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御門庵コミュのLovers Withdrawal Symptoms

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「お前の彼女が、男連れて歩いてるの、見たんだよ」
 悪友の言葉に、僕は言葉を失った。
 僕と、僕の恋人・遙さんは、付き合い始めてちょうど一年が経つ。
 彼女は僕より三歳年上の、大学三年生だ。性格も見た目も、すごく可愛い人で、普段は僕より年上だなんて思えないくらいだ。
 彼女は講義の無い日、彼女の大学に近いファミリーレストランでバイトをしている。僕は、彼女がその店で働く事を良く思っていない。何故って、その店の制服が、男の僕から見て、中々そそられるデザインだったからだ。え? 僕がスケベだって? そう思うなら、そう思ってもらっても構わない。けど、それが僕の正直な感想なのだ。健康な思春期の男子は、みんなこんな物さ。そんな事はともかく、僕は彼女の白くてすべすべの太ももや、見つめただけでクラッときてしまうような笑顔を他の男にはあまり見せたくなかったのだ。だから一度、彼女に仕事を変えるように勧めた事があった。だが、その時、彼女は言った。
「なんでユウちゃんにそんな事言われなきゃいけないの? 私の生活費の稼ぎ方くらい、私の勝手でしょ」
 その時、僕はそれ以上何も言えなかった。確かに、彼女の生活費の稼ぎ方に、僕が干渉する権利は無い。だから、僕はその時、それ以上言う事を断念した。自分の恋人を信じてあげる事も、彼氏としての役目の一つだと思ったのだ。
 だから、僕はできるだけ彼女の事を信じていたし、彼女も僕の気持ちに応えてくれていた…と思っていた。悪友の言葉を聞くまでは。
「何だって? どういう事?」
 僕は思わず訊き返していた。
「昨日の夜だよ。塾帰りに、腹減ったからよ、メシ食いに行ったんだよ」
 僕と遙さんの交際は、僕の友達の間では公認だった。年上の女性と付き合ってる男というのが珍しがられたのだ。そのせいか、僕の友人たちは冷やかしついでに、遙さんのバイト先によくメシを食いに行った。
 こいつも、その口の一人だった。
「遙さんのバイト先か?」
「そうそう。で、俺が店に入った時には彼女、もういなかったんだよ。仕事、ひけたのかな〜と思って、メシ食ってさ、帰ろうとしたんだ。そしたらよー、店の裏から男と一緒に出てくる彼女を見ちゃってよー…」
 その後、悪友は彼女とその男の様子をこまごまと報告してくれたが、それ以上、僕の耳には入っていなかった。
 まさか、あの遙さんが僕以外の男と…?

