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物語の続きコミュの第1話

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僕は眠ってなんかいない!

一晩中、たかしは同じ姿勢でソファーに身を横たえて、その当時のことを次から次へと思い出していた。
どうしてかはわからないけれど、このソファーで横になっていると、あんなことや、こんなことが頭に浮かびあがってくるのだ。

たとえば・・・

あれは、5年前、部屋で旅行雑誌を見ていた恵子が下呂に行きたいと言い出し
た、いつも思いつきで行動する恵子、良い様に言えば行動力のある恵子に誘われ青年18切符でムーンライトながら号に乗り込んだ、人生初めての夜行列車に乗り込み全てが新鮮で楽しかった、電車の中で恵子と語り合った、お互いの育ち、将来の夢、語りはじめればきりがない。
恵子は自由気ままな奴だ、天真爛漫という言葉がぴったりだろう。

僕は当時18歳で大学に入ったばかりだった。恵子はその当時26歳だったので8歳も離れていたが、一切年齢差は感じなかった。

下呂の温泉街を二人で歩いている時、温泉街には一見場違いな古い家具屋を二人はみつけた。
窓の沢山ついた大きな建物で教会を改造したような印象を見るものに与える。古い建物だけれども、決して不潔ではないし、暗い印象もない。開け放しになった窓からはラジオの音が聴こえる。窓のカーテンはどの窓もクリーム色、日焼けが一番目立たない色だ。

二人は何かに引き込まれるようにその家具屋に入って行った。
そこで見つけたのが、このソファーだ。


下呂で出会ったこの相棒(ソファー)と、もう12年が過ぎ去ろうとしている。

当時、一緒に下呂に行った恵子とは僕の就職先が広島の楽器メーカーに決まり東京と広島で遠距離恋愛をしていたが、お互いの価値観がずれ始め6年で終わってしまった。

先日の高校の同窓会で恵子の弟、敦から恵子は結婚し二人の子供に恵まれ幸せに暮らしていることを教えてくれた。
恵子が幸せでいてくれることが何よりうれしかった。

どれくらいの時間こうして当時のことを思い起こしていただろう。
僕は僕自身予想もしなかった記憶の奔流に浸りきっていて、渚がそっとドアを開けて部屋に入ってきたことに気付きもしなかった。
ふと見るとそこに渚がいたのだ。

僕は顔をあげ、しばらく彼女の目をじっと見ていた。
最初のうち僕はその姿を僕自身の記憶がつむぎあげた、イメージなのではないかと思った。
でもそれは、本物の渚だった。

彼女は3年前にふと僕の目の前から姿を消した。
その渚がここにいる。

彼女はまるで小学校の女の子のような無邪気な笑顔で、こう言った。
「僕は眠ってなんか・・・」、そう言いかけて、僕はあわてて言葉を飲み込んだ。

確かに、僕は眠っていたのかもしれない。
3年前に渚が僕の目の前から姿を消してからずっと・・・。
限りない喪失感とともに、僕は深い眠りについていたのだ。


忘れもしない、僕らが最初に出会ったのは夏の終わり。
ちょうど金木犀の香りが漂う中央線阿佐ヶ谷駅の2番ホームだ。
それは今にして思えば確かに奇妙な出会いだった。

いつもの朝だが今日は雨、傘をさし駅に向かう。
僕はいつも乗り込む阿佐々谷駅の2番ホームでいつもと同じ電車を待っていた。
雨にもまけず心地よい金木犀の香りが広がっている中僕は会社へ向かう


はずだった。
一人の女性により爽快な朝が一瞬にして不快な朝となるとは・・・



僕は阿佐々谷駅の2番ホームでいつもと同じ電車を待っていた。
雨にもまけず心地よい金木犀の香りが広がっていた。ただいつもと違ったのは、隣の女性
が妙に酒臭い。この女性は昨日は何時まで酒のあおっていたのだろう。他人なのに心配し
てしまう僕がいる反面、まったく朝から勘弁してほしいとおもっている僕。
いったいこの女はなんなんだ。
「ウッ、ォエッ〜」
え・・・
嘘でしょ・・・
  酔って吐いた彼女・・・。まあ、彼女にもいろんな事情があるのだろう
  と思い(いろいろ辛い事情だとか!)でも、彼女をそのままにしておく。
 
  会社についた。今日も仕事だ。。。張り切って仕事せねば!と思う。
  恋愛で感傷にふけっているのもいいけれど、仕事はきっちりやらなけ
  ればと思う。書類が山積みである。
  
