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御門庵コミュのLovers Complex

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 私とユウちゃんが付き合い始めて、一年が過ぎた。色々と波乱に満ちていたこともあったけど、私はユウちゃんが好きだったし、彼も私を愛してくれた。幸せだった。
 そして、今も私と彼は幸せだ。
「ユウちゃん、受験生なんだから、滑ってこけないように気をつけて…」
 私は、はしゃいで雪の中を走る彼に向かって言った。
「だいじょうぶだって。遙さんは心配性なんだから」
 彼は、私の数歩前を飛び跳ねるように歩いていた。いつも、彼は私に「遙さんは子供みたいでカワイイなぁ」って言うけど、そういう彼だって、子供っぽい。かわいい。
 彼は私より三歳年下だ。その事に、コンプレックスを持った事もある。私も、彼も。一度は、そのせいで別れ話の手前まで行った事もあった。でも、今はそんな事はない。だって、私は彼を信じているし、彼も私を信じてくれているからだ。その証拠に、一週間前のクリスマスの夜、私達は結ばれた。だから、私は今、とても幸せだ。こうして、好きな人の笑顔を見つめていられるというのが、とても幸せ。
 と、その時だった。
「あっ、ユウちゃん、アブナ…!」
 私が最後まで言う前に、彼は雪で滑り、バランスを崩して尻餅をついた。
「うわっ…!」
 そんな彼を見て、私は笑いながら彼に駆け寄った。
「クスクス…もう、だから気を付けてって言ったのに…」
「いてて…あははは、遙さんの言う事も、馬鹿にできないね」
「じゃあ、今まで馬鹿にしてたの? ひっどーい」
 そう言いながらも、私は手を差し出して彼を立たせた。
「どうせなら、今、滑りまくっとこうか? 本番で滑らなくなるかも」
 彼はおどけてそう言った。
「ばか」
 私達は今、彼の合格祈願のために初詣に行こうとしているところだ。
「そういえば…」
 その時、私はふと気付いて尋ねた。
「ユウちゃんって、どこの大学受けるの?」
「あれ、知らなかったの?」
 彼は目を丸くした。
「……うん……」
 そうなのだ。実は、私は彼が受ける大学を知らないのだった。恋人なのに…。ちょっと情けないかもしれない…。そういえば、彼の受験勉強を手伝ってあげた事も無かった…。先輩として、彼の勉強を見てあげたら良かったのに…。私のバカ!
「ふふ〜ん、どこだと思う?」
 彼は私が一人で自己嫌悪に陥っている事など気付きもせずに、少し意地悪そうに笑って言った。
「…どこ?」
 再び私が尋ねる。
「遙さんの大学」
 彼はニッと笑って言った。そしてすぐに、恥ずかしそうに鼻の頭を掻いた。
 私はなんだか嬉しくなった。私の通っている大学を受けるという事は、春からは同じキャンパスで顔を合わせる事ができるという事だ。
 そう思って頬を緩ませていると、彼が私に釘をさした。
「今からそんなに嬉しそうにしてると、もし俺が落ちた時、大変だよ」
「そんな事ないわよ。ユウちゃんは絶対受かる」
 私は確信を持って言った。特に理由は無いけど…。

