー様は残った虍を率いてチャベス元将軍の選挙に全力であたってください。もうすぐですよね?」
「あと2週間でござる。」
「虍隊は私以外はチャベス将軍に張り付いている。」

ケットシーは「結構、お願いします」と答える。

部屋を出る前に、チョン隊長が立ち止まって付け加えた。

「ああ、そうそう。この円卓に座れたことを光栄に思っているよ。これからよろしく。」

そう言って笑顔を見せた。
顔の傷跡のせいか怖い印象しかなかったのだが、決してそれだけの人間ではないと感じた。
そのあとハンがロビを連れて戻ってきて赤い勢力へ先制攻撃を加えるべきだと言う持論を展開したが、結局却下されてふくれていた。
182

急に忙しくなった。
ゼマンさんは日本ではなくカラバ王国へやってきて、カラバ城を通って俺の家へ来てくれた。
そして、樋口に工具一式を運ばせると、俺の家の一室を作業場にして義足を治しはじめた。
樋口は南米へ行き、チャベス元将軍のバックアップをしているマイアーに膝に入れる金属球の鋳造についてアドバイスをもらったらしい。
そして、ドイツのマイアーのいた大学の研究室にその製作を依頼したそうだ。

「一週間かかるってさ。」
「早いの遅いの?」
「分からん。」

ゼマンさんの槌の音を聞きながら二人でそんな話をした。
リズミカルで心地よい音だ。

「ねぇ、牧人。」
「なに?」

七美が不機嫌そうに俺に声をかけた。

「雨がやまなくて洗濯物が干せません。」
「あ。」

最近すっかり慣れっこになっていたが、カラバ城下ではあれ以来、雨がやんでいない。
七美に一声かけると、俺は傘をさしてドーナツ型の貯水池を見に行った。
水はすっかり溜まっていて、ドーナツ型と言うより、丸い池に小島があるように見える。
城を通ってカラバ王国の工事用プレハブに行き、カラバ大王を探す。

「カラバ大王。」
「用事なら伝えるわよ。」

ハンがどこからか持ち込んだソファに寝そべっていた。

「雨が降りっぱなしなんだ。」
「・・・よく分からないけど、伝えておくわ。」

俺は関係ない人に姿を見られる前に城へ退散した。
すると、城から王国のプレハブへ向かおうとするカラバ大王と出くわした。

「ああ、大王。」
「ん、なんだ?」

俺は雨が降りっぱなしで困っていると伝えた。

「ああ、そういえば、そうだな。地滑りも怖い。ケットシーに頼んでくれ。」

結局、俺はケットシーを掴まえて事情を話すと、ケットシーは多少思案した後に、一旦雨を止ませて、貯水池周辺を見回ることにしたようだ。

「水源は必要ですが、ふらせっぱなしは良くありませんね。地面が乾いたら見回ってみましょう。神行太保もどうですか?」

俺は同行したいと伝えると、ケットシーは「明日にでも」といって、忙しそうに城の廊下を早足で歩いていった。
俺はそれから家に帰ろうと城から外へ出たが、見事に空は晴れていた。
ぬかるんだ道を片足でとぶように走る。
だんだんこの場所が好きになってきた。
183

ゼマンさんは樋口にいくらか調整についてのアドバイスを残して帰っていった。

「ありがとうございました。」

ゼマンさんは力強くピースをすると樋口と一緒に我が家を後にし、城へと続く小道を歩いて去った。

「七美、見て。雨やんでるよ。」

俺は玄関から出たついでに七美に雨がやんだ事を知らせると、七美は「ふうん」といって洗濯機を回しに行った。
俺はやることもなく、色々今後の事とか考えながら家の中を松葉杖をついてうろつく。
そして、最終的に一人でリビングのソファに座っているところに、城までゼマンさんを送っていった樋口が帰ってきた。

「そういや、あと1週間だな。」
「膝に入れる鉄球が?」

樋口は

「鉄球もそうだけど・・・覚えてないの?」

と若干馬鹿にした口調で俺を咎める。

「『覚えてない』って何が?」
「選挙だよ、チャベス元将軍の。」

俺は「ああ」というと、そういえばそんなこともあったなと思い出した。

「忘れてたわけじゃないよ。ただ、俺はあんまり関わってないから。」
「まあ、そうだな。」

義足が無い状態で一度座ると、立つのが億劫になる。
でも、空模様が見たくてソファーの肘掛に手をかけ、立ち上がった。
片足とびで窓によると、雲も無くなって、綺麗に晴れていた。
カラバ上には太陽は無い。
24時間昼間の明るさで、時間間隔はあまり重要ではない。
本当は夜にもできるそうだが、地球のあちこちを出入りすると、時差ができるだけ邪魔くさいのでやめてしまった。

