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御門庵コミュの地獄遊び

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 ある日、僕は大学の友人である古川に呼び出されて、大学内にあるカフェの片隅で一人コー
ヒーをすすっていた。
 僕の今日の講義は無かったのだが、古川がどうしても…というからわざわざ来てやったというのに、当の古川はまだ来ていなかった。もう、1時間も待ちぼうけである。
 コーヒーも、すでに3杯目だ。学内のカフェだから、そんなに高いコーヒーではないが、独り暮らしをしている僕にとっては百円や二百円が貴重な生活費なのである。
「待たせた分、全部奴に払わせてやる」
 僕は4杯目のコーヒーを注文して、そう独り言をつぶやいた。
 それにしても、古川は一体何の用で僕を呼びだしたのだろうか?
 電話の様子では、何か相談事があるような事を言っていたが。
 古川は、高校時代からの友人である。高校時代はよく一緒につるんでいたのだが、大学に入ってからは、学部も違うせいか、あまり会わなくなった。最後に会ったのは確か…ゴールデンウィークの前くらいだったから、もう3ヶ月近く会っていない事になる。
 4杯目のコーヒーが運ばれてきたちょうどその時、古川がカフェに入ってきた。
「おい、古川、遅いぞ」
 僕はこちらに近づいてくる古川にそう毒づいた…が、近づいてくるにつれ、はっきりとしてきた彼の様子に、思わず言葉を失った。
 遠目にはよくわからなかったのだが、いつもよく笑っていた健康的なその顔は、いつのまにか、げっそりと痩せ、目の下には大きなくままで作っていた。
「悪いな、待たせて」
 古川は元気の無い笑顔を浮かべながらそう言って、テーブルをはさんだ僕の正面に腰掛けた。
「いや、それより、どうしたんだお前、その様子…」
 僕は思わずそう尋ねた。
 すると、古川は力無く笑ってこう言った。
「今日、お前をわざわざ呼びだしたのは、聞いて欲しい事があるからなんだけど…それと関係ある。正直、ここ数週間は、ぐっすり眠れていないんだ」
「眠れてないって…そんなに重大な心配事なのか?」
「いや…心配事って言うか…」
 そこまで言って、古川は少し言いよどんだ。
 その時、カフェの店員が注文を取りに来たので、古川はとりあえず僕と同じコーヒーを注文した。
 店員が去って行き、しばらく沈黙した後、ようやく古川は重い口を開いた。
「実は最近、よく夢を見るんだ」
「夢?」
 僕はあまりに唐突な話の振りに、思わず聞き返していた。
「あぁ。それが、普通の夢じゃない…」
 そう言ってから、古川は語り始めた。


 夢の中で、俺は4歳か5歳くらいの子供なんだ。
 場所はよくわからない。
 いつも俺は数人の友達と遊んでいるんだ。ただ、その友達は実際の友達じゃなくって、みんな見たこともないような子ばかりなんだけど…。
 それで、しばらくして、俺たちは一つの遊びを始めるんだ。

──地獄遊び…。

 俺たちは、夢の中でその遊びの事をそう呼んでる。
 その遊びのルールは、まず誰か一人が目を両手で覆って、しゃがみこむ。そして、残りの子でその子の周りをとりかこみ、手をつないで輪をつくる。
 そうだな…わかりやすく言えば「かごめかごめ」みたいな要領だ。
 それで、こう歌いながら回るんだ。そう、それも「かごめかごめ」みたいに。

──しゃんしゃんしゃん、しゃんしゃんしゃん
──あのよとしゃばのはざまへおくりましょ
──みたまをからだからとりだして
──あのよとしゃばのはざまへおくりましょ
──いきすぎじごくへおちぬよに
──しゃんしゃんしゃん、しゃんしゃんしゃん

