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★より正しい健康情報の読み方コミュの毒性学の初歩【ニッケルは安全か】 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=10718011&comm_id=275786

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http://www.nickel-japan.com/isnickelsafe.pdf

ニッケル協会(Nickel Institute)
ニッケルは安全か?
毒性学の初歩
Bruce R. Conard
NIDI Technical Series No.10082
Printed with permission from
The Metallurgical Society of CIM
Presented at the
Nickel-Cobalt 97 International Symposium
Sudbury、 Ontario、 August 1997
    
  
                
ニッケル協会(Nickel Institute)                                      1
このレポートは1997年に開催された「ニッケル−コバルト国際シンポジウム」で
発表されたものを、CIM より許可を得てプリントしたNIDIテクニカルシリーズ
No.10082を和訳したものである。
ニッケルは安全か?
毒性学の初歩
Bruce R. Conard
Inco Limited
Toronto,ON,Canada
環境や人間の健康が、ある種の化学物質により危険にさらされている。 この事実はまさ
しく現実に起こっている問題であり、我々はこれらの危険性を評価管理して危害を防止し
なければならない。 しかし、ニッケルのような金属元素の場合,一般の人々や規制当局は、
ニッケルを含有する化合物はすべて毒性が同じであるとして、毒性情報を事実に反する
程に簡略化し、誤り伝える傾向がある。 このため、 「ニッケル」 (あらゆる化学形のニッケル
化合物を意味する)は環境に対して危険物質であり、人間の健康を脅かす物質であると
いう間違った考えを持っている人が多い。 今まで行われてきた動物やヒトの健康に関す
る研究により、ある特定のニッケル化合物については取扱管理に注意を要するが、大多
数のニッケル化合物や金属ニッケル(合金を含む)は健康に悪影響を及ぼす原因物質で
あるという証拠が余りないことが判明している。 本論文ではこれらの研究結果を概説する。
また、知見の落差とこの分野において現在行われている研究についても論述する。
 この概説論文は
”Nickel-Cobal at 97 International Symposium “Pyrometallurgical Operations
Environment Vessel Integrity in High-Intensity Smelting and Converting
Processes''で発表され、 C. Diaz、 I. Holubec、 C. G. Tan編集の同シンポジウム講演
論文集に収録されている。
序論
 毒性学とは、潜在的毒物に関する学問であり、生体異物(すなわち、生物個体に対する
外来性物質)が生物に与える有害影響(作用)を研究対象としている。 毒性学は、生体異
物から得られる治療効果を研究する薬理学の一分野でもある。
 化学物質として知られているものには1千万以上の種類のものがある。 自然界に存在
する化学物質も多いが、人工的に作られているものも多い。 天然物質はすべて「良い物
質」であり、人工物質はすべて「悪い物質」であると断言するのは正しくない。 毒性が極め
て強い毒素が若干、自然界に存在しており、ある種の生物を他種生物から防護して、それ
らの進化を助けてきた例もある。 合成化学物質の中にも良性のものもある。 しかし、毒性
学に対する関心事のおおくは過去数十年間、種類が比較的多い新規製造化学物質に
ニッケル協会(Nickel Institute)                                      2
向けられ、それらの有害性を知ろうとすることにあった。 北米では毎年約500種類の化
学物質が新たに製造され、既存の何万種類もの化学物質と共に日常、人や自然環境と
接触している。 人と環境の健康を守ろうとするならば、化学物質の有害性を認識し、化学
物質がもたらすリスクを管理しなければならないことは明瞭である。
 本論文では、化学物質(金属含有化合物の構成比率は小さい)の考察とニッケル含有
物質の特定な毒性に限定して解説する。 特定物質の性質を把握評価する上で重要な
ことは、毒性反応の測定に伴う複雑性を認識することである。 このため、先ず、毒性学一
般と疫学(人間集団における疾病について研究する学問)について若干の初歩的な解説
をした上で、特定のニッケル化合物のヒトと動物に対する毒性について説明する。 最後
に生態毒性と物質の「環境分類」に関する問題点について述べる。
毒性学
 Toxicology (毒性学)という用語は「弓矢」を意味するギリシャ語の”toxon” 、さらに具体
的に言うと、 「矢毒」を意味するギリシャ語の”toxikon”に由来する。 事実、天然の毒物が
狩猟や戦争に役立っことが早くから見出されていた。 知識が豊富になり、自殺や死刑、
政治的暗殺などに毒物を使うようになったのは遠い昔のことではない。 イタリアのボルジ
ア家が、毒物による暗殺を処刑の一つの方法として定めたのは15世紀のことである。
パラケルスス(Paracelsus、 1493 -1541)の研究により毒性学は科学として劇的な進展
を遂げた。 彼は化学物質の治療上利点となる性質と毒性とを区別、認識して実験を行い、
近代毒性学の基礎を築いた一人である。 彼の最も重要な業績の一つは、用量により、ど
んな物質でも毒性物質として類別できるとしたことである。
 「有毒でないものとは何か。 化学物質はすべて有毒であり、有毒でないものは皆無で
ある。 用量によってのみ薬であるか、毒であるかが決まる」
(Paracelsus) (1)
 上記パラケルススの引用句は現代では、すべての化学物質に対して安全な用量と有害
な用量とがある。 したがって、用量と暴露に関する情報の記載がない「有毒化学物質」と
いう表記は矛盾語法であると言い換えられている。(2) この端的な例が水である。 水は適
度の用量を経口摂取することが生命の維持に必要である。 しかし、水を吸引すると致命
的な溺死状態になることがある。 また、比較的短時間に過剰の水を摂取すると、たとえ摂
取量が適量であっても、電解質の不均衡が原因で病気になることもある。
 生物の活動に必要な金属は、冶金家にとって身近な所にある物質である。 銅・亜鉛・ク
ロム(?)などの金属は人体内の酵素の必須成分であり、鉄は酸素を運ぶヘモグロビンに
必要である。 ニッケルはある種の植物の代謝に欠かせない元素である。 生物の組織内
に遷移金属が存在するのは進化の驚くべき結果である。 遷移金属が多価の原子価をと
り得ることから、炭素を基本構成元素とする生物は、酸化還元反応とエネルギー変換のた
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めの効率的な仕組みを発達させてきた。
 生命はいろいろな成分から成る原始スープ内で出現した。 無機物表面(鉱物)が複雑
なアミノ酸の生成に重要な役割を果たしていたのではないかとの学説すらある。 生物は
すべて、ある程度の量の外来性化学物質を処理する精巧な仕組みを備えている。 これ
は不思議なことではない。 生物にはこのような防御機構があるため、すべての毒物に対
して「安全な用量」が存在することになる。 「安全な用量」とは処理できる量を意味する。
生物が正常な方法では対応できなくなり、不健康な状態が現れるのは、高用量または慢
性的な用量の外来性異物の過負荷が生物にかかったときである。 毒性学の重要な要素
の一つは、どの程度の用量でどんな作用(影響)が特定の生体に発現するかを確定するこ
とである。
毒性学の基礎
 毒性学の基礎を以下に解説する。 優れた教科書が多く出ているので、詳細については
それらを参照されたい。(3) (4) (5) (6)
 毒性学の一般的な要素は図1に示すように相互に関連している。 先ず最初に検討し
なければならない要素は物質そのものである。 生体組織と相互に作用し合う物質の能
力を決める性質には溶解度(水と生物体液に対する) ・反応性・光感受性・物理的状態・
分子またはイオンの大きさ・酸化状態・電気陰性度などがある。(7)
 影響(作用)を受けるには、生体が物質に暴露されねばならない。 この暴露は考えられ
ているほど直接的なものではない。 暴露経路は重要である。 生体はすべて、外界から遮
断する種々の膜により保護されている。 一次暴露に対する最も重要な膜は肺と鰓(呼吸
の場合) 、胃腸管(食物摂取の場合) 、皮膚などに存在する。 これら以外に重要な膜とし
ては脳組織と血液を分離している膜や胎盤膜、個々の細胞膜などがある。 しかし、暴露
量と用量とは同じ意味ではない。 暴露量とは生体外の物質の濃度である。 用量とは暴
露により特定経路から生体内に取り込まれた物質の量である。
 物質が生体内に取り込まれるためには、膜を通過しなければならない。 この現象が「吸
収」である。 吸収に及ぼす因子は多い。 重要な因子には生体の一般的な健康状態、対
象となる膜の特定健全性、暴露の期間・種類・形態(回復期間が重要と思われる) 、種差、
性別、年齢、一般的環境、温度、季節/日周性要因、生体異物の存在などがある。  
 毒物はいったん生体内に入ると、主として血液により運搬され、ある臓器(標的臓器)に
分布して有害反応を引き起こすことがある。 すべての生体には毒物を処理できるシステ
ムが無数にある。 毒物を除去する一つの方法は排泄である。 排泄経路は尿(腎臓が血
液を浄化し、尿として排泄) ・消化管からの糞便・呼気・分泌(汗、唾液など)などである。
 別の毒物処理方法は代謝である。 代謝は極めて複雑である。 代謝の結果、物質が貯
蔵される場合もある。 貯蔵は、生体にとって不可欠な物質を必要なとき確実に利用できる
ようにしておく一つの方法である。 物質が貯蔵されて貯蔵臓器に影響が出始める場合も
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ある(肝臓や腎臓の場合、これが普通である) 。 時として、ある物質が(例えば、鉛が骨に)
貯蔵され、暴露後、長時間経ってから標的臓器に問題を引き起こす原因となることもある。
また、物質の貯蔵と排出が同時に進行する場合もあるし、排出が続いても暴露後長時間
経ってから標的臓器に影響が出始める場合もある。
 生体異物の代謝による解毒の主要過程の一つは、 (腎臓を介して除去できるように)異
物を水に溶けやすい形に変換することである。この変換は主として肝臓によって行われる。
 肝臓では酸化・還元・加水分解・脱メチル化・脱アミノ化・スルホ酸化など数多くの反応
が起こっている。 これらの反応はしばしば肝臓に存在する特定酵素が触媒の働きをする。
反応の結果、毒物は最終的に胆汁を介して腸内に排出され、糞便として排泄される。 生
体の解毒防御機構は常時働いているが、ある特定の毒物は標的臓器に到達することが
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Absorption
吸 収
Excretion
排 泄
Turnover/Repair
転換/修復
Distribution
分 布
Metabolism
代 謝
Storage
貯 蔵
Target Organ
標的臓器
Toxic Response
(Dysfunction)
毒性反応
(機能不全)
図1   毒性作用における重要因子
Exposure
暴 露
Substance
(Physico-chemical properties)
物質(物理化学的性質)
Specific Membrane
特定の膜
(route of exposure)
(暴露経路)
多い。 毒物が標的臓器に達しても必ずしも毒性反応が起こるとは限らない。 標的とされ
て損傷を受けた細胞は絶えず死滅し、影響を受けていない新しい細胞により補充される
か、または、特殊な細胞作用により修復されるからである。
 用量一反応関係は普通、図2に示したような形をとる。 上に述べた解毒機能がすべて
働くため、生体はある量の毒物を処理できることが明らかである。 このため、すべての毒
物には自然の道理として、閾(いき)値(それ以下では毒性反応が起こらない用量)がある。
また、死は厳粛とはいえ、一つの反応(または終点)にすぎないことを認識することも重要
である。 他の終点としては生体の全体的な物理的外見・成長速度(発育中の場合) ・体
重の減少(成熟している場合) ・挙動・血液学的指標・腫瘍発生などがある。 用量一反応
曲線を調べる場合、絶対必要なことは、どの終点を測定対象としているのか、終点をどの
ように測定しているのか(局在性か全身性か、急性か慢性か、可逆的か非可逆的かなど)
を知ることである。 また、含有毒物を除き、あらゆる点で被験体と同じ対照を用意すること
も不可欠である。
                 図2 典型的な用量−反応曲線
 