「また、明日から高校生だな。」
「もう残り少ないけどな。」

奥から七美の声がする。

「カズ君、ご飯食べてく?」

俺と樋口と七美。
一体、何がどうなってここへきたのか、思い出せば思い出すほどに人生は不思議だった。
184

学校で俺と樋口はラジオを聞いていた。
選挙をやっている南米とは、ちょうど12時間ほど誤差がある。
開票が始まったのはあちらで言うところの午後7時ほどだが、朝のホームルームが終わって授業までの短い時間もラジオをつけて、聞き入った。

「食品問題はいいから南米の選挙!!」

あまりに二人で盛り上がっている為、他の教室に向かう教師の一人が俺たちの様子を見に立ち寄った。

「どうした、お前ら学校にラジオ持ち込んで。」

樋口が選挙結果が気になると率直に白状した。

「そんなに気になるのか?」
「なります!」

教師は「ふうん」と言うと俺たちからラジオを没収した。

「結果がわかったら真っ先に知らせてやるから、とりあえずこれは没収な。」
「ああ・・・」

二人とも、そこは流石に強く出れず、樋口の持ってきたラジカセは教師にとられてしまった。
そわそわしながら一時間目の授業を受け、休み時間に職員室に様子を見に行く。
すると、樋口のラジオが職員室の中で鳴っていた。
社会化の教師の一人が俺たちを見つけて職員室の入り口までやってきた。

「聴いておいてやるから勉強に集中しろ。」
「はあい。」

俺たちはすごすごと教室に引き下がる。
そして、時刻は11時を回った。
4時間目、古文の授業中に樋口がメモを投げてきた。

−開票終わってるんじゃないの?

俺は全く分からないので、ちらりとこちらを見た樋口に、とりあえず、首だけ振っておいた。
すると校内放送を知らせるチャイムが「ピンポンパンポン」と間延びした音を響かせた。

ー お知らせです。南米E国、大統領選挙はホルヘ・チャベスが当選確実。ホルヘ・チャベス元将軍が当選確実です。

放送終了を知らせるチャイムが鳴り、黒板に何か書き付けていた教師が俺たちのほうを向いた。

「この放送お前たちの為だろ?なんで、そんなに興味があったんだ?」

俺は樋口と顔を見合わせて、どう答えようか迷った。

「ゆ・・・友人が・・・」
「友人?」

俺は迷いながら説明した。

「友達がチャベス元将軍の知り合いなんです。」
「・・・あー、そういうことか。」

教師は時計を見て、昼休みが近いことを確認すると、古文の教科書を置いて、世間話をはじめた。
内容は古文の教師らしく、昔の日本の歴史の話だった。
それを聞きながら、俺は想像以上に日本の事を知らないなと思った。
185

カラバ城にはチャベス将軍とE国の元王族から別々に手紙が届いていた。
俺たちはそれを読みながら、少しの間、歓談した。
国軍の厳重な警備で保護されるチャベス将軍に俺たちができることはもう無い。
樋口の財政再建プランも文書にして渡した。
あとは、うまくいくことを願うだけだ。

「俺たちが善人になるか・・・悪党になるか・・・」

樋口がそう呟く。
特に虍隊の労をねぎらう為に、俺と樋口がスーパーで惣菜を買い込み、城の食堂で立食会のようなことをしている。
ケットシーの発案だった。
途中、カラバ大王と単なる通称の『ヒゲ』から名前を変えたワン軍隊長、また分割された虍の連中も顔を出しにきた。
チョン隊長とワン軍隊長が肩を叩き合ってお互いの健闘をたたえ合い、虍が歌を歌いだした。
その歌を聴きながらぼうっとしていると、カラバ大王が小声で耳打ちしてきた。

「チャベス将軍は我が国との同盟を避けるそうだ。」

俺は返事をせずに頷いた。
カラバ大王は虍隊の歌声に、笑顔で手拍子を叩きながら話を続ける。

「同盟を破棄する国も幾つか出てきた。安保理の圧力か、赤い勢力の工作か・・・」
「カラバ王国と同盟関係がある国には赤い勢力は手が出せないんですよね?」

カラバ大王は笑顔を崩さずに、硬い声で言った。

「向こうが守ればな。しかし、破る事はないだろう。問題は赤い勢力がどういった形で我々に介入してくるか分からない。RSSSを狙ってくるのか。安保理の最終目的である5大国思想を推し進めてくるのか。」

