1 「人身保護命令」と「ヘビアス・コーパス」 昭和23年に制定・施行された「人身保護法」は、憲法第34条後段「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」という、英米の人身保護法を想起させる規定に基づくもので、人身保護令状についての詳細な手続法である。 英米の人身保護法は、人身保護令状(writ of habeas corpus )を中心として発達したものである。 habeasは haveを意味し、corpusはbodyを意味するもので、habeas corpusはyou have the body、すなわち「被拘束者の身柄を差出せ」との意味を有する。そして、人身保護令状は、他人を拘束した者に対し、令状を発する裁判所又は裁判官が被拘束者の利益のために考慮するいかなる事項をも実行し、服従し、受忍させるために、被拘束者の身柄を一定の日時、場所に、逮捕拘禁の月日及び事由を添えて、出頭させることを命ずる令状である。それは、法律中において最も有名な令状であり、幾世紀の間、個人の自由に対する違法な侵害を排除するために採用されて来たので、しばしば「自由の大令状」と称される。 ところが、日本では、人身保護命令が本来の意味するところに従って使われることは皆無である一方、専ら父母間における子の身柄争奪に濫用されている。しかも、人身保護法が「手続法」であることを理解しないから、人身保護法の手続は「子の身柄を父母間で移動させる」手段に堕して、ことごとく法が無視されるのである。したがって、裁判所は無法地帯と化している。