「新情報と旧情報」という区分はよく挙げられ、判り易くもあり、もっともらしく語られています。 野田尚志『「は」と「が」 (新日本語文法選書 1)』（1996）の５つの原理の最初に挙げていますが、ある意味で筋の悪い原理と言えます。
野田の説く原理は広く参照されており、次のような論考にも引用、利用されています。
ペトロヴァ・ユリア『「ハ」と「ガ」 の使い分けの問題について―ロシア語母語話者の場合―』
https:/
これを利用させていただくと、次のような内容です。
１）新情報と旧情報の原理―新情報には「ガ」、旧情報には「ハ」
野田（１９９６）では「新情報と旧情報の原理」と呼ぶのは、主格名詞が、話の現場や文脈とどのような関係をもっているかによって「ハ」と「ガ」の使い分けを説明するものである。つまり、主格名詞がまだ知られていない新情報のときはその主格に「ガ」がつき、主格名詞がすでに知られている旧情報のときはその主格に「ハ」がつくという原理である。
（�機法〇笋狼氾弔反修靴泙后�社長にお取次をお願いします。
（�供法〇笋�先日履歴書を差し上げました吉田でございます。 ／／
また、
日本語教育能力検定試験「マンボウ」 文法 「は」と「が」の使い分け
https:/
（1）新情報か旧情報かによって使い分ける方法。
会話の中や文脈で、主格となる名詞が未知（＝新情報）の場合は「が」を使って表し、既知（＝旧情報）の場合は「は」を使って表すという基準である。
・鈴木さんは校長です。（「鈴木さん」のことは「既知」なので、「 は」を付けて表す）
・鈴木さんが校長です。（ 校長が誰であるのか、「未知」なので、「鈴木さん」に「が」を付けて表す）
のような内容です。／／
しかし、これが全くのピント外れであるのは明らかでしょう。「私」や「鈴木」が全くの未知であればこんな発言自体意味を成さないことになります。「は」「が」は話者の認識の表現であり、ここでは新旧、既知未知と聞き手の認識、対象自体の在り方の問題にすり替えられてしまっています。使い分けを問題にするのであれば、まず「は」「が」の意義を明らかにし、それに基づいて議論する他ありません。
既知と未知とは認識の問題ですが、認識は具体的なものから抽象的なものへ立体的な構造をもって成立するので、既知か未知かとあれかこれかの発想で形而上学的に割切るわけにはいきません。抽象的でよければ何でも既知になります。新しい素粒子もブラック・ホールも雪男も新聞雑誌で知ったから既知でも、具体的にはどれも未知としかいいえません。次の例を見ましょう。
夏【が】くれば 思い出す
はるかな尾瀬(おぜ) 遠い空
霧のなかに うかびくる
やさしい影 野の小径(こみち)
水芭蕉(みずばしょう)の花【が】 咲いている
夢見て咲いている水のほとり
石楠花(しゃくなげ)色に たそがれる
はるかな尾瀬 遠い空
（童謡『夏の思い出』 歌詞：江間章子）
流れ流れて さすらう旅【は】
きょう【は】函館 あした【は】釧路
希望も恋も 忘れた俺の
肩につめたい 夜の雨
（『旅の終りに』 作詞：立原 岬）
ここでは、既知／未知（旧情報／新情報）とは無関係に「夏【が】くれば」と「が」、「流れ流れて さすらう旅【は】」と最初に「が」「は」が使用されています。「夏」など季節としては当然既知ですが、その内容は人それぞれでしかありえません。
「流れ流れて さすらう旅」が既知などとは一体何を規準に、誰について言っているのか全く不明です。
これらの「は」「が」の意義については、
https:/
で、述べた通りです。
われわれが語彙を問題にするときには、その語彙がどんな意義を与えられているのか、語それ自体の意義をまずつかむ必要があります。品詞の分類もそこから決定されてきます。
だから、「がや「は」の意義もつかまえないで、これらを＜助詞＞だと呼ぶことがそもそも方法的におかしいのです。語の意義を明らかにすることなく「使い分けの原理」を求めようとするのも本末転倒と言う他ないことになりま。■
野田の説く原理は広く参照されており、次のような論考にも引用、利用されています。
ペトロヴァ・ユリア『「ハ」と「ガ」 の使い分けの問題について―ロシア語母語話者の場合―』
https:/
これを利用させていただくと、次のような内容です。
１）新情報と旧情報の原理―新情報には「ガ」、旧情報には「ハ」
野田（１９９６）では「新情報と旧情報の原理」と呼ぶのは、主格名詞が、話の現場や文脈とどのような関係をもっているかによって「ハ」と「ガ」の使い分けを説明するものである。つまり、主格名詞がまだ知られていない新情報のときはその主格に「ガ」がつき、主格名詞がすでに知られている旧情報のときはその主格に「ハ」がつくという原理である。
（�機法〇笋狼氾弔反修靴泙后�社長にお取次をお願いします。
