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御門庵コミュの【妄想小説「こんな恋愛がしたい」】カレーが食べたい…の巻

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 僕と彼女が出会ったのは、大学に入ってすぐの頃。
 同じサークルで出会った。
 そして、二人が恋に落ちて、お互いにその気持ちを確かめ合ったのは、それからほどなくしてからの事だった。
 僕は、彼女が大好きだ。
 白く細い腕。長く艶やかな黒髪。無邪気に笑うその笑顔。
 ロマンチストで、お茶目。何にでも一生懸命で、努力を怠らない。
 彼女は僕にとって、これ以上ないくらいの素晴らしい女性だ。
 彼女もまた、僕のことをすごく好きでいてくれている…と思う。

 その日は、もうすぐ大学祭が近いという事もあって、サークルのミーティングが長引いてしまった。
 僕と彼女が大学を出たのは、もう辺りが薄暗くなってしまった時間だった。
 夏も終わり、日が落ちるのもだいぶ早くなってきた。時折吹き抜ける風も、ちょっと前よりだいぶ涼しくなり、最近は夜も過ごしやすい。
 僕も彼女も、実家は地方にあるので、二人ともアパートで一人暮らしだ。
 大学から歩いて、10分もかからない距離に、僕は住んでいる。彼女は、そこからもう5分ほど歩く。

 前に一度、何でそんなに遠い所にアパートを借りたのか、彼女に訊いてみた事があった。だって、大学まで歩いて15分って、せっかくの一人暮らしのアパートの意味があんまり無いような気がしたんだ。
 すると、彼女はこう答えた。
「その15分の間、歩きながら色んな事を感じられるのよ」
 …と。そして、こう続けた。
「春の花の香り。夏の蝉時雨。そして今は、秋のすがすがしい空気…」
 こう言うのもなんだが、彼女はすごく感受性が豊かだ。普通なら簡単に見過ごしてしまうようなちょっとした事に、ものすごく感動する。
 この時の彼女も、そういうちょっとした季節の変化に感動していたんだと思う。
 ま、僕としては、彼女がその通学時間を楽しんでいるのなら、それで充分だと思った。好きな人が笑顔でいられれば、それほど幸せな事はないじゃないか。

 僕の住むアパートが近くなった頃、ふと、どこからかカレーのいいにおいが漂ってきた。おそらく、どこかの家で今夜の夕食として出るのだろう。
 ところで、カレーのにおいを嗅ぐと、カレーが食べたくなりはしないかい?
 その時の僕は、まさにそうだったんだ。
「あ〜、いいにおいだなぁ。カレーが食べたい…」
 ふと、僕はそう口にしていた。
 すると、隣を歩く彼女はクスクスと笑って、そうね、と頷いた。
 そして、しばらく何かを考えていたかと思うと、僕の方に向き直ってこう尋ねた。
「ね、今晩、何か予定ある?」
「いや、別に無いけど…」
 確か、今日はアルバイトの予定も入ってなかったはずだ。この後は、帰ってぼんやり夕方のニュースを見て、適当に食事を作って、シャワーを浴びて、またぼんやりとテレビを見ながら過ごす。で、眠くなったら寝る。
 我ながら、なんだか空しい夜のような気がするが、何も予定が無いのだから仕方が無い。
「それじゃあ、部屋にいてね」
「え? うん」
 ちょうど僕のアパートの前に着いた時、彼女はそう言って意味ありげに笑った。

 7時半をちょうど回った頃。
 そろそろ、夕飯の支度をしようかな…と考えていた時だった。
 コンコン…。
 玄関のドアが、遠慮がちに鳴った。
「はい?」
 僕は返事をして、ドアを開ける。
 はたして、ドアの向こうには彼女の姿があった。手には、何やらたくさんの食材が詰まったビニール袋をさげている。
「どうしたの?」
「気が利く恋人が、カレーを作りに来てあげたのよ」
 彼女はそう言って、ニッコリ笑った。
 僕は彼女の、このとびっきり素敵な笑顔が大好きなんだ。
 その時も、思わず僕は彼女を抱きしめていた。
「ちょ、ちょっと。こんな所で…」
 彼女はそう言ったけど、その声は笑っていた。