 その日は、彼女と約束があった。僕の学校の近くにある喫茶店で待ち合わせていた。
 僕が喫茶店に着いた時には、まだ彼女は来ていなかった。
──確か、今日の講義は午後からだって言ってたな…
 そんな事を思い出しながら、僕は窓際の席に座った。ウェイトレスの女の子にコーヒーを頼む。
 そして、ふと思った。
 遙さんと一緒にいた男って、もしかして、ファミレスに来ていた客かもしれないと。
 だが、すぐにその予想は打ち消された。悪友が「裏から出てきた」と言っていたのを思い出したのだ。
 だったら、同じバイト仲間か…?
 遙さんは、その男とその後、どこに行ったのだろう…? 何をしたのだろう…?
 よく考えてみれば、僕みたいな男と遙さんみたいな魅力的な女性が付き合っているという事自体が不思議な事に思えてきた。彼女みたいな女性なら、俺みたいなコドモよりも、もっとかっこいいオトナの男が沢山言い寄ってくるだろう。そんな、かっこいいオトナの男たちからしてみたら、僕なんか相手にもならないだろう。僕は、ごく普通の高校生なのだ…。それより、遙さんにとって、僕との付き合いは遊びみたいな物だったかもしれない。そんな事は信じたくなかったが、悪友の話を聞いた後では、そんな嫌な想像も次々と湧いてくる。
 あ〜、女々しいなァ。でも、恋する思春期の少年の心の中なんて、こんな物だ。好きな人のことばかり思い浮かべ、もし彼女の気持ちが偽物だったら…とか、もし彼女に嫌われたら…なんて事ばかり考えてしまう。
 僕の不安は募る一方だった。頼んだコーヒーが運ばれてきたが、僕はカップに手を伸ばそうともしなかった。
 しばらくして、店に遙さんが入ってきた。
「お待たせ。ごめんね、講義が長引いちゃって…」
 彼女はいつも通りの素敵な笑顔で僕に笑いかけた。そして、僕の正面に座る。
「いや、そんなに待ってないから…いいよ」
 僕は、できるだけ平静を装って言った。
「そう? 良かった」
 彼女は笑って、注文をとりにきたウェイトレスに、ホットココアを頼んだ。
「最近、寒くなってきたねー…」
 彼女はそう言って、窓の外を見た。
 どんよりと曇った寒空の下を、背中を丸めたサラリーマンや学生達がせかせかと歩いていく。僕の気持ちも、今日の天気のようだった。
「今年のクリスマスも、一緒に過ごせるといいね」
 彼女は笑いながら、そう言った。
 僕はその笑顔を見て何故だか涙が出そうになった。
「本当に…そう思ってる?」
 そして、何を思ったか、僕はそう訊いてしまったのだ。
「え…?」
「本当に、今年のクリスマスも俺と過ごしたいと思ってる?」
「…うん。当たり前じゃない。何でそんな事、訊くの?」
 彼女は、やはり笑顔を崩さずに答えた。
 その瞬間、僕はカッと頭に血が昇るのを感じた。初めて、彼女の笑顔に…嫌悪感を感じた。
 彼女が僕に隠し事をしている…。そう思ってしまったのだ。隠し事をしているのに、笑顔で僕に話しかけている…。そう思うと、無性に腹が立った。その時の僕は、彼女が僕をコドモ扱いして、もてあそんでいるだけに感じていたのだ。今思うと、まったく何であんなバカな考えをおこしていたのかと思って赤面してしまうが、その時の僕は真剣だった。
「俺たち、しばらく距離を置こう…」
 そして僕は、そう口走っていた。
 彼女は、しばらく呆然としていた。おそらく、僕の言った言葉の意味が飲みこめていなかったのだろう。
「な…何でそんな事言うの? 私、何か悪い事した?」
 ようやくそう言った彼女の声は、なんだか泣きそうだった。
「さぁね…」
 僕はそう言って、席を立った。
「ま…待ってよ、ユウちゃん! 何があったの!?」
 彼女はすがるような視線を僕に送ったが、僕は見向きもしないでカウンターの方に向かった。
 店の中にいた何人かの人が僕達の方に視線を向けた。
「私のこと、嫌いになったの? それとも、他に好きな人ができたの?」
 僕がカウンターの上にコーヒー代を払って店を出ようとしても、彼女はまだ追いすがってきた。
 そして、僕はカッとなって、ついに言ってしまったのだ。
「他に好きな人が出来たのは、遙さんの方だろう!!」
「……え?」

 それ以来、彼女とはもう会っていない。そろそろ半月になるだろうか…。前は、二日に一度は会っていたくらいなのに…。
 あと一週間もすれば、クリスマスだ。
 遙さんに会わなくなってからというもの、僕は悪友曰く「抜け殻のような様子」で毎日を送っていた。
 本当にそうだったと思う。その約二週間の間、僕は何をしても面白くなかった。学校の授業はもちろん、家での受験勉強にも身が入らなかった。
 僕にはすでに、『遙さん禁断症状』が出ていた。これは、以前、彼女が命名した僕特有の病気である。
 彼女が大学のサークルの合宿に行って、一週間会えなかった事があった。その時、初めてその『遙さん禁断症状』に襲われた。彼女に会いたくて会いたくてたまらなくなるのだ。
 だが、僕はあんな別れ方をした手前、自分から彼女に会いに行く事が出来なかった。
 冷静になって考えてみると、あの時の僕はどうかしていた。完全に、僕の独り合点で彼女の事を見ていたのだ…と気付いた頃には、もう遅かった。
「そりゃあ、裕也、お前が悪いよ」
 僕の悪友は、自分がこの原因を作ったという事には全然気付いていなかった。
「わかってるけど…」
 だが、僕にはそう言う事しかできなかった。悪友の言う事は間違っていないのだ。
「ここはやっぱり、お前がオトナになるべきだぜ」
「オトナ…」
 そう…。やはり僕は、コドモだったのだ。
 僕は遙さんとの歳の差を結構コンプレックスに思っていた。僕の知らない事を彼女は沢山知っている。僕は、自分が彼女よりコドモだという事にコンプレックスを感じていたのだ。
 だが、コドモだったのは、僕自身のせいだった。僕が、もっと彼女の恋人としての自覚を持ち、自分に自信を持っていれば、そんなコンプレックスを感じなくても良かったのだ。僕は、その時、そう気付いて、愕然とした。全て、僕のせいだった…。
 もう、手遅れかもしれない。でも、諦めきれない。やっぱり彼女に会いたい。
 僕は彼女に会う決心をした…。