（�供法〇笋�先日履歴書を差し上げました吉田でございます。 ／／
また、
日本語教育能力検定試験「マンボウ」 文法 「は」と「が」の使い分け
https:/
（1）新情報か旧情報かによって使い分ける方法。
会話の中や文脈で、主格となる名詞が未知（＝新情報）の場合は「が」を使って表し、既知（＝旧情報）の場合は「は」を使って表すという基準である。
・鈴木さんは校長です。（「鈴木さん」のことは「既知」なので、「 は」を付けて表す）
・鈴木さんが校長です。（ 校長が誰であるのか、「未知」なので、「鈴木さん」に「が」を付けて表す）
のような内容です。／／
しかし、これが全くのピント外れであるのは明らかでしょう。「私」や「鈴木」が全くの未知であればこんな発言自体意味を成さないことになります。「は」「が」は話者の認識の表現であり、ここでは新旧、既知未知と聞き手の認識、対象自体の在り方の問題にすり替えられてしまっています。使い分けを問題にするのであれば、まず「は」「が」の意義を明らかにし、それに基づいて議論する他ありません。
既知と未知とは認識の問題ですが、認識は具体的なものから抽象的なものへ立体的な構造をもって成立するので、既知か未知かとあれかこれかの発想で形而上学的に割切るわけにはいきません。抽象的でよければ何でも既知になります。新しい素粒子もブラック・ホールも雪男も新聞雑誌で知ったから既知でも、具体的にはどれも未知としかいいえません。次の例を見ましょう。
夏【が】くれば 思い出す
はるかな尾瀬(おぜ) 遠い空
霧のなかに うかびくる
やさしい影 野の小径(こみち)
水芭蕉(みずばしょう)の花【が】 咲いている
夢見て咲いている水のほとり
石楠花(しゃくなげ)色に たそがれる
はるかな尾瀬 遠い空
（童謡『夏の思い出』 歌詞：江間章子）
流れ流れて さすらう旅【は】
きょう【は】函館 あした【は】釧路
希望も恋も 忘れた俺の
肩につめたい 夜の雨
（『旅の終りに』 作詞：立原 岬）
ここでは、既知／未知（旧情報／新情報）とは無関係に「夏【が】くれば」と「が」、「流れ流れて さすらう旅【は】」と最初に「が」「は」が使用されています。「夏」など季節としては当然既知ですが、その内容は人それぞれでしかありえません。
「流れ流れて さすらう旅」が既知などとは一体何を規準に、誰について言っているのか全く不明です。
これらの「は」「が」の意義については、
https:/
で、述べた通りです。
われわれが語彙を問題にするときには、その語彙がどんな意義を与えられているのか、語それ自体の意義をまずつかむ必要があります。品詞の分類もそこから決定されてきます。
だから、「がや「は」の意義もつかまえないで、これらを＜助詞＞だと呼ぶことがそもそも方法的におかしいのです。語の意義を明らかにすることなく「使い分けの原理」を求めようとするのも本末転倒と言う他ないことになりま。■
|
|
|
|
コメント(6)
きみの嫁さんは私が見つけてあげるよ。 既知未知説 「ヲの兼務」
https://ameblo.jp/kuroracco/entry-12774670624.html
で、今更ではりますが、
＞＞既知未知説に関しては、当方はよくわからない。
そもそもどこから出てきた説なのかさえ不明。まったくのオリジナルなんだろうか。誰のどんな説を踏まえたものなのか、という説明もないのでは……。
などと宣われているので、補足させていただきます。但し、この論者は、
＞＞ただ、この例文に関しては、既知未知説はあてはまりそうにない。
質問者の既知未知説は再三目にしているが、それで押し通すのはどうにも無理を感じる。回答者の反応が芳しくないのも仕方がないだろう。
と正当な理解を示されていますが、それに対し【象は鼻が長い ―日本文法入門 (三上章著作集) 】を持ち出され、
抜粋
(はしがきより)日本語の文法手段のうち、もっとも重要なのはテニ
ヲハです。中でもハです。本書は、問題をそのハ一つに絞って、日本語文法の土台を明らかにしようとしたものです。代行(=兼務)というのが中心概念の一つになっています。ハはガノニヲを代行(=兼務)する、というのです。／／
を支持し、
＞＞既知未知を考えるより、こちらを考えるほうが建設的な気がするようなしないような。
というのは失当と云う他ありません。その点は後にして、先ずは、既知未知論の出所について説明しておきましょう。
この、新情報／旧情報の区分は既知／未知の区分とも呼ばれ、国語学者の大野晋は既知未知論として1975年9月号の雑誌『文学』に「助詞ハとガの機能について―現代日本語の基本構文の意味」を発表しています。これに対し、三浦つとむ《「は」と「が」の使いわけ》が発表されているので、この論考の「三 チェイフ＝大野説―既知未知論」からその一部を次に引用しておきます。