その夜、樋口は届いた鉄球を義足に装着してくれた。
久しぶりに義足を佩くと、次の戦いが近付いてきていると感じた。

「義足直ったの。良かったね。」

七美の声が後ろから聞こえる。
七美の声はどこか愁いを帯びていた。

「七美・・・」

振り返って、何か言おうとするが言葉にならない。
俺は、見慣れたパジャマ姿で立つ七美を見て、心底「よく付いてきてくれている」と感じた。

「もう寝るか?」
「もう寝ようと思う・・・何かあるならいいよ。」

俺はその夜、長い時間をかけて、自分がどういう人間で、何をしているのか、何を考えているのか、七美に洗いざらい全部話した。
今まで隠していたわけではない。
ただ、俺自身、全ての事を実感をもって受け止めきれていなかったのだ。
七美は

「ありがとう。嬉しい。」

と言うとしばらく俺の胸に枕と額をこすりつけて、眠ってしまった。
七美の寝顔をみながら、俺は樋口の言葉を思い出していた。

「俺たちが『善人になるか・・・悪党になるか・・・』」

七美の頭を寝やすい位置にそっとずらすと、小さく呟いた。

「勝ったほうが正義だ。」

自分の呟いた声がしばらく耳にこびりついてはなれず、寝付けないでいたが、いつしか俺も深い眠りについていた。
186

しばらくは何事もなかった。
変わった事と言えばカラバ王国の建物が完成に近付いたことぐらいだろう。
そして、カラバ城のあちらこちらに好き勝手に作られた、外界への扉は一部屋にまとめられ、世界地図と世界時計が置かれた。
例外は俺の家から俺の実家へ続く扉だけだ。
マイアーはドイツ国内の扉の位置をD国際空港にしようと言い出した。

「空港?公共の施設に扉を常設できるんですか?」

ケットシーも思いもよらない提案に驚いたようだ。

「大丈夫でござる。D国際空港には空港へ向かう列車があるんですよ。その線路内ならば大丈夫でござる。」
「どういうことですか?」

その場にいる全員全く納得がいかない。
樋口ですら眉をひそめている。

「故障中でござる。」
「故障中ってことは直るんじゃないんですか?」
「直らないでござる。」
「どういうことですか?」
「故障が多すぎて、D市が修理を放棄したでござる。」

よく分からない。
ケットシーが困惑しながら質問を続ける。

「じゃあ、なに。何のために線路を敷いたんですか?」
「町の中心から空港へ向かう為でござるよ。」
「でも、その列車は・・・」
「故障中でござる。」

ケットシーはまだ悩んでいる。

「じゃあ、どうやって皆さんは空港へいってるんですか?」
「臨時バスがもう何年も走りつづけているでござるよ。」
「臨時じゃないですよね?」
「臨時でござる。」

全員から「えー?」と言うため息が漏れた。
なぜだか異様にイライラする。

「話をまとめますと、D市が空港へ向かう線路を作ったと。」
「それも陸橋を作って高いところに作ったでござる。」
「それで、列車が故障した?」
「毎月一回はしてたでござる。」