 普通用いる毒性の尺度は、一つの数字、被験体の5 0%に効果を現す有効量(ED)ま
たは有効濃度(EC) 、すなわちED50値またはEC50値で示される。 また、死亡率を終点と
して致死量L D50値または致死濃度L C50値として表す場合も多い。 用量の単位は通
常、 mg(毒物)/kg(体重)である。 連続投与の場合は分母に時間の単位が含まれる。
 よく知られている化学物質のLC50値(ラットの実験結果から算出)を表1に例示する。
 
   
ニッケル協会(Nickel Institute)                                      6
Threshold: 閾値
NOAEL: 無作用量
LOAEL: 最小作用量
用量(対数)


を示
した動

の数
実験ポイント
    表1 LD 50値(ラットの場合。注射)
化学物質LD 50( ?/?)
エチルアルコール10,000
塩化ナトリウム4,000
モルヒネ硫酸塩900
ストリキニーネ硫酸塩2
ニコチン1
ダイオキシン0.001
 LC50値が最も小さい物質が一般論として最も強力な毒物である。 しかし、ほとんどの場
合、用量一反応関係曲線が重要である。 用量一反応関係曲線は閾値に関する情報を
示しており、その曲線の勾配は毒物の作用に関する情報を示しているからである。 すな
わち、曲線の勾配が急な場合は特定臓器に対する特定効果がより大きいこと示している。
他の重要なパラメーターには無作用量(有害性が認められない最大投与量、 NOAEL)
と最小作用量(有害性が認められる最小投与量、 LOAEL)とがある。 定義上当然のこと
として、閾値は実験により求められるこれら二つの値の間にある。
化学物質の毒性評価
 化学物質の毒性は基本的に次の三つの方法により測定される。  
  ・in-vitro(試験管や培養器内での)実験
  ・動物実験(生態毒性試験を含む)
  ・人間(人口)集団
 in-vitro実験は、生体そのものとは無関係に動物やヒトの組織(細胞)を用いて行われる。
この実験はぺトリ皿または試験管内で行われる。 このような実験には明らかに多くの利
点(例えば、生きた動物群の保持管理が不要)があり、特定の細胞反応や遺伝子毒性の
研究には非常に有用である。 勿論、生物自体の複雑性が欠如しているので、生物全体
の反応が分からないという大きな欠点がある。
 in-vivo(生体内での)すなわち、生きた動物そのものを用いる実験は極めて複雑であり
費用も嵩む。 in-vivo試験には急性毒性試験(何日間かの期間に迅速な効果が期待で
きる高投与量で行う)から慢性毒性試験(実験動物(通常げっ歯動物)の寿命期間1〜3
年にわたり低投与量で行う)までが含まれる。 人体実験は倫理的理由で実施できないた
め、通常ヒトの代わりに哺乳類動物を用いて行う。 (動物の権利に関する議論は本論文の
範囲外であるが、毒性を特定するために、我々の現状の知識レベルで「重要物質」につい
ての実験が必要なことは明白である。 実験で得られた毒性に関する知見は、人間の地域
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社会や動物群集、植物群落などの共通の利益に対する危害を管理するのに役立てるこ
とができる)
 実験に使用する動物の種や系統および暴露経路は、ヒトの場合に問題となる暴露と可
能な限り近似するように対応させるべきであるが、最も容易な(最低費用の)方法を採用す
ることが多い。
 問題は、得られた実験結果をどのようにしてヒトに外挿するかである。 例えば、ラットは、
肺胞マクロファージを介して肺から非繊維性粒子を除去する能力が極めて貧弱であり、
ラットに高投与量の微粒子状物質を与えて行う肺癌試験の結果から、低投与量における
ヒトへの影響を推定しても意味がないと思われる。(8) それにもかかわらず、ラットの使用が
続けられており、試験結果は依然として論議の的となっている。
 外挿には不確実性が伴うため、ほとんどの場合、ヒトを過剰に保護する方向で安全係数
が決められる。 したがって、動物データから算出される無作用量(NOAEL)は通常、安
全係数を用いて更に低い値とされる。 安全係数は通常 0.1で、外挿する場合以下に例
示するように特定要素に関係付けている。
種間外挿(例:ラット→ヒト外挿)の場合1/10
高投与量から低投与量に外挿する場合 1/10
感受性が最も高い固体を保護する場合1/10
 したがって、ヒトに対して安全な投与量として推奨されているレベルは、動物に対して影
響(作用)が認められない用量の1/100〜1/1000であるのが普通である。 安全係数に関
する問題は、毒物研究者や専門家、開業医などに今後とも付きまとい続ける問題である。
実験を必要とする化学物質が何万種類にもなり、より精密な試験に利用できる資源と技
術が限られているからである。
疫学
 人体に対する毒性は疫学の分野を介して評価できる。 疫学とは人間(人口)集団こおけ
る疾病の分布と頻度を研究、特定する科学である。 疫学の関連領域である労働疫学は、
疾病と労働環境における原因物質(要因)への暴露との関連性を究明する科学である。
疫学研究に重点を置くことで動物実験に頼らなくなったからといって、それで科学者とし
ての我々の生活が単純化されるものではない。 疫学はそれ自体、極めて複雑な科学の
一分野であり、その研究方法には多くの異なった方法がある。 各種の研究方法には長
所もあれば短所もあり、厳しい基準(判定条件)が設定されるが、すべての判定条件が満足
に満たされることはあり得ない。 したがって、疾病と原因物質が同一でも、特に両者の関
連性が貧弱または中等度であると、その疫学研究結果にバラツキが生じることが多い。
このような場合には、他の判定条件を援用して事実を選び出す必要がある。 いずれにし
ても、結果については議論の余地が多々ある。
 疫学的研究方法に関しては優れた教科書が多く出ているので、詳細についてはそれら
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を参照されたい。(10) (ll) (12) (13) 職業人口集団を対象として行う最も一般的な研究方法には
患者−対照調査とコホート調査とがある。(コホート:疫学調査において統計因子を共有
する集団) これらの調査方法の顕著な相遠点は図3に示されているように、調査員が追
求している知見と調査の時系列方向である。 患者−対照調査では、問題となっている疾
病の有病者(患者)と無病者(対照)についての知見を得た上で過去の事象を調べる。 求
める情報は暴露に関するもので、面接調査または質問書による調査が普通である。 最終
的に検証したいことは、ある特定暴露と患者症例との関連性を立証または反証することで
ある。
     図3 疫学調査方法の例
 