[引用開始]
大野の五一年の見解が、いま吟味したように、「が」についても「は」についてもまとはずれだとすれば、それらを肯定した上で展開される「は」と「が」の使い分けの見解も、やはりまとはずれであることは、はじめから予想されることである。とはいえ、これはアメリカの言語学者 Ｌ.Ｗ．Ｃhaef の見解に援助を受けて、チェイフ＝大野説ともいうべき国際的な正確を持っているだけに、その点は注目する必要があるだろう。
チェイフは、その著作『意味と言語構造』の中で、「古い情報」と「新しい情報という概念を持ち出すのだが、｢日本では表層における助詞のハが古い情報を、ガが新しい情報を反映している。」と述べている。表層は例のチョムスキーの表層構造の意味である。大野がチェイフの見解に援助を求めたのは、このように日本語の＜助詞＞をとりあげているのを「日本人によるいくつかの論考を参照してのことであろうと思う。」と、その日本語研究を評価してのことであるが、チェイフは世界的に大もての新しい学派の言語学者（もっともこのごろは、海外でも、チョムスキー理論を観念論的傾向や言語理論の不当な普遍化と否定的に批評する文献がふえているらしいが）だということも、理由の一つであろうと思われる。大野はチェイフのいう「古い情報」と「新しい情報」を、【既知の情報】と【未知の情報】と受けとって「が」と「は」の区別を論じていく。
（《「が」と「は」の使いわけ」》（『試行』NO.45 1976.4．）
[引用終了]
さて、先記の通り三上章を持ち出され、
ハはガノニヲを代行(=兼務)する
を、「こちらを考えるほうが建設的な気がするようなしないような。」などというのは語とは何かという根本的な点の理解に欠ける誤りと云う他ありません。
語は【代行】などという機能を果たすものではなく、本 ＴＯＰＩ で述べたように意義を表します。従って、その意義を明らかにする必要があります。
このためには、先ず＜助詞＞の定義、語の区分を明確にする必要があります。これについては、
「は」「が」論の前提 ： 何が欠けているのか。
https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=2748&id=90856226
を参照いただきたく。言語を論ずるには話者の認識を正しく捉えることが必須であり、三上章の「は」「が」理解に対しては三浦つとむが次のように評しています。↓
https://ameblo.jp/kuroracco/entry-12774670624.html
で、今更ではりますが、
＞＞既知未知説に関しては、当方はよくわからない。
そもそもどこから出てきた説なのかさえ不明。まったくのオリジナルなんだろうか。誰のどんな説を踏まえたものなのか、という説明もないのでは……。
などと宣われているので、補足させていただきます。但し、この論者は、
＞＞ただ、この例文に関しては、既知未知説はあてはまりそうにない。
質問者の既知未知説は再三目にしているが、それで押し通すのはどうにも無理を感じる。回答者の反応が芳しくないのも仕方がないだろう。
と正当な理解を示されていますが、それに対し【象は鼻が長い ―日本文法入門 (三上章著作集) 】を持ち出され、
抜粋
(はしがきより)日本語の文法手段のうち、もっとも重要なのはテニ
ヲハです。中でもハです。本書は、問題をそのハ一つに絞って、日本語文法の土台を明らかにしようとしたものです。代行(=兼務)というのが中心概念の一つになっています。ハはガノニヲを代行(=兼務)する、というのです。／／
を支持し、
＞＞既知未知を考えるより、こちらを考えるほうが建設的な気がするようなしないような。
というのは失当と云う他ありません。その点は後にして、先ずは、既知未知論の出所について説明しておきましょう。
この、新情報／旧情報の区分は既知／未知の区分とも呼ばれ、国語学者の大野晋は既知未知論として1975年9月号の雑誌『文学』に「助詞ハとガの機能について―現代日本語の基本構文の意味」を発表しています。これに対し、三浦つとむ《「は」と「が」の使いわけ》が発表されているので、この論考の「三 チェイフ＝大野説―既知未知論」からその一部を次に引用しておきます。
[引用開始]
大野の五一年の見解が、いま吟味したように、「が」についても「は」についてもまとはずれだとすれば、それらを肯定した上で展開される「は」と「が」の使い分けの見解も、やはりまとはずれであることは、はじめから予想されることである。とはいえ、これはアメリカの言語学者 Ｌ.Ｗ．Ｃhaef の見解に援助を受けて、チェイフ＝大野説ともいうべき国際的な正確を持っているだけに、その点は注目する必要があるだろう。
