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憂国の士コミュの噴水

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中世、欧州では魔女狩りがはやった。魔女と指さされた人は教会で凄まじい拷問を受けた。最初が親指責めで、両の親指を金属製の万力で締め上げる。

それで魔女だと認めたらすぐに火炙りにされるから、みんな親指の骨が砕けるまで我慢する。

次が水責め。9リットルの水を飲ませる。抵抗する者には大型の洗濯鋏みで鼻をつまみ、苦しくて開けた口に金属製の筒を突っ込む。スペインではこの筒をボステソ(欠伸:あくび)と呼んだ。

そして筒に水を流し込む。ときには糞尿を流し込むこともあった。それで白状しないともう9リットル飲ませる。

それでも白状しないと膨れ上がった腹を殴ってすべてを吐き出させて、また9リットルを注ぎ込む。ドイツでは三十年戦争時代に捕虜にこれをやって情報を吐かせた。この拷問法をこの国では「スウェーデンの水」と呼んだ。

フランスはギロチンとともに20世紀までこの拷問をやっていた。最後はアルジェリア独立戦争で、ドゴールは独立を叫ぶアルジェリア人にたっぷり水を飲ませ、それからギロチンで首を刎ねた。

米国は「Water cure(水治療)」と呼んだ。最初にその犠牲になったのは米国の植民地支配に抵抗するフィリピンの独立派の人々だった。

米軍は捕らえた民兵やその家族をこの拷問にかけて彼らのリーダー、アギナルド将軍の行方を吐かせようとした。

この拷問についてルーズベルト大統領は友人への手紙に「ごく軽い拷問だ」と書き送っているが、上院公聴会での証言はそんな生易しいものではなかった。

証言によれば捕らえた兵士は床に大の字に縛り付けられ、竹筒を口に嵌められ5ガロン(約18リットル)の水を飲まされた。白状しなければ膨れた腹に尋問官が飛び乗り「口から6フィートも水を噴き上げて死んだ」。

ときには海水を使った。おかげで死亡率は高く、記録では「160人がこの拷問を受け134人が死んだ」。

米国では1910年、体に傷が残る拷問は憲法違反とされて以降、この水責めが有効な尋問方法として盛んに使われだしたという。最近ではグアンタナモ基地でのアルカイダの尋問で使われている。

ただ少し態様は変わっていて、アルカイダを仰向けに寝かせて顔を固定してタオルをかけて水を注ぐ。

魔女狩り時代から様々な小道具やバリエーションを考え出しては好んで使われた水責め拷問。それはもはや白人キリスト教徒の血となり肉となっているようにも見える。

そんな水責め拷問を先の大戦中「日本軍がやった」と先日の朝日新聞夕刊の連載コラムが書いていた。記事には泰緬鉄道の現場で憲兵隊が英軍兵士に「大量の水を飲ませて」尋問する場に立ち会った日本人通訳が登場する。

彼は拷問を受けた当の英国人兵士E.ローマクスとクワイ川の鉄橋のたもとで再会したと続く。

一読、本当かと思う。

しかし疑問もある。人の行動は民族の血に従う。魔女狩りも知らない、ましてやキリスト教徒でもない日本人がなぜ残忍な白人の拷問方法を知っていたのか。その答がない。

それにもしこの記事が本当なら、牛蒡(ごぼう)を食わせただけでも日本人を吊るす口実にした連合軍が当然、問題にしただろう。

米軍がフィリピンでやった例では8割が死んでいる。まさに死の拷問になる。当然、BC級軍事法廷に持ち出され、尋問官も通訳もみな吊るしたはずだ。

しかし軍事法廷訴追文書「Chapter8」には、拷問のあった場所としてハノイや東ティモールはあってもタイはなかった。

泰緬鉄道で使役された捕虜の収容所長を務め、絞首刑に処された中村鎭雄陸軍大佐の手記が熊本日日新聞から刊行されている。

この中に中村大佐以下の日本軍将兵に対する訴因が列挙されているが、白人を働かせたこととか、汚い寝床に寝かせたこととかが並ぶだけで、拷問を行なったとする嫌疑はない。

この辻褄をどう合わせるのか。日本人がどこで白人の拷問法を学んだのかも併せて、真実を伝える続編が心待ちされる。


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週刊新潮2008年6月26日号(「変見自在」高山正之著より)

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