 コホート調査では調査対象人間集団についての実際の暴露量または暴露量の推定値
が判明しており、暴露以外のすべての点(年齢、性別など)で調査対象集団に類似する標
準人口集団が選定される。 標準集団の暴露量はゼロか無視できるほどに微量である。
前向きコホート調査には数種類の方法があるが、それぞれの共通点は、調査員が二つの
集団(すなわち、調査対象集団と標準集団)を明確に設定した上で将来のある時点にお
ける疾病の発生率(罹病率)を比較することである。 後ろ向き調査では、調査員が塵露デー
タを基にして人間集団を明確に設定した上で過去のある時点における罹病率を調べる。
 患者−対照調査は高価である。 面接と結果の照合に時間がかかるためである。 患者
−対照調査は高価であっても、適切に調査が行われれば、癌のような多因性の病気に
ついて個々の因子の役割を明らかにすることができる可能鮭が高い。 コホート調査は比
較的高価でもないが、安価でもない。 しかし、職業集団を対象とした調査としてはより一
般的である。
 調査結果は通常、標準化死亡率(または、病気発生の場合は標準化罹病率)として報告
される。 これらの死亡率(曜病率)は観測死亡数(病気の発生数を調べている場合は新規
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患者−対照
前向きコホート
後向きコホート
暴露疾病
調査員
調査員
集団 A
集団 B
Note:暴露を除く全ての点で集団Bは集団A と同じでなければならない
調査員
集団 A
集団 B
時間
時間
時間
観測症例数)を予測死亡数(症例数)で割って100 を掛けて算出する。 予測数は標準集
団の罹病率から求める。 したがって、標準化死亡率が100であるということは、調査対象
集団の死亡率が、問題としている暴露を受けていない集団の予測数と同じであることを意
味している。 死亡率は既知のパラメーター(例えば、年齢構成、暦年次など)によって変
動する。 このようなパラメーターの影響を消去して算出した死亡率が「標準化死亡率」で
ある。
 毒物と疾病との間に正の関係が認められても、別の視点から因果関係の解明を検討し
なければならない。 これは疫学の原則である。 解明すべき点は一般に、偶然性(すなわ
ち、統計的分析) 、偏り(すなわち、個人や集団の選定方法または情報収集方法に起因す
る誤差) 、交絡因子(すなわち、他の作用因子。 調査対象集団と標準集団は、疑いのある
毒物への暴露の形態・程度以外にも、色々な点で異なっているため、他の因子が結果に
影響を与える)などである。
 1965年にA.B.Hillが発表した論文は大きな影響を与えたが、同論文では疾病と暴露
の因果関係を推断する場合に評価しなければならない8つの重要な判定条件が概説さ
れてる。 これらの判定条件には関連性の強さ(標準化死亡率は10,000か150か? ) 、
関連の普遍性(一致性) (状況と時期が異なる他の研究調査でも同じ結果が再三再四観
察されるか? )、用量一反応関係の有無(暴露量が高いと罹病率が高くなるか? )などが含
まれている。 これらの判定条件は、偶然性・偏り・交絡因子などの評価とともに分析疫学
の基本である。 これらの因子を考察するには色々な方法があり、求めようとしている関連
性の強さは中等度か、または貧弱である。 このため、疫学的研究調査の結果には論争の
余地があることが予期される。 ニッケルとニッケル化合物についての疫学的研究調査の
場合も事情は同じである。
化学種と化学形の特定
 「ニッケル」の毒性学について議論する前に、政府規制は毒性に関する研究結果に由
来していることを認識することが肝要である。 政府規制は、有害物質の製造・梱包・出荷・
使用・処分などの結果、発生するリスクの安全管理に資することを目的としている。 残念
ながら、法制化に熱心な立法機関や規制機関が、物事を単純化したいがために間違った
結論を性急に下そうとすることが時々ある。
 それが最も明白に顕在化するのは金属の毒性に関する案件を扱う場合である。 非科
学者は一つの金属の化合物や化学形をすべて、単一の表題の下に、例えば、 「ニッケル
の毒性」または「ニッケルとその化合物」のように分類する傾向がある。 単純化しようとする
気持ちは理解できるが、化合物または化学種はそれぞれ、固有の物理化学的性質を持っ
ており、その挙動(例えば、生物学的相互作用)は、どんな条件下でもその特性に左右さ
れる。 これが真実である。 しかし、ニッケルイオン(Ni++)は生体組織に対する特異的毒物
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と見倣されており、化合物がニッケルを含有していれば、その化合物はすべてNi++を生
ずる能力があるに違いないと考えられている結果、若干の混乱が生じているのは明らか
である。 例えば、ニッケルを含む化合物はすべて、程度の差はあるがNi++ を放出する能
力があるので、すべてのニッケル化合物は同じ毒性を持っていると評価されている。 事
象がこのように単純化されてしまうと、 「ニッケル含有物質は、他の化学種の溶液内にお
いて特定条件下でNi++を放出する速度が異なる」という真実が無視されてしまう。 また、
ある物理的形状・大きさ・化学的性質を持っ微粒子状物質が生体内に侵入できる仕方も
無視されてしまう。
 この適例が微粒子状物質の吸入の場合である。 粒子が気道の異なる部位に沈着する
効率は粒子径により大きく左右される。(14) 粒子が気道部位に貯留すると、種々の機構が
働いて粒子を除去しようとする。 除去の成否は粒子の直径と形状に影響される。 同様に、
発癌(遺伝子の変化を要する)の過程においても、物質の特異的な化学的属性が、細胞
膜と核膜を透過してDNAに毒性作用を及ぼす物質の能力に大きな影響を与える。
 したがって、調査対象物質の「化学種と化学形を特定する」こと、すなわち、調査対象と
なっている金属含有化合物の化学的・物理的・形態学的な状態を十分に確認することが
本当に必要になっている。(15) これは意欲を阻害する課題である。 ニッケルの場合、
Zatkaらがごく最近、硫化鉱処理過程に存在する固相ニッケル化合物を金属・酸化物・
硫化物・可溶性物質の四つの成分に分解するための連続浸出法(sequential leaching
technique)について報告している。(16) カナダのニッケル製造産業において労働環境中
に存在するダストの測定に関し、物質のこのよう特定化は緒についたばかりである。 合金
製造やラテライト鉱からのニッケル製造、金属表面処理などの各操業工程で発生するダ
ストや環境空気中のダストに上記方法を適用するには、先ず同法により存在相(気相・液
相・固相)を区別できるかどうかを確認しなければならない。 この確認をせずに同法を上
記ダストの化学種や化学形の特定に使用しないよう注意しなければならない。
 水系と陸系に存在する化学種の量をその熱力学的性質を利用して計算することは可
能であろう。 しかし、平衡関係に影響を与える成分が膨大な数となるため、このような計算
は複雑となる。 したがって、実際の水に含まれている金属の化学種と化学形を特定でき
る分析方法の開発が必要である。
 要するに、ニッケルを単純に毒性物質として言及している政府や規制当局の布告・命令
などには、化学的根拠に基づいて疑念を抱いてみるべきである。 周知徹底を図りたいこ
とは多分、 「特定のニッケル化合物は、特定の毒性発現機構により特定臓器に対し毒性
物質として作用する。 この場合、用量および暴露経路も特異的である」ということである。
このように毒性の意味を限定することにより様相がまったく違ってくる。
ニッケル協会(Nickel Institute)                                      11
ニッケルとニッケル化合物
ニッケルの産出
 本論文中で使用している用語「ニッケル」は、種々の化学形で存在している「すべてのニッ
ケル」を意味する。 ニッケルの化学形について特に言及したい場合は、その種類(酸化物、
硫化物など)または化学式を特記する。
 ニッケルは地殻中に0.008%含まれており、地殻中含有量が24番目の元素である。(17)
広域鉱化作用と地球化学的活動のため、自然の土壌や水の中のニッケル含有量は様々
である。 米国の農業用土壌には平均0.003%のニッケルが含まれている。 北米の主要
河川系には3〜60 μg/L、非ニッケル鉱化地域の水道水には約5 μg/Lのニッケルが含
まれている。 海水のニッケル含有量は0.1〜0.5 μg/Lである。(18) 石炭と石油製品の燃
