ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

行け!そのさきへ(バイク小説)コミュの【第1話】『とあるチームの憂鬱(その13)』

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
(13)

<MOTO−MICRO東日本選手権第6戦。ウィナー、海田 啓二!!>

そう紹介され、啓二が表彰台の一番高いところに立った。
右手を突き上げてガッツポーズする彼を、少しはなれたところから見ていた新之助。

「………………。」

わけがわからなかった。
精一杯走ったつもりだった。
それなのに駄目だった。
前を行くこまちには引き離され、一度は引き離したはやてに追いつかれ……。
啓二はそのずっと先を行き……新之助自身はクラッシュでレースを去った。

「……くそっ……。」

完敗だ。
2位にこまち。3位にはコースアウトでタイムロスしたものの、はやてがそのまま逃げ切った。
レースが終わってすぐにはやてとこまちが新之助のことを心配して来てくれた。
それなのに大丈夫だからと適当にあしらって逃げてしまった。
正直、恥ずかしくてふたりの顔がまともに見られなかったのだ、彼は。
その点で啓二は察してくれたのか、ひと言声をかけてくれはしたが、それ以上は何も言わなかった。
せっかく来てくれたはやてやこまちには悪いが、啓二のその心遣いは正直嬉しかった。

ジャリッ……。

人気のないルートを選び、コース外の駐車場に向かって砂利道を歩く。少し離れれば表彰式の喧騒も遠くのもの。
1人になりたい彼にとってこの静けさは救いというかなんというか……。
今日のレースで、彼は多くのことを学んだ気がしていた。
恐ろしいまでに啓二が速かった。これまで一緒に走ってきたチームメイトとはとても同一人物とは思えないほどの…まさしく驚愕の速さだった。
何かが決定的に違う。
自分と啓二の違いは何か。それを見つけ出すのはおそらく少しだけ先の話になるだろう。
だが違うとわかっただけでも収穫だ。その違いを見つけ出し、間にある溝を埋めていけばいい。
ある意味、彼の楽天的な性格が救いになっていた。
いちど落ち込みはするがひきずらない。
あくまでポジティブに行く。
それが彼らしい反省の仕方であり、立ち直り方でもある。

「……あぁ〜。それにしても…マシン滅茶苦茶だったな……。」

クラッシュした自分のマシンを先程じっくりと見てみたが、軽症ではなかった。
まあ外装は少なくとも全部駄目だろう。フレームやフォークに関してはばらして見ない事にはなんとも言えないが、あれだけ大きなクラッシュだ。聞いた話では縦に1回転したというからフォークなどはちょっと怪しい。

「……はぁ……。」

ため息が出た。
自分のミスでマシンが破損する。これまでも何度かあったが、ここまで激しいクラッシュはそう多くない。
本当に、彼自身が無傷だったのが不思議なくらいだ。

「お?」

いつしか彼は、パドックとは違う一般客用の駐車場まで出てきてしまっていた。
ふらふらとずいぶん遠くまで歩いてきてしまった。

何気なく見てみると、結構遠くから来ている観客もいるようだ。地方ナンバーがちらほらある。
茨城、長野、静岡。遠くは名古屋や仙台、飛騨高山などもある。
このレースを見に来た客であれば、わざわざ遠くから見に来てくれたお客になんと不甲斐ない姿を見せてしまったのかと、自分で自分に腹が立った。

「!」

そして、さすがバイクのレースだ。
バイクでここにやってきた人の割合も多い。
そういえば、小夜もいつもここにバイクを停めているが、ここにあの見慣れたフルチューンシグナスの姿はない。
帰ってしまったのだろうか。

「………………!」

先程の小夜とのやり取りを思い出した新之助。
あんなふうにきつく抱きしめられるとは思わなかった。…と言うか、女の子にあんなふうにされたことなんてない。
正直ドキドキした。からかわれているとはわかっていても…だ。
そういえばいい香りだったな…とか、柔らかかったな…とか考え初めて、あわてて首をぶんぶんと横に振って雑念を振り払った。