「なんだか、久しぶりね」
 いつもの喫茶店に、いつもの笑顔で彼女は待っていた。半月前の事が嘘のように、彼女はいつも通りだった。それが、緊張していた僕の心を落ちつけた。
「たった二週間なのに、もうずっと会ってないみたい…」
 彼女は微笑んで言った。その笑顔が、少し哀しそうに見えたのは、僕の気のせいではなかったはずだ。
「ごめん…」
 僕は言った。
「……」
 彼女は、何も言わず、僕を見つめていた。
「あの時の俺…どうかしてたんだ…。自分一人で早合点して、遙さんの話も聞かないで…傷つけた」
 彼女は、微笑んで首を振った。
 僕は続けた。
「俺…友達から、遙さんが他の男と歩いてるとこ見たって聞いて、ヤキモチ妬いてたんだ。コドモだったんだ、俺」
「……」
「もう、遅いかもしれないけど…俺、やっぱり遙さんの事が好きだ。遙さんじゃないと駄目なんだ」
「私だって……そうよ……」
 顔を上げると、彼女は泣いていた。涙で顔中を濡らして…。
 それを見て、僕は焦った。まさか、彼女が泣くとは思っていなかったのだ。
「私だって、ユウちゃんに会えない二週間、ずっと寂しくて…切なくて…。『ユウちゃん禁断症状』になってたんだから…」
「…ホント…?」
 彼女は小さく頷いた。
 遙さんは涙に濡れた顔で、僕に微笑んだ。
「でも、良かった。嫌われたんじゃなくて…」
 僕は急に彼女の事がものすごくいとおしく感じた。そして、僕は彼女の顔に僕の顔を近づけて、口付けた。
 店にいる他の客や、店員の視線が僕らに突き刺さったが、僕達は気にしなかった。

 それからというもの、僕達の仲は以前にも増して親密になっていった。
 後で聞いたことだが、例の一緒に歩いていた男は、彼女のバイト先の店長で、妻子持ちらしい。あの夜は、いつもより遅くひけたので、店長にアパートまで送ってもらったのだそうだ。
 もちろん、クリスマスは二人ですごした。僕は、クリスチャンでもないし、キリストの誕生日なんてどうでも良かったのだけれど、彼女はやはりその日を重要視していたらしい。
 彼女の部屋で、シャンペンとケーキを挟んで見詰め合った。そして…その夜、僕らは結ばれた…。
 心も身体も一つになった夜、僕は彼女の言葉を思い出して笑った。
──『ユウちゃん禁断症状』か…
 会えない時ほど会いたくなる。なかなかいいじゃないか。それだけ相手の事が好きって事だ。
 僕達はこれからも何度か、その『恋人禁断症状』に悩まされながら付き合っていくのかもしれない。でも、それもある意味贅沢な付き合い方かもしれない…と、僕は思うのだった…。

Fin.





 ★☆ あとがき(1) ☆★

 …と、いうワケで、『Lovers Withdrawal Symptoms』でした。
いやはや…この作品は実は初めての短編なのですが、終始、スラスラと書く事ができました。
 ここで言っておかなければならない事は、これは完全なフィクションという事です。実を言
うと、僕はまだ『例の経験』もしていません(爆) もちろん、年上の恋人なんて、いるわき
ゃない(-_-;)
 なのに、何故こんな話を書いてしまったのでしょう…? 未経験の僕が、こんなエラそうな
事言ってていいんでしょうか?(^_^;)
 最近、山田詠美さんという作家さんの小説にハマっていて、その影響が色濃く出ているよう
な気がします。内容じゃなくて、文章がね…。内容が似てるなんて、恐れ多くて言ません!!
(笑)

 それでは、この作品が少しでも多くの人に楽しんで読んで貰える事を祈って…。
 ’00.12.30


 ★☆ あとがき(2) ☆★

 この作品は、ちょうど7年前(高校2年の時)の年末に書いたものですね。
 若さ爆発ですね、恥ずかしい(笑)
 去年、僕の日記でも連載しました。
 一応、短編として人に見せられる作品の一つという事で、今回も掲載する事にしましたが、いかがだったでしょうか?
 ご感想など、お待ちしています。
 ’07.11.16

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