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SF&F創作の部屋 作品コミュの煙

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煙

「……あっけないものだな」
館の外から漂ってくる煙の中、傍らに同じ年頃の執事だけを置いて白頭の老人は一人揺り椅子に腰掛けたまま呟いた。
その歩んできた人生が決して平坦ではなかったのだろうことを如実に現す深い皺が刻まれた顔を僅かに動かし、彼は窓の外を見た。窓の外、館の攻防戦は小競り合いから総力戦へと移行しつつあった。
「全てを一度失ったのも煙の中だった」
老人は言った。執事は、仮面のように無表情な顔の筋肉を一つも動かさない。
「政権争いで負けて住んでいる城を焼かれた。一族の殆どがその時に死に絶えた。まるで煙のように、一度私の人生は消えてしまった」
煙はより一層濃くなっていた。館の一部にも火が回ったようだ。
「だが、煙があると言うことは、火は消えていなかったと言うことだ。私は地下に潜り、時を待って蜂起し、勝利した私は一族の再興をなした」
「誰にでも成せる事ではないかと存じます」
執事は言ったが、この世辞は今更ながら遅すぎた。
「政権をとった私は敵対者を徹底的に弾圧した」
外から聞こえてくる音によれば、どうやら正門は破られたらしい。
「だが、その弾圧と独裁が敵対勢力と民衆の蜂起を促した。我々の築き上げたものは数ヶ月持たなかった。終わりなどあっけない」
部屋の扉が軋んだ音を立てて、まだ若いメイドが一人そっと顔を出した。執事はその傍まで近寄り、話を聞いて主人に向き直った。
「奥方様やご子息は既に逃げ延びたご様子です」
「ならばもう良いだろう」
老人は懐からパイプを取り出し、煙草の粉を詰めると火をつけた。その間、執事は黙々と部屋に油を撒く。
「お前も逃げると良い」
「私の仕事は貴方様にお仕えすることです」
「……好きにするが良い」
老人は大きく煙草を吸い込み、そして紫煙を吐き出すと、その火を床に落とした。
炎が燃え広がり、室内全てを煙に満たすのにはそれほど多くの時間を必要としなかった。

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