 神社で合格祈願をした後、私達はいつも行く喫茶店に向かった。
 喫茶店の入り口の前には、門松が飾ってあった。洋風のデザインの店に和風の門松は、なんだかギャップがある。でも、そのギャップがまたいい雰囲気をかもし出していた。
 私はいつもと同じホットココア。そして彼は、ホットレモンティを注文した。
 ここのウェイトレスの制服はとっても可愛い。一度、今のファミリーレストランのアルバイトをやめて、ここに変えようかと思った事もあったけど、よく考えたら、動機が不純だったので、やめた。時給も今のほうが良かったし。
「ユウちゃん」
 私は、運ばれてきたレモンティに砂糖を入れている彼に声をかけた。彼は、コーヒーはブラックで飲むくせに、紅茶には砂糖を沢山入れる。変なの。
「ン?」
 彼は三杯目の砂糖を入れ終えて、ようやくかき混ぜ始めた。こうやって太る事を気にしないでいられる人って、ちょっと羨ましい。そう思いつつも、ホットココアをすする私…。
「勉強、見たげよっか?」
「は?」
 彼は思わず顔を上げて私を見た。
「かりにも私は大学生なんだし、ユウちゃんの受験勉強を手伝えないかなって思って…」
 私は前々から思っていた事をついに口にした。でも、実を言うと、私はそんなに勉強ができる方ではないので、力になれる自信はあまり無い…。
「ンー、別に苦戦してるわけじゃないから、いいよ」
「…あ…そう…」
 私は落胆するのと同時に、少しホッとしてしまった。
「じゃあ、何か他に力になれないかな?」
「……」
 ユウちゃんは、持っていたカップをコースターの上に置くと、私の目をじっと見詰めた。
 彼の瞳は、すごく純粋だ。すごく澄んでいる…。私はこの瞳が大好きだ。でも、こんな風に見つめられると、何故かすごくドギマギしてしまう…。
「なんでいきなり俺の受験に構おうとするの?」
 彼は、そう言った。
「今日の初詣だって、遙さんが言い出した事でしょ。最近、遙さん、俺に構いすぎだよ。どうしたの?」
「どうしたのって…言われても…」
 私はただ、少しでも彼の力になりたいだけなのだ。
「大丈夫だよ。俺は、遙さんが思ってるよりオトナだよ。そりゃあ、俺は遙さんより三歳も年下だけど、でも、自分の事は自分で管理できるつもりだよ。そんなに心配しなくてもいいって」
 ユウちゃんはそう言って微笑んだ。
 いつもはその笑顔を見たら胸が痛くなるくらいに幸せになれるのに、その時は違った。何故か、その笑顔がものすごく憎く思えた…。
 何故…? 何故、私はこんなにも嫌な気持ちになっているの…?

 その日は、午後からアルバイトの予定が入っていた。私はユウちゃんとわかれた後、その足でアルバイト先のファミリーレストランに向かった。
 私の働く店は、私が通う大学の近くにあり、アパートから電車で三駅も離れている。
「おはようございまぁす」
 そう言いながら、私は事務所に入って行った。
「やあ、遙ちゃん」
 事務所には一人だけ、店長がデスクワークをしていた。店長は、なかなかカッコイイ人。もし、私がユウちゃんと付き合ってなかったら、この人に恋をしていたかもしれない。でも、店長には奥さんもいるし、小学生になる子供さんもいる。ちょっとだけ、奥さんが羨ましい。そんな事、ユウちゃんには絶対に言えないけどね。
「ン? どうしたの、遙ちゃん?」
 店長は、向かっていた机を立って、ぼうっと立っていた私の方に近づいてきた。
「あっ、な、何でもないです。すいません…」
 私は少しアセって答えた。
「また、彼と喧嘩でもしたの?」
 店長のその言葉に、私はドキッとした。
 喧嘩したわけじゃない。でも、何だろう。この心の中のわだかまりは…。
「店長…」
 私は思いきって、店長に相談してみることにした。この人は、ユウちゃんの次に信用できる人なのだ。
「ん?」
 店長はいつもの優しい表情で私を見つめる。
「私、何故かユウちゃん──彼に対して、すごく嫌な気持ちになってるんです」
「嫌な気持ちって?」
「彼の事が大好きなのに…彼の笑顔が、すごく嫌なんです」
 そこで私は、今日の出来事を話した。
「彼、もうすぐ大学受験なんです。で、私は彼の力になりたいなって思って、勉強見てあげようとか、色々言ったんです。でも、彼は自分で出来るって言って、遠慮するんですよ。自分は私が思ってるほど子供じゃないって…。自分の事は自分で管理できるって…そう言うんです。それを聞いたら、何故か、すごく嫌な気持ちになっちゃって…」
 私の話を聴いている間、店長は面白そうに笑っていた。
「遙ちゃんは、その彼の事が大好きなんだね」
「え…?」
 突然、店長が言った事に、私は一瞬戸惑った。
「遙ちゃんは、彼がしっかりしすぎてるせいで、自分にコンプレックスを持ってるんだよ。もしかして、彼は今まで、君の事を色々助けてくれたりしたんじゃない?」
「…えぇ…」
 私は頷きながら、ユウちゃんが私にしてくれた色々な事を思い出していた。私が大学の試験で大変だった時、食事を作ってくれた事…。私がサークルの活動で長い間留守にしている時、その時飼っていた猫ちゃんの世話をみてくれた事…。その他にも、彼は色々な事で私を助けてくれた。
「遙ちゃんは、自分が彼に助けられてばかりだと思ってるんじゃないかな?」
 店長はそう言った。
「私が…彼に助けられてばかり…。そうかもしれません…」
「それがいけない。そう思うから、君は彼に何かしてあげなくちゃ…って思っちゃうんだ。だから、焦っちゃって嫌な気持ちになってるんじゃない?」
「……」
 その時、私は心底、この店長を尊敬した。この人は、レストランの店長なんかより、よろず相談所の所長にでもなった方がいいんじゃないかしら…?
「遙ちゃんは、遙ちゃんが自分で思ってるより沢山の事を、もうすでに彼にしてあげてるよ。きっとね。だから、そんなに気負わなくてもいいんだよ。今はとにかく、彼の事を信じてあげたら? それが一番さ」
「…はい…」
 頷いた私を見て、店長は私の頭をポンとたたいた。
「よし。じゃあ、仕事を始めようか。彼の事だけじゃなくて、仕事の方でも気合入れてくれよ」
「はいっ」

