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行け!そのさきへ(バイク小説)コミュの【第1話】『とあるチームの憂鬱(その8)』

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(8)

決勝レースは20周で争われる。
一周1300メートルのサーキットなので26キロを全力疾走する。
レースによってその距離はまちまちだ。
ここ八王子サーキットでは年間数回レースが行われるが、今回のレースはその中でも一番短い距離のものだ。
タイヤ交換も燃料補給もない、純粋にライダーのテクニックが要求される、ある意味単純な力勝負のレースになる。

パララアァァァ…パパパパ……!

フォーメーションラップ。
2番手スタートの新之助は、ゆっくりと啓二のあとについてコースを行く。
タイヤを暖めるため、念入りにスラロームする。わざとクラッチをドカつなぎしてリアタイヤを空転、ブレイクさせる。
ありとあらゆる方法を使い、この短い1周でタイヤに熱を入れる。
レーススピードでは1分ほどで周回するコースを、倍以上の時間をかけて回ってくる。
この八王子サーキットはホームストレートの距離はなく、また幅もやや狭いため一列に3台しか並ぶことが出来ない。
スタート時は3台ずつ10列になる。
海田レーシングの2台、啓二と新之助。チーム新幹線のこまちが1列目スタート。
はやては2列目スタートとなる。

プゥーーゥゥン……!

最終コーナーを立ち上がり、スターティンググリッドに各マシンが戻ってくる。
ストレートで啓二の横に並んで、追い越さないように気をつけながらスタート位置に向かう。
啓二とこまちに挟まれた真ん中。少々気を使う位置だ。

タララララァァ……パンパンパンパン……!!!

ギアをニュートラルに。惰性でマシンを進め、ラインにあわせて停車する。

「………………。」

そして、すぐ横にいる啓二のほうを見やる。
彼より、1.5秒速くこのサーキットを走ったチームメイトだ。
彼を破らなければならない。勝つためには。

「……負けねーかんな……。」

ポツリとつぶやく。啓二がそれに気付いたか、彼のほうを見た。
すでにミラーシールドを閉めていてその表情をうかがい知ることは出来ない。
しかし数秒彼のほうを見ただけで、すぐに視線を前へと戻した。
いつもの啓二だ。

<さぁ、各車続々とスターティンググリッドに付く。先頭は先程驚異のタイムを出した海田レーシング、海田 啓二。水色のマシーン。決勝ではどんな走りを見せてくれるのか! 同じく水色の海田ワークスカラーはチームメイトの染谷 新之助、どこまで食い下がるか! そして人気急上昇! ついに追っかけまで出現したチーム新幹線の秋川 こまち、はやて。東北新幹線カラーの双子姉妹は付いていけるか!? そんな若い力に真っ向勝負で立ち向かうのは、今期ここまで1勝の緑のマシーンのT2パワーズワークスライダー山根と黒赤ツートンのチーム無鉄砲、オヤジ春澤。しかしこのふたりはこのサーキットがあまり得意でない! どう苦手を克服するかも見ものだ!>

山根と春澤も今期ここまでに1勝ずつを上げているベテランライダーだ。苦手とされるこのサーキットで、それでも4番手と6番手スタート。ともに2列目スタートだ。油断できない。

「………………。」

新之助がプランを練る。
スタート直後、おそらく彼の順位を脅かすのはやはりこまちだ。はやてもそうだが彼女らは体重が軽い。既定の最低重量を満たすためにウエイトを積んではいるが、それでも新之助より10キロ以上は軽い。加えて二人ともが最新型のNSR−Miniである。スタート時のダッシュはなかなかのものだ。
はやては5番手スタート。スタート直後のジャンプアップはあるとしてもおそらく彼のところまでは届かない。
3番手スタートのこまちは彼に並ぶ可能性は十分にある。そのときにどのラインで1コーナーを曲がってくるかで戦法が変わってくるのだが、何しろ彼女のラインはよくわからない。その時になって自分の右にいるか左にいるかでプランをその場で決めるしかない。
後ろに気を配りつつ、先頭スタートの啓二を追撃しなくてはならない。
彼はやることがたくさんだ。
さし当たってはギアを1速にいれ、クラッチを握ってスタートを待つ。視線は前方、1コーナー手前にある信号機へ……。

<さあ、最後のマシンがスタートラインについて、準備が整ったぞ!? MOTO−MICRO東日本選手権第6戦! 八王子ラウンド決勝レース! シグナルオールレッド! そして……ブラックアウト!!!>

バラアアアアアアアァァァァ!!!!