チェイフは、その著作『意味と言語構造』の中で、「古い情報」と「新しい情報という概念を持ち出すのだが、｢日本では表層における助詞のハが古い情報を、ガが新しい情報を反映している。」と述べている。表層は例のチョムスキーの表層構造の意味である。大野がチェイフの見解に援助を求めたのは、このように日本語の＜助詞＞をとりあげているのを「日本人によるいくつかの論考を参照してのことであろうと思う。」と、その日本語研究を評価してのことであるが、チェイフは世界的に大もての新しい学派の言語学者（もっともこのごろは、海外でも、チョムスキー理論を観念論的傾向や言語理論の不当な普遍化と否定的に批評する文献がふえているらしいが）だということも、理由の一つであろうと思われる。大野はチェイフのいう「古い情報」と「新しい情報」を、【既知の情報】と【未知の情報】と受けとって「が」と「は」の区別を論じていく。
（《「が」と「は」の使いわけ」》（『試行』NO.45 1976.4．）
[引用終了]
さて、先記の通り三上章を持ち出され、
ハはガノニヲを代行(=兼務)する
を、「こちらを考えるほうが建設的な気がするようなしないような。」などというのは語とは何かという根本的な点の理解に欠ける誤りと云う他ありません。
語は【代行】などという機能を果たすものではなく、本 ＴＯＰＩ で述べたように意義を表します。従って、その意義を明らかにする必要があります。
このためには、先ず＜助詞＞の定義、語の区分を明確にする必要があります。これについては、
「は」「が」論の前提 ： 何が欠けているのか。
https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=2748&id=90856226
を参照いただきたく。言語を論ずるには話者の認識を正しく捉えることが必須であり、三上章の「は」「が」理解に対しては三浦つとむが次のように評しています。↓
↓
〔引用開始〕
三上章は 『象は鼻が長い』（1960年）以来一貫して＜助詞＞について論じ、日本語の文法の核心をここに求めながら、金田一もいうように 「は」 のありかたを追及している。『文法小論集』（1970年）の＜助詞＞の解釈も、一〇年前と本質的に同じであって、山田孝雄の水準を超えたものではないが、ここでは「は」と「が」「を」などとのちがいを係りかたに求めて次のように規定する。……
三上はこの問題を日本語の基本的な性質と見て、文法教育に取り入れることを考えているだけに、「は」のありかたを法則化するくふうに心をくだくのである。しかし認識論的に検討しないで語と語との係りを論じているかぎり、「いいくふう」は出てこない。
「何々は」の勢力は、原則として少なくとも文末までであるが、時には次の文、次の次の文にも及ぶ。
これも事実を機能的にとりあげただけで、なぜそうなるのかは説明されていない。なぜを説明しなければ科学ではない。認識論的に検討すれば簡単なことである。『京鹿子娘道成寺』の例が示すように、
【最初の普遍的な把握があとの文における特殊的な把握をつらぬくような認識構造の文章】
なら、次の次の次の文にも関係づけられたところで何の不思議もない。
（『言語と認識の理論 第三篇』＜助詞「は」の金田一的解釈＞）
〔引用終了〕
■
〔引用開始〕
三上章は 『象は鼻が長い』（1960年）以来一貫して＜助詞＞について論じ、日本語の文法の核心をここに求めながら、金田一もいうように 「は」 のありかたを追及している。『文法小論集』（1970年）の＜助詞＞の解釈も、一〇年前と本質的に同じであって、山田孝雄の水準を超えたものではないが、ここでは「は」と「が」「を」などとのちがいを係りかたに求めて次のように規定する。……
三上はこの問題を日本語の基本的な性質と見て、文法教育に取り入れることを考えているだけに、「は」のありかたを法則化するくふうに心をくだくのである。しかし認識論的に検討しないで語と語との係りを論じているかぎり、「いいくふう」は出てこない。
「何々は」の勢力は、原則として少なくとも文末までであるが、時には次の文、次の次の文にも及ぶ。
これも事実を機能的にとりあげただけで、なぜそうなるのかは説明されていない。なぜを説明しなければ科学ではない。認識論的に検討すれば簡単なことである。『京鹿子娘道成寺』の例が示すように、
【最初の普遍的な把握があとの文における特殊的な把握をつらぬくような認識構造の文章】
なら、次の次の次の文にも関係づけられたところで何の不思議もない。
（『言語と認識の理論 第三篇』＜助詞「は」の金田一的解釈＞）
〔引用終了〕
■
- mixiユーザー
- ログインしてコメントしよう！
|
|
|
|
言語学 更新情報
-
最新のアンケート