 すると、不思議な事に、輪の中心でしゃがんでいた子の身体から、霊魂がすぅっと抜け出して、その歌にあるように「あの世と娑婆の狭間」に行ってしまうんだ…。


 そこまで話して、古川は一息ついた。
 正直、僕は背筋に寒気を覚えていた。
 なんて不気味な遊びなんだろう。あの世と娑婆の狭間に送る遊び…地獄遊び。
「まさか、お前、その中心の子って…」
 僕が言うと、古川は無言で頷いた。そして、こうつぶやいた。
「ああ、俺だ。俺の魂が身体から抜け出して、少し上空から自分の身体を見下ろしてるのさ」
 ちょうどその時、古川が注文したコーヒーが運ばれてきた。
 古川は話を中断して、コーヒーを一口飲むと、ほぅ…と息をついた。
 そして、再び話し始めた。
「最初は、すぐに身体に戻れたんだ。ほんの2,3分くらいだったと思う」
「戻れた…って…」
「あぁ…」
 古川はそう言って、まだコーヒーを一口飲んだ。
「だが、その夢を見るたび、だんだんと戻るまで時間がかかるようになってきた」
「どういう事だ…それ」
「わからない。ただ、普通の夢じゃないことは確かだ。いつもいつも、全く同じ内容なんだ。違うのは、魂が身体に戻るまでの時間…」
「……」
 古川のその話が、ただの作り話や、よくある怪談ではない事は、古川自身の今の様子からわかる。
 おそらく、その夢が恐ろしくて、古川は夜も眠れないのだろう。眠れば、どんどん自分の魂が身体から離れていく夢を見てしまうのである。
 その不気味な遊びにしてもそうだが、古川の話からは尋常ではない恐ろしさが伝わってきた。
「でも…なんでその話を僕に?」
 ふと、僕は浮かんだ疑問を古川に投げかけた。
「お前、民俗学に詳しかっただろ? 昔の遊びに、この『地獄遊び』みたいなのって実際に有ったのかと思って…。もし有ったんだとしたら、俺の夢の意味も少しはわかるかな…って」
「なるほど…」
 だが、あいにく、僕の知識の中にそんな不気味な遊びの事は無かった。
 僕がそう告げると、古川はそれほど表情も変えずに、
「そうか…」
 と言った。もとからあまり期待はしていなかったのかもしれない。
 そして古川は、残ったコーヒーを飲み干すと、力なく笑って言った。
「悪かったな、こんな話のためにわざわざ呼び出したりして」
「いや…」
「俺、思うんだけど…このまま『地獄遊び』の夢を見続けると、実際に魂が抜けて…戻れなくなって…死んじまうんじゃないかって…」
「そんな馬鹿な話が…」
 僕は口ではそう言ったが、心の奥では古川の言を否定しきれていなかった。


 あれから3ヶ月が経つ。
 季節は秋から冬になろうとしているが、あれ以来、古川には会っていない。
 もしかしたら…いや、きっと、本当に古川が言った通りになってしまったのかもしれない…。
 なぜ、そう言い切れるのかって?
 最近、僕もよく見るようになったのだ…。

「地獄遊び」の夢を…。



    ─ 完 ─

☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─
     あとがき

 この話は、実際に僕が友人から聞いた夢の話を、怪談風にアレンジして書いたものです。
 作中に出てくる登場人物などはすべて架空のものですが、古川が語る夢の中での「地獄遊び」は、僕が友人から聞いた話をなるべく忠実に再現しました。(ただし、歌に関しては創作ですが…)
 友人からこの話を聞いた時、これは怪談にすると面白いんじゃないか…と思って、今回の執筆を思い至ったわけです。

 今回、初めて「怪談」というジャンルに挑戦してみました。
 まだまだ「怪談」として至らぬ点も多々あるとは思いますが、いかがだったでしょうか?
 個人的には、書いている途中はすごく怖かったのですが…(笑)

 最後に、ここまで読んでくださったあなたと、この話のネタを提供してくれた友人に感謝して、締めくくらせていただきたいと思います。
 ありがとうございました。


                                2004.8.24

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