「なに考えてんだ、オレ。健全すぎるにもほどが……ん?」

ふと目を向けたそこに停めてあった一台のバイクが目に止まる。
……なんだろう。見慣れないバイクだ。
ホンダのRVF。カウルにはそう書いてある。
400ccのレーサーレプリカバイクだRVFは。新之助だってそれくらいのことは知っている。
しかし…なんだろう、ちょっと見慣れない姿である。彼が通常目にするRVFとは似ても似つかないその姿。
特にライト周りが、RVF400の2灯式のライトに対してこのバイクは1灯式だ。

「なんだこれ。」

一瞬で彼は心を奪われた。
カラーリングも良く見かけるトリコロールというホンダの特色ではなく、ドゥカティのような真紅。そしてホイールは黒。
そもそも気が付けばRVFの証たるプロアームですらない。
なにか巨大なスイングアームに【SHOWA】の文字。マフラーまでもが通常車体左側に1本のはずが、アクラポビッチの巨大なサイレンサーが左右それぞれについている。
一見して正体不明。カウルのRVFの文字がなければ、正直何かはわからない。
VTR1000SPというVツインのレーサーバイクを雑誌で見たことがあるが、それによく似たシルエット。
しかしサイドカウルに誇らしげに貼られた【V4】のステッカーがそのバイクが、ホンダレース活動において最強を誇ったV型4気筒エンジンを搭載していることを告げている。
リアシートもない。そればかりかタンデム用ステップすらない。完全な1人乗りだ。
じっくり見れば見るほど不思議なプロポーション。
そして、思わず溜め息が出そうなほどに作りこまれたマシン。
まるでレース場からそのまま抜け出してきてしまったような……。
しかしナンバーが付いている。
多摩ナンバー。
この付近に住む誰かが所有するバイクだ。

『…ブレンボ…アクラに…F.E.R.S? ……これはどこのメーカーだ?』

フロントカウルに貼られた金文字のステッカーを見て首をかしげる。
【ミシュラン】に【NGK】。ほかのものは大体わかる。しかしこの【F.E.R.S】というステッカーだけは見たことがない。
どこかのショップのものだろうか。

『……なんたら・かんたら・レーシング・ショップとかレーシング・サービスとかかな?』

「コレ、若者なにやっとるね?」
「っひゃあ!?」

突然うしろから声をかけられて、彼は驚いたように声を上げた。
そしてあわてて背後を振り返る。

「『ひゃあ』だってさ、男の子がなんだべ、ホレ。」

そこでおかしげに笑っていたのはメイド少女、卯月 小夜。

「さ、小夜さん!?」
「あ? なによアンタ、その珍獣を見るような目は。」
「あ、えっと? てっきり帰ったもんだと……。」
「帰った? なんで?」
「だってホラ……。」

小夜がやや怪訝そうな顔をしたのを見て、新之助はややしどろもどろになってバイク駐車場のほうを振り返って、そして続けた。

「小夜さんのシグナスが見当たらなかったからさ。もう帰っちゃったのかなって。」
「あーあーあー。なるほどね。帰らないさぁ、まだ。アンタたちのレースが終わる前に帰るほど薄情じゃあないよ? アタシは。」
「あれ? じゃあ小夜さん、今日は違うバイクできたのか?」
「そーだね。シグナスは…その…いろいろと大人の事情で乗れなくなったので。」

そう言った彼女は、どこかふてくされているようだった。

「次の足が見つかるまでは苦労するわけ。」
「え? まさか事故った?」
「バカをおっしゃい。私があんなちっこいスクーターごときをコかすはずがないでしょうが。完璧バリピカ状態で家にあるわよ。あるけど、乗れなくなったの。」
「よ、よくわかんないけど…なるほど。で、じゃあなにできたわけ?」
「アンタがたった今、ものめずらしげに見てたソレよ。」
「…………?」

彼女に言われて、新之助は一度彼女が指差すほうを振り返る。
そこにある紅いバイク。カウルにはRVF…と書いてある、よくわからない大きなレーサーレプリカバイク。

「……まぢ?」

思わず、彼はそう訊き返してしまっていた。

■ つづく ■

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

行け!そのさきへ(バイク小説) 更新情報

行け!そのさきへ(バイク小説)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。