それを聞いて全員驚愕した。

「月イチ!?」
「そうでござる。それで、とうとうD市が使うのをあきらめたでござる。線路はそのまま放置されてるでござるよ。」

ハンがおずおずと手を挙げた。

「何でござるか?」
「あのー、それって逆に危なくない?」

マイアーは首をかしげて言った。

「列車がいけないのであって、線路は時に問題ないはずでござる。使えるでござる。」

ケットシーはなんだか疲れ果てた顔をして、マイアーのD空港案を受け入れた。

「ところでマイアーさんはそうしてそんな喋り方をするんですか?」

クレオが横にロビを座らせて言った。

「樋口殿がその方が忍者らしくてカッコいいって教えてくれたでござる。」

その後、カラバ城は逃げ回る樋口と、それを追いかけるヨーエルとレンツォと俺とケットシーで騒然とした。
187

俺たちはチャベスの選挙が終わると、しばらくやることがなくなった。

「もしかして、高校卒業まで何にもないのかな?」
「さあ。」

俺と樋口でそんなことを話しながら昼飯を食べていると、校門のところに見知った顔が立っていた。
俺は思わず口に含んでいた牛乳を樋口の顔面に吹きかけた。

「おまえ馬鹿!きたねぇな!!やり返してやる・・・ごくごく」
「馬鹿!樋口あれ見ろ!!」

樋口は俺が指差した方角を横目で見ると、結局俺の顔面に牛乳を吹いた。
これでおアイコ様とかいっている場合ではない。

「で!デビョルワン!!」

安保理の超危険人物デビョルワンだ。
俺では歯が立たなかったことも実証済みだ。
樋口を残して俺が校門へ向かおうとすると、樋口が俺を制止した。

「俺が行く!」
「何でだ!?」

樋口は真顔で

「おまえ朝鮮語わからんだろ?」

と諭した。
俺は仕方が無いので樋口一人に任せて、教室の窓から見守っていた。
しばらくすると樋口は携帯に電話をかけてきた。

「話があるって。」
「なんじゃそりゃ?」

俺と樋口とデビョルワンはまたもや生徒指導室の応接ブースに陣取っていた。

「韓国からきましたデと申します。」
「樋口、デビョルワン、日本語喋れるじゃん。」
「うん、意外だった。」

デビョルワンは教師に一通り挨拶すると話をはじめた。

「協力してください。」
「何に?安保理は嫌だよ。」
「アンポリーって何?」
「知らないの?一緒にいたじゃん。」
「志村、向こうが自分たちの事『安保理』って呼んでないと思う。」
「あー、それ分かった。やめた。抜けた。今、赤月の所にいる。」
「あ、そうなの?」

そう話していると、不機嫌そうに教師が口を挟んだ。

「お前等、言っても無駄だろうけど授業受けろよ。」
「すいません、忘れてました。」
「忘れてました。」
「そういえば、二人学生だったね。」
「あれ?知ってて訪ねてきたんじゃないの?」
「なんだか、そんな風には見えなくて。」
「特に志村は人間って言うかサイボーグに近いしな。」
「おまえが老けてるんだよ、樋口。」

そう話していると、再び教師が口を挟んだ。

「何の用事か知らないけれど、授業受けてからにせんか?」
「すいません、忘れてました。」
「すいません、そうします。」
「すいません、待っています。」

そうして俺と樋口は教室に戻り、授業を受けて、再び生徒指導室に戻ってきた。
生徒指導室では教師とデビョルワンが日韓問題について話し合っていた。

「それはあくまでも、朝鮮の事情であって、私の生まれた済州島では、少し違います。」
「どうちがうんだ?」

俺と樋口は揉め事になる前に割って入った。

「先生、俺たちの客。」
「ああ、すまん、すまん。忘れてた。」

俺と樋口が先生を押しのけて椅子に座ると、デビョルワンは話を切り出した。

「日本に台湾から合成麻薬が流れ込んでいます・・・という事になっています。」
「何それ?」

デビョルワンが説明した。

「実際に台湾から流れてきているのか、台湾を経由して密輸されているのか、わかりません。」
「はあ、なるほどね。」

俺は不穏な空気を感じ取っていた。
デビョルワンの話は続いているのだが、全く頭に入ってこない。

「うん。」

とりあえず空気を呼んで相槌を打ってみた。

「へえ」

樋口の顔も見てみる。
結局、合成麻薬に手を出していそうな奴を片っ端から教えて欲しいという話だ。

「裏づけ取れなくてもいいの?」
「良いです。考えてあります。」
「ふーん。」

俺と樋口は一時的な協力を申し入れて、デビョルワンと別れた。
188

翌日から探りを入れてみたが、全くそんな気配はない。

「志村、これは薬を買う側に回らないとダメかもしれないな。」
「俺たちがそこまでやる意義あんの?」
「全くない。」

俺と樋口は、すんなり諦める事にした。
とりあえず、カラバ城でその話をしてみる。

「デビョルワンが安保理を抜けて麻薬捜査してるぜ。」

樋口がそう言うと、ケットシーが首をひねった。

「今までの罪滅ぼしと言った具合でしょうか?気持ちはわからないでもありませんが。」
「そう、大きな問題ではないでござる。重要なのは安保理をデビョルワンが抜けたって事でござるよ。」

俺は樋口を睨みつける。
樋口はそ知らぬ顔をして話を続けた。

「これで、安保理は、神行法のアルバートと、不死身のコシチェイ、雷神いおん、トリックスターのコヨーテ、卞喜、あとは?」
「中国の秘密部隊イエレンが手を貸しているはずだ。しかし、さほど警戒する必要もない。」

補足したヨーエルに俺は突っ込んだ。

「俺たちが虍隊のおかげでどれだけ助かってるか。」

それには虍隊隊長のブルーが答えた。

「安保理はいつでも各国の軍隊を使える状態にあります。私たちとは勝手が違いますよ。少数精鋭という意味ではこちらが上ですが、数と物量ではあちらが圧倒的に有利です。」
「ああ、そうか。」