一斉に30機の2ストエンジンがうなりを上げる。
赤ランプが消灯した瞬間に、クラッチをつなぐ。エンジンからミッションにパワーが伝達する。ドライブスプロケがチェーンをすさまじい勢いで引っ張り、ドリブンスプロケを介して伝わったパワーによりリアタイヤがアスファルトをかきむしる。

ドギャッ!!

リアサスペンションが一気に沈み込み、変わってフロントフォークがドカンと伸びる。
車体が起き上がろうとするのを前傾姿勢になって必死に止める。
そして新之助のマシンは白煙を残し、はじかれるように発進した。

パアァァァァァアアアアンンン!!!!!

いい出来だ。
いまの彼からすれば、ほぼ完璧と言っていい。すばらしいスタートだ。啓二のすぐ横に、離される事なく食らい付く。
1コーナーめざし、啓二はマシンをアウトに振る。それにぴったり追従する新之助。マリンブルーの2台のNSRが続いて一気に1コーナーへ流れ込む。
……ハズだった。

カアアァァァァァアアアン!!!!!!

『!?』

そして、次の瞬間新之助の目が捉えたのは……。

ドンッ!!

そのマシンは彼のさらにアウトからコースギリギリを通りものすごい角度で彼の目の前に飛んできた。
白に灰色と紫のライン。車体に描かれたJRのロゴマーク。そして『SUPER EXPRESS HAYATE』の文字。

「なんだっ!? はやてちゃんだぁ!?」

驚愕した。
なんで彼のアウトにはやてがいる?

「ちょっ! どこ通ってきた!!??」

混乱する新之助。彼女の前にはT2パワーズの山根がいたはずなのに!
彼のすぐ内側には、すでにものすごい勢いで追撃してきたマシンがもう1台。

ズバッ!!

「あっ!!」

今度は内から彼の前に飛んでくる同じカラーリングのマシン。『SUPER EXPRESS KOMACHI』。
こまちは例によって常人に理解できないラインを走り、突然のはやての出現に動揺した新之助の隙を完璧なタイミングで突いてきた。

<これはすごいぞ!! 秋川姉妹が左右から海田ワークス染谷に襲い掛かる!! ものすごいところを駆け上がってきた秋川 はやてが大外からかぶせる! 染谷ゆずらないが内からこまちレールを使って、超特急こまちが突っ込んでくる! 3台並んだまま染谷、両手に花状態で1コーナー突入だ!!>

「ぬあ!!??」

インに切り込んでくるはやて。そしてその先ギリギリをこまちが外へと飛んでいく。二人のラインが新之助の目の前で交差した。
抜かれた。

ザザザッ!!!

目一杯体を内側に落としこんで、1コーナーを旋回する。
はやてと新之助は正確にインの縁石をトレースする。
先程大外まで飛んでいったこまちが、またとんでもない角度とスピードでイン側に飛んでくる。
こまちと新之助よりもはるかに奥でクリッピングを取るライン。リアタイヤをめちゃくちゃに滑らせ、超オーバー気味で1コーナーの旋回を完遂する。

バラアァァァァアアアア!!!!

大外から一気に向きを変え、直線的に加速してきた彼女はすさまじい立ち上がりを披露する。
はやてと絡んだ新之助はこまちにおいていかれる羽目になる。
最初のコーナーからバトルを開始したふたりを尻目に、超特急こまちは啓二を猛追し始めた。

■ つづく ■

【次へ】
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