「あれっ…」
 台所で料理を始めようとしていた彼女が声を上げた。
「どうしたの?」
 部屋で再びテレビを見ていた僕は首だけ台所に向けて訊いた。
 彼女は基本的に、自分の料理を他人が手伝うのを嫌う。彼女に言わせてみれば、例えばカレーの具一つの切り方にしても、彼女なりのこだわりがあるのだそうだ。もちろん、僕はいつも彼女に手伝おうかと言うのだが…。だから、一人テレビを見ていたこの時の僕が怠慢だったわけじゃ、ない。決して…。
「コンソメがないわ。忘れてきちゃったみたい…」
 彼女が言った。
「コンソメ? カレーにコンソメ入れるの?」
「そうよ。ちょっとだけね。美味しくなるんだから」
 僕はふ〜ん…と言いながら、冷蔵庫を開けた。
「あったよ」
「ホント?」
 彼女が背後から僕の肩越しに冷蔵庫の中をのぞく。
 そして、僕が差し出したコンソメの箱を見て…。
「でも…これ、賞味期限が切れてるじゃない…」
「えっ…」
 確かに。
 コンソメなんて、滅多に使わないからなぁ…僕。
「お醤油ある?」
「しょ、醤油? そんなモノまでカレーに入れるの?」
「そうよ。ある?」
「な、ない…」
 僕が言うと、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「じゃ、買いに行くしかないわね」
 その時僕は、彼女がコンソメと醤油を忘れたのは確信犯だと気付いた。こうする事によって、僕らは近くのスーパーまでこれらの材料を買いに行かなければならなくなる。
 彼女は、夜、二人でぶらぶらと歩く事が好きらしいのだ。僕はそれを知っていたし、僕も彼女と二人で夜空を眺めながら散歩するのは好きだ。
「僕も一緒に行くよ」
 だから、その時僕がそう言うのも当然と言っちゃあ当然だった。
 もちろん彼女もそれがわかっている。嬉しそうな笑顔を浮かべて、頷くのだった。

 近くのスーパーまで、普通なら歩いて5分。でも、僕らはわざとゆっくり歩いた。
 空を眺めると、まん丸のお月様がぽっかりと浮かんでいる。
「い〜い天気♪」
 普通は昼間に言うような台詞を、彼女は夜に言う。もちろん、昼に言わないわけじゃないけどね。
 でも、ほんとに良い天気だ。
 これでもし月が出ていなかったら、きっと満点の星空だろう。この辺りは田舎だから、星がよく見えるんだ。

 スーパーでコンソメと醤油、それからカレールーを2,3種類買い込んで(驚く僕に彼女は「ブレンドカレーって美味しいのよ」と言って笑っていた…)またゆっくり歩いてアパートに帰って来たのは、8時半をまわっていた。
 そろそろ僕の空腹も限界だ。…けど、料理を始めた彼女があまりにも楽しそうなので、その気分を害してはいけないと思って、空腹の事はいわなかった。
 しかし、さすがに何もせずにテレビを見ていると腹が減った事にばっかり神経がいくから、ダメもとで手伝いを名乗り出てみた。
「ねぇ、俺にも手伝わせてよ」
「うーん…どうしよっかなぁ…」
 彼女がジャガイモを切りながら言った時だった。
──くぅ…
 ごく小さく、彼女のお腹が鳴った。
「ぷっ…」
 思わず、僕は吹き出してしまった。
「あはははは…!」
「ちょ、ちょっとぉ…そんなに笑う事ないじゃない…」
 彼女は耳まで真っ赤になって言った。
「あははは、ごめん…くくく…」
「もうっ。わかったわよ、ちょっと手伝って」
 結局、彼女も空腹感には勝てなかったようで。
 僕は彼女が切った具を炒める大役を拝した。

 そして結局、やっとの事でカレーが完成したのは、9時半を回っていた。
 これでも早くできた方なんだ。
 彼女は「もっとじっくり煮込まないと美味しくならない」と言ってきかなかったのだが、さすがにそんな事を言っていたらキリが無い。とりあえず、じっくり煮こんだカレーを味わうのは明日の楽しみにしておく事で、彼女をようやく納得させて、やっと夕食にありつく事ができたんだ。
 それにしても、彼女が料理に対してここまでこだわりを持っていたとは…。
「…うまいっ!!」
 一口目を口に運んだ僕が最初に言った言葉がそれだ。
「そぅお? 良かった♪」
 彼女に言わせればそれはまだ未完成らしいのだが、僕からすればとんでもなく美味いカレーだった。それこそ、料理アニメみたいに、口からぶわぁ〜っと光が飛び出してもおかしくないくらい。いやいや、冗談じゃなく。空腹だった事ももちろんあるのだろうが、それ以上にやはり彼女がこだわりにこだわって作ってくれた愛情カレーだから…かな。僕は3杯もおかわりをしたんだ。

 その後、食器の後片付けまでやってくれた彼女が帰途についたのは、11時もまわった頃だった。僕としては、ここまで遅くなったら泊まっていってほしかったんだけど…。一人暮らしの夜は、思ったより寂しいんだよ。
 彼女は玄関先で僕の頬に軽くキスをして帰って行った。最高の笑顔と心の温もりを残して。
 明日も彼女に会うのが楽しみだな。
 学校で彼女に会ったら、まず何て言おう? 僕は、そんな贅沢な悩みを抱えながら、その夜を過ごした。
 窓の外を見ると、まだ満月がぽっかり浮かんでいた。


 なんて恋してみたいねぇ〜。

                                  fin.
                               03.12.8.mon

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