ケットシーは鼻を鳴らして漏らす。

「それが我々をテロリストたらしめている所以でもありますが・・・まあ、コヨーテが直接手をくだしてくる事は無いでしょうし、あの性悪は昔から飼い主に迷惑しかかけていません。むしろ足手まといでしょう。」

皆でこの状況をどう受け止めて良いのか考え込む。

「神行太保。」
「なに?」

ヨーエルが俺を名指しで呼んだ。

「神行法のアルバートはどうなんだ?実際のところ。」

俺は少し悩んでこう答えた。

「うーん・・・敵じゃない。多分、マイアーとレンツォ、ヨーエルとハン・・・あと当然俺なら、誰でも勝てる。」
「まって、私は音速を超える敵には勝てないわよ。」

ハンが口を尖らせた。

「ああ、そうか。」
「卞喜って奴ぁそうなんだ?」

レンツォが訊いて来た。

「俺じゃ勝てない。それだけだ。誰か勝てるのかもわからない。」
「拙者も決着つけられなかったでござる。拙者は幻術を駆使して立ち回るのがやっとでござったが、あちらは虚実の『実』を使ってくるでござる。赤い月の一戦の時も、『凌いだ』というのが本音でござる。正直、あんな化け物とはもう戦いたくないでござる。」

ヨーエルが俺とマイアーにきいて来た。

「あいつの鉄球、どれぐらい届くの?」

俺はうろ覚えながら卞喜が「見える限りどこまでも」と行っていた気がするので、そう答えた。

「あー、俺じゃ勝てないかもしれない。不意打ちできれば勝機はあるだろうがな・・・」
「それなら俺だって勝てるわ。」

口を曲げるヨーエルに樋口が茶々を入れた。

「確かに。俺だって、樋口に後ろから殴られたら流石に気絶するだろうからな。」

ヨーエルは体格がいいほうではない。
ガタイが大きい樋口と比べると、明らかに樋口が強そうに見える。

「レンツォどうなの?」
「ん?俺か・・・」

レンツォは考え込んでいる。
そして、考えた末に口を開いた。

「俺は・・・その・・・基本的に負けないぜ。」

根拠が無いのが見え見えだった。
189

「じゃあ、石井いおんに勝てる人。」

俺がそう言うと全員が黙った。
それまで静観していたクレオが口を挟む。

「そんなにヤバイの?」
「激ヤバ。」

樋口が即答する。

「そういえばロビは?」
「マイアーさんの言いつけで座禅を組んでいます。」

ケットシーが答える。

「へぇ、何でまた。」
「もう14歳だ。いつまでも精神的に弱いままじゃいけない。」

樋口がさらっと答えた。

「学校に通わせたいんですが、まだ人を怖がって打ち解けないんです。」

ケットシーが心配そうに言う。

「ずいぶん、面倒見が良いじゃないか。」
「相手は子供よ、保護者が必要なんです・・・あんた以外のね!」

レンツォの言葉にハンが棘を刺した。

「ロビについてはそんなところで良いでしょう。どこまで話が進みましたか?」
「いおんは手がつけられないって所までだよ。」

憮然とした口調でヨーエルが言った。
いおんの話はすればするだけ雰囲気が落ち込むので、俺は話題をかえた。

「コシチェイは?」
「死なないってだけでチョロいだろ?」

なぜか非戦闘員の樋口が答えた。
しかし、これにも異論は出ない。

「ただ、コシチェイってイモータルじゃないんだろ?」

樋口の問いにケットシーが答える。

「はい、間違いありません。恐らく寿命はあるんじゃないかなと・・・でも、レンツォの矢をくらって胸に大穴あいたときにも怒りはしていましたが、死ぬ気配はありませんでしたね。なにか、秘密がありますよね。」
「うーん。興味は無いかなぁ・・・。」

クレオが話しに割って入る。

「不死身ってギリシャ神話とかに良くありますよね。」
「ベタな所だと泉とかにつかるんだよな。」

ヨーエルが椅子に深く座りなおしながら言った。

「じゃあ、背中の真ん中かアキレス腱に弱点がある?」

そう話しながらコシチェイのふてぶてしいヒゲ面を思い出す。

「なんか、生まれつきじゃないの?」

誰が言ったか分からないがコシチェイの話にすっかり食傷気味だった。

「結局、結論としては?」

ケットシーが話をまとめるべく問い掛けた。

「石井いおんと卞喜は止まらん!」

そして、ヨーエルが〆た。

「誰ですか、ウチの方が少数精鋭だって言ったの?」

ブルーが若干頭を抱え気味に言ったのが印象的だった。

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