焼が環境大気中へのニッケル(酸化物)の発生源の一つである。 環境大気中の総ニッケ
ル含有量は地方部で5 ng/㎥、都市部で250 ng/㎥である。(19) 食品中のニッケル濃度
はエビ(0.03 ppm)、リンゴ(0.08 ppm)、豆類(1.6 ppm) 、紅茶(7.6 ppm) 、重曹(13.4
ppm)である。(18)
ニッケルカ−ボニル(Ni(CO)4)の特殊ケース
 ニッケルカ−ボニルの急性毒性はよく知られている Sundermanが指摘している初期
症状としては前頭部頭痛・めまい・吐き気・胸痛・空咳などである。(20) 急性毒性の遅発(二
期)症状は化学性肺炎を特徴とする。 また、大脳障害を伴い死に至ることもある。
ACGIH(全米産業衛生政府専門官会議)は、 8時間/日許容濃度(TLV、閾値)の時間加
重平均値(人が全生涯労働期間にわたり多分、暴露されると思われる値)を0.12 ? /㎥
(Ni として)または気中濃度50 ppb と設定している。(21) ニッケルカーボニルは脂溶性で
あるため、気体状で吸引されると肺胞の膜を急速に透過して血液中に入る。 暴露の程度
(過酷度)は通常、暴露後12時間以内に採取した尿試料中のニッケル濃度で推定する。
尿試料の分析結果は各個人の基準ニッケルレベルについて補正し、ニッケル量の増加
が暴露によるものであることを確認する必要がある。 治療は暴露の程度により異なるが、
症状が重篤な場合は解毒剤を用いて処置する。 LC50(20〜30分の暴露)は動物実験
により、ラットの場合100 ? /㎥、イヌの場合2500 ? /㎥であることが分かっている。(22)
ニッケルカーボニルには遺伝子毒性があると示唆している動物実験もあるが、一般にニッ
ケルカーボニルを発癌性物質(変異原物質)として分類するにはデータが不十分である。
暴露経路
皮膚接触による過敏症
 金属ニッケルやニッケルの可溶性塩類は強い感作物質で、アレルギー性接触皮膚炎を
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誘発することがある。 感作は可溶性のニッケルに長期間密着していると起こる。 ニッケル
に感作されている人は女性の方(女性人口の推定10〜15%)が男性(男性人口の推定1
〜2%)よりも多いのは、耳に穴をあける時の組織閉鎖を防ぐために用いるニッケル含有
スタッドが原因であると考えられている。 感作されている人が可溶性ニッケルまたは金属
の軽度の暴露(経皮または経口摂取による)を受けると、反応が引き起こされることがある。
接触性過敏症の病理学や予防治療法、ニッケル塩類の吸入により誘発される喘息と接
触性過敏症との関係などが世界各国で大きな関心事となっている。(23) 接触性皮膚炎は
ニッケルの製造業界や使用業界では観察されていない。 この事実は、ある種の暴露によ
り耐性を獲得していることを示唆している。 興味深い注目すべき現象である。 ある研究
討論会(24)が最近、ブラッセルで開かれたが、その会の目的は知見の落差を明確にして、こ
の分野の研究をより重点的に促進することであった。
摂取
 ニッケルの可溶性化合物は、経口摂取した場合、不溶性化合物より毒性が強い。 しか
し化合物の溶解度を順位づける(評価する)場合は、消化管中に存在する酸性の消化液
を考慮に入れるべきである。
 2才の幼女が硫酸ニッケルの結晶15g を取り込んでしまったため、硫酸ニッケルによる
中毒で死亡した症例が1件報告されている。(25) また、死には至らなかったが急性毒性の
症例が、硫酸ニッケルと塩化ニッケルで汚染された水を誤飲した電気めっき作業者の1
群について報告されている。 摂取量は0.5〜2.5g と推定されている。 悪心や嘔吐、腹部
不快感、下痢などの症状が急速に現れ、数時間持続したケースが最も多かった。 尿中ニッ
ケル濃度が1000 ?/L と高かったが、慢性的な影響はどの作業者にも観察されなかっ
た。(26) 尿排泄の場合の可溶性ニッケルの半減期は17〜39時間である。
 通常の食餌にニッケルを混入してイヌとラットに与えた場合摂取ニッケル量の90%以上
が糞便として排泄されることが観察された。(27) 同じような結果がヒトの場合にも得られて
いる。(28) ニッケルの吸収率は明らかに、食物の種類と含まれているニッケルの化学種に
左右される。
 ニッケル生産者環境研究協会(NiPERA)の後援により最近行ったヒトについての実験
では、飲料水からのニッケルの吸収率は、胃の中に食物があるかどうかで大幅に変わるこ
とが判明している。 胃が空の時は飲料水中に含まれているニッケルの16%が吸収される
のに対し、胃が一杯の時は水からのニッケルの吸収率は4%である。 ニッケルが食物中
に含まれている場合の吸収率は2.5%である。 生体は異物を意のままに除去する様々
な機構を備えているので、異物を吸収または投与しても必ずしも毒性が発現するとは限ら
ない。 留意すべき点である。
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吸入
 労働環境で最も重要な暴露経路は吸入である。 ニッケルカーボニルガスの急性毒性
作用についてはすでに説明した。 粒子状物質を吸入すると別の毒性反応が現れる。 こ
の反応は通常、長期的な性質のものであり、粒子状物質が肺内の体液中で徐々に溶解し、
Ni++が血液により腎臓や肝臓などの標的器官に運ばれる結果、または粒子状物質が直
接、食作用により肺の上皮細胞に取り込まれて、潜在的に遺伝物質と相互作用する結果
起こる現象である。 毒性反応は、肺癌の場合に考えられているように、これらのメカニズム
の相乗作用の結果起こることが多い(表2参照)。
 急性毒性反応の例が1件Rendallにより報告されている。(29) これはニッケルをアーク
溶射していた作業員が酸化ニッケルとニッケルの両方に暴露されてショック肺で死亡した
ケースである。 暴蒔濃度は約400 ? Ni /㎥ と推定された。
癌の疫学
Dollの研究調査
ニッケルとニッケル化合物に関係がある発癌によるとヒトの健康リスクについて行った最
も権威ある研究は、ヒトにおけるニッケルの発癌作用に関する国際委員会
(International Committee on Nickel Carcinogenesis in Man 、会長:英国の有名
な疫学者Richard Doll 卿)によって行われた研究である。(30) この委員会では職業人口
集団(後ろ向きコホート調査)に関し当時利用可能だった情報を詳細に解析した。 誠査
対象にはニッケル硫化鉱製錬・精製会社(Inco、 Falconbridge、 Outkumpu)やラテラ
イト鉱製錬会社(Hanna、 Eramet) 、合金製造会社(IncoのHmitington、Herefordの
Wiggin) 、ニッケルユーザー(Oak Ridgeガス拡散工場)など10社からのコホートが選
ばれた。 多くの疫学研究調査の場合と同様に、暴露に関する評価が困難であったが、酸
化物・硫化物・可溶性物質・金属などの化学種に基づいて暴露量を推定した。 調査対
象コホートメンバーは、色々な「仕事」に従事して数種類のニッケル化学種に暴露された
可能性があったため、混合暴露が別の課題となった。
 ニッケルの硫化物、主としてNi3S2が肺癌と鼻癌に関係していることが立証された。 し
かし、暴露は常に複合暴露で、暴露物質はニッケルの酸化物(主に緑色のNiO)と可溶性
の化学種であった。 一例として、 1937年以前にClydachでか焼・ミリング・粉砕に従事
していた作業者(Ni3S2への推定暴露濃度は10〜100 ? Ni/㎥)の肺癌・鼻癌死亡デー
タを表2に示す。
 1962年まで稼働していたInco−Copper Cliffシンタ一工場は1954年以前のダスト
レベルが極めて高く(40〜100 ? Ni/㎥) 、同工場の作業者には肺癌と鼻癌による死亡
と暴露との関係が表3に示すようにはっきりと認められた。
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表2 Clydach か焼工場作業者肺癌・鼻癌死亡数(1937年以前に就労した者)(30)
肺癌死亡数鼻癌死亡数
就労期間(年) 観測*予測標準化観測*予測標準化
5未満4 1.4 280 1 0.009 11000
5 − 9 6 0.70 860 3 0.004 67000
10 − 14 4 0.26 1560 1 0.002 47000
15以上2 0.007 28000 2 <0.001 120000
全体12 2.4 725 7 0.0016 45000
*England と Wales の死亡率基準
 
