いるかコミュコミュのピアス・タイムマシン・駄菓子

　なあ、かあちゃん。こうして３人で寝てると、昔の事思い出さへんか？かあちゃんが真ん中で、兄貴が右で、オレが左で。兄貴のいびきがうるさいから言うて、かあちゃんはオレの方向いて寝てくれてたなぁ。あれな、オレうれしかってん。なんかな、かあちゃんを一人占めしてるみたいでな、ごっついうれしかってん。狭っまいボロ家やったけど、あの頃はかあちゃんと兄貴とオレ、３人で肩を寄せ合って幸せやったなぁ。あの頃がごっつい輝いて見えるわ。何年ぶりやろなぁ？こうして３人で寝るの。ああ、ほんまに昔に戻ったみたいやゎ。
　なあ、かあちゃん。ありがとうな。かあちゃんが女手一つでオレと兄貴を育ててくれたから、オレたちはこんなにおっきくなれたんやな。雨の日も風の日も、かあちゃんがこん小さな体で魚の行商してくれたから、オレたちはこうして大きくなれたんやな。ありがとう。かあちゃん。
　はは。兄貴は相変わらずごっついいびきをかくのう。いいいい、放っときって、かあちゃん。兄貴も安心したんやろ。こうやって久しぶりにかあちゃんと寝て。
　ありがとう。ありがとう。何度言うても足りひんよ。中学生の頃、オレが駄菓子屋で万引きして補導された事があったやろう？あん時「うちの息子がそんな事するはずないやないの」ってすごい剣幕で警察官に喰ってかかるかあちゃんを見て、オレはもうこの人を悲しませるような事は決してするまいと思ったよ。ありがとう。
　ありがとう、かあちゃん。東京に出たオレが初めて彼女を連れて帰った時、かあちゃんはオレたちを暖かく迎えてくれたな。へそにピアス開けて金髪の彼女でも、「あんたは息子の恋人ですけぇ、私にとったら娘も同然ですけぇ」ってくしゃくしゃの笑顔で迎えてくれたな。ありがとう。あいつな、親が早よう死んで一人で育った子ぉやから、かあちゃんの事ほんとのおかんみたいだって、ごっつい喜んどったで。あいつとは何やかんやで別れてもうて、今はどこで何してるかもわからんけど、あいつ今でもかあちゃんの事時々考えてると思うわ。
　あんな、かあちゃん。かあちゃんは自慢話が嫌いやったからあまり詳しくは言わんかったけどな、オレな、東京でものごっつい会社の社長してんねん。出来る部下が何百人もおってな、ごっついべっぴんな秘書もいてな、すごいねんぞ。品川雅弘言うたら、業界じゃ知らん人はおらんぐらいの有名人やねんぞ。なあ、かあちゃん。かあちゃんが初めて東京に来た時に乗せたごっつ大きくて黒い車があったろう？かあちゃんはタイムマシンみたいや言うて怖がっとったけど、あれかてオレが自分で稼いで買ったもんやねんぞ。
　なあ、かあちゃん。オレ、ごっつい会社作ってごっつい金稼いだで。もう一度目ぇ開いて、オレに「すごいな雅弘。ようがんばったな」って言ってくれへんか？しわくちゃのその手ぇで、昔みたいにオレの頭をゴシゴシ撫でながら、「雅弘ようがんばったなぁ」って言ってくれへんか？オレな、子供ん頃かあちゃんに頭撫でられるの大好きやってん。大人になってからは恥ずかしくて言えんかったけどな、ほんとはな、いつもいつもかあちゃんに頭撫でてもらいたかってん。なあ、かあちゃん。もう一度目ぇ開いて、くしゃくしゃの笑顔でオレの頭撫でてくれへんか？癌なんて嘘やわ。あの品川敏子が癌なんかで死ぬかいや。なあ、かあちゃん。
　ああ、懐かしいなあ。こうして３人で寝てると、ほんとに昔に戻ったみたいやなぁ。一家３人が肩を寄せ合ってたあの頃なんて、ほんとについこないだみたいな気ぃするけどなぁ。人生なんてあっという間やなぁ。
……かあちゃん、オレ、明日の晩御飯はカレーがいいわ。肉はごっつ沢山入れてな、金ならオレがもう沢山稼いだから……なあ、かあちゃん。