柔弱漢詩コミュの　『邊詞』　張敬忠

　『邊詞』　張敬忠
『邊詞』　張敬忠
五原春色舊來遲　　　こヽ五原に春が来るのはいつも遅い。
二月垂楊未挂絲　　　二月になっても、しだれ柳は芽吹かない。
即今河畔氷開日　　　今、黄河の氷が溶けはじめているが、
正是長安花落時　　　都長安では、春も終りの落花の頃でしょう。

歳時記の季節感が実感と違うのは、使っている暦が違うからだという話は前回しました。

でも、季節感のずれはそのためばかりではありません。

この詩に見られるように、広大な中国では北の地方では、基準となっている都周辺との気候は大きく違っています。また後代になると新たに発展した南方との季節感のずれはさらに大きくなっていきます。

歳時記とか二十四節季、花信風といったものは、当時の都である長安の季節感を基準に考えられていますので、日本での季節感と一致しなくても当たり前かもしれません。

作者張敬忠については、高木正一『唐詩選』（朝日新聞社）では次のように記載しています。

出身地その他の詳しい事績は分からないが、監察御史であったとき、朔方軍総管張仁悳に認められてその幕僚となり、北辺の地に出陣して厚い信任を受けた。帰還後、吏部郎中に進み、開元七年(719)には、新たに置かれた平盧節度使に任命されて北辺の防備にあたった、その詩はわずか二首を伝えるにすぎない。

この詩は春の訪れを待ちわびる心持ちが上手く表現されていると思います。