いるかコミュコミュの徳川君の趣味の話

　世の中には、見ていて「もったいないなー」と思う事がよくある。皆さんの周りでも「もったいないなー」と思う事は多いのではないかと思う。身近な例では、冷蔵庫の開けっぱなし、エアコンの消し忘れなんかが代表的な「もったいないなー」なのではないだろうか。もう少し視野を広げると、お給料のほとんどを競馬やパチンコで擦っちゃうおじさんや、ホストクラブに通いつめた挙句に風俗店で働くお姉さんなんかもいる。彼らは人生における「もったいないなー」だろう。あと、ジーコ監督の後半４３分での大黒投入ね。あれなんかはスポーツ会の「もったいないなー」代表だよね。その他、交通渋滞におけるアイドリングとかとか、世の中には結構沢山の「もったいないなー」がある。しかし、僕の友人の徳川太一君以上に「もったいないなー」と思わせる人間は、世間にはそうそういないのではないだろうか？
　徳川君の趣味は、「皮」を集める事である。僕の一番古い記憶では、彼は幼稚園の頃既に蝉の抜け殻集めに熱中していた気がする。記憶が確かなところでは小学２年生の時、彼は麻布界隈のコンビニというコンビニでビックリマンチョコを買い漁り、中のチョコばかりかビックリマンシールまで捨てて、「皮」（パッケージ）を集めていた。僕ら小学校の仲間たちは、徳川君が捨てたビックリマンの中身にわらわらと群がって、チョコを食べたり、ビックリマンシールを拾い集めたりしていた。徳川君が何故子供ながらにそんな殿様みたいな事が出来ていたかというと、彼の家系は本当に殿様だからで、太一君は徳川家康から数えて第二十何代目のれっきとした殿様の血筋なのだそうだ。当時、子供ながらに「いやいや徳川君、ビックリマンの皮って全部一緒じゃない。そんなの何千枚も集めて何になるのよ」と思った記憶がある。しかし、彼の飛び切り素敵な笑顔を見ていると、そんな言葉も自然に飲みこんでしまったものだった。
　そう、普通この手の話だと、徳川君みたいな子はドラえもんにおけるスネオとか、小太りで脂ぎったオタクとか、ブサイクな男の子を連想しがちだけど、徳川君はとても格好良くてスタイルもいいし運動神経も抜群なのだ。彼は小学校の頃から同学年の女子にキャーキャー言われていたし、そのモテモテぶりは中学・高校になるにつれて加速度を付けて強まって行った。ところが、本人はそんな事には一向に興味を示さない。まるで彼の辞書には女という文字が存在しないかのように、彼は「皮」集めだけに興味を注いでいた。ちなみに、十代の中頃の彼は、自分の足の皮集めに熱中していた。自分の親指や踵から少しでも多くの皮が取れるようにと、彼は雨の日も風の日もグラウンドの隅で１００ｍダッシュを繰り返していた。
「君は相変わらずマニアックだな。自分の足の皮を集める事にいったい何の意味があるんだよ」
　ある日、僕がそう声をかけると彼は爽やかに笑って言った。
「意味なんてないよ。まあ、強いて言うならば意味のないところに意味があるんだな。例えば、インカ帝国では体を洗うのに一から十二まで順番があって、それを間違えると鞭打ちの刑だったって言うじゃないか。それと一緒さ」
　あ、そうそう、そんな彼も一年に一度だけ女の子に興味を示す時があった。それはバレンタインデーなのだけれど、彼の中では女の子にもらうチョコレートの「皮」（ラッピングなども含む）はわりと価値があるらしく結構うれしそうにチョコをもらうのだ。まあ、中身は容赦なくごみ箱に捨てるのだけれど。彼が集めた「皮」、それを一つ一つ挙げて行くとキリがない。マンモスの皮が欲しいと言って、自家用ジェットでモスクワ博物館まで交渉に行った事もあったし、地球の皮が欲しいと言って、広大な牧草地を購入してその表面をシャベルカーで剥ぎ取った事もあった。
　僕らの間では、奴は絶対将来大物になるぞって噂だったのだけれど、予感的中、彼は現在２６歳の若さで世界で８番目に大きなＩＴ企業を経営している。にとどまらず、彼は株やら不動産やら結構危ない企業買収やらもしているから、その資産は果てしないみたいだ。世の中では、そんな彼はさぞかしお金が好きなのだろうと噂しているが、僕は知っている。彼はお金自体にはまったく興味がない事を。
　先日、久しぶりに彼の家を訪れた僕は、彼が今集めているという「皮」を見てせてもらった。彼の部屋の床に所狭しと散りばめられているのは大量の細長い紙だった。彼は今、一万円札の札束についている帯封を集めているのだそうだ。ちなみに、札束自体は邪魔になるので、まとめて庭で燃やすらしい。う〜ん相変わらずもったいない事しているなー、徳川君は。