表3 Inco Copper Cliff シンター工場対象者の肺癌・鼻癌死亡数(30)
肺癌死亡数鼻癌死亡数
就労期間(年) 観測*予測標準化観測*予測標準化
1未満15 12.0 125 0 0.1 0
1 − 4 15 4.3 350 2 0.04 5700
5 − 9 12 1.6 740 1 0.01 8200
10 − 14 20 2.2 920 2 0.02 12000
*Ontario州 の死亡率基準
 IncoのPort Colborne精製工場、特に浸出・か焼、焼結などの部門の作業者も、主と
してニッケルの酸化物と硫化物への高ダスト負荷(5〜80 ? Ni/㎥)暴露を受けており、肺
癌と鼻癌のリスクが著しく高くなっているのが観察された(肺癌標準化死亡率 = 239 、
95%信頼区間 = 187〜302 、観測死亡数 = 72、予測死亡数 = 30; 鼻癌標準化死亡
率 = 7800、 95%信頼区間 = 4700〜12000 、観測死亡数 = 19、予測死亡数 = 0.24)。
 ニッケルの酸化物も肺癌と鼻癌に関係しているが、作業者は常時、かなりの混合暴露を
受けていた。 Clydach とKristiansandではニッケルは銅と常に共存しており、呼吸器
癌のリスクが高かったが、銅を含まず鉄が多量に含まれているラテライト鉱の操業工場で
は呼吸器癌の増加は認められなかった。 しかし、様々な工程におけるニッケル含有ダス
トへの暴露程度(過酷度)が異なっていたため、実態は不明瞭である。
 IncoのConiston とFalconbridgeのシンタ一工場においては、ヒ素が肺癌の危険性
(鼻癌の危険性でないのは興味深い)を高める役割を果たしている可能性があるのでは
ないかと疑われている。 同様に、 Clydachにおいて肺癌と鼻癌の症例が1925年以降、
劇的に減っているのは、ヒ素の含有量が高い硫酸(H2SO4)を使用する浸出操業を中止し
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たことと、この操業からのニッケル精鉱を再循環処理したことに関係しているのではない
かと思われている。(31) これらの問題点はさらに解析が必要である。
 Oak Ridge 工場における暴露物質は金属ニッケル( <1 ? Ni/㎥)だけである。 同工
場の肺癌総合標準化死亡率は60(95%信頼区間 = 27〜113、観測死亡数 = 15.1、予
測死亡数:米国の死亡率に基づく)であったので、 ICNCMは金属ニッケルを呼吸器癌
に対する有害物質として見倣さなかった。
 可溶性ニッケルの発癌過程における役割は論議の的になっている。 ICNCMの研究
調査ではKristiansandの電解部門作業者に肺癌が多発した強力な証拠が示されてい
る。 同工場の暴露濃度は1967年以前は1〜5 ? Ni/㎥が普通で、暴露物質は主として
可溶性ニッケルと推定された。 しかし、可溶性ニッケルの累積暴露量は最大だが、酸化
物と硫化物の暴露量が少なかったClydach工場の湿式冶金部門の男性作業者の場合
リスクが増えた証拠はなかった。 しかし、 Clydachの作業者達は、癌の強力なイニシエー
ター(例えばNi3S2)が存在すると、可溶性ニッケルは癌を促進させる役割(以下の説明を
参照)を果たしていると指摘している。 この可能性が、 Kristiansand とPort Colborne
の電解作業者間の肺癌・鼻癌死亡率の違いを説明するのに役立つ。 Port Colborneの
2000人近くの作業者には顕著な肺癌過剰死亡率が認められず(標準化死亡率 = 88、
95%信頼区間 = 53〜137 、観測死亡数 = 19、予測死亡数 = 21.6) 、また暴露期間が
長くなっても統計的に有意な増加傾向も観察されなかった。 ICNCM は「これらの工場
間の死亡率の違いは、 Kristiansandにおける不溶性ニッケルの高濃度暴露が原因で
あると考えられる」と結論した。 また、 「呼吸器癌のリスクは主として、 >10 ? Ni/㎥の不
溶性ニッケルと>1 ? Ni/㎥の可溶性ニッケルへの暴露と関連性がある」とも結論した。
「不純物を含まない」可溶性ニッケルに関する疫学的研究調査は電解作業者を対象とし
て現在も続けられている。
Inco Ontario事業所の最新情報
 疫学的研究調査はICNCMの報告書が出されてからも続行された。 Robertsらは
54,509人のニッケル作業者からなるIncoのコホートを調査した。(32) 肺癌・鼻癌の過剰
リスクがCopper Cliff とConistonのシンタ一工場とPort Colborneの浸出・か焼・ばい
焼工場の作業者に観察された。 これはICNCMの調査結果と一致している。 咽頭癌・
腎癌(従来、ニッケルの暴露と関係していると考えられていた)に関しては、リスクの過剰増
加傾向(Ontario州の人口と比較)が高濃度の暴露を受けたグルー-プに認められなかっ
た。 低濃度の暴露を受けたグループについても調査が行われた。 鉱山労働者における
肺癌リスクはあまり大きくはなく、偏り(例えば過剰喫煙が原因の偏り)の除去が難しい(つま
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り、過剰喫煙の影響を消去できない)範囲内に完全におさまっていた。(25) 銅精製工場作
業者、特に鉛の溶接工と電解工場のクレーン操作員に観察された肺癌の過剰増加は追
跡調査が必要と認められた(職歴25年以上の作業者の場合:標準化死亡率 = 200 、観
測死亡数 = 26、予測死亡数 = 13.3)。
Inco Thompson事業所の作業者
 Thompsonのニッケル作業者を対象とした調査が1991 年、 Roberts らにより実施さ
れた。(33) 肺、鼻、咽頭または腎臓の癌に統計的に有意な増加は観察されなかった。 就
労期間が1年未満の男性作業者に肺癌が異常に多かったが、職業との因果関係はない
と結論付けられた。
高ニッケル合金工場作業者
 Redmond と協同研究者は、米国内の13ニッケル合金工場で1940年代末から1960
年代中頃まで雇用されていた男女31,165人を対象に1988年までの死亡率(61の調
査対象カテゴリー)の調査を行った。(33) この調査により、死亡率を全米人口集団と比較し
た場合,
過剰死亡率はあまり大きくないことが判明した。 しかしながら、特殊(病)因による死亡割
合が地域性(環境、生活様式、都市化、遺伝的影響などの因子)により著しく変動するので
はないかと思われたので、補完的な調査が別の標準人口集団2個を用いて行われた。
(35)
 最初の調査で観察された死亡率の増加は、地元人口集団と比べた場合,事実上すべ
て有意でない水準にまで下がった。 用量−反応関係は認められなかった。 結腸癌の過
剰リスクが非白人男性に認められたが、これは一工場だけに特異的な現象であった。 溶
解作業に従事したことのある作業者に腎癌の過剰リスクが僅かに認められたが、就業期
間との関連性がなんら観察されなかったので、おそらく職業とは関係がないと思われる。
これらの調査結果は、死亡率を比較する場合、最適標準人口集団の選定がどんなに重
要であるかを示している恰好の見本である。
Julian-Muirの罹病率調査
 過去数年間に行われた研究調査で最も論議の的となったのは、 McMaster大学が
Inco とFalconbridgeのOntario事業所で1950年以降雇用され、最低6か月の非事
務職を経験した男性従業員を対象に行った調査であった。 癌罹病率(すなわち診断症
例)の追跡調査が、最初の暴露から最低15年経過していた男性を対象に1964年から
1989年までの間実施された。 シンタ一工場における暴露量については事前に分かって
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いたので、シンタ一工場またはPort Colborneの浸出・か焼・ばい焼工場で働いたこと
のある従業員は特別に分離してサブコホートとした。
 症例数(患者数)はオンタリオ州癌記録簿(Ontario Cancer Registry)で確認したが、
特に問題となったのは、コホートメンバーが州外からの移住者で癌に罹った場合、症例
数として数えられなかったことであった。 このため偏りを過少評価する結果となった。 暴
露が短期間であった男性は引っ越し回数が比較的多いことが確認されたからである。 結
果的に暴露量−反応関係が実際なかったのに量−反応傾向が示されたのかもしれない。
 罹病率調査を行った具体的な理由は咽頭癌に焦点を絞ることであった。 咽頭癌は治
療成功率が高く、死亡/患者比率が低いため、死亡率調査では傾向が見落とされる結果
的となる。 3 5年間以上粉砕工程で働いていた作業者を除き、咽頭癌について統計的
に有意な増加傾向が認められなかった。 労働環境における暴露情報(ニッケルまたはニッ
ケル以外の物質に関する)がなかったため就労期間が暴露量の代わりに用いられた。 こ
のような方法はよく用いられるが、暴露量が経時的に変動したり、作業者グループが均一
な暴露を受けていない場合には有効な方法ではない。 このような不確実要素があるとし
ても、咽頭癌の過剰リスクについてはさらに調査が必要である。
 肺癌の過剰リスクがシンタ一に暴露された作業者に観察された。 また、これらの作業者
には肺癌と暴露期間との間に明瞭な関係があることも認められた(図4参照) 。 この傾向
は、 ICNCMが纏めた死亡率調査結果と一致している。
 図4 Inco Copper Cliff シンター工場コホート(最初の暴露から10年以上)の肺癌
 患者(資料:Julian- Miller 調査)
 粉砕・製錬作業者(シンタ一作業者ではない)に肺癌の過剰増加傾向は見られなかった
(例えば、図5を参照) 。 しかし、 25年以上にわたり暴露された地下鉱山作業者に統計
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暴露期間(年)
的に有意な肺癌の過剰増加が観察された。
       図5 Ontario 製錬作業者(Inco + Falconbridge) の肺癌罹病率
          (資料:Julian-Miller調査)
 この傾向は図6に示す通りであるが、注意して考察しなければならない。 州外からの
移住者の症例数がないため、短期間の暴露データでは真のリスクが過小評価されてしま
う可能性があるからである。
     図6 Ontario ニッケル鉱山の坑内作業者(Inco + Falconbridge) )の 
        肺癌罹病率(資料: Julian-Miller調査)
  