 私は、素敵な彼を持っている。だから、その彼に対して劣等感を持っていたんだと思う。
──私も素敵にならなきゃ…。
 そんな焦りの気持ちが、彼に対する嫌な気持ちになっていたんだろう。つまり、八つ当たりだ。
 でも、私は自分で思っているより、自分が素敵である事に気付いた。彼の笑顔がその証拠だ。彼が、あの素敵な笑顔を向けてくれると言う事は、彼にとって、私は素敵な恋人である筈なのだ。私は、私自身と、私を好きでいてくれる彼を信じる事にした。でも、もし彼の笑顔が私に向けられなくなったら…。その時こそ、私は「素敵にならなきゃ」いけない。そして、彼の笑顔を取り戻さなくてはいけない。
 恋って、疲れる。
 相手に好きでいてもらう為に、一生懸命努力する。その努力が実らない恋人たちもいる。
 私達は違う。私達は、努力した分だけ素敵になって、努力した分だけより一層、相手の事が好きになる。その瞬間の、なんと甘く、快い事か…。

 そして、彼は大学受験に合格した。
 私達は、晴れて同じキャンパスで学ぶ事ができるようになったのだ。
「…そんな事考えてたの?」
 大学内にあるカフェで、彼はプッと吹き出した。私が、私の感じた「恋人劣等感」を話したのだ。
「うん。だって、ユウちゃんが素敵すぎるんだもの…」
 私は正直に私の感じた事を告白した。
 すると、彼は嬉しそうに笑って、こう言った。
「遙さんだって、素敵だよ。俺以上にね」
「ホント?」
「ホント、ホント」
 私は嬉しくなった。やっぱり、彼は素敵だ。
「ねぇ、ユウちゃん…」
 私が彼を、今晩部屋に誘おうと思って声をかけた時だった。
「あっ、待って」
「?」
「そろそろ、呼び捨てで呼んでくれないかな?」
 彼は少し照れたような表情で、そう言った。
「呼び捨てで…?」
「うん…」
 私は少し戸惑った。だって、今まで呼び捨てで呼んだことなんて無かったんだもの。今更、呼び捨てで…なんて、恥ずかしいじゃない。
「いつまでも『ユウちゃん』だったら、子供扱いされてるみたいでサ。恋人劣等感、感じちゃうんだよなぁ」
 そんな冗談を言う彼の横腹を、私は肘で小突いた。
 でも、私は一度深呼吸をしてから、こう言った。
「ねぇ、裕也。今晩、私の部屋に来ない?」

Fin.





 ★☆ あとがき(1) ☆★

 なんだかんだ言って、二つ目の短編を書いてしまいました。

 この裕也と遙は、前作『Lovers Withdrawal Symptoms』だけのキャラクターの筈だったんですが……何故か………僕の手が勝手に…………彼らの名前を…。
 彼らは、なんとなく作ったキャラクターだったのですが、書いているうちに妙な愛着が湧いてきまして…(^_^;) この第二作目となる『Lovers Complex』にも登場するこになりました。
 このストーリーは、時間的に、前作の一週間後くらいですね。
 さて、今回は、初めて「女性の視点から見た作品」を書いてみたわけですが、これを読んだ女性からクレームが来るのは目に見えております(爆)
 すいません。もうしません。(多分)

 それでは、この作品も少しでも多くの人に楽しんで貰えますように…。
                            ’01.1.6


 ★☆ あとがき(2) ☆★

 「Lovers」シリーズ第2弾です。
 この作品も一年前、前作に引き続いて僕の日記で連載しました。
 ちなみに、書いた当初は男視点で書くよりも楽しく書いていた覚えがあります(笑)
 やっぱりアタシ、そういう素質があるのかしら♪(爆)

 この作品でも、たくさんの感想お待ちしています。
 ’07.11.16

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