山積みになった書類をぼんやりと見つめながら、朝に出会った女性のことを考えていた。

僕はどこかで彼女と出会った気がしてならないのだ。

そう、彼女は高校時代の友人、マツの彼女ではないか。

初めて彼女と出会ったのは高校二年生の春だった。
彼女もやはり二年生で吉祥寺にあるミッション系の品のよい女子高に通っていた。
あまりに熱心に勉強をしすぎると、「品がない」と後ろ指をさされるくらい品のよい高校だ。

僕には、マツという仲のよい(仲のよいというよりも唯一の友人だった)友人がいて、彼女は彼の恋人だった。

そう、渚という子だ。

僕らは3人だけでどこかに出かけたり、話をするようになった。
マツと渚と僕の3人だ。
考えてみれば変な話だが、なぜか2人に加えて僕がいた。

マツと渚との会話は楽しかった。
マツには場の空気をその瞬間瞬間で見極めて、それにうまく対応していける能力があった。それに加えて、たいした面白くもない話から、面白い部分をいくつも見つけていくことができるというちょっと得がたい能力があった。
だから僕は彼と話をしていると、まるで自分がとても面白い人間で、面白い人生を送っているような気になったものだった。

僕とマツと渚は何度もそんな風にして、一緒に時を過ごした。
しかし、一度マツが席を外して渚と二人っきりになってしまうと僕と渚はうまく話すことができなかった。
僕らはマツを通して繋がっていたのだ。


そして、高校3年の冬、マツは死んだ・・・。




マツは学業にも優れ、某国立大学法学部への入学をほぼ確実と言われていた。
そして彼は正義感も強くこう言っていた。
冤罪や詐欺、闇金に苦しめられる人を救いたい。
そのために弁護士になりたい…と夢を語った。

高校時代、僕には夢は無かった。
僕にはマツが眩しかった。

そして大学に入ってすぐ僕は、
マツの受験する筈だった大学に
転入学するべく、猛勉強を始めた。

勉強に打ち込み喪失感を埋めるべく…
マツの幻影を追いかけるように…
彼の夢を継承し、それをもって友への鎮魂へと替える為に…


僕はそれで良かった。


でも渚は…
渚は、僕に対して腹を立てていた。

マツと最後に会って話をしたのが彼女ではなく僕だったからだ。
こういう気持ちは適当ではないのかもしれないけれど、彼女の気持ちはわかるような気がする。
僕としても、できることなら変わってあげたかったと思う。
しかし、それは結局のところもう起こってしまったことなのだし、どう思ったところで仕方のない種類の出来事なのだ・・・。

それは12月10日、真冬にしては日差しの強い昼下がりに、マツは僕に午後の授業はすっぽかして玉でも突きに行かないかと言った。

僕も午後の授業はそれほど興味のある内容ではなかったので学校を出て、港の近くにあるビリヤード屋に行って4ゲームほど玉を突いた。

最初のゲームを僕がとると、マツは急に本気になって残りの3ゲームを全部勝ってしまった。
約束どおり、僕がゲーム代を支払った。ゲームの間、彼は冗談ひとつ言わなかった。それはとても珍しいことだった。

「今日は珍しく真剣だったじゃないか」と僕は聞いてみた。
「今日だけは負けたくなかったんだよ」とマツは満足そうに言った。

彼はその夜、自宅のガレージで車のマフラーにゴムホースをつないで、窓の隙間
をガムテープで目張りしてから、エンジンをふかしたのだ。

教室の彼の机の上には、しばらくのあいだ白い花が飾られていた・・・。


マツが死んでから渚の生活は一変した・・・。



   その詩にはこんな文句が書いてあった。。。
  
   「自分がやってきたこと全て無駄にはならない。。。。。」
  
   という内容だった。
 
   彼女は思った。そうだ。今までやってきたことは
   無駄にはなってないと。。。

   それは創作活動に活かそうと思った。
そして、渚は絵に没頭する。
渚にとってはいつのまにか、絵を描く事だけが彼女の生きていく拠り所となっていった・・・。

それは、絵の題材が、彼女の記憶を描き出す事だったから・・・。

渚にとっての大切な記憶とは、やはりマツとの思い出だった。
渚は絵を描き続ける事でマツとの記憶に触れる事ができ、マツの好きだったものを描き続ける事で彼がそばにいるような気がしていた。
そして絵を描き続けていれば、マツは永遠に年を取ることなく、絶えず彼女の記憶の中に居続けてくれる。

渚にとって、現実の世界はもはやどうでもいい事だった。
マツとの思い出の世界で生きていく事が、彼女の全てだった。

そう、あの時までは・・・。

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