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暴露期間(年)
暴露期間(年)






  しかし、長期就労作業者の肺癌発生率が、標準人口集団として選定されたOntario州
全男性の場合の1.3 〜1.5倍も高いことは明白である。 この過剰肺癌発生率の理由とし
て別の説明が可能であろうか? 紙巻きタバコの喫煙や食事のような交絡因子を検討しな
ければならない。 他の情報源(36)(37) (38)からのデータによると、 Sudbury地区の男性喫煙
者数はOntario州の全男性喫煙者数の約1.3倍である。 この数値が正しいと仮定する
と観測された過剰発病の原因は主として喫煙であるかもしれない。 その結果、積年の喫
煙は多年の就労と関連付けられる。 留意すべきことは、Roberts らによる死亡調査では、
職業性病因とは関係がなかった鉱夫の肺癌標準化死亡率が130であったことである。
McMaster大学の調査における標準化罹病率 = 140 は、これら調査の測定精度の範
囲内にあり、同じ結果となっている。 しかし、別の解釈も可能である。 すなわち、調査結果
は、 ?喫煙と飲酒のいずれも調査対象集団間で違いはないことと、 ?労働環境に発癌
性物質が存在しているに違いないこととを示唆している。 ディーゼル排気煙が問題だと
する人もいるが、ディーゼルエンジンが使われ始めた1960年以降の男性に肺癌症例が
認められたのは、金鉱夫症例数480件のうち僅か26件だけであった。 このような問題
点を解明できる方法はおそらく、役割を果たしている可能性がある多くの潜在因子を区別
できる患者一対照調査だけだと思われる。
 McMaster大学による調査の結果、研究調査を必要とする癌には、就労35年以上の
銅精製工場作業者の肺癌と脳の癌および就労25年以上の輸送保守作業員の前立腺
癌とがある。 その他の癌とニッケル製造工場作業者の間には統計的に有意な過剰リスク
は認められなかった。
動物実験
 ニッケルとニッケル化合物に関する動物毒性試験の検討報告書が数件出されている。
(39) (40) (41) (42) 特定化学形に関する既知文献情報を下記に要約しておく。 さらに詳細情報
を必要とする場合は原典を参照されたい。
ニッケル元素
 アレルギー性皮膚炎を誘発する潜在的能力を除けば、ニッケル元素の毒性は弱い。
例えば、最も重要な暴露経路である吸入によりマウスの気道に腫瘍が認められなかった。
腫瘍が発生した場合、腫瘍は投与(例えば、気管内注射)部位に局在していた。 たいて
いの毒性学者は、そのような暴露経路はヒトの場合は重要でないと見なしている。 また、
そのような暴露経路は被験生体の免疫機構を損なう可能性があることも認められている。
ヒトの細胞について行った試験管内(in-vitro)実験では染色体異常は観察されていない。
非悪性反応に関する限り、呼吸器官へのある種の慢性的影響が15 ?/㎥の最小作用
量で観察されている。
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酸化ニッケル
  緑色NiOをハムスターに吸入させても発癌は認められなかったが、ラットに気管内注
射すると腫瘍が発生した。 発癌性に閲し米国・国家毒性プログラム(NIP)が行った最も
最近の研究(1994年完了)(43)では、ラットとマウスの雌雄両方に低レベルのNiO を1日
5時間、週5日、 2年間吸入により投与した。 最高 1 ? Ni/㎥の投与量では、雄のマウ
スに鼻癌の証拠も、また、いかなる種類の発癌の証拠も観察されなかった。 ラットには腺
病が若干認められたが、?この哺乳動物に知られているクリアランス(除去)障害が認めら
たことと、 ?明瞭な用量一反応関係がなかったことに留意すべきである。  また、
Sundermanによる注射試験により、 Ni-Cu酸化物は単一のNiO よりも発癌性が強い
物質であることが立証されたことも興味深いことである。 この実験結果は、製造原料が異
なると、工場により癌死亡率が異なる理由を説明するのに役立っと思われる。
 投与量が比較的高い短期間(12日)の亜急性吸入暴露の場合の非悪性終点(例えば、
肺の炎症)を調べてみると、最小作用量はラットで7.5 ? Ni/㎥、マウスで23 ? Ni/㎥で
あった。 暴露期間を長くすると、最小作用量は少なくなったが、マウスは一貫して耐性が
強くなった。 これは多分、ラットのクリアランス(除去)能力が低いことに起因する観察所見
であろう。
 不溶性のニッケル酸化物の毒性に対して経口暴露経路は重要でないようである。 ラッ
トを用いた実験により、 Ni(OH)2のLD50は1000 ?/?、 NiCO3のLD50は500 ?/?
であることが判明しているからである。
亜硫化ニッケル
 Ni3S2はダストの多いシンタ一工場のほとんどに存在している。 このようなシンタ一工場
では肺癌と鼻癌が原因の死亡率が高かったため、亜硫化ニッケルに関する動物実験が
重点的に行われた。 Ni3S2は雌雄両方のラットに対して明らかに発癌性を示すことが立
証されているが、意外なことにマウスには肺癌を示す証拠が認められていない。 鼻の腫
瘍はラットにもマウスにも発生しない。 また、注入部位に局在する腫瘍が多くの動物種に
観察されている。
 非悪性反応(肺の炎症)が1.8 ? Ni/㎥の最小作用量でラットに認められている。  ラッ
トでは嗅上皮の萎縮が0.44 ? Ni/㎥の最小作用量、慢性的な肺の炎症が0. 22 ? Ni/
㎥の最小作用量で発生した。
可溶性ニッケル
 可溶性のニッケル塩類の場合、最も重要な毒性反応は組織の炎症のようである。 例え
ば、長期吸入暴露の場合の最小作用量はラットで0.08 ? Ni/㎥、マウスで0.11 ? Ni/
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㎥(マウスに対する毒性が弱いことに注目)であった NTPが行った2年間の慢性毒性
試験では 0.1〜0.2 ? Ni/㎥の暴露濃度でいかなる種類の腫瘍も発生しなかった。 線
維症がマウスに観察されたが、ラットには観察されなかった。 酢酸ニッケルはハムスタ−
に対して吸入による毒性はない。
 かなり低濃度のNiSO4を通常の飲料と食餌に混入してラットとマウスに与えた場合、有
害作用は観察されなかった。 高用量を経口投与した場合のLD50はラットとマウスで43
〜330 ? Ni/㎥の範囲であった。 反復経口摂取させた場合は高血糖症が現れた。 可
溶性のニッケル塩類を反復皮下注射した場合はげっ歯動物に肝臓と腎臓の障害と睾丸
の退化が認められた。
ニッケル化合物の発癌性
 生物の各細胞(生殖細胞を除く)には同じ染色体情報が含まれており、各細胞はこの情
報により細胞集団の中で適切な機能を営むことができるようになっている。 細胞の増殖
は、特定の遺伝子発現から生じる化学刺激物質(chemical stimulators)と化学抑制物
質(chemical inhibitors)からなる複雑な環境により調節されている。 細胞分裂時に伝
達されねばならない情報は複雑なため、 「誤り」がよく起こる。 しかし、そのような間違った
情報の伝達がよく起こっても、通常重大な問題とはならない。 他の細胞成分が遺伝暗号
を絶えず監視し、伝達情報が正しくない場合には修復機構を始動させるためである。 損
傷を受けた細胞は死滅(この過程は絶えず起こっている)するため、正しくない遺伝暗号
の複製は防止される。
 最近の癌研究(45)により、癌の発生は遺伝物質への「多重ヒット」 (multiple hits)、つまり
遺伝物質の変化(変異)の積み重ねが原因であるとする説が有力になりつつある。 「1回
のヒット」 (a hit)とは遺伝子の一部に起こる一つの変化である。 この変化のために適切
な遺伝子発現が妨げられる。 「1回のヒットは余りにも小さく、生体に備わっている様々な
二者択一的な機構により修復される」と現在では考えられている。 しかし、損傷を受けた
細胞の子孫が順次、第2、第3、第4 のヒットにより損傷を受けると、欠陥のある遺伝物質が
多くなり過ぎて細胞の制御が完全に失われてしまう。 癌(腫瘍)遺伝子(細胞分裂を促す
役割を担っている遺伝子)と腫瘍抑制遺伝子(細胞増殖を抑える遺伝子)が癌化の過程
に関与していることが証明されている。
 生体異物が、二つの異なる段階で細胞の生化学的反応において癌化の役割を果して
いるようである。 生体異物は細胞内に入り、さらに細胞核内に達して染色体の突然変異
を引き起こすことができる。 これが発癌の最初の段階である。 異物は直接的または間接
的に遺伝情報を変化させるので、イニシエータと呼ばれる。 次の段階で、異物はプロモー
タとして作用する。 すなわち、プロモータの存在により細胞増殖が促進されるため、突然
変異の機会が増え、正常な修復機構の修復効果が低下することになる。
ニッケル協会(Nickel Institute)                                      22
 ニッケル含有物質の発癌性に関する調査が最近、 Oiler らにより行われた。(46) 彼らは
肺の深部に存在する粒子状物質は、溶解作用と食作用(図7のステップ1 、マクロファー
ジが外来性粒子状物質を取り囲んで除去する)のいずれかにより除去されると指摘して
いる。 しかし、高濃度の暴露が続くと、食作用は阻害されて不溶性の粒子状物質は上皮
組胞と接触することになろう。 また、図7に示したように、そのような粒子状物質はエンド
サイトーシス(細胞内取り込み、図7のステップ2)により細胞の内部に運ばれることも示唆
されている。 外来性粒子状物質は、このような過程を経て細胞核に運ばれる。 粒子状
物質を取り込んだエンドサイト小胞が核膜と合体することにより、 Ni++が核内に放出され
てDNA と反応する(ステップ3)。
 「核内に放出されたNi++は、直接的(例えば、遺伝子の働きを沈黙(消失)させるメチル化
により)または間接的(活性酸素を産生してDNAを損傷する)にDNA と反応する」と
Oilerらは指摘している。 癌のイニシエータとなるには、生体異物が細胞核内に入り、
DNAを変化させなければならない。 DNAの変化の結果、細胞死と細胞複製の正常な
機能が変えられてしまう。 癌のプロモーターは細胞増殖を促進させる物質である。 細胞
増殖が促進されると修復の時間が不十分になるため、欠陥のある細胞が複製される結果
となる。
 このような発癌モデルを考察することで、ニッケル含有物質に関する疫学的研究調査と
動物実験の結果を始めて理解できる。
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Step 1: 可溶性・難溶性ニッケル化学種がNI++を放出す
放出されたNi++ は細胞に運ばれ、蛋白質と結合する
マクロファージも難溶性の粒子状物質を取り囲んで除去する
          
Step 2: 不溶性粒子状物質はエンドサイトーシスにより細胞核に運ばれ,細胞核内液
にNi++を放出する
Step 3: Ni++は直接的または間接的にDNA と反応する
A. DNAメチル化              
               正常DNA     サイレントDNA
B 鎖の切断                     
              正常DNA塩基配列     切断配列
間接C.     Ni++/Ni+++    活性酸素   DNA   損傷DNA
    
 図7 肺上皮細胞におけるニッケルの発癌機構モデル (出典:Oiler 他)
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マクロファージ
不溶性粒子状物質
ニッケル蛋白
細胞膜
染色体
細胞核
除去
ニッケルイオン
Ni++
Ni++
亜硫化ニッケル(Ni3S2)
 この物質はイニシエータであると同時にプロモータでもあると思われるので、強い発癌
性物質(癌原性物質)である。 Ni3S2 は生物学的体液に対する溶解度が適度であるため、
細胞外でNi++を放出する可能性がある。 ニッケルイオンは細胞増殖を誘発するかもしれ
ない。 さらに重要なことは、 Ni3S2 の過負荷が肺にかかると、この粒子状物質(Ni3S2 また
はNiS)はエンドサイト−シスにより細胞内に取り込まれ、細胞核に運ばれる。 ニッケル硫
化物の溶解度が核内では比較的大きいため、 Ni++が放出されて遺伝子を損傷する恐れ
がある。
酸化ニッケルNiO(緑色)
極めて難溶性の緑色NiOは作用がNi3S2 に非常に類似しているだろうが、溶解度が小
さいためイニシエータとプロモータとしての作用効率は低いと思われる。 ヒトと動物につ
いてのデータから総合的に判断して、 NiOの毒性はNi3S2の約1/10程度であろう。
可溶性ニッケル
 可溶性のニッケル化合物は単なるプロモーターに過ぎないようである。 可溶性のニッケ
ル化合物はエンドサイト−シスにより細胞内に取り込まれないので、 Ni++を細胞核に放
出しないようである。 細胞外で生じるNi++は細胞膜を透過して細胞内に運ばれることが
ある。 しかし、Ni++はいったん細胞内に入ると蛋白質と結合する。 その結果、炎症と細胞
増殖が起こる。 全米産業衛生政府専門官会議(ACGIH)が提案した可溶性ニッケル化
合物の暴露限界値が低い(提案値:0.1 ? Ni/㎥)のは、これらの化合物には肺に炎症を
誘発させる能力があるためで、発癌性物質であるためではない。
ニッケル元素
 ニッケル元素は溶解様式がニッケル化合物とは異なる。 ニッケル元素の溶解にはニッ
ケルが酸化されなければならない(実際には腐食反応と同じ)。 このためニッケルの溶解
は酸化剤の移動に大きく左右される。 Ni0には事実上、発癌性物質であるという証拠が
皆無である。 したがって、肺中に存在するニッケル粒子の酸化反応は、細胞内の化学的
条件下では緩慢であるので、 Ni++が細胞中で放出されることもないし、また細胞外で放出
されることもないだろう。
複合暴露
 工業環境では暴露物質が、 1種類の化学種に限定されることは稀である。 最悪の発癌
性物質は、細胞外で適度の溶解度をもつニッケル化合物であろう。 Ni3S2 はその典型例
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である。 しかし、ニッケル化合物は溶解度が大き過ぎる、細胞周囲に十分長い時間貯留
できず、エンドサイト−シスにより細胞内に取り込まれなくなり、プロモータとしてのみ作用
すると思われる。 溶解度がさらに大きいニッケル化合物が存在すると、溶解度が小さいニッ
ケル化合物の作用が強められる。
生態毒性
 生態毒性は水生生物(例:魚類、ミジンコ、藻類)や陸生生物(例:植物の根、蠕虫) 、底生
生物(例:湖や河川の堆積物中に住む動物)などに対する物質の毒性作用に関する用語
である。 毒性作用は必ずしも死滅に限らず、成長停止または成長率低下から繁殖不能
も毒性の範疇に含める。
 水生生物が最も広範囲に研究されてきた。 過去50年間の研究の多くは合成有機化
学製品に焦点が当てられてきた。 第二次世界大戦後、有機合成化学工業が発展した
結果、消毒剤や殺虫剤、除草剤、プラッスチックなどの製品が出現したからである。 法律
や条例などが公布され、当該化学製品の環境への排出が規制された。 同時に、毒物学
的なパラダイムが開発され、毒性を順位付ける(評価する)ための基準が特定された。
難分解性(残留性) : 化学物質が環境に残留すると、危害を与える機会が増え
ると考えられた。 したがって、生物分解が物質を「無害」と
見なすための必要条件となった。
生体内蓄積性: 水中または食餌(物)中におけるよりも高濃度に物質が生
物組織中に取り入れられる性質
生物濃縮: 低次から高次の生物への食物連鎖を通じて、ある物質の
濃度が増大すること。 食物連鎖の結果、物質濃度が増す
と高次栄養段階の(食物連鎖の頂点に位置している)生物
では毒性反応を示すことがある。
 
 これらの基準は合成有機化学製品にうまく採用されてきたので、すべての無機化合物
(元素を含む)にも適用しようとする試みが現在、国際的レベルで進められている。 しかし、
無機化合物への基準適用には問題がある。 すなわち、これらの基準はほとんどの金属
含有物質には適用できないという問題である。(47) まず第一に、金属(元素の形であれ、化
合物であれ)は生物分解されない。 規制当局は、 「ニッケルは分解されずに残留するか」
という質問の答えが肯定的であると、ニッケルは「危険物質」であるに違いないと決めつけ
てしまう。 このような不条理は冶金専門家にとっては馬鹿らしいことでも、この間題は極め
て重大であり、金属の製造業界と消費業界にとって様々な問題を引き起こす恐れがある。
最近開かれた国際レベルの研究集会では、本件への適切な科学的対応が検討されて
いる。(48)(49)(50)  これらの研究会は、関心のあるパラメーターとして、有毒化学種の生物
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学的利用能を挙げている。(51) 金属または無機化合物が生物学的に利用される化学種
(通常遊離金属イオン)を放出できないと仮定すれば、それは「安全な物質」である。 この
ことは、環境条件下で遊離イオンを放出するか否かを決める試験法を特定する必要があ
ることを意味している。 この分野では研究すべき課題が多々ある。
 別の問題もある。 金属の生体内蓄積である。 金属は生体にとって必須物質であること
が、生体内蓄積の主な理由である。 生物には金属のホメオスタシス(恒常性、摂取と排泄
の均衡がとれた状態)を達成する仕組みが備わっており、金属を貯蔵して必要なときに放
出するようになっている。 合成有機化合物の場合必須性は決して問題とならない基準で
あるが、金属の場合欠乏すると毒性が発現することがあるため、必須性は極めて重要で
ある。
 生物濃縮が重要となるのは数種類の金属、すなわち水銀や錫のようなアルキル化が可
能な金属に限定される。 ニッケルを含む大多数の金属は生物濃縮されないので、生物
濃縮により生体への脅威となることはない。
 無機物質に関し、毒性基準と実験計画(プロトコ−ル)を新たに確定することが、これらの
問題点を解決することになる。 金属の特性(例えば、溶解性の代わりに腐食性)も検討し
なければならない。 また、合金をどのように取り扱うかも大いに検討を要する問題である。
 非科学者は合金を単に混合物と考え、合金成分の毒性を適用することにより合金を規
制することを提案している。 しかし、合金は特異的な性質をもった化合物である。 その性
質は、生物学的に利用される毒性化学種を放出する合金の能力に影響する。 合金の毒
性を区分するための特殊な試験方法が必要になると思われるが、本件について鋭意議
論がなされている。
有害性とリスク
 有害性とリスクの違いを認識することが基本的に重要である。 水は有害であるけれども、
その危険性を受容し、監督管理を適切に行って子供たちの水泳を許している。 有害な
化学物質が多いが、このために、それらの化学物質の生産と使用を禁止しなければなら
ないということにはならない。
 有害性の確認は、特定物質に暴露させたときに起こる特殊な毒性反応の性質と強さを
特定することである。 有害性は、毒性のある化学種の化学形が物質(物質からの誘導体)
の化学形と異なることがあっても、物質と関連付けられる性質である。 物質の有害性とは、
その物質が有害影響を与える潜在的能力をいう。
 他方、リスクアセスメントは、有害性が認められる確率を評価する方法であり、科学知識と
判断力を基にして一つの方針の枠組みの中で実施される。 リスクアセスメントは基本的
に下記の4段階から成る。(53)
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有害性の確認: 物質の有害影響を特定する。 物質は有害影響を引き起こ
す固有の能力を持っている。
量−反応関係の評価: 物質の用量と有害影響の有無/程度との関係を評価する。
暴露の評価: 暴露源(および暴露の程度)と物質(またはそのド一夕−)が
生体に到達して有害影響を与えるときの暴露(侵入)経路/
反応率(強さ・頻度・期間)を特定する。
リスク特性の判定: ある一定条件下における暴露による特定の危害の確率を推
定する。
 リスクアセスメントでは危害の確率がゼロでないことが示される。 人生のあらゆる事象に
「ゼロリスク」を望むのは、愚直なことである。 リスクが受容できるほどに小さい場合、リスク
管理を行って評価に用いた諸条件が維持され、効果があることを確認する。 リスクが受
容できない程に大きい場合リスクアセスメントから得られた情報を他の情報(例えば、分子
生物学、工学、統計学、経済学、人口統計学、心理学などの分野から得られる情報)と総
合して、リスクの軽減に必要な対策を決定する。 リスクアセスメントを適正に実施すること
により、適切な資源配分と正しい意思決定を行うための優先順位の設定が可能になる。
 化学物質に関するリスクアセスメントを適切に実施するための方策と手法を開発するた
め、計り知れない量の作業が実施されている。 この作業の主な後援機関は国際化学物
質安全プログラム(International Program on Chemical Safety)、化学物質の安全性
に関する政府間フォーラム(Intergovernment Forum on Chemical Safety)、化学物
質の適正管理に関する機構間プログラム(Inter-organizational Program for the
Sound Management of Chemicals)などである。 また、分類体系の調和化が現在、
経済開発協力機構(OECD)を通じて進められている。 これらの作業は今後とも長期間
にわたり続行されることになっている。 これらの活動の成果は大きな影響力をもつと思わ
れるので、金属の製造業界と使用業界はそれぞれの知見を応用し、業界としての問題点
を明確にすることが絶対に必要である。
謝辞
 本稿の執筆に当たり、毒性学入門課程の講義原稿をご進呈下さったミネソタ大学の
Elizabeth Wattenberg教授に謝意を表する。 本論文中に誤りがあれば、著者によるも
のであり、教授によるものではない。 また、有益な解説と書面による情報を多々ご提供下
さったニッケル生産者環境研究協会(NiPERA)の職員、本稿に関し見識あるコメントをい
ただいたJane Lightfoot博士および不明瞭な箇所が多い手書き原稿の浄書にご尽力
いただいたJane Marquardsen 嬢にお礼申し上げる。
ニッケル協会(Nickel